両義足隻腕隻眼金髪目隠れTS転生ロリ 作:名無しのTSスキー
二次試験の会場まで試験官に着いていく事。それが一次試験の内容だった。
試験官はサトツさん。何度か師匠についていってたときに見たことのある人だったけれど、名前までは知らなかった人だ。
私の師匠は心源流の師範で、二つ星のプロハンターなので、その繋がりで私も現役のハンターとそれなりに面識があったりなかったりする。あったりなかったりだ。
とにもかくにもマラソンである。超長距離でゴールの見えないマラソンだ。
隅っこで座っていたせいでスタートは後方になってしまったけれど、少なくともトンネル内を走っているうちは一本道だ。無理に前に出る必要もないだろう。
前の方には私よりも年下っぽい子供がいるのが見えた。
猫みたいな銀髪の少年と逆立った黒い髪の少年の二人だ。
あんな子供のうちから試験を受ける人が居るんだなぁと驚く。そういえばさっきのトンパさんとやらも10歳から試験を受けていると話していた。
スタートから何時間かが経過した。
体力はまだ余裕がある。ただ走るだけの試験に比べたら師匠に課された修行の方がよほどしんどかった。
脱落者はまだ一人。この調子だと全員通ってしまうのではないだろうか。
そう思っていると、目の前に長大な階段が現れた。
上へ向かってどこまでも続く。先の見えない階段。しかもかなり急だ。
ここは地下100階。二次試験会場が地上にあるならば登っていくのは道理だった。
しかしこれは中々、骨が折れそうだ。
案の定、次々に受験者が脱落していく。
階段で精魂尽き果てている受験者達を、踏みつけないよう注意しながら前に出ていく。
気付けば先頭に追い付いていた。
「あ」「ん?」「え?」
そこに居たのは先ほど見かけた少年二人。
後方では大の大人が何人も力尽きているというのに、この少年二人はまだ余裕そうだった。
銀髪の少年に至っては涼しい顔で汗一つかいてない。
思わず驚いて声が出てしまい、その声に二人も反応した。
「へぇ、オレたち以外にも居たんだ」
銀髪の少年は目を細めて笑いながら言う。
「きみはいくつ?」
一瞬どういう意味かと思ったけど、同じぐらいの歳の子供が、という意味のようだ。
確かに受験者を見回してみても、明らかに子供の受験者はこの二人だけだった。
「今年で14になります」
「……年上かよ!」
「えっ、年上なの!?」
同い年、あるいは年下を期待したのか、若干肩透かしといった様子の銀髪の少年と、素直に驚く黒髪の少年。
二人はもうすぐ12歳だそうだ。
確かに歳のわりに発育が遅い自覚はある。幼少期の環境が悪かったせいで充分な栄養が取れなかったせいだ。
おかげで実年齢より2つか3つ程年下にみられる事が多い。
「うちの末弟より下だと思ったわ。背も小さいし」
「その子何歳です?」
「10」
「ぬぐ」
一桁年齢と間違えられるのは結構堪える。
ちなみに私の身長は140センチ半ば……大きくなりたい……せめて150は越えたい。
「けっこう後ろ走ってたみたいだけど、よく追い付いたね」
「一本道ですし」
あと、近くにヤバい変態が居たので距離を置きたかった。
走りはじめは私が距離を取っていたのもあって、離れた位置にいたのだけど、受験者が脱落していくにつれて距離を詰めてきたので、追い抜いて逃げて来たのだ。
なるべくなら試験中は関わりたくない。
流れでそのまま自己紹介と相成った。
銀髪の方はキルア、黒髪の方はゴンと名乗った。
今は遅れて後ろの方にいるけれど、ゴンには他にクラピカとレオリオという仲間がいるそうだ。
「エヴリンはなんでハンター試験に?」
「……諸事情で身柄を狙われてるので、ちょっと後ろ盾になるものが欲しくて。プロのハンターになれば、そうそう手を出そうとは思われないでしょうし」
命というか、私の残った左目を欲しがる連中がそれなりに居るという現実。
この目にはなにやら相当な価値があるようで、殺して抉り取って眼球だけ飾って眺めたいという輩が後を絶たないらしい。
人体収集家って何さ?倫理観がアポカリプスなう。
どうもこれは顔も知らない父親譲りのモノらしいのだけど、厄介なものを遺していってくれたものだと思う。
ゴンはハンターの父親を目標にしていて父親のようなハンターになるのが夢だという。
ゴン自身は父に会ったことがなく、どんなハンターなのかも詳しくは知らないらしいけれど、凄いハンターだと教えてくれた人が居るのだそうだ。
二つ星だが、申請していないだけで功績だけを見れば三ツ星のハンターと比べても何ら遜色がないという。
――ジン=フリークス。
聞いた事はある。
身内や知り合いにハンターが居ると、会話の中で名前を聞くことがある。それぐらいハンターの間では名の知れた人だった。
キルアは純粋な腕試し。面白そうだから受けてみたけど思ったより歯応えが無くて拍子抜けだと嘆いていた。その言葉が強がりでないのは、この長いマラソンの中で汗一つかいていない様子を見れば分かる。
とはいえあんまりそういうの口にしない方が良いと思う。後ろの人が聞いたら何だァテメェってなりそう。
まぁ、大した目的が無いのは私も似たようなものなので口には出さない。
私は殆ど保身が目的なので、ハンターになって何か成したいという気持ちはあんまりない。あとお金。
そうこう話しているうちにトンネルの向こうに光が見えた。
「出口だ!」
誰かが叫ぶと同時に後方集団のペースが上がる。
トンネルを出た先は深い霧に包まれた湿原が広がっていた。
「ヌメーレ湿原、通称“詐欺師の塒”二次試験会場へはここを通って行かねばなりません」
この湿原にしかいない珍奇な動物たち、その多くが人間を欺いて食糧にしようとする狡猾で貪欲な生物。
彼らはありとあらゆる方法て獲物を欺き捕食しよとする。標的を騙して食い物にする生物たちの生態系、詐欺師の塒と呼ばれる所以。
「騙される事のないよう注意深く、しっかり私の後をついて来てください」
「ウソだ!!そいつはウソをついている!!」
サトツさんが言い終わるや否や、どこからか現れた男が叫んだ。
男は誰かしらに暴力を受けたようで全身傷だらけで、脇腹を抑え片足を引きずっていた。
「そいつは偽者だ!試験官じゃない!オレが本当の試験官だ!」
これを見ろと男が出したのは、手足の細長い猿の死体。
その顔はサトツさんにそっくりだった。
「んっく……っ!」
ちょっと面白かった。
笑いをこらえているとサトツさんの白けた目がこちらへ向いた。
ひやりとした念が僅かにこちらへ向く。
ごめんて。
名前までは知らなかったものの、私から見たサトツさんは既知の人物で疑う理由は無いのだけど、周りの受験生はそうではなく周囲はにわかにざわめきだした。
男が言うには、あれはヌメーレ湿原に生息する人面猿で、人に扮して言葉巧みに人間を湿原に連れ込み他の生き物と連携して獲物を生け捕りにするのだとかなんとか。
「そいつはハンター試験に集まった受験生を一網打尽にする気だぞ!」
叫んだ瞬間、男の顔にトランプが突き刺さり男は崩れ落ちた。
同時にサトツさんへと放たれたトランプは全て受け止められていた。
何故か私の方にも一枚飛んできていた。こちらは杖で防いだ。
何のつもりだと44番に視線を送る。
くつくつと笑っていた。
死んだふりをしていた猿は、隣の男が死んだのを見るや否や慌てて逃げ出すも、即座にトランプに撃ちぬかれて絶命した。
「これで決定♦」
そっちが本物だ、とサトツさんを指す。
試験官というのは審査委員会から依頼されたハンターが無償で任務につくもの。
本物ならばあの程度の攻撃は防げないわけがない。
いち受験生でしかない私が防いだのもあってアイツのその言葉には説得力があり、サトツさんを疑う受験生はもういなかった。
「次からはいかなる理由でも私への攻撃は試験管への叛逆行為とみなして即失格とします」
それはそれとしてアイツは無事に警告を受けた。
今すぐ失格にしてくれてもいいんですよ。
長距離マラソン第二ラウンド。
周囲はあっという間に深い霧に包まれ、前を走る人達の影すら霞んでいた。
後方では騙された受験者の悲鳴が響いている。
ゴンが心配そうに後ろを見ていた。そういえば仲間が後ろの方に居るのだと話していた。
不意に後方で殺意の籠った念を感じた。
あの変態、44番の発したモノだ。同時に受験者達の悲鳴が響く。
「レオリオ!」
その声の中に、仲間の物が混ざっていたらしい。ゴンが身をひるがえし後方へ駆けていく。
「ゴン!!」
「……私も行きます。キルアは先に行っててください」
「はぁ!?」
受験者が何人死のうと気にしないつもりだったけれど、仲良くなった子が死ぬのは寝覚めが悪い。
ヤツの事はよく知っている。
私が行けばヤツの目はこちらへ向くだろう。
アイツにしたって、試験に落ちる気まではない筈だ。追い付く算段があってやっている筈だ。後ろを着いて行けば二次試験会場にも無事にたどり着けるだろう。
ゴンに追い付いたとき、ヤツはちょうど誰かに攻撃をしかける所だった。
棒きれを持って果敢に立ち向かうも、背後を取られて今にも殺されそうになっていたところを、ゴンによって阻止される。
釣り竿によって投げ込まれた錘を顔に食らい一瞬動きが止まる。
「ナイスキャスト!」
その隙をついて、ゴンを追い抜き杖で殴りつけた。
受け止められるも、腹に蹴りをお見舞いし距離を取らせる事には成功する。
この義足は頑丈な合金製、結構な重さがあり思いきり蹴りつければそれなりの威力になる。
力のかけ方には気を付けないと外れて落ちるけれど、今更そんな間抜けはしでかさない。
「ッ、ふふっ、イヴじゃあないか♦キミも来てくれたのかい?」
うれしいねぇ♥とヤツの口元が弧を描く。
「愛称で呼ぶのやめてください。気色悪いので」
放たれたトランプを躱しながら再び杖を叩きつけるも、あっさり防がれてしまう。
何度かの攻撃の応酬を交わし距離を取る。
ヤツは距離を詰めず、動きを止めると目を細めて怪訝そうな顔でこちらを見た。
「……キミ♠使えるだろ?使わないのかい?」
「試験中は使えないんで。使ったら破門だそうです」
「そうかい♠それは残念だね♠」
無理やりにでも使わせようというつもりは無いらしい。
睨み合いの最中、電子音が鳴り響く。ヤツは懐から携帯を取り出した。
『ヒソカ、そろそろ戻ってこいよ。もうすぐ二次会場につくみたいだぜ』
「OK、すぐ行く♦」
どうやら仲間が居たらしい。
連絡を受けてヤツは踵を返した。
「残念だけどここまでだ♠またね♥」
「またはない。去ね」
返答は中指。
ヒソカはくつくつと笑いながら霧の中へと消えていった。
「……知り合いなの?」
「不本意ながら」
ヤツ、ヒソカと初めて遭遇したのは天空闘技場。
安全に実戦経験を積むにはちょうどいい場所、かつお金も稼げるという事で参加したのが運の尽き。
200階クラスに到達したばかりの頃に戦って、見事に目をつけられたのだ。
救いようのない戦闘狂で殺し合いをセックスと混同しているド変態。
戦っている最中の視線があまりにも気持ち悪いので、できれば本気で関わりたくない。
なんでハンター試験にいるんだ……。
聞いた話によると去年に落ちて二回目の受験らしい。受かっとけよ。出来たでしょ。
ヒソカの去った方向へ中指を立て親指を下げ、を繰り返しながら、心の中で悪態をついていると、ゴンの仲間たちがこちらへやってきた。
「助かったぜ。ありがとなゴン、それと嬢ちゃんは……」
「エヴリンです」
「おう、オレはレオリオだ。よろしくな」
「私はクラピカだ」
サングラスをかけた背の高い黒髪の男、レオリオ。ガラの悪い外見に反して気のいい笑顔で悪手を求めて来たので握り返す。
もう一人は中性的な顔付きの金髪の人、クラピカ。
「……クラピカさんってどっちですか?」
「何がだ……?」
「…………いえ、何でもないです」
思わず聞いてしまったけれど、流石に失礼が過ぎる。
別に性別などどうでもいいじゃあないか……私だっていまの自分の性自認がどっちなのかよく分かってないし。
「それで、ずいぶんと離れてしまったがどうやって追い付く?」
「……考えてなかったや」
「おいおいマジかよ……」
「すまない、私たちを助けるために戻ってきたのだろう」
三人は頭を抱えている。
「ヒソカを追いましょう。追い付く算段があるようでしたし、今ならまだ追い付けるでしょう」
「追えるのか?」
「痕跡を追うのはハンターの基本では?」
「それはそうかもしれねえけどよ、簡単に言ってくれるぜ……分かった。アンタに着いて行けばいいか?」
「はい。行きましょう」
そして歩き出そうとしたとき、首元からブチリと音がした。
先ほどトランプが掠めていたらしい。ネックレスの紐が切れたのだ。
服の中に隠して持っていたソレが、ゴトリと音を立てて足下に落ちた。
3人の視線がソレに向く。
それを目にした瞬間、文字通りクラピカの目の色が変わった。
木刀で首を抑え込まれ、私はその場に押し倒された。
♦
「なぜだ」
声が震える。
「なぜ貴様が緋の眼を持っている!!」
「ぐ……落ち着いてください……」
落ちたのは丸い小瓶だった。
首からぶら下げられるよう、鎖をつないである。
瓶の中には保存液が詰められ、中には緋色の瞳を持つ眼球が浮いている。
今の私の眼の色と同じ色だった。
エヴリンと名乗った少女、ゴンとは一次試験の序盤、走っている最中に知り合ったらしい。
その少女が緋の眼を、私の仲間のモノと思しき眼を所持している。
落ち着いていられるものか。
「クラピカ!」
「待てゴン!」
「でも……」
「アイツがハンターになろうとしてる理由知ってんだろ。仲間としてオレからも何で緋の眼をもっていやがるのか、聞かせてもらわないとならねえ」
「そ、それは、私のです……」
答えを聞いて、目の前が赤く、暗く染まっていく。
木刀を握る手に力が籠る。
呻き声があがった。
「……お前の物じゃない……それは」
クルタ族の、私の仲間の物だ。
お前が持っていていいモノじゃない。
「う、ぐ……話を」
「クラピカ!待っ……」「ゴン!」
「聞けって!!」
腹に衝撃が走る。
蹴りを受けたのだと理解したのはすぐ後の事。
身体が浮かび、揺らぐ身体を立て直そうとした瞬間、私の頭を狙い打つように少女は左腕を振りぬいた。
薄れる意識の中、少女の顔を見た。
髪で隠れていた右目側が露わになる。そこに眼球はなく、虚ろに孔が空いていて、左目は……
――美しい緋色の目をしていた。