赤黒い雲が空を覆い尽くし、赤い雨が降り注ぐ。
太陽光すら雲を通し赤く光り、まるで地獄のような光景を産み出していた。
「ロミオ...」
マルドゥークに殴り飛ばされ、意識を失っていたジュリウスは言うことの聞かない体を必死に動かそうともがき、周囲を見渡す。
いつの間にか雨の当たらない場所に避難させられており、隣に寝かせられていたロミオもボロボロであったが、なんとか息を紡いでいる状態であった。
「なにが...」
視線を遠くへとさらに伸ばすと目に映るのはマルドゥークと行動を共にしていたガルムの遺体、結合崩壊を起こし黒い煙が全身から舞っていた。
救援に駆けつけてくれた者が倒したのだろうがそれは1体だけではなかった。
無数のガルムが地に伏し、クアトリガ、グボログボロと言った他のアラガミたちも身動き一つせず体を徐々に霧散させている。
「鬱陶しいんだよ、イヌコロがぁ!」
赤く染まった世界に相応しいアラガミたちの死骸の中心にアラガミたちを呼び寄せた隻眼のマルドゥークのコアに神機を突き立てる1人の少女の姿があった。
大鎌でマルドゥークの皮膚を切り裂き、巨大なコアに刃を突き立て、引きちぎる。
オォォォォォン!
マルドゥークが雄叫びを上げながら倒れ、人影はコアを神機に喰らわせ周囲を見渡す。
ブラッドの制服と帽子を身に纏い、赤い雨の中だと言うのに防護服を身に纏っていない。
致死率100%の黒蛛病の感染源となる赤い雨を浴びるのは自殺行為に等しかったが結果的にその行為はジュリウスとロミオを助けることになった。
「ルナ...」
最早、ブラッド最強と言っても良いだろう。ブラッド副隊長《ルナ・レイナル》は灰色の髪から赤い雨をしたらせながら空を仰ぐ。
「ジュリウス…生きてたか」
呟きが聞こえたのか彼女がゆっくりと振り返り、その顔が露になるとどうしようもない後悔が彼の心を駆け巡る。
首もとから顔の右側を覆うようにオラクル細胞の侵食反応が出ていた。
よく見れば黒い腕輪が破損し黒い煙のようなオラクル細胞が溢れているのが分かる。
「手遅れだ。私でも分かる」
「ルナ、すまない。俺の力不足が招いた結果だ」
「お前は最善を尽くしてたよ。それにこの結果を望んだのは私の意思だ」
ゆっくりと歩み寄ってくるルナだがジュリウスたちのいる場所には来ない。黒蛛病にも感染しているかもしれない体でいまだに目を覚まさないロミオに近づくわけにはいかないからだ。
「後悔しないために力を得たはずなのに…俺は最愛の人1人すら護れないなど…」
「…今言うかよ」
ジュリウスの呟きに彼女は少しだけ照れた様子を見せた。
「…死ぬ直前に後悔するじゃねぇか」
侵食反応は止まることなく彼女の体を蝕み、全身へと廻っていく。
「分かってるだろ。ジュリウス」
「あぁ…」
ふらつく足を必死に支えながら神機を持ち、彼女に刃を向ける。
これ以上の言葉はいらないとルナは神機を手放し、両手を広げる。
「っ!」
せめて苦しまないようにと振るわれた神機が彼女を絶命させる。
(ありがとう)
言葉が聞こえた気がした。
力なく倒れるその姿に衝動が抑えられずに抱きとめ、雨の中ひたすら自責の念に押し潰された。
雨がやみ、シエルたちが駆けつけてくるまでジュリウスは立ち上がることはなかった。