両義足隻腕隻眼金髪目隠れTS転生ロリ 作:名無しのTSスキー
あれから数刻の後、受験生達が電話中のメンチさんの方を睨みつけている。
「……あんた何食ってんだ?」
「やまかけごはん……」
隣に立つ受験者に聞かれたので答えた。
自然薯の余りをご飯にかけて、山わさびと醤油で味付けしたもの。緑の本ワサビとは風味が違うけれど、おいしい。
ご飯も食材もそれなりに余っている。
審査は終わったのだ。余った食材をどうしたって構わないだろう。
さて、試験の結果だけれど。
合格者は0である。もう一度言おう、0だ。私も落ちた。
メンチさん曰く、惜しい所まではいっていたらしい。
目の付け所も良く、味もそこまで悪くない。山菜を用いた盛り付けも丁寧で彩りも良く、和食へ理解があるのが見て取れる。けれど現状の、味の審査基準に照らし合わせるとギリ満たしていないとのこと。
メンチさんは、一瞬だけ私の無い方の腕を一瞥して、熟考の末にこう言った。
――シロートにしては良く出来ているんだけどねー。不合格で。あと一回やり直せてたら合格できてたかもね。
……だそうだ。
直後に満腹宣言。やり直すチャンスはなく、そのまま審査終了である。
この結果は、ハンター協会側としても審査基準に問題アリと判断したようで、メンチさんは審査委員会の本部の方と電話で言い争っていた。
私が一人食材を探している間に、どうも寿司を知っている受験者が大声で寿司の作り方をネタばらししたらしい。
そのため、審査基準が味のみとなり、結果として誰一人メンチさんを満足させる事が出来ず、私も含め全員が不合格となった。
ニンジャか。あのニンジャか!
……というか私の感心を返せ!!
この結果に対し、受験生の大半は納得していないようだ。
ここまで多大な苦労してきたというのに、まさか料理で落とされるとは誰も想定していなかったのだろう。
私だってそうだったけれど、こうなってしまってはどうしようもない。試験官は毎年変わるのだ。運が悪ければそういう年もある。
もうやけ食いするしかねえやと思って、やまかけごはんをかっ込んでいだ。自分で掘った自然薯はとても美味しく感じて、思わず頬が緩む。
また来年かぁ……。
お腹いっぱいになって、天井を仰ぎ見上げていると、誰かが調理台を破壊する音がした。
受験番号255番の男だ。
「オレが目指しているのはコックでもグルメでもねえ!ハンターだ!しかも賞金首ハンター志望だぜ!美食ハンターごときに合否を決められたくねぇな!!」
「それは残念だったわね。また来年がんばれば?」
今回は試験管運が無かったと、彼の不満をメンチさんはばっさり切り捨てた。
255番は怒り、そのままメンチさんに殴りかかるも、ブハラさんの張り手によって吹っ飛ばされる。
会場の窓を割り、外まで吹っ飛んでいった。
「ブハラ、余計な真似しないでよ」
「だってさー。オレが手ェ出さなきゃメンチ、あいつを殺ってたろ」
……死んだんじゃないのー?
見てみると、255番は意識こそ失っているものの息はあるようだった。
メンチさんは美食ハンターごときと言われたことでご立腹だったようで、両手には包丁を携えている。
おそらく、ブハラさんが殴らなければアレでなます切りにされていた事だろう。
この世界は引き金が軽い。サツバツ……。
ハンターであれば武芸の心得はあって当然のこと。
彼女はプロハンターだ。もちろん念能力だって高いレベルで修めている。
美食ハンターとして美味の追求のため、料理の腕ももちろん、食材を得る為に危険を冒すこともある。
知りたいのは未知のものに挑戦する気概、今回の審査はそれを確かめる為のモノだった。
何も言い返せず、受験者達が黙り込む。
空から声が響いた。
――それにしても合格者0はちと厳し過ぎやせんか?
見上げると、そこにはハンター協会のマークのついた飛行船、ハンター試験の審査委員会の船だった。
下部のハッチが開き、何かが、否。誰かが飛び降りてくる。
その老人は、空を飛ぶ飛行船からパラシュートもつけずに生身で飛び降りたにも関わらず無傷で着地し、何事も無く歩き出す。
ハンター協会会長――アイザック=ネテロ。
ハンター協会のトップであり、今ハンター試験の最高責任者である。
――という訳で、ネテロ会長の介入により二次試験は仕切り直しとなった。
飛行船に乗せられ、新たな審査の場へと運ばれる受験者一行。
飛行船の中で、メンチさんに手招きされた。
他の受験者から離れて二人きりになったので、思い切って訊ねてみることにした。たぶん、呼んだ理由もその件だろうから。
「こうなる事、予測してたんですか?」
「まぁね」
あっけらかんと言う。
「あの状況でアンタだけ合格にしちゃうと、試験が終わっちゃいかねなかったし」
あの時、我を忘れて冷静じゃなくなって、審査基準がおかしくなっていた事は自覚していたらしい。
知り合いの私と顔を合わせて、冷静になったときにはもう手遅れ。既に吐いた唾は飲めないし、いまさら審査基準を緩めた所でそこまでの不合格が取り消しになったりもしない。
なので一旦、合格者無しとして審査委員会に介入させ、メンチさんは審査員を降りて改めて二次試験を仕切り直してもらうことにしたらしい。
しかし、結果としてテストはやり直しになったものの、審査員はメンチさんのままで続行となったので――
「――あたしとしては今からでもアンタを合格扱いにしても良いんだけど、どうする?」
「それ、はいって答えたら落とされるヤツじゃないですか?」
「そんな意地悪しないわよ」
本当~?
いや、まぁ、こんなとこでメンチさんがわざわざ私にそんなウソをつく意味も無いので確かなんだろうけれど。
もし違ったら人間不信になるぞ。
「……ちゃんと受けますよ。次の審査も」
……受けずに合格になって贔屓されてるみたいに見られたら周りの目が怖いし。
出る杭になるのは苦手だ。日本人的に。
「ん、良い心意気ね。じゃあ結果は白紙のままにしとくけど、次の審査で落ちても文句言わないでよね!」
「言いませんよ」
たぶん。
――そして飛行船が降りたのは、マフタツ山の山頂。
名前の通り河を挟んで真っ二つに割れた山。山頂から見た割れ目はそこが目視出来ない程深い谷となっている。
テストの実演として、メンチさんはその谷へ向かって飛び降りた。
この山にはクモワシという鳥が生息している。
谷の間に糸を張りそこに卵を吊るす事で陸の獣から卵を守るという生態をもつ鳥。
この卵が大変美味らしい。しかし市場にはめったに出回らない。見ての通り入手難易度が高すぎるので。
捕獲レベルで換算いくつになるのだろうか。
という訳で崖から飛び降りて糸に上手く掴まり、卵を回収したら今度は崖を登って戻ってくる、それが今回の試験内容。
先ほどまでと違い、フィジカルと度胸を求められる試験。
受験者の反応は真っ二つに分かれた。
怖気づいて諦めるモノと、先ほどよりわかりやすいと喜んで飛び降りる者たち。
「……よしっと」
念のため、義足の接続部に緩みがないかを確認したら、私も飛び降りた。
二次試験の通過者は43名。私も無事に合格となった。
クモワシの卵はとてもおいしかった。
合格した受験生たちはそのまま飛行船に乗せられ、次の試験会場へと向かう事となった。
到着は朝の八時予定、それまでは自由時間だそうだ。
今は夜の九時をちょっと回ったあたり。十分に休息が取れる時間があった。
クラピカとレオリオは疲労で限界の様子で、毛布にくるまってさっさと眠りについた。
ゴンとキルアはまだ体力が有り余っているらしく、二人で飛行船内を探検しに行った。
同い年の男の子同士という事もあって気が合うのだろう。楽しそうな様子だった。私も今生で性別が変わっていなければあそこに混ざれたのにと思うと少し残念に思う。
各自、自由時間を過ごす中で私はというと――
「新人が良いですね今年は」「あ、やっぱり?」「私は断然99番が――」
何故かサトツさん、ブハラさん、メンチさんという、一次・二次試験の審査員達と一緒に食事を囲まされていた。
目の前で受験者達の講評会がされているのを、フォーク片手に聴き流している。
なんで私はここに居るのだろう。
メンチさんに食事でも誘われて、ちょうどお腹も空いていたのでホイホイ着いてったらサトツさんとブハラさんもいた。考えてみれば当たり前の事なのだけど……
師匠の事はみんな知っているようで、あっさりと受け入れられた。
試験官達の食事に受験生1人混ざるのって、審査の公平性的にどうなん?と思って聞いてみたら、彼らの審査はもう終わっているので問題ないとの事。
見込みのある受験生という話題に私の名は上がらなかったけれど、師匠を通じて多少なりとも知ってる間柄なので、今更本人を前にしてまで語るべくもないというだけの話。
「あっ。あとはもちろんイヴにも期待してるわよ~」
と思っていたら隣に座るメンチさんに絡まれた。無遠慮に私の頭を撫でまわしてくる。
抵抗しようにも力で劣るのでどうしょうもない。されるがままになっているとスキンシップがエスカレートしてきた。酔ってらっしゃる?
「んひっ!?」
あっ、ちょ変なとこ触らないで!?
サトツさんとブハラさんは目逸らしてないで助けて!?
「アンタ相変わらず細っちいわね。もっと食べなさいよ」
「ち、ちゃんと必要な量は食べてますよ」
今は。
「じゃあなんでそんな薄細ロリ体型なのよ。もう14歳だってのにぜんぜん起伏ないじゃない」
「あっ、まっ、やめぇっ」
「肉食え肉。タンパク質摂んなさい。ほら食べさせてあげるから」
そう言ってメンチさんはローストビーフを私の口に捻じ込んだ。
待ってそんないっぺんに……
「もごごごごーーー!」
もみくちゃにされた。
「――結局、何で私は呼ばれたんです……?」
一通り食事を終えた所で改めて尋ねた。
特に要件があった様子でもなく、試験の講評の後も他愛のない雑談をしていた。
「別に大した理由はないわよ。かわいい妹分を紹介したいし、女子ハンターって珍しいからねー。折角だから交流したいじゃない」
「私まだハンターじゃないんですけど……」
「プロかアマかなんて大した事ないわよ。アンタはもうハンター試験受かったら裏試験まで自動修了なんだから素質は十分。よっぽどの事がない限り問題ないでしょ。万が一今回落ちても次には受かるでしょ」
「落ちる原因になりかけた人が良く言う」
「ブハラうるさーい」
「エヴリンさんはもう目覚めておいでで?」
「こう見えて才能凄いわよーこの娘。流石あの人の弟子というか……寿司どころかジャポンの和食について結構詳しいみたいだしー?」
「盛り付け上手かったもんね。そういえば、よくその腕で寿司握ったね。やりにくかったんじゃない?」
「ええまぁ……」
ブハラさんが私の無い方の腕を見た。
片手で寿司を握るのは結構至難だった。握り込んだ後、手の平の上で転がすようにして形を整えて、上にネタを乗せる。
出来る人はネタごと握り込むんだろうけれど、私は出来なかったので後乗せ。
「正直、二次試験の受験者の中じゃ一番いい出来だったと思うよ。それを不合格にするメンチの容赦のなさよ」
「あ、アレは仕方なかったのよ!事情は説明したでしょ!」
「仕方ないことないでしょ。そもそも最初から審査基準守ってればこんな起きなかったんだから。普段からもっと冷静さを保つ努力しなよ」
「ぐぅ」
「あはははっ」
相方に詰められてシュンとするメンチさんの姿がおかしくてつい笑ってしまった。
「ちょっとイヴ!何笑ってるのよ!」
「新人いびりやめなー」
「ブハラァ!!」
「ん」「お」
夜の一時頃、食事会を終えて船内をふらついていると、キルアと遭遇した。
「エヴリンじゃん。まだ起きてたのかよ?」
「そっちこそ。汗だくですけど、何してたんです?」
「ゴンと探検してたら、会長のじいさんに話しかけられてさ。かくかくしかじかで」
曰く、暇潰しの遊びに付き合わされていたらしい。
ちょっとしたゲームの提案をされて、目的地にたどり着くまでにネテロ会長からボールを奪い取れればハンターの資格をやろうと言われたそうで。
三時間ほどチャレンジしていたらしいけれど、本気を出させるどころか右手と左足を使わせる事すら出来ずに終わったそう。そりゃそうだ。あの爺さん控えめに言ってもバケモンだもの。
なお、ゴンはまだ挑戦中だそう。
ボールを奪うのは無理でも右手ぐらいは使わせたいと息巻いていたそうだ。
「エヴリンも挑戦してみたら?あっちの方でまだやってるぜ」
「絶対無理なんでやめときます」
時間と体力の無駄にしかならない。すっとぼけた態度のエロ爺さんだけれど、あんなでも全ハンターの頂点に立っている人だ。間違いなく純粋な実力でそこに立っている。
向こうも遊びで本気を出しはしないだろうけれど、それでもそう簡単にボールを渡してくれはしないだろう。
「むしろそちらこそもういいんです?スッキリしないカオしてますけど」
「そりゃ無理って分かってても悔しいっちゃ悔しいからさ。でも、あれ以上続けてたら殺してでもボールとりたくなっちゃうからね」
「んっふふ」
「……何笑ってんだよ」
「いや、どうせならそのつもりで行った方が良かったんじゃないかと思いまして」
「冗談のつもりじゃ無かったんだけど」
「じい様が手加減してるのを加味しても、かすり傷負わせるのがせいぜいじゃないですか?」
これにしたってかなり甘く見ての話で、実際にかすり傷でも負わせられたらスタンディングオベーションしてやってもいい。
おっと殺気。
キルア的には結構プライドの傷つく発言だったらしい。
「怒ってます?」
「はははっ、ちょっと怒ってる」
笑ってるけれど冗談でなく殺意の籠った目をしている。
ネテロのじいさんと立ち会って、神経が昂ってるのも拍車をかけているのだろうけれど、なんというか危なっかしい子だ。
通りがかったのが私じゃなかったら、もしかしてバラバラになってたんじゃないだろうか。
「ちなみにキルアってどちらの子で?何かしら戦闘訓練受けてるなってのは、立ち振る舞いで分かりますけど」
「戦闘の訓練っていうか、暗殺の訓練だよ。ゾルディック家って分かる?」
「ああ、あの暗殺一家の」
「知ってんだ。オレ、そこの子」
「あー、どうりで。英才教育ってやつですか」
「そうそう――ってか、お前もお前で軽いなー。ゴンもぜんぜん驚いてなくてさぁ」
曰く、兄弟の中でも最も才能があるとして、かなり期待をかけられて英才教育を受けさせられてたらしい。けど、それに反発して親兄弟と喧嘩になり、最終的に母親の顔面と兄の脇腹をぶっ刺して家を出たとか。
ハンター試験を腕試しのつもりで受けたのは本当だけど、それはそれとして無事に資格を得たらまず家族をとっ捕まえてやるんだと笑って話した。
「あはは。良いですねそれ」
「そういやエヴリンの親ってどうしてんの?」
「実母の方は金に困って私を売っぱらおうとして、買い手のマフィアに解体(バラ)されましたよ」
最後は海に棄てられて鮫の餌だ。とはいえ彼女が海に棄てられた時には、殆ど物言わなくなっていたので、生きてたかどうかは分からない。
「うわエグ。何さらっと話してんの」
「もう終わった話ですし」
前世の記憶があった事もあり、あの頃はまだ成人男性の自認が強く、ほぼ育児放棄されていた事もあって母親という認識はなく、同じ家に暮らす他人という意識が強かった。
向こうからも完全に邪魔者と思われていたし、紛いなりにも同じ家で暮らしていた相手なので、無残な死に方したことを哀れには思うけれど、それも自業自得の側面が強いし、悲しいとかそういう感情はない。
しかし、今となって思えば、私はさっさと家を出ていくべきだったのだ。そういう意味では私も悪かったのだと思う。
「そういや身柄狙われてるみたいなこと言ってたっけ?そのマフィア?」
「そっちはもう潰したので」
「……マジか。えっ、一人で?」
「たまたま同じ標的を狙ってる盗賊団が居たんで、お話して手伝ってもらいました」
「うははっ、なんだそりゃ」
一人だったら、まぁ無理だったろう。諦めて出直していた。
「緋の眼ってご存じです?」
まぁ、キルアなら見せてもいいだろう。ゴン達はもう知っているし。
念能力の修行の過程で、ある程度は任意で緋の眼を出せるようになった。ちょっと疲れるけれど。
目の色を変えて見せてやると、キルアは少しだけ驚いたように、目を見開いた。
「あー、なんだっけ。確か……何年か前に全滅した部族が持ってたっていう眼だろ」
「そうそう。なんか出すところに出せばエラい高値がつくらしいんですよ。目ん玉が」
「うげー、悪趣味」
「でしょー?」
この世界のモラルはおしまい。倫理観があぽかりぷす。
「売っぱらうってそんな感じかよ。てっきり……」
言おうとして、キルアが固まった。
「……どんな想像したんですか?」
「……」
ちょっと顔が赤い。
「エロい感じの想像しました?」
「ぐっ……!」
――図星か。
まぁ実際のとこ、目を抉りだしたあとはそういう所に売るつもりだったらしく、おかげで私は殺されずに生き延びられた。緋の眼の性質に詳しければこうはならなかったろう。連中が無知で馬鹿だったおかげだ。
「……エロガキ」
「うるっせ、笑ってんじゃねー!つーかお前さぁ!女子がエロとか言うなよ!」
「女子も普通に女子同士で猥談しますよ」
「……マジ?」
「マジマジ」
「……いや、でもさぁ……ええ……」
「そんなに?」
話聞く限り、キルアの家は男兄弟ばかりで男所帯っぽい感じなので、あまり想像つかないのだろう。驚きながらちょっと落ち込んでいた。
思春期前の少年の幻想をぶち壊してしまった。
気持ちは分からんでもないけど。
「この話やめましょっか」
「そうしてくれ……」
目をそらし、ふと時計を見れば、もう夜の2時を回っていた。
「そろそろ寝ましょうか。先も長いですし」
流石に寝ないと明日がしんどい。体力でごり押して徹夜行軍出来ない事は無いけれど、私はショートスリーパーではないので、寝れるなら寝ておきたい。
「それじゃあ、また明日。お互い最後まで残れるといいですね」
「ん、ああ。まぁ楽勝でしょ」
「今日落ちかけたのに?」
「二次試験のアレはズルだろ……」
「あはは」
最後におやすみと一言交わして別れ、船内の適当なスペースに転がり込んで毛布に包まり、そのまま眠りについた。