一夏は美春と自室に戻る道中、とある疑問をぶつけてみる。
「なあ、美春はどうして生徒会に入ったんだ?それに副会長なんて」
至極真っ当な質問だ。
特に隠すことでもないので美春は楯無との会話を思い出し、淡々と答える。
「会長にスカウトされたんだよ。ISでの模擬戦やら作戦レポートやらを見てあなたには素質があるって言われてさ」
「…でも俺みたいに巻き込まれて決まった訳じゃないだろ?なんで会長の提案を飲んだんだ?」
「それに関しては取引があってさ、諸々の仕事を引き受ける代わりに時間外のアリーナ使用を認められることになったんだ。それと…」
「それと?」
「俺、人に振り回されるってのがあんまり好きじゃないんだ。できることなら自分で決めて自分の足で進みたい。副会長って役職ならそれができるって思ったんだ。まあこれも会長に見透かされてたんだけど」
美春の回答に一夏はへえと軽く反応すると少し考え込んでから、ポツリと呟いた。
「それでもお前はすごいよ」
「…何が?」
「自分でやりたいって思ったことを実現できているところだよ。それに無人機の襲撃から一人で学園を守るっていうとんでもなく凄いことをやり遂げてる。俺なんて…」
「一夏、それ以上はナシだ」
一夏が言いかけたところで美春が止めに入る。
これ以上話を聞くと彼が自己嫌悪に苛まれてしまうことを察知したためだ。
確かに美春が学園を守り切ったのは事実だが、それは極限状態での必死さ故に果たすことができた偶然の産物だ。
いつもの美春のままであの機体に挑んでいたら命を失う可能性もあった。
そして何より一夏が自分に劣等感を持って欲しくないという思いもあった。
お互いにとって学園唯一の男性の友人だ。
その関係に優劣がついてしまうと、今後の学生生活に支障をきたしかねない。
そのため美春は一夏の気持ちを理解しながらも敢えて彼の言葉を遮った。
「そうか…。悪い、余計な事を考えてた。でもいつかお前の横に追いついて見せるからな」
一夏の目に輝きが戻り美春がよく知る一夏がそこにいた。
「それでこそ一夏だ。っていうか最初はお前にボコボコにされたんだけどな」
「そんなこともあったなあ。じゃあいつの間にか抜かれてた訳か。はは、楯無さんにもっと特訓付き合ってもらわないとダメだな」
「俺はちょうど怪我でIS動かせないし、むしろ今がチャンスかもな」
「お前が言うか、それ」
そう言って二人は笑いながら自室に戻っていくのだった。
自室に入った二人はお互いのベッドに腰掛けると美春の方から話を切り出し始めた。
「さて、改めて生徒会就任おめでとう。ここなら誰にも話は聞かれないし、気になることがあれば何でもどうぞ」
「それなら、学園襲撃の犯人が束さんの可能性があるって話、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
「そう来ると思ってたよ。まず初めに…」
そう言って美春は一夏に襲撃者がISのコアネットワークを通じて学園にハッキングを仕掛けたことや無人機の目撃情報から襲撃者の拠点がルクーゼンブルクにある可能性が高いことなどを話した。
が、一夏には少し難しい話だったのか終始首を傾げてたままだった。
「完全には理解できなくても大丈夫だよ。一応こっちは根拠を持って調査をしてるってことだけ理解できれば十分だ」
「そういうことなら…。にしてもお前そういうところまで考えてたんだな。やっぱりすげえよ」
一夏に真正面から褒められた美春は少し照れくさくなりながらも謙虚にこう答えた。
「情報を持ってきたのは会長だったり情報通の人だったりで、俺は持ってきてもらったパズルのピースを組み合わせただけだよ。探偵の真似事が嚙み合った形かな」
「ここまで来ると本物レベルだと思うぞ…」
一夏は美春のあまりの謙虚さに呆れながらも感心の言葉が出る。
「気になることは以上でいいか?部活の助っ人に関しては俺はわからないからその都度会長なり部活の人なりに聞いてくれ」
「ああ、わかった。改めてよろしくな、副会長」
「よろしく。頼りにしてるよ」
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数日後、一夏が様々な部活の助っ人として奔走していたころ、美春は虚と一緒に学園のサーバーログを漁っていた。
学園からコアネットワークを通したハッキングを検知したとの連絡が入ったためだ。
侵入経路は生徒が練習用に起動した量産型ISのコアを通じてとのことらしく、ハッキング者とその目的の特定が生徒会に依頼された。
ISの格納庫のネットワークから侵入されたため、対象範囲が学園のあらゆる情報となり特定は困難を極めた。
幸い、職員室の端末や生徒の個人情報に関わるサーバーはネットワークから切断する処置が既に取られているため、生徒の個人情報の流出は免れそうだ。
虚はログを見ながら美春に問いかけるように呟いた。
「個人情報に関するものはネットワークから遮断したのにまだアクセスを続けてますね」
美春は持てる限りの知識を尽くして、ログの分析に努める。
「しかもアクセスするところに統一性がないように見えますね。初めからあたりを付けていたというより何かを探しているような印象を受けますね」
しばらくすると学園からハッキングを逆探知した結果が送られてきた。
その結果を見て虚は何か違和感を覚えたのか顎に手を当てて考え込んでいる。
「虚先輩、どうかしたんですか?」
「はい、この逆探知結果に気になることがありまして、普通のハッキングならサーバーに直接アクセスした端末のIPアドレスと呼ばれる固有の文字が出てくるんです。今回はISのコアを踏み台にしているのでそのコアのログの詳細を送ってもらったのですが…、アクセスしてきたコアの固有番号がないんです。いくら世の中に出回っていないISコアだとしても名前を付けてないということは普通有り得ないはずなんです」
虚に踏み台となったコアへのアクセスログを見せてもらうと、確かにISの固有番号の欄だけNullと表示されている履歴がある。
残っているのはタイムスタンプのみで、それ以外の情報は一切ない。
情報の授業で習った項目が全て無いということは普通の機器なら有り得ない。
美春も一緒になって頭を抱えていると、ある仮説が浮かんできた。
「もしかしたら、このハッキング犯は機器もISも使わずにネットワークにアクセスしてるってことになりませんか?」
「え?そんなことはネットワークの仕組み的に不可能です。…でも確かに何かしらの機器を使っているならどこかの項目に証拠が残るはず…。それがないということはその説は一理ありますね。だとしたらどうやって…」
美春は考え込むが、それより先に目的を潰すのが先だと冷静になって立ち返り、虚には一旦そのことは置いておいてもらうことにした。
気づけばハッキング犯のアクセスログは学園の地下室にまで到達していた。
「学園の地下室…ここっていったい何ですか?この間俺が行ったときは廃棄予定の打鉄が置いてありましたけど」
「私にも詳しくは知らされていないんです。でも地下室にある何かが目的ということであれば話は早いです。地下室のネットワークを一時的に切ってもらいましょう」
そう言って虚は携帯端末を取り出し、学園の担当者にネットワーク遮断の依頼をする。
しばらくすると地下室のサーバーへのアクセスができなくなり、ネットワーク復旧後も特に目立ったログは残されておらず、ハッキング犯は諦めて撤退したようだった。
(何とかなったみたいだけど…地下室に一体何があるんだ?)
虚は学園の担当者に事態収束の連絡をして一息つく。
「ふう、少々強引なやり方でしたが何とかなりましたね。遠藤君お疲れ様でした」
「俺は何もしてないですよ。虚先輩こそお疲れ様です」
「もう、相変わらず謙虚ですね。ところでハッキング犯のことですけど…」
「ああ、それのことですね。実はこの間会長にハッキングされた時の最終手段として電脳ダイブ装置なるものを見せてもらいまして、もしかしたら犯人はそれを使ったのかなと」
電脳ダイブとは操縦者個人の意識をISの同調機能とナノマシンの信号伝達によって、ISの操縦者保護神経バイパスを通して電脳世界へと仮想可視化して侵入させることである。
これによって操縦者自身が直接ネットワーク上のシステムに干渉することが可能となる。
「私も見せてもらったことがあります。でもそれならログに機器名などが残るはずでは?」
「これは仮説の域を出ませんが、仮に犯人が装置を使わずに電脳ダイブできるとしたらどうでしょう?」
「…!そもそも人間がアクセス元だから機械のように番号は振られていない…」
「そういうことです。篠ノ之束がその能力を持っているかどうかはわかりませんが」
「だとするとかなり厄介ですね。固有番号やIPアドレスを持っていないとなると、アクセスを弾くのは兎も角、場所などの特定ができませんね」
「そうですね…。ま、とりあえず解決もしましたし、対策も立てようがありそうなので報告書を書いちゃいましょうか」
美春の提案に虚は頷き、早速今回の件の報告書を書き始めた。