クラス代表決定戦後の夜、セシリア・オルコットはシャワーを浴びながら物思いにふけっていた。
(織斑一夏、遠藤美春…)
自分から決闘を申し込み、二人に見事勝利してみせた。その事実は変わらない。
だが、その過程は彼女の想定とは大きく異なっていた。
1戦目の一夏戦は相手のエネルギー切れ、2戦目の美春戦も相手が武装の使用制限のことを知らなかったが故の隙を突いた形だ。どちらも自身の実力で勝ち取ったとは言い切れず半分事故のようなものだった。
どんなことにも屈しなかった一夏の意志と、自身の戦術を信じ切る美春の意志。そんな似て非なるそれぞれの強さに触れた彼女は、自身の境遇を振り返る。
彼女の父は婿入り養子だった。多くの会社を経営し成功を収めた母に父はただただ卑屈で母に付き従うだけの存在だった。そんな父親の姿を見て弱い男とは絶対に結婚するまいと幼いながらも思っていた。
そんな両親も数年前に列車の事故でこの世を去った。天涯孤独となった彼女は残された莫大な遺産を目当てに自身に言い寄ってくる男達に囲まれた。こんな者達に両親の残した財産を絶対に明け渡してなるものかと死に物狂いで勉学に励み代表候補生の地位を得ることができた。母のように圧倒的な地位をさらに盤石にすべくやってきたここIS学園で彼女は自身にない強さに触れた。
特に織斑一夏。彼は父とは真逆の存在だった。打っても打っても崩れなくてどこまでも立ち向かってくる強い意志。彼のことを考えると彼女の胸の奥に熱いものがこみ上げてくる。
そして遠藤美春。始めは父と同じように周りに付き従うだけの軟弱者だと思っていたが、実際に手を合わせてみてそれが間違いだったことに気づく。常識に囚われない戦術の柔軟さ、そして自身が正しいと思ったことにとことん突き進む強さ。それを、あのわずかな試合の中で嫌というほど感じ取っていた。実際インターセプターを奪い取り切りかかる時の気迫は凄まじく、一瞬もうすでに斬られていたのではないかと錯覚するほどであった。
彼からはもっと学ばせてもらう必要がある。
そうして彼女はある決心を固める…
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翌朝のSHR、織斑先生はクラスに向かってこう告げた。
「例のクラス代表の件だが、昨日の試合の結果に鑑みて織斑がクラス代表となった。」
想定外の出来事にクラス全体がどよめく。
「え?俺?」
無論一夏もその中の一人だ。
「一体どういうことだよ千冬ね…織斑先生。クラス代表は2勝したオルコットのはずだろ」
「先生、その件に関してはわたくしから説明させていただきますわ」
セシリアがすっと挙手をして立ち上がる。
「皆さん、まずは先日の無礼な発言、大変申し訳ありませんでした。同じ志を持つ仲間に対して敬意に欠けた行動であったことを深く反省しております。」
そう謝罪の言葉を述べ、セシリアはクラスに向かって深く頭を下げた。
「それでクラス代表の件ですが、このようなことがありましたのでわたくしには相応しくないと考え、辞退することにいたしました。」
「オルコット、十分だ。座っていいぞ」
セシリアは再度クラスに一礼して着席する。
「というわけでクラス代表候補は織斑と遠藤の二人となり、勝者である織斑がクラス代表となったわけだ。異論はあるか?」
「そういうことなら…」
「私は元々織斑君推薦してたし…」
「それにスイーツパスも貰えるし…」
皆それぞれの思いは口にするものの、特に異論はない様子だった。
いや、ちょっと待て最後のは何の話だ。
「異論ないな。ではクラス代表は織斑とする。以上でSHRを終了する」
クラス中から拍手が湧き上がる。
一夏はいまいち状況を理解できていない様子だが、時間がたてば自ずと実感はわくだろう。
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1時限目はグラウンドでのISの操作演習だ。この授業が代表決定戦前だったらよかったのにと美春は思わずにいられなかった。
この科目の担当は織斑先生と山田先生だ。
「諸君らにはこれからISの基本的な操作を覚えてもらう。が、その前にデモンストレーションだ。織斑、オルコット、遠藤、前に出ろ」
3人が前に出る。
「織斑とオルコットは自身のISの展開、遠藤はそこにある打鉄に乗り込め」
各自織斑先生の指示通りに動く。
「よし、準備できたな。まずは飛行操縦を実践してもらう。私の合図で飛行に移れ、いいな」
3人が頷き、各自飛行準備の体勢をとる。
「では、飛べ!」
一夏とセシリアは高速エレベーターのように、美春は飛び跳ねるように上空へ飛び立った。
美春とセシリアは難なく飛行できているが一夏だけ飛んでる姿勢が覚束ない。
「どうした、一夏。昨日はもっときれいに飛べてたぞ」
「昨日は勢いでどうにかなってただけだよ。どうすればいいんだこれ」
「一夏さん、顔の前方に円錐を描くように姿勢を維持するのがコツですわ」
「なるほど、こうか?」
姿勢が整った一夏は機体の性能も相まってぐんぐん加速していき二人を追い抜いて行った。
「言ったらすぐできるんだもんなあ。これが才能ってやつか?」
「あら、才能でしたら美春さんも負けていませんわ」
「よく言うよ、こっちはまともに飛ぶのに3日掛かったってのに(ってか名前で呼ぶようになったな)」
「その3日が異常なんですのよ…」
「一夏!そんなに遠くに行ってどうする!早く下りてこい!」
箒の声が無線を通して聞こえてくる。下に目をやると山田先生の無線機を奪い取っているようだった。
織斑先生が続ける。
「だ、そうだ。折角だ、そこから急降下と急停止をやってみろ」
「ではわたくしから。お先に失礼しますわ。」
そういってセシリアは頭から急降下していき、地面からやや離れたところで急停止をした。
「11.5㎝といったところか。まあいいだろう。」
「ありがとうございます」
「じゃあ次は俺が行くかな。一夏、先に言っておくが俺の真似は絶対にするなよ」
そういって美春は突然力が抜けたような姿勢となり頭から真っ逆さまに落ちていった。
「美春!?」
一夏の心配はよそに美春は地面すれすれで急停止をして見せるが直後に織斑先生から拳骨が飛んでくる。
「誰がPICを切って落下しろと言った、馬鹿者。こんな危険なことは2度とするなよ」
「いってえ…!でもほら、5㎝くらいで止まれましたよ…あ痛っ!」
こうして最後は一夏の番となった訳だが、見事急停止に失敗しグラウンドに大きな穴をあけることになった。
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「続いては武装展開に関するデモンストレーションだ。オルコット、やってみろ」
そう織斑先生に指示されたセシリアは頷き、一瞬でレーザーライフル「スターライトmkIII」を展開して見せた。
「ふむ、速さは申し分ないが構えが気になるな。横方向のやつを撃つつもりか?」
「いえ、これはイメージのしやすさの問題でして…」
「誤射に繋がったら洒落にならん。矯正しろ」
「はい…」
「では次に近接用の武装を展開してみろ」
セシリアは頷きはしたもののやや顔が引きつっている。自信がないのだろうか。
武装を構えるポーズは取っているものの、なかなかあの時のショートブレードが現れない。
「まだか?」
「す、すぐです。……ああ、もうっ!インターセプター!」
武装名を叫んでやっとのことで出現させることができた。
「確かに声に出すことでイメージはしやすいが、実戦では声が出せない場面も多々存在する。次はもっと早く出せるようにしろ」
「せ、接近されなければ大丈夫ですわ!」
「ほう、そこの二人に接近を許したのが負け筋だったのにか?」
「そ、それは…」
セシリアは一夏と美春をキッと睨み付けた。いや俺らのせいじゃねえよ。
「今日の授業はここまで。各自、後片付けをしておけ」
そういって織斑先生は立ち去って行った。
さっきの穴を埋めるのは…まあ一夏だよなあ。
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放課後。美春は夕食後の散歩がてら学園内をうろついていた。
ここ数日はアリーナでの練習を詰め込んでいたので、学園を探検する余裕がなかったからだ。
学園をざっくり1周して正門にたどり着くと一人の少女が困惑している表情で立っていた。
その少女は美春を発見するなり猛ダッシュで走りこんできて…
「すいません!総合受付ってどこにありますか!?」
「それならあっちの角を右に曲がったところだけど…」
「わかりました!この借りは必ずどこかで返すんで!それじゃ!」
そういって少女はまたもや猛ダッシュで総合受付の方角に向かっていった。
(せわしない娘だなあ…)
この出会いが後に美春にとっての大きな転機となる。