本作品をご覧いただき、誠にありがとうございます。
今作は『The Elder Scrolls V: Skyrim』の世界観をお借りした二次創作サバイバル小説となります。
独自の設定や解釈が含まれますので、あらかじめご了承ください。
処女作となりますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
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寒い…
微睡む意識の中、頬に触れる土の冷気が、硬く、鋭い針のように肌を刺していた。喉の奥には焦げた血と鉄の味がへばりつき、胸の底から猛烈な吐き気が押し寄せてくる。
「っ……、ぁ……っ!」
必死で呼吸を吸い込もうとした瞬間、肺を満たしたのは、刃物のように鋭い、極寒の夜気。
激しく咳き込みながら、俺は這うように身を起こした。
遠近感が狂い、地面が妙に近く見える。震える手で顔を覆おうとして、その「自分の手」が目に入った瞬間、全身の血が引き引いていくのを感じた。
--自分の手ではない。手首の太さも、爪の形も、肌の質感すら記憶にあるものとは全く異なる。着ているのも見覚えのある服ではない。染料すら使われていない粗雑な麻袋を雑にくり抜いたような、肌をチクチクと刺す粗末なボロ布――まるで土嚢袋のような代物だった。
パニックになりかけながら、俺はゆっくりと顔を上げた。
そこには、息を飲む様な光景が広がっていた。
見上げるほど高い夜空。雲一つない漆黒に、目を見張るような星々が輝いていた。そしてその中央に、圧倒的な存在感で鎮座する二つの月。ひとつは、血のように赤く爛々と輝く巨大な月。もうひとつは、その傍らに控えめに寄り添う、冷ややかな銀色の小さな月。
美しく、そして、どこか見慣れたような夜空。肌を刺す風が針葉樹の梢を揺らし、サー……と不気味な海鳴りのような音を立てている。
「夢……だ。夢に、決まってる……」
そう自分に言い聞かせようとした直後、目の前に広がる惨状が視界に入った。
苔むした古い石の祭壇。その上には、喉を深く切り裂かれ、硬直した山羊の死体。大量の黒ずんだ血が石を濡らし、死臭を放っている。そして祭壇の傍らには黒いローブを纏った女性が横たり、その見開かれた瞳は光を失っていた。女性の手には頭蓋骨が握りしめられている
息を殺してそれを見つめていた、次の瞬間。
ドクロの右目のくぼみに、不気味な紫色の光が灯った。まるでそこに生きた眼球が存在するかのように、怪しく、チラチラと脈打つように数秒間明滅し――そして、何事もなかったかのようにすっと消えた。
「ひっ……!?」
喉の奥で短い悲鳴が跳ねた。後ずさろうとして、派手に尻餅をついた。体の反応に対する違和感と痛みでこれが夢でないことを悟る。
今の光は……!? この場所は一体何なんだ!?
恐怖で過呼吸を起こしかけたその時、暗がりの中でガサリと落ち葉が鳴った。
「う、あ……あ、ぁぁ……っ」
山羊の血溜まりのすぐ脇で、二つの大きな影が蠢いていた。
「な、誰だ……!?」
反射的に叫んだ、その声を聞いた瞬間、全身に悪寒が走った。俺の声じゃない。
聞き慣れた自分の声ではなく、知らない男の低い声が、自分の口から響いていた
影のひとつが、ゆっくりと起き上がる。月光がその姿を照らし出した瞬間、俺は息を止めた。
そこにいたのは、人間ではなかった。
岩のように角ばった巨大な頭部。緑色の皮膚。そして、めくり上がった不快な唇の間から覗く、二本の太く鋭い牙。怪物がそこにはいた。
「うあ……あ……!?」
怪物は、自分の緑色の巨手を見つめ、次に口元に触れて牙の感触を確かめると、震える声で話し始めた
「なんだこれ!? 俺の顔……俺の手!?」
かなり動揺した様子で辺りを見渡す、その様はまるで産まれたての動物のようにぎこちなかった。
「う、うわあああっ! こっち来んな! 怪物!!」
もうひとつの影が、悲鳴を上げて後ずさった。褐色の肌。引き締まったしなやかな体躯。細く鋭い眼光を持つ男
男は立ち上がろうとしたが、恐怖で足がすくんだのが上手く立ち上がれずもがいていた。
「なんなんだよお前ら!? どこなんだよここ!? 」後退りする度、足はもつれ声は裏返っていた。
怪物は肩で荒く息をつきながら、俺たちを睨みつけていた。その太い腕は震えている。
俺も動けない。
もう一人の褐色の男も、地 座り込んだまま動かない
風だけが針葉樹を揺らし、枝葉が擦れる音だけが夜に響いていた。
数秒――いや、数十秒だったのか。
永遠にも思える沈黙のあと、最初に口を開いたのは灰緑色の怪物だった。
「……お前らも、その身体になったのか?」
その声は震えていて敵意はないことがわかる
俺は息をのむ。
一歩踏み出そうとして、慣れない身体に足を取られ膝をつく。その無様な姿を見て、褐色の男が目を丸くした。
「……お前も?」
「ああ…身体が思うように動かない。」
褐色の男は自分の腕を見つめ、震える声で呟いた。
「これ……俺の身体じゃない。」
緑色の怪物が牙を噛み締める。
「俺もだ。」
やがて三人とも、ほとんど同時に口を開いた
「手を貸してくれないか?」
少し落ち着いた頃、3人はお互いを知るために話し始めた
「……苗字が、思い出せない」
灰緑色の大男――レンが、己の巨大な緑色の手を見つめたまま、絞り出すような声でこぼした。
「俺もだよ! カイっていう名前は絶対忘れるわけないのに、苗字がどうしても出てこないんだ。……ジュンヤは? お前はどうなんだよ!?」
褐色肌の男、カイが縋りつくような眼差しを僕に向けてくる。
「僕もだよ。思い出せないというより……そこだけ記憶を根こそぎ切り取られてる感じだ。上手く言えないけど、探ろうとすると脳の奥に冷たい霧が広がって……」
僕が言葉を重ねようとした瞬間、頭骨の奥でぴきりと鋭い痛みが走り、思わずこめかみを押さえた。これ以上過去を探るなと、誰かに警告発されているようだった。
「……やっぱり、これ……あれかな」
カイは最後まで言わなかったが、僕たちの間に漂う嫌な予感が同じ形をしていることは、言われずとも理解できた。
僕たちはしばらくの間、重苦しい沈黙の中に閉じ込められた。吸い込むたびに肺胞を刃物のように削る極寒の夜気と、染料すら使われていない粗悪で麻袋のようなボロ布が肌をチクチクと刺す感触だけが、嫌に生々しく現実であることを示してくる。
その沈黙を破ったのはレンだった。緑色の巨体を小さく丸め、己の鼻先や太い手首を観察していた彼が、徐ろに口を開く。
「……さっきからずっと思ってたんだが。今の俺たちのこの姿……妙に見覚えがあるんだ。俺が昔やってたゲームのキャラデザに、そっくりなんだよ」
「スカイリム……?」
僕は恐る恐る、その単語を口に乗せてみた。僕自身、覚醒してから目の前の光景を見るたび、頭の片隅で拭いきれずにいた疑問だったからだ。
二人は弾かれたように目を丸くし、食い気味に顔を寄せてきた。
「お前……知ってるのか!?」
「やったことあるのか、ジュンヤ!?」
少し前に夢中になって遊んだオープンワールドRPG。二つの月、異形の種族、見渡す限りの極寒の森――僕たちが確信を深めようと怒涛のように言葉を交わし始めた、まさにその矢先だった。
――アオォォオオン……
遠くの山腹から、夜気を鋭く切り裂いて本物の獣の咆哮が響き渡った。一度ではない。風に乗って複数の遠吠えが重なり合い、山を降りて確実にこちらへと近づいてきている。
「……ここにいるのはまずい」
レンが緑色の大きな顎を硬直させ、喉を鳴らした。
「もしここが本当にスカイリムなら、こんな開けた場所に留まるのは危険すぎる。どこか身を隠せる安全な場所に避難しよう!」
しかし、僕たちには地図もなければ、この土地の勘など皆無だった。
月明かりだけを頼りに、未だ慣れない身体を引きずりながら、必死で暗い森を歩き回った。凍えるような冷気が体力を削り、遠くで響く狼の遠吠えに怯えながら、当てもなく彷徨い歩く。
どれほど歩いたろうか。木々が途切れ、林の少し開けた場所に差しかかった時、闇の中にぽつんと佇む小さな木造の小屋が視界に入った。
「小屋だ……!」
忍び足で近づき、破れた隙間から覗き込む。暖炉の火は消え失せ、生活感の失われた静寂が満ちていた。どうやら、長い間使われていない無人の廃小屋のようだった。
「入れ! 早く!」
僕たちは滑り込むように中に逃げ込み、ボロい木枠の扉を閉めて内側から固いかんぬきをかけた。
暗闇の中、三人で肩を寄せ合い、冷え切った床の上に身を丸める。
隙間風がピューピューと悲鳴のような音を立てて吹き抜けていく。暖炉はあるが、薪に火を点ける勇気はなかった。明かりや煙が、外を徘徊する野獣や、山賊を引き寄せるかもしれないという恐怖が僕たちの体を竦ませていたからだ。
歯をカチカチと鳴らしながら、僕たちは暗闇の中でじっと耐えた。
自分自身が誰だったのかという記憶を冷たい霧に奪われたまま、見知らぬ異形の肉体のなかで、ただ恐ろしい夜が明けるのを待つ。
僕たちのサバイバルは、この極寒の闇の中から始まろうとしていた。