鈴と昼食を取った日の放課後、セシリアからISでの飛行について意見交換がしたいということで、アリーナにやってきた。
二人でアリーナ上空を飛行しながらお互いが飛行時の自身の持っているイメージを共有していく。
セシリア曰く、飛行する際は自分をジェット機と思いながら飛んでいるようで、それをもとに姿勢などを整理していったようだ。授業で話していた円錐のイメージもそこから着想を得たものらしい。
対して美春は飛行をあくまでも跳躍の延長として捉えており、飛行しているときも物凄く飛距離の長いジャンプをしている感覚だとセシリアに伝えた。
「それは、ISに慣れていないからこそ出てくる発想ですわね。クラス代表決定戦の時跳ねていたのもそのイメージを固めていたからだったのですね。…それにしては姿勢がかなり安定していらっしゃる様子ですけど、どこから着想を?」
「ああ、それについてか。正直自分で言うのも恥ずかしいんだけど、中学の時見た映画で手足のスラスターで飛ぶヒーローが居てさ、その時の姿勢を真似してみたんだ」
「なるほど、わたくしは娯楽については少し疎いので、登場人物の動きを真似てみるという発想がありませんでしたわ。勉強になりましたわ。」
「こちらこそ。俺は基本とかすっ飛ばしてISを動かしてるからそういう細かいイメージの話とかしてくれるのは助かるよ。」
「そういうことでしたら、基本の習得も兼ねて代表候補生が行ってる飛行訓練を少しやってみましょうか。エスコートいたしますわ」
「そいつは光栄だな、是非とも頼むよ」
こうして美春はセシリア主導のもと、飛行技術の向上に勤しんでいた。
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セシリアとの訓練を終えた美春は疲労困憊の身体を引きずりながら寮へと向かっていた。
(つっっっっっかれたあ…セシリアの奴、美春さんならもっとできますわなんておだててきて、どんどん難しいことやらせてくるんだもん。にしてもあれだけのことを何年も続けてきたんだろうから、やっぱり代表候補生ってすごいよなあ)
美春は改めて代表候補生という肩書が意味するものを思い知るのだった。
帰路についてる途中、美春は広場のベンチに見知った顔を見つけた。
(あれは…鈴、だよな。なんか落ち込んだるみたいだけど)
気軽に話しかけていい雰囲気ではないことを感じ取った美春は周囲を見渡し、あるものを発見すると駆け出して行った。
「うぅ…一夏の馬鹿ぁ」
今にも泣き出しそうな鈴の目の前に炭酸飲料の缶が差し出される。
「昼ぶりだな、鈴。…さっき自販機で買う飲み物間違えちゃってさ。せっかくだから一緒に飲まないか?」
「アンタは…ええ、いただくわ。」
横並びで座った二人は缶のフタを開けて飲み物を一気に流し込む。
「クウ~!やっぱり疲れた時はこれだよなあ。鈴のほうは大丈夫か?」
「ええ、アタシは大丈夫。これ、結構好きなやつだし。」
暫しの沈黙が流れる。沈黙に耐えかねたのか鈴が口を開く。
「あのね、遠藤。ちょっと話聞いてもらってもいい?」
「ん?いいよ。何かあったのか?」
美春は鈴から事の一部始終を聞いた。どうやらどちらが一夏と同室となるか箒と揉めたらしい。あいつ、女子と同室だったのかよ…
しかし、本質はそこではない。なんでも、その言い争いの中で出てきた一夏と鈴との間で交わされた約束を一夏がちゃんと理解できていなかったらしい。
実際の約束は『鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を作ってあげる』という言葉を変えたプロポーズのようなものだったのだが、一夏はそれを『鈴が料理出来るようになったら、俺にメシを奢ってくれる』と捉えていたらしい。
意味が伝わりにくくなるような言葉に変えてしまった鈴に非がないわけではないが…こういう時は、
「それは確かに一夏が悪いな」
「でしょう!?唐変木にも限度があるって思わない!?」
「女の子の一世一代の告白だってのにそれはないな」
「告白とか…別にそんなんじゃないけどさ」
とにかく同じ目線に立つこと。下手に相手の非を指摘しないのが女性の愚痴を聞いてあげるときのコツだ。
「しかもなんなのよ、ファースト幼なじみ、セカンド幼なじみって!アタシにとっては一夏がファーストだってのに!」
(やっぱり気にしてたのか)
「それは言えてるな、あの言い方はちょっと一夏の配慮が足りなかったな」
「アンタもそう思うでしょ!?アイツって昔っからああなのよ!中学の時だって…」
鈴の長い長い昔話にも美春は嫌な顔一つせず、真剣に耳を傾けていた。
鈴は鬱憤を晴らし切ったのか澄んだ顔でベンチの背もたれにもたれかかる。
「ああ、スッキリした!アンタのおかげで楽になったわ。ところでなんでアタシに声をかけたのよ」
鈴は美春に対して至極当然の質問を投げかける。
(放っておけなかった、とは言いずらいよなあ)
「セカンド幼なじみって話があったじゃん」
「あったけど、それが?」
「よくよく考えたら俺もセカンド男子だなあって。一夏の次にISを起動させたわけだし。」
「言われてみれば、確かにそうね。」
「んで自分の置かれてる状況を見てみたらなんだか悔しくてさ、一夏は専用機を持ってて単一仕様能力まで使っちゃって。おかげさまでクラス代表決定戦ではボロ負け。」
「…」
「っと、話が変わっちゃったな。つまり俺たちちょっと似てるなって思ってて」
「セカンドってだけで?ふふっ何それ。でも確かにそうかも。アンタ話聞いてると見た目によらず負けず嫌いみたいだし。ちょっとアタシと似てるかも」
「そんなわけで思わず声をかけてしまったというわけ。納得したか?」
「わかった、そういうことにしといてあげる。アタシもアンタが情けない顔してたら話くらいは聞いてあげるわ」
「セカンドだから?」
「そう、セカンドだから」
そう言って悪戯っぽく笑う彼女につられて、美春も小さく笑みを漏らす。
遠くで夜風がそよぐ中、二人はどちらからともなく缶を傾け、静かに夜が更けていった。