両義足隻腕隻眼金髪目隠れTS転生ロリ   作:名無しのTSスキー

1 / 3
00

「落ちたら来年も俺のとこに来な。アンタならまた案内してやるぜ」

 

 私を部屋に入れると、案内人の男は激励の言葉を残してさっさと出て行った。

 

 部屋の中に用意されている椅子とテーブル、熱い鉄板の上で2センチほどの厚さのステーキが肉汁を鳴らしている。

 

 ――ステーキ定食、焼き方は弱火でじっくり。

 

 合言葉で注文されたそれは、しかし律儀にテーブルの上へ用意されていた。

 食べても食べなくてもいいのだろうけれど、ちょうど小腹も空いているし、何より勿体ないから食べないという選択肢はないのだけど……

 

「切ってもらえば良かった」

 

 私には右腕がない。7歳の頃に外傷が原因の感染症を起こして、肩下から切断する羽目になった。

 

 両脚もない。

 膝下はギリギリ残っているおかげで義足があればとりあえず問題なく歩ける。

 

 右目もない。ぽっかりと空いた眼窩を見せないために伸ばした髪で隠している。

 

 師匠――現在の育ての親に拾われていなかったら、私は7歳で死んでいたと思う。

 

 前世で何をしでかしたのだろう。人殺し?。

 

 何となく生まれ変わった事は覚えているけれど、前世の顔も名前もどんな人生を送ってきたかもあまり覚えてない。

 前世は男だったことと、一応成人はしていた事ぐらい。

 幸いものの知識はそれなりに残っていたおかげで自活できた。じゃなければ実母から育児放棄されたときに餓死していただろう。

 しかし、お酒の味を覚えていて、今もたまに飲みたくなるのが厄介だった。この世界の法律で飲めるようになるまで、あと数年……。

 

 左腕以外の手足がない。片目もない。もうすぐ14歳になるエヴリンという少女。それが私。

 

 椅子に座って杖を置く。

 無くても動けるのだけど、歩くだけならあった方が楽なので持っている。頑丈で重さもあり、武器としても申し分ない。

 

 ステーキと向き合う。

 フォークを突き刺して一思いにかじりついた。服が汚れた。おお、もう……。

 

 悪戦苦闘していると、食べきる前にエレベーターが止まった。

 インジケーターは地下100階を表示している。

 

 扉が開くと、視線が一斉にこちらを向いた。

 

 人数は300人近くはいるだろうか。そこにいる全員が只者ではない雰囲気を醸し出していた。

 実際只者ではないのだろう。

 

 ――ここはハンター試験の会場である。

 

 毎年、数百万人の志望者が殺到するハンター試験。会場の場所もおおざっぱにしか知らされておらず、志望者はわずかな情報を頼りに案内人を見つけ、会場までたどり着かなければならない。

 無事に案内人に認められ試験会場までたどり着けるのは、凡そ1万人に1人と言われる。

 そんなハンター試験の会場に私のような杖を突いたカタワの小娘が現れれば、訝しむ者が多いのは当然だった。

 視線が突き刺さり少し縮こまる。

 

「新人……いや迷子か?」

「今回の合言葉なんか単純だったよな」「間違えて来るやついるんじゃねえかって思ったもんな」「案内人伴わないと入れないんじゃなかったか?」「かわいい、かわいくない?」「あんなフリフリな服着たハンター志望者が居るかよ……間違ってきたんだろ」

 

 フリフリは触れないで欲しい。

 私が着ている服は、フリルで装飾されたゴスロリのような意匠のワンピースだ。

 見た目こそ凝っているけれど、リボンは飾りだし、生地は伸縮性があって頭から被るだけで簡単に着られるようにはなっている。

 

 ――とはいえ、出来ればもっと派手じゃないのがいい。この服は師匠の趣味で私の趣味じゃないのだけど、養われているので拒否権は無かった。

 

 視線を向ける人の大半は、すぐに興味をなくして視線を逸らしたが、一部の視線は未だにこちらを向いている。

 奇異なモノを見る目、困惑の目、色を見る目。

 

 ――残ったステーキを無理やり口に捻じ込んでエレベーターを出ると、スーツを着た背の低い豆のような人がこちらに近づいてくる。

 今回のハンター試験の進行役の人だ。

 

「受験者の方ですね?」

 

「もご、もぐ……んぐっ」

 

 頷く。名乗るべきなのだけど、まだ口の中には肉が残っている。

 残りの大きさ的に一口で入るかと思ったのだけど、ギリギリ収まらず噛みあぐねている。元日本人であるがゆえに、かつ貧困にあえいでいたことがあったのもあり、勿体ない精神が顕出し残すという選択肢を取れなかった。

 師匠が居たら行儀が悪い。もっと女の子らしくしなさいと怒られそうだった。

 

「……呑み込んでからで大丈夫ですよ」

 

「もぐっ」

 

 頷きながら、しかし待たせるのも申し訳ないので懐から取り出した水筒を開け、水で流し込んだ。

 詰まりそうになるが何とか飲み込んだ。

 

「……えふっ……すみません、お待たせしました。エヴリンと申します」

 

「確認しました。はい、番号札」

 

 番号札を受け取ると、視線を向けていた者たちを中心に、周囲がざわめく。

 どうやら本当に受験者が疑われていたようだ。

 ちゃんと正規に申込もしているし、案内人の出した試験もクリアして合格判定を受け取っているのだけれども……。

 番号は丁度300番。キリ番ゲット。

 

 だから何だという話だけれど。

 私の次の番号は誰になるのだろうと、しばらく観察していたら、ヘルレイザーのピンヘッドみたいな奴が現れた。

 

 私は逃げた。

 

 

 隅へ移動してフードを深くかぶる。

 あの後、なおも向けられ続ける好奇の視線に堪えかねて、視線のない方へ気配を消して逃げた。

 木を隠すなら森の中。人混みにまぎれ、視線から外れれば改めてわざわざ探して目を向ける者はいなくなった。

 服の中にぶら下がるネックレスを握りしめる。

 

 試験開始まではまだいくらか時間がある。

 縮こまるように座り込んで、ぐるりと受験者を見回していると、小太りの男がこちらへ近寄ってきた。

 

「他の受験者が気になるかい?」

 

 男はトンパと名乗った。

 随分と気安い様子の男で、聞かれてもないのに自分の経歴について語り出した。

 10歳の頃からハンター試験を受けていて、今回で35回目だという。

 ハンター試験はそれなりに命の危険を伴う。そもそもこの会場に着くまでにも相応の試練と危険が伴う。たどり着けるのは1万人に1人というとんでもない倍率からして、ここまでたどり着くだけでも相当な才能を持っている人間のハズなのだけど……。

 

「女性の受験者はいない訳じゃないんだけど、君みたいな小さい女の子が試験に来てるのは珍しいから、つい声かけちゃったよ」

 

「はぁ……そうなんですか」

 

 小さくて悪かったな……。

 声には出さない。喧嘩の売買の趣味はないのだ。

 

「分からない事があったら何でも聞いてくれ。そうだ、これ良かったらお近づきの印に」

 

 渡されたのは缶ジュースだった。

 ぬるい。

 

「お互いの健闘を祈ってカンパイだ」

 

「はぁ……あとで頂きます。今は喉乾いていないので」

 

 おじさんの懐で温められたジュースはちょっと。

 あとで冷やして飲もう……となると試験が終わったあとになりそうだ。試験の道中に冷蔵庫なんて借りれないだろうし。

 

「ははっ、まぁ好きな時に飲んでよ。それじゃあ頑張ってな」

 

 カンパイと言われて手を付けなかったのに、嫌な顔ひとつせずトンパは去っていった。

 いい人……のように感じたが、逆に胡散臭い気もする。

 少し様子を見てみれば他の受験者にも配っているようだ。主に初受験の新人に。素直に受け取る人は殆ど居ないようだけど。

 あとで飲もうかとも思ってたけどこのジュース大丈夫なやつか?

 

「これどうしよ……」

 

 かといって捨てるのも何だかなぁ。何も裏がなかったら申し訳なく感じる。

 とりあえず仕舞っておこう。

 

 それからしばらく、うたた寝しているうちに受付終了のベルが鳴って慌てて飛び起きる。

 一次試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

 ――7年前。

 

 あの日、あたしはリゾート地にあるとある海岸に訪れていた。

 たまたまハンターの仕事で訪れて、観光地なのでせっかくだからちょっと遊ぶ程度のつもりだったのだけど、そこはヒスイが流れ着く海岸としても有名な場所だと現地の人が教えてくれた。

 時に良質なモノも流れ着くことがあるらしく、宝石ハンターとしては見逃せない。

 文字通り目を光らせながら、海岸で石の一つ一つを注視しながら歩いていると、岩場の向こうに不穏な気配を感じ取った。

 

 ――血の臭い。

 

 濃密な死の臭い。

 ハンターになれば死に遭遇する場面等いくらでもある。

 故に、その時は正直、面倒なところに遭遇してしまったと思った。

 せめて海洋生物の死体が流れ着いただけであれば役所に一報入れるだけで済むので、そうあってほしいと思いながら駆け寄る。

 しかしハンターとしての予感はそうはならないと叫んでいた。

 

「うっ……」

 

 そこに倒れていたのは、まだ幼い少女だった。

 

 鮫か何かに食われたのだろう、千切れた両足の断面から夥しい量の血を流し、海岸を赤く染め上げていた。

 服は破れ、殆ど裸同然で、身体中に目をそむけたくなるほど暴力に曝された痕がある。

 こちらは人間の仕業だと悟った。

 右目は抉り取られ、右腕は辛うじて繋がってはいるものの傷はひどく、化膿による異臭を放っていた。

 

 ――なんて惨い……

 

 驚くべきことに、少女はまだか細いながらも息がある。

 しかし間もなく死ぬだろう。助ける術をあたしは持っていない。

 

 ここは病院からも距離がある。

 救急車を呼んで、それから病院に運び込むまでの時間、どんなに急いだとしても、この少女の命はそれまで持たない。

 

 あたしに出来る事は……

 

「……せめて楽にしてあげるわさ」

 

 少女の身体にそっと触れ、念のオーラで包み込む。

 あたしの能力では美容や健康を保ち疲労回復が出来ても重傷を治すまでは出来ない。けれどそれでも痛みを和らげることぐらいは出来る。

 

 それしかできなかった。

 

 少しでも痛みを和らげられるよう、身体の隅々までオーラを流し込んだ影響か、少女の精孔が開く。弱った身体から生命力が流れ出ていくのを感じた。結果的に死を早める事になるけれど、ここで長く苦しむよりはマシのはずだ。

 

「傍にいてあげる。終わったらちゃんと弔ってあげるから、安心しておやすみなさい」

 

 聞こえてはいないだろうけれど、そう伝えて少女の手を握ってやる。

 少女の顔が少しだけ和らいだように見えた。

 

「……は?」

 

 次の瞬間、異変が起きた。

 ただ出ていくばかりだったオーラが流れを変え、少女の周りに渦を巻きやがて留まった。

 

 纏。オーラを身にとどめる念能力の基礎技術。

 

 異変は続く。

 

 オーラの色が赤く変化し、液状に変わる。

 変化したオーラが少女の傷口から体内に入り込んでいくと同時に、土気色だった少女の身体に生気が戻っていく。

 

「ウソでしょ……こんな事が……」

 

 もともと念能力者だった、という事はない。そんなのはオーラを見れば分かる。

 つまり、この子は死の間際に念能力に目覚めてすぐに、オーラを血液に変化させ、失った血液を補うことで自身の命をつないだのだ。

 

 生きたいという強い意志から生まれた力、そしてそれを実現できるだけの念能力の才能。

 

 驚愕に震えながら、あたしはすぐ携帯を取り出して医療機関へ連絡を入れた。

 

 

 数日後、少女が無事に一命を取り留めたと連絡があった。

 

 病室を訪れると、意識を取り戻した少女は、自分の体に流れるオーラを興味深そうな顔で見ていた。

 まだコントロールが効かないのか、時折オーラが血に変化してベッドを汚していた。

 ベッドの脇の椅子に座り、少女と向き合った。

 怪訝な目をしている。

 

「あの……どちらさまですか……?」

 

 そりゃそうだ。この子はあの時、意識は殆どなかったし、あたしの事なんて分からないだろう。

 

「アンタを病院に運び込んだ者だわよ。具合はどう?」

 

「ああ……それはどうも、ありがとうございました。おかげで助かりました」

 

 少女はペコリと頭を下げた。

 まだ小さいのに随分と礼儀正しい子だわさ。ちょっと驚いた。

 

 右腕はやはり残せなかったらしい。中身のない袖が空調の風でひらひらと揺れていた。

 

「あ、でもお金とか、持ってなくて……治療費とか入院費とか……ど、どうすればいいですか」

 

 この発言にはさすがに驚いた。

 こんな幼い子供が、つい先日まで生死の境をさまようほどの傷を誰かに負わされていた少女が、目が覚めた時には既に金の心配をしている。どんな育ち方をしたらそうなる。

 思わず唖然としていると、少女の顔がますます不安そうに青ざめていく。

 

「か、必ずどうにかしてお支払いしむぐっ」

 

 言い切る前に口を抑えてやる。

 

「あのねぇ!子供が何の心配してるのよさ!別に金の為にアンタを助けた訳じゃない!アンタにお金がない事ぐらい助ける前からわかってたわよ!」

 

 そもそもこちらは最初、助けようともしていなかった。助ける術が無かったからだ。

 この子が自分の力で助かっただけだ。

 

 支払いはあたしが持つし返す必要もない。子供が何も心配する事はないと、そう伝えてやると、少女の瞳に若干の警戒が混ざる。

 どんな環境を生きてきたのだろう……憤りと哀しみで、あたしは胸が痛くなった。

 

 エヴリンと名乗った少女の見た目はわたしの目には4,5歳ぐらいに見えたけれど、歳を聞けばもう7歳になるという。

 しかし年齢のわりに礼儀正しく、口調も考え方も大人びていて、話せば話すほど驚かされる。

 

 親は居ないというのであたしが引き取る事にした。申し訳なさそうな顔で頭を下げるエヴリンの頭を気持ち乱暴に撫でまわしてやった。

 痛んではいるけれど、柔らかい綺麗な金の髪だ。手入れしてやればヘリオドールのように輝くことだろう。帰ったら色々揃えてやらなければ。

 顔立ちも整っていてとても可愛らしい。それだけに、こんな幼い子供を傷付けた見ず知らずの連中を思い、ますます強い憤りを抱く。

 

 目覚めた念能力を制御する訓練もしてやらなきゃいけないけれど、まずは身体と心のケアだ。

 

 これから忙しくなるわさ。

 

 

 

 

 

 

 

 おまけ

 

 ――師匠に拾われてから3年かそこらのとき。

 

「かわいいのに着飾らなくてどうするわさ」

 

 師匠は言った。

 曰く、私のファッションセンスは女子として、というか人として壊滅的らしい。

 

 ――例えるならば、上質な宝石を段ボールで出来た指輪にはめ込むがごとき。

 

 そこまでぼろくそ言う事無くない?

 

「何か問題でも……?」

 

 その時、私は自分で選んだ服を着ていて、そう言ったら鏡の前に突き出された。

 オーバーサイズの狩人(かりんちゅ)Tシャツに短パンという恰好。動きやすく、着るのも楽だったのでこれを着ているのだけど、しかし師匠のセンス的には地雷だったらしい。

 これを着て出かけようとしたら止められて、バチギレの師匠に詰められて現在に至る。いちおう言っておくと、師匠にマジで怒られたのはこれが初めてだった。

 

 何がいけないというのか。

 

 何かを呑み込むように、師匠は深呼吸をして、それから「その服装に何か拘りがあるのか」と聞かれたので、否と答えた。

 実際のとこ、着られるなら何でも良い。ゴミ溜めに落ちてたボロ切れに比べたら何だってマシだった。

 まぁ着るのが面倒くさい服だと困るけれど……ボタンが多かったり、ジッパーは片手だと上げ下げがしづらいので。

 

 その答えに師匠は頭を抱えて、それから頷いた。

 

「……これからはあたしがアンタの服を選ぶわさ」

 

 師匠は言った。もう当面お前に着る服を選ぶ権利はないと思え。鬼の形相だった。

 

 

 

 そして着させれたのがあのフリフリってわけ――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。