感想、誤字指摘等々ありがとうございます。
約1時間程の軽音楽部のライブが大盛り上がりで終わり、久々に疲れ果てた美春はとあるクラスが出展している飲食店で一人休憩を取っていた。
鈴とラウラはシフトに戻る時間になったらしく、二人とは途中で別れることとなった。
しばらくすると、美春に一人の女性が声を掛けてくる。
「すいません。相席、よろしいでしょうか」
美春が顔を上げると明るい茶色の長髪をした女性が立っていた。
先ほど一夏と話していた怪しげな女性と風貌がそっくりだった。
と言っても美春に断るための手札がない為、渋々彼女の提案を了承し、謎の女性は美春の前の席に腰を下ろした。
「突然すみません。私、IS装備開発企業『みつるぎ』の渉外担当、巻紙礼子と申します」
そういって巻紙礼子と名乗る女性は名刺を差し出してくる。
美春は丁寧に名刺を受け取るとそっとテーブルの脇に置き、彼女に見えないように携帯端末のボイスレコーダーを起動した。
「あら、ビジネスマナーを高校生の段階で身に着けていらっしゃるのね。しっかりしているわ」
礼子は感心するような言葉を美春に掛けるがその目は笑っていない。
美春は警戒心を最大限に高めて彼女の言葉に答える。
「以前にもこういったことがありまして、その時に覚えました。それで、自分に何かご用でしょうか」
「実は当社では新しい武装の開発途中でして、そのテストをぜひ遠藤さんにお願いしようと」
怪しい。
普通の企業であれば、まず大人のISパイロットに依頼するはずだろうし、仮に諸事情があったとしても倉持技研の時のように先生など学園の大人を通して依頼をしてくるはずだ。
美春は極力表情を崩さないようにし、淡々と礼子の提案を断る。
「申し訳ないですが、そういったことに関しては学園の先生方を通してもらってもいいでしょうか。自分では決められないことなので」
美春の反応に一瞬礼子の眉が動く。
真っ当な返答を高校生から突き付けられて動揺でもしたのだろうか。
しかし、彼女は美春の断りに折れずに勧誘を続ける。
「生徒会副会長の遠藤さんならそう言った権限もお持ちかと思いますので、問題ないかと思いますが…」
礼子がそう言うと美春のセンサーにぴくッと引っかかるものを感じた。
「…なんで自分が副会長であることを知っているのでしょうか。外部には公開していないはずですが」
「それは、校内の新聞を偶然拝見したためでして」
「副会長就任の記事はずいぶん前のことなのでもう校内には別の記事が貼られていると思いますが」
美春の返答を受けて礼子の焦りが見えてくる。
「あ、そうです!新聞部のブースに立ち寄った際にその記事を拝見したんです」
「だとしても、生徒会がISに関する権限を知っていることに疑問が残ります。以前から知っていたのではないのでしょうか」
「…ッ!そこまで仰るなら結構です。お時間取らせて申し訳ありませんでした。失礼いたします」
礼子は先ほどまでの穏やかな表情とは別人のように眉と目をつり上げて、美春を睨みつけながら席を立った。
彼女が立ち去るのを見送ると、美春は楯無に巻紙礼子と接触したことと、録音データを共有した。
楯無からはすぐに返信があり、見つけ次第教員が事情聴取のため拘束する手筈となった。
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文化祭も終わりに差し掛かり、美春が自分のクラスの片づけをしていると楯無から連絡が入る。
なんでも一夏が一人になったタイミングで巻紙礼子が彼に接触し、ISを装着解除させる兵器、剥離剤(リムーバー)なるものを一夏に対して使用しようとしたが楯無の介入によってそれを阻んだとのことだった。
その後教師陣と協力して彼女を拘束しようとしたものの、間一髪のところで逃走されてしまったらしい。
取り逃しはしたものの、美春の連絡によって被害が最小限に抑えることができたということで楯無からはお礼の言葉を述べられた。
そして、美春の知らぬ間に行われていたイベントにより一夏が生徒会に入ることが告げられた。
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翌日の放課後、生徒会室に美春や一夏を含めた生徒会の面々が集合する。
楯無は皆に向けて一夏が生徒会への参画することになったことを告げる。
「さて、文化祭で私が頑張ったお陰で一夏君が生徒会に庶務として入ることが決まりました~」
突然の出来事に一夏は状況を上手く飲み込めず軽く会釈することしかできなかった。
「そうかしこまらなくても大丈夫よ。やってもらうこととしては他のメンバーの補助だったり部活の助っ人として向かってもらうだけだから。まあ、皆優秀だから手伝ってもらうことはあんまりないかもしれないけど」
「そうですか…ところでなんであんなイベントを?」
「前々から一夏君が部活に所属していないことの苦情が生徒会に入ってたのよ。で、この際白黒はっきり付けましょうってことで部活対抗の一夏君争奪戦を開催したってわけ」
(俺の知らないところでそんなことが企画されてたのか…しかし会長も大胆なことするな。自分が勝つって自信がないとこんなの開催できないだろ)
美春が楯無に呆れ半分、尊敬半分を込めた視線を送っていると、楯無の顔が急に真剣になる。
「本題はここからよ。一夏君が生徒会に入るにあたってあなたに知っておいて欲しいことが2点あるの」
一夏が固唾を飲むと楯無は言葉を続ける。
「まずは、一学期から続いていた謎の無人機の襲来。あなたも知ってるわよね。あれの主犯が篠ノ之束である可能性が浮上してきたの」
「束さんが!?一体どうして…」
「そこは調査中よ。けど確実なのは学園の安全を脅かそうとしている何かに彼女が絡んでいることよ。だから彼女が侵入できる経路は片っ端から潰しておかないといけない。それだけは覚えておいて」
「わかりました。それで2つ目は…?」
一夏が疑問を呈すると楯無の視線が美春に移る。
美春はこれから話すことに察しがついたのか一歩前に出る。
「この間の専用機限定タッグマッチで無人機の襲来があったの覚えてる?」
「はい。美春が教員と協力して撃退して、それで怪我したって…」
「あれね、半分嘘なの。無人機を撃退、いや撃墜させたのは美春君の独力によるものよ」
楯無から告げられた事実に一夏は驚きの声を上げる。
無理もない、一夏達が戦った時は3人掛かりでやっと機能停止に追い込んだからだ。
楯無は話を続ける。
「しかもその無人機はISの絶対防御を貫通する能力を持っていた。美春君が負傷したのもそのためよ。美春君、嫌なことをさせるようで申し訳ないけど一夏君に傷を見せてあげて」
美春は楯無の言う通り、制服のシャツをめくって左わき腹を一夏に見せる。
そこには痛々しい傷跡が残っており戦闘の凄まじさを物語っていた。
自分の同級生であり、学園で唯一の男友達が想像以上の重傷を負っていた事実を一夏は目の当たりにし、言葉を失っていた。
「美春君、ありがとう。あなたに知ってもらいたかったのは彼の凄さだけじゃなくて、今後命にかかわる事態がその襲撃者によってもたらされる可能性があるってこと」
冷静さを取り戻した一夏は楯無に問う。
「俺は…どうしたら?」
「単純な話よ。あなたには代表候補生と同等かそれ以上の力を身に着けてもらう必要がある。生徒会としてはそのための協力は惜しまないつもりよ」
楯無は閉じた扇子の先を口元に当てたまま表情一つ崩さずに淡々と告げる。
閉ざされた生徒会室に、針が落ちる音すら聞こえそうなほどの静寂が落ちる。
放課後の斜陽が差し込む室内で、聞こえるのは遠く運動場からかすかに響く掛け声と、一夏自身の荒い呼吸音だけだった。
目の前で静かにシャツの裾を下ろす美春。
その左脇腹に刻まれていた、肉を削ぎ落としたかのような生々しい傷跡の残像が、一夏の視界から離れない。
自分たちが能天気に行事の熱気に浮かれていた裏で、美春はたった一人で、こんな惨烈な死闘を潜り抜けていたのだ。
自分が皆を守ると豪語していたそのすぐ横でそれを体現している存在を知り、一夏は自身の無力さに拳を握りしめる。
扇子の陰から自分を見つめる楯無の双眸には、いつもの戯れ気な色など微塵もない。
突きつけられた死のリアルと、求められる覚悟の重さに、一夏は喉の奥がカラカラに乾いていくのを感じていた。
(これが守るってことか…)
一夏が楯無の言葉に返答できないでいると彼女のほうから口を開く。
「今すぐ戦場に立てって言ってる訳じゃないから、そこは安心して頂戴。あなたは今まで通り鍛錬に励めばいい。それで十分よ」
そう言うと楯無は普段の飄々とした表情に戻り、一夏に1枚の紙を差し出す。
「早速だけど、明日から各部に回って色々とお手伝いをしてもらうわ。それがその部活のリストよ」
A4の紙にびっしりと書かれている項目に一夏は先程とは違った意味で言葉を失った。
「あ。一つ言い忘れてたことがあったわ」
楯無はそう言うと既存のメンバーに一列に並ぶように呼びかけ、美春もその指示に従って並ぶ。
「改めて一夏君、ようこそ生徒会へ」