あの模擬戦から数時間――時刻は夕方に差し掛かろうとした所、広大な王宮の訓練場には光輝ただ一人だけがぽつんと、隅に置いてあるベンチに腰かけていた。
不思議と、敗北に対する悔しさは湧いてこなかった。
だが、だからといって「負けるつもりは毛頭なかった」のも事実だ。
以前の自分なら、こんな不格好な負け方をして現実を受け入れられず、悔しさを前面に出してああだこうだと言い訳を並べ立てていたような気がする。だが今の光輝の中では、ハジメが放ったあの言葉だけが、ただひたすらにリフレインしていた。
――「あーし別に人殺しになりたいわけじゃないし」
本来、ステータスの関係上、純粋な身体能力や魔力量の力押しであれば、光輝が圧勝していたはずだった。それだけの戦闘適性を持っていた。だが、模擬戦の中であの言葉がずっと頭から離れず、心のどこかでブレーキを踏んでしまっていた。
この世界に転移してきたときも、まさにそうだった。
神殿の大広間で、自分はもう少しで――けして軽々しく決めたわけではないが、それでも「元の世界に帰るためだから」という大義名分に呑まれ、間違いなくイシュタル教皇に対し、戦争への協力を容認するところだった。
それを止めてくれたのが、他ならぬハジメたちだった。
あのとき、彼女たちが止めてくれたり異を唱えてくれたりしていなかったら、自分はとんでもない間違いを犯しそうになっていた――そう想像するだけで、光輝の背筋には冷たいものが走った。
そう、光輝だって人殺しになんてなりたくない。
結局のところ、王国の事情や立場に押し切られる形で、クラスメイト全員が討伐(戦争)に参加する流れにはなってしまった。だが、そのとき清水が提案してくれた「あくまで表向きという結果にする」という現実的な折衷案のおかげで、クラスメイトたちの心の負担は幾分か軽くなったはずだ。
――あのとき、清水の提案を聞いて、どこかホッとした自分がいた。その事実が、何よりの証拠だった。
あのときの自分の判断は、多分間違っていたのだ。
大義を掲げ、状況の本当の意味も見えぬまま軽はずみに頷こうとした愚かさ。だとすれば、あのとき自分は何をすれば正解だったのか。光輝にはまだ、その答えが見つからずにいた。
(……あの時から、俺はずっと間違っていたのかもしれないな)
ふと、夕暮れの空を見上げながら、光輝の脳裏には日本にいた頃の記憶が鮮やかに蘇っていた。
かつて、自分が「正義の味方」という空虚な仮面を被り、体調の悪いハジメに対して頭ごなしに説教を垂れ、盛大に恥をかかせたあの日のこと。教官室で体育教師に「自分の正しさを疑ってみろ」と諭され、すべてが崩れ去ったあの日のこと。
そして、謝罪のあとにハジメから聞いた言葉を思い出す。
要領が悪くても、不真面目に見えても、彼女は「無遅刻無欠席」という自分だけのプライドを泥臭く、必死に守り抜いていた。親の敷いたレールの上で綺麗事を並べていただけの自分とは違い、彼女は自分の足でしっかりと地面を踏み締めて生きていた。
それ以来、光輝にとってのハジメという存在は、自分の歪んだ内面を映し出すための、なくてはならない「レンズ」となっていた。
彼女がなぜ香織や雫に好かれ、あの温かい輪の中心にいられるのか。その答えを探すうちに、光輝は自分がどれほど薄っぺらいハリボテの上で生きているのかを思い知らされたのだ。
そんな風に、一人で深い思考の渦に囚われていたときだった。
コツ、コツ、と静まり返った石畳を叩く足音が近づいてくる。
「――そろそろ飯の時間だぞ。早く戻った方がいい」
低く渋い声にハッと顔を上げると、そこにはメルド団長が立っていた。
夕闇の影を落とした険しい顔つきのまま、騎士団長は光輝を見下ろしている。
「あ……すいません、メルドさん。すぐ戻ります」
光輝が慌てて腰を浮かせようとすると、メルドは少し思うところがあったらしい。フッと息を吐き出すと、そのまま光輝の横に、どっかりと腰を下ろした。
そして、前を向いたまま静かに口を開く。
「……ハジメと戦ってみて、どうだった?」
突然の問いかけに、光輝はわずかに目を丸くし、それから自分の膝に置いた両手をゆっくりと見つめた。
「彼女は……強かったです。俺なんかよりもずっと……。多分、ここに来る前からも、ずっと俺は彼女に負けていたんだと思います……今日負けて悔しさがそこまでなかったのは、そのせいだったのかもしれません」
光輝の言葉に、メルドはわずかに眉をひそめた。
(――ここに来る前から、すでに、か……)
メルドは、あの戦場のような訓練場で、武器を持たずに涼しい顔で自分の足技と戦術を組み立てていた金髪の少女の姿を思い浮かべる。
――あの年齢の子供であれば、不条理な現実に放り込まれれば恐怖に怯えるか、あるいは力に溺れて浮かれるかのどちらかだ。だが、あの少女にはそのどちらもなかった。最初から、自分の足でしっかりと大地を踏みしめて生きているような、奇妙なまでの「完成された軸」があった。
「ほぅ……? あの嬢ちゃんは、この世界に来る前からあんなやり手だったのか?」
「いや、そうじゃないです……。なんというか、言葉で表現するのは今難しいですが……とにかく、負けていたんだと思います」
光輝は少しだけ視線を落とし、自嘲気味に息を吐き出す。
「ですが一つ解ったことがあります」
「ほぅ、なんだそれは?」
「自分なんて、そこまで大層な人間じゃない……。そこだけは、はっきりしたと思います」
どこか卑屈さすら帯びた光輝の自己評価に、メルドはしばらく黙って夕暮れの空を見つめていた。やがて、腕を組んだまま、静かにこう告げる。
「――お前の剣は筋がいい。そこは誇っていいぞ」
一拍の間のあと、メルドはさらに低いトーンで、光輝の胸を刺すような問いを落とした。
「……だが、お前は何のために剣を持つ?」
その問いに、光輝は完全に言葉を詰まらせた。
頭の中では色々な答えが浮かんでは消えていくが、今の自分にその言葉を言う資格があるのかと、心が激しく揺れていた。
メルドは、そんな光輝の様子を責めることもなく、じっと見つめたままフッと静かに息を吐いた。
「……まぁ、無理もないか。お前たちは元々、平和な世界で学問を修めるだけの学生だったんだからな。いきなりこんな血生臭い世界に放り込まれて、命のやり取りをしろと言われても、戸惑って当然だ」
光輝は少し乾いた笑いをしながら、「確かに、そうですね……」と答えた。逆に、光輝は思い切ってメルドに問いかける。
「あの……メルドさん、失礼じゃなければ……メルドさんが騎士になったきっかけって、聞いてもいいですか?」
「俺の昔話か……。柄にもないが、まぁ、この薄暗い訓練場の暇つぶしにはちょうどいいか」
メルドは腕を組み、遠い過去を思い出すように、ぽつりぽつりと語り始めた。
「ガキの頃の俺はな、今よりもずっと救いようのない馬鹿だった。腕っぷしだけは人一倍強くってな、近所では喧嘩負けなし。自分は特別強いんだって、本気で思い込んでいた自信満々のわんぱく小僧さ」
「……そうだったんですか」
「あぁ。『悪いやつが来たら、俺が全部ぶっ飛ばしてやるよ』ってな。自分の正義や力を一切疑いもせず、本気でそう信じ込んでいる嫌味なガキだった。……だがな」
メルドの声音が、わずかに低く、重くなる。
「ある日、俺の暮らしていた村が、近隣諸国との争いに巻き込まれて戦火に焼かれた。そのとき、当時一番の親友だった奴を、俺の目の前で失ったんだ」
光輝は息を呑み、メルドの横顔を見つめた。
「……その時、初めて思い知らされた。俺は無力だった。いざというとき、大切なやつ一人すら守れないほど、俺はちっぽけだったんだと。当時はまだ十五に届くかどうかのガキだったから、仕方がなかったのかもしれん……だがな、間違いなくあの日俺の目に焼き付いた光景が、俺の人生の最大のターニングポイントだった」
そこから紆余曲折を経るうちに、メルドは剣を学び、今のハイリヒ王国騎士団に身を置くことになった。そして数年後、彼はかつての親友が死ぬ原因を作った国との戦争に、前線の兵として身を投じることになる。
「憎い敵を討つため、国のために――そう息巻いて、俺は敵国へ攻め込んだ。……だがな、実際にその国の村を焼き、敵を踏みにじったとき、俺は目の前で立ち止まらざるを得なくなった」
メルドの双眸が、遠い日の光景をなぞるように細められる。
「戦火に巻き込まれ、燃え盛る家の前で……冷たくなった母親の亡骸にしがみつき、声を殺して泣いている、他国の子供がいたんだ」
その光景を耳にした瞬間、光輝の胸にズシリと重いものが落ちた。
「それを見たとき、脳裏にフラッシュバックしたのは、かつて親友が死んだとき、自分が泣いていたときの姿だった。……そこで気づいたんだよ。戦争ってのは、何もその国の民全員が、悪の化け物ってわけじゃないんだってな」
あんなにも憎んでいたはずの敵国。親友を殺したも同然の憎むべき相手。それなのに、目の前で泣く子供を見たとき、メルドは彼らをどこか「可哀想だ」と思ってしまった。
「戦が終わり、俺は上官にその迷いをぶつけた。『俺たちは、何のために敵を殺しているんですか』ってな。そしたら、その上官はこう言ったんだ」
メルドは少し間を置き、静かに言葉を継いだ。
「――『基本、戦争ってのは外交の失敗故の最終手段、他国の侵略からの防衛とかまぁ理由なんて色々あるがな、ただ一つ言える事は戦争ってのは正義と悪がぶつかるんじゃねぇ。互いに譲れないモンがある者同士のぶつかり合いなのさ』……ってな」
「互いに譲れないもの……」
「あぁ。『だからこそ、俺たちは他国の人間をぶっ殺すために剣を振るんじゃねぇ。自分たちの国の民を守るために剣を取るんだ』ってな」
その言葉を聞いたとき、雷に打たれたような衝撃を受けたのだと、メルドはかすかに自嘲気味に笑った。
幼い頃、自分が無邪気に口にした「悪いやつが来たら俺がぶっ飛ばしてやる」という言葉の本当の意味を、そこでようやく理解した気がしたからだ。
「それから、俺はその上官の言葉を片時も忘れたことはない。他国の悪を裁くためでも、誰かを傷つけるためでもない……ただ、自分の後ろにいる愛する者たち、母国の民を守るために剣を取る。そう誓って、俺はこれまで数々の戦場をくぐり抜け、この地位まで這い上がってきた」
メルドはそこまで語ると、ふっと息を吐き、隣に座る光輝へと視線を戻した。
「――だが、国を守る為とはいえ、俺が人殺しっていうのは変わらん事実だ。それだけは俺もお前も忘れちゃいかん」
メルドは静かに、だが重みのある眼差しで光輝を見据えた。
「こんなことを言って誰かに聞かれてしまえば、さすがに俺の首も飛ぶかもしれんが……お前たちはまだ戻れる。こんな血なまぐさい事、子供のお前たちに任せるのがそもそもの間違いなのだ。だからといって、情けないことにお前たちに頼らざるを得ないというのもまた事実。表向きは、俺はお前たちを戦争の駒として扱い、それに対する訓練をこれからも続けさせてもらう」
そして、メルドはまっすぐに光輝の瞳を見た。
「――そこからお前はどうする? どうしたい? あの嬢ちゃんと戦ったお前なら、もうすぐそこまで答えが出ているんじゃないか?」
メルドのその問いに、光輝はすぐには答えられなかった。
だが、それは以前のように自分の無力さに気圧され、言葉に詰まって縮こまっていたわけではない。
メルドの「守るための剣」という教えを聞いた瞬間、光輝の脳裏には、数時間前に行われたハジメとの模擬戦の光景が、鮮烈なフラッシュバックとなって蘇っていた。
武器を持たず、自分の足裏の魔力コントロールという泥臭い試行錯誤の果てに、自分を圧倒したハジメの姿。
そして何より――あの結末の瞬間を。
圧倒的なステータス差がありながら、ハジメは決して光輝の身体を傷つけようとはしなかった。ただ自分の技術と意志で動きを制限し、最後は無用な殺傷を避けるように、正確に、鮮やかに光輝の武器(模擬剣)だけを弾き飛ばしてみせたのだ。
(あのとき彼女が言った……「人殺しになりたいわけじゃない」という言葉。それが口先だけのものなんかじゃないってことくらい、あの戦いの中で俺も薄々分かっていたはずだ。彼女は、ただの綺麗事としてではなく、本当に自分の意志でそう決めて戦っていたんだ……)
高校の頃、体育の授業で自分の正論をぶつけて彼女を傷つけ、そして謝罪を受け入れてもらった日。あのとき彼女が語った、無遅刻無欠席を貫く理由と――その不器用ながらも自分を貫いたプライドの在り処を、光輝は知っている。
ハジメは自らの戦い方そのもので、その生き様を完全に体現していた。
大義名分や「英雄」という虚飾にすがっていた自分とは違い、彼女は自分の足で立ち、「人殺しになんてなりたくない」というあまりにも素朴で純粋な拒絶を、自分の意志でしっかりと守り抜いていたのだ。
メルドが語った「守るための剣」という教えと、ハジメが見せた「人殺しになんてなりたくないという、あまりにも等身大で純粋な意志」。その二つが、光輝の中でパズルのピースのようにカチリと音を立てて繋がり始めた。
(俺は……誰のために、何のために戦う?)
自分がこれからどうしたいのか。その答えの輪郭は、もうすぐ喉元まで出かかっている。
だが、それを今すぐ無理に言葉にする必要はない。その確かな手応えを胸に噛みしめていたとき、背後から別の足音がコツコツと近づいてきた。
「――光輝くん、こんなところにいたんだ。そろそろ夕食の時間だけど……みんな探してたよ?」
振り返ると、そこに立っていたのは宮殿の廊下から歩いてきた中村恵理だった。
いつものように柔らかな微笑みをたたえているが、その瞳の奥にはどこか落ち着かない揺らぎが滲んでいる。
「あぁ、恵理か……。悪いな、ちょっと考え事をしてて」
光輝が軽く頭を掻くと、恵理はふっと目を丸くし、それから光輝の顔をじっと見つめ直した。
二人は並んで、夕暮れの廊下を食堂へと少しずつ歩き出す。静かな足音のなか、恵理がふと呟いた。
「……ねえ、光輝くん。なんだか少し変わった? なんというか、雰囲気が少し違うような気がする……」
唐突な指摘に、光輝はわずかに足を止め、それから自嘲気味に小さく息を吐いた。
「どうだろう……。確かに、あのときの中学の自分から比べたら、少しは自分でも変わった気がするよ。うまく言葉に言い表せないけどさ……」
ーーあいつにも、あいつなりの『譲れない意地』や、必死に守り抜こうとしているものがあったんじゃないか?
ーー正義と悪がぶつかるんじゃねぇ。互いに譲れないモンがある者同士のぶつかり合いなのさ
ーー他国の悪を裁くためでも、誰かを傷つけるためでもない……ただ、自分の後ろにいる愛する者たち、母国の民を守るために剣を取る
かつて教官室で体育教師に諭された言葉が、先ほど聞いたメルドの、そしてその上官の言葉と重なり合って、光輝の胸のなかで熱を帯びていく。
綺麗事の正義でも、親の敷いたレールの上で演じる英雄願望でもない。
もっと泥臭く、もっと痛みを伴う、それでも自分自身の足で立つための「本当の意志」が、内側の澱を押し退けるように産声を上げようとしていた。
それらをしっかりと噛みしめながら、光輝はそっと前を向き、ぽつりと呟いた。
「……誰かを助けたいとか、困っている人に手を差し伸べたいっていう気持ち。その根っこだけは、きっと間違っていなかったんだと……今はそう思えるんだ。まぁ、問題はそこからなんだけどな……」
どこか自信なさげに、しかし飾らないトーンでそう笑った光輝の横顔を、恵理は少し離れた位置から見上げていた。
その表情に、これまでの「完璧な優等生」としての気負いは消え、代わりにひとりの人間としての確かな実感が宿っている。
恵理はふっと柔らかく目を細め、静かに言った。
「そっか……光輝くんも、少しずつ変わっていくんだね。もしかして……ハジメに影響されたりした?」
その名前が出た瞬間、光輝はわずかに目を見張ったが、すぐに穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「ははっ、そうかもな。それだけは間違いなく、そうだと言えるかもな。彼女から学ぶことはたくさんあるよ、たぶんこれからもそうだと思う…。」
その光輝の返答を聞いた瞬間、恵理の胸の奥で、何かがチクリと鋭く刺さったような感覚が走った。
――ハジメ。あの、自分勝手で、でもクラスの誰よりも自然体で、みんなの中心にいるあの子。
「……ごめん、光輝くん。ちょっとお花摘んできたいから、先に食堂に行っててくれる?」
突然立ち止まり、恵理は愛嬌のある作り笑いを浮かべてそう告げた。
「あぁ、わかった。じゃあ、先に行ってるよ」
光輝は何も疑うことなく、そのまま食堂の方へと歩いていってしまう。
その背中が完全に遠ざかり、夕暮れの廊下に一人取り残された瞬間、恵理の顔から柔らかな笑みがスッと消え去った。
廊下の大きな窓から、西に傾く赤い太陽が差し込み、恵理の影を長く引き延ばす。
(……なんで、私じゃないの?)
(いつだって本当は、私が彼の隣にいて、私だけを見つめていてほしかったのに……どうして、私以外の誰かにあんな顔をするの……?)
光輝に対して向けられるどうしようもなくドス黒い感情が、澱のように恵理の胸の内で渦巻いていた。光輝が自分から離れていくような焦燥感と、届かないもどかしさが皮膚をチリチリと焼くように痛む。
だが――その一方で、恵理の脳裏には別の光景も浮かんでいた。
中庭のほうから聞こえてくる、楽しげな笑い声。ハジメや香織たちが連れ立って歩く、あの気取らない温かい輪の中。
あそこに行けば、窮屈な優等生の仮面を脱ぎ捨てて、ただの少女として息をすることができる。彼女たちの輪の中にいるときの、あの言いようのない心地よさと安心感もまた、まぎれもない偽らざる本音だった。
光輝への歪んだ執着と焦燥。
そして、ハジメたちの輪の中で感じる、あまりにも居心地の良い温もり。
全く矛盾した二つの感情が、恵理の心をぐにゃぐにゃとかき乱していく。
自分の内側に広がるドロドロとした独占欲と、誰かに包み込まれたいという幼い甘え。どちらが本当の自分なのかなんて、もう恵理自身にも分からなくなっていた。
恵理は冷たく光る窓ガラスにそっと手を触れ、震える唇で誰にも聞こえないように小さく呟いた。
「……本当の私/ボクは、いったいどっちなんだろう……」