「――ここは、一体……?」
天之河光輝が眩しそうに目を開けた瞬間、視界に飛び込んできたのは、見たこともない大理石の巨大な神殿だった。
戸惑い、ざわつくクラスメイトたちの前に、豪奢な法衣を纏った老人――イシュタル教皇が、仰々しく両手を広げて立っていた。
突然の異世界召喚。イシュタルはこの世界『トータス』が魔人族の猛攻によって滅びの危機に瀕していること、そして彼らが主神エヒトによって選ばれた『異界の勇者』であるという世界の現状を熱弁していた。
教皇イシュタルの重々しい演説が神殿内に響き渡り、どこか息苦しい緊張感が漂う中、クラスの誰もが呑まれまいと息をのんで話を聞いていた。だが、そんな中で―南雲ハジメだけは、まだこの異常な状況が飲み込めず、戸惑った様子で周囲をきょろきょろと見回していた。
「おい南雲、ちゃんと話聞けって。教皇とか名乗っている変なジジイがさっきからこっちの空気の異様さに不機嫌そうな目向けてるだろ」
「南雲,やめろって!! あれ絶対偉い人だぞ!あんなのに睨まれたら、朝の自動ドアが開かないどころの騒ぎじゃ済まねぇからな! マジで殺されるぞ!!」
遠藤浩介が朝のトラウマを全力で引きずりながら,顔を真っ赤にして必死の小声で吠える。二人に強めに突っつかれ,ハジメはハッと肩を跳ねさせると,どこか強張っていた表情をいつもの軽い笑みで取り繕った。
「っ……あ、ゴメンゴメン、ちょっとぼーっとしてたw」
冗談めかして頭をかくハジメだったが、その瞳の奥には確かな警戒と緊張が宿っていた。
そんなハジメの動揺をよそに、教皇イシュタルの悲痛な訴えは最高潮に達していた。
神聖な祈りの言葉はいつしか影を潜め、神殿内に響いていたのは――「どうか私たちの戦争の盾となり、刃となって、魔人族との戦いにその力を貸してほしい」という、あまりにも露骨で切実な戦力要請だった。
――その重々しくも生々しい言葉に神殿内の空気が凍りついた瞬間、ハジメの表情からわずかに残っていた血の気がすっと引いていった。
冷酷な現実を突きつけられ、彼女は右手の水色のシュシュを指先で痛いほど強く握りしめ、ぐっと俯いた。
そんなハジメの異変に、すぐ隣に立っていた香織の瞳がスッと揺らぐ。
(ハジメちゃん……っ)
恐怖と動揺に震えるハジメの細い肩を見つめ、香織の胸中は切実な心配で満たされていた。
神殿内のあちこちから、耐えきれないような動揺のざわめきが上がった。
「まっ,待ってくれよ! いきなり世界を救えって言われても……!」
「冗談じゃない、俺たちを元の世界に返してくれよ!」
恐怖と混乱から生徒たちが次々と声を荒らげる中、担任の畑山愛子は震える足を必死に踏ん張り、教皇の前に進み出た。
「イシュタルさん……とおっしゃいましたよね? 生徒たちをこんな得体の知れない場所に巻き込んでおいて、勝手に戦わせるなんてそんな……! お願いです、どうかこの子たちを元の世界に返してください!」
愛子の必死の懇願が神殿に響き渡る。クラスの生徒たちも「そうだ!」「元の世界に返せよ!」と一斉に声を上げ、先ほどまでの静けさから一転して恐怖の色を濃くしていった。
だが、その懇願を受けたイシュタルは、どこか愁いを帯びた、しかし冷酷なまでに事務的な謝罪の表情を浮かべ、静かに首を横に振った。
「――非常に心苦しいのですが、私たちにあなた方を元の世界へ送り返す術は、現在持ち合わせておりません」
「――は……?」
愛子が息を呑む。神殿の空気が、一瞬にして底冷えするような絶望に凍りついた。
「な、何を言っているんだよ……! 勝手に連れてきたんだから、すぐ送り返せよ!!」
「嘘だろ……!? おい、冗談だろ……っ! 冗談だって言ってくれよ!!」
クラスメイトの中から、恐怖に引きつった悲鳴や怒号が次々と飛び交う。パニックの波が、一気に神殿全体を飲み込んでいった。
そんな中イシュタルは再び口を開く
「お静まりください。私たちが行ったのは、あくまで『主神エヒト様の神託』による一方通行の召喚です。一度繋がった異世界と世界を再び繋ぎ直し、あなた方を元の場所へ戻すには、気の遠くなるような時間と、莫大な魔力、そして何より――私たちの世界を脅かす魔人族を退け、トータス全土の理を安定させなければ、門を開くことすら叶わないのです」
「そんな……そんなのって……っ! 生徒たちをこんなところに連れてきておいて、戦わないと帰れないなんて、そんな無責任な……っ!」
愛子は頭が真っ白になり、その場で崩れ落ちそうになる足を必死に踏みとどまった。教師として生徒たちを全員無事に日本へ連れ帰らなければならないという強い責任感と、どうしようもない絶望的な現実の乖離に、彼女の呼吸は激しく乱れ、瞳には大粒の涙が浮かぶ。
「うそだ……帰れないって、じゃあ俺たちは……!?」
「嫌だ、こんなとこで戦いたくない……! ママに会いたいよ……っ!」
恐怖と混乱に耐えきれず、クラスメイトの何人かがその場で泣き崩れる。パニックに陥った群衆の熱量が、神殿内の空気をさらに重く歪ませていく。
そんな絶望的な現実を突きつけられ、光輝の表情は完全に引きつり、冷や汗が滝のように頬を伝っていた。
(どうしよう、どうすればいい……? 俺たちが……戦うしかないのか……? みんなを救わなきゃいけないのに、俺には何も……!)
何とかリーダーとしてしっかりしなければという焦燥感と、圧倒的な無力感に頭がクラクラと眩暈を起こす。わずかに視線を斜め後ろに走らせると、すぐ近くにいたハジメの姿が視界の端に入った。
表情までは見えないが、彼女は少しうつむき、指先でシュシュを痛いほど強く握りしめながら、必死に何かに耐えているように見える。
高校に入ってから自分の思い描く理想通りに物事が上手くいかない現実を自覚し始めていた光輝は、その焦燥感とコンプレックスを無意識に抱え込んでいた。だからこそ、素のままで周りを惹きつけて温かい輪を作っているハジメという存在をどこか眩しく、直視しづらく感じながらも、今の自分には強い言葉を吐く資格がないことを本能的に理解していた。
(――俺が……前に出るべきなのか……? ……でも、)
何と言えばいいのか、どう振る舞うべきなのか。自分の意志とは裏腹に、固く結んだ拳の指先が細かく震えている。
光輝は恐る恐る、縋るような目を教皇イシュタルへと向け、掠れた声を絞り出した。
「あの……その、俺たちが……魔人族とかいうのを倒したら……本当に,元の世界に帰れるんですか……?」
その弱々しい質問に、教皇イシュタルは薄気味悪い笑みを浮かべ、勿体ぶったように頷いてみせる。
光輝はそれを見て、不安に震えながらも懸命に覚悟を決めようと奥歯を噛み締めた。
自分の中の無力さを埋めるように、ここで動かなければ取り残されてしまうという切実な焦りが、彼の口から言葉を引き出そうとする。
光輝は震えるこめかみにぐっと力を込め、喉の奥で詰まりかけた息を無理やり押し出すように、またちらりと斜め後ろのハジメを一瞥した――自分の不安を押し隠すように、彼女の存在を頼るかのような、あるいはその背中に責任を半分預けようとするような、落ち着かない気配を漂わせながら。
――だが、その不穏な気配をいち早く察知した少女がいた。
光輝の斜め後ろ、ハジメが立っているその背後で、香織の瞳がスッと冷徹に細められた。
ハジメへと向けられる光輝の視線、その落ち着かない気配を鋭く捉えたまま、香織は肌を刺すような冷たいプレッシャーをわずかに漂わせる。
「俺たちは……その,この世界を救うために……戦いま……」
光輝が引きつった顔のまま、責任を背負い込むように最後の一言を絞り出そうとした――その瞬間。
「――っ!」
ハジメは不安に揺れていた表情をハッと引き締め、ガタッと足音を立ててその場から一歩踏み出した。すかさず光輝のシャツの裾をガシッと力強く掴み、文字通り引き戻すように力任せに引っ張る。
「――っと、ちょ、光輝君!」
光輝が言葉を言い切るより早く、ハジメは慌てて飛び出すと、必死の形相で光輝のシャツの裾をギュッと強くつかみ、力任せに引っ張ってその宣言を遮った。
「ストップ!ストップ!そういう大事なこと、一人で勝手に即決すんのナシ」
「なっ……! 南雲さん、手を離してくれ! 元の世界に帰るためにも、 俺たちが力を貸さなきゃいけないんだぞ!」
「光輝君の気持ちはめっちゃわかる! めっちゃわかるんだけど、一回落ち着こ? ね?ウチらまだ戦い方すら知らないフツーの高校生じゃん。光輝君が一人で戦うならまだしも、っていやそれはもっとダメだけど!とにかく!クラス全員の命がかかってんだからさ。まずはみんなで話し合ってから決めよ?ね?」
「それは……っ! でも、俺たちがしっかりしなきゃ、いつまでもここに囚われたままになるだろ! みんなを早く元の世界に返すためにも、ここでちゃんと――」
「おい天之河、一人でいい子ぶって勝手に話進めんなよ。お前のその安易な選択にクラス全員を巻き込む気か?」
冷めた声音で割って入ったのは清水だった。クラスの誰もが動揺し、光輝自身すら葛藤に足をとられているその場で、彼の眼光だけが恐ろしいほど静かに光輝を見据えていた。光輝が勝手に背負い込もうとしているもの、そしてそれがもたらすであろう危うさを、ただ冷徹に見透かした上での割り込みだった。さらに、その後ろから遠藤が顔を真っ青にして首を横に振る。
「そうそう! 俺たちまだ得体の知れない場所に拉致されたばかりだぞ!? 自動ドアのトラウマも癒えてねぇのに、いきなり戦争とかハードモードすぎんだろ!」
二人の言葉に押され、さらに香織が、光輝の心の奥底を抉るような鋭くも冷ややかな視線を向けながら一歩前に出た。
「光輝くん……みんなを救いたいっていうあなたの気持ちはわかるけど、ハジメちゃん達が言ってくれたことも、みんなが抱えてる不安や恐怖も全然見えてないよ。自分の焦りを正当化するために、一人で抱え込んで勝手に決めないで……お願い」
香織のその冷ややかな言葉に、光輝は大きく目を見開いた。
自分の無力さや焦燥感を見透かされたようなショックと、いつもとは違う香織の容赦のない拒絶に、光輝は言葉を失う。
(俺の焦り……? そんなつもりじゃ……!)
「誰も断るなんて言ってないって! ただ『一回みんなで話し合う時間をちょうだい』ってお願いするだけ。ね、愛ちゃん先生!」
「えっ、あ、はいっ! 教皇様,お話は重々理解いたしました……! ですが,生徒たちはまだ混乱しております! 生徒たちの安全と意思を確認するためにも、一度私たちだけで話し合う時間をください!」
光輝は、ハジメや清水たち、そして何より香織の冷ややかな眼差しに気圧され、バツの悪そうにうつむいた。自分の至らなさを思い知らされたような気まずさはあったものの、一人で無理を背負い込まずに済んだという安堵が胸の奥にひそかに広がる。複雑に揺れる瞳のまま、光輝はどこかホッとしたように小さく頷くのだった。
ハジメに促され、愛子が必死の形相で重ねて抗議したことで、教皇もそれ以上の強弁はできず、一行は一度、説明と協議を兼ねた城の別室へと通されることになった。
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王宮が用意した別室の重苦しい静けさの中、ハジメは右手の水色のシュシュをパチリと鳴らすと、円卓の上座に近い席へ清水を強引に座らせた。突然上座に据えられた清水の姿に、クラスメイトたちが「え,なんで清水がそこに……?」と困惑の視線を向ける。
「はいみんな注目〜。まぁぶっちゃけ,ウチらじゃこれからの生存戦略とかトータスの裏の事情とかさっぱり分かんないじゃん? でもこういう怪しい異世界とか陰謀の読み方に関しては,コイツが世界一詳しいから! ほら、漫画とかゲームのストックえぐいし! ってことで、ね,清水?」
ハジメがサバサバとしたいつものギャルのノリで前置きをしたことで,クラスメイトたちも「あ、そういうことか」と納得の表情を浮かべる。
清水はクラスの視線が集まる中、本気で煩わしそうに顔をしかめ、ハジメを睨みつけながら低く吐き捨てた。
「……うるせぇほっとけ」
清水は小さくため息を吐くと,正面の光輝たちを見据え,ゆっくりと口を開いた。
「いいか、教皇の…、いやっ、あいつらの話を100%鵜呑みにするな。ここは元の世界じゃない。逆らったら監禁されるか,最悪消される可能性だってある。だから,表向きは『戦争に協力する』って態度を取るのが、俺たちがここで生き残る一番安全な手段だ」
「な、何言ってるんだ清水! 嘘をついて利用し合うなんて――」
光輝がいつもの正義感と正論を吐き出そうと、一歩踏み出したその瞬間。
隣に座っていた八重樫雫が、スッと黙って前に手を出した。光輝に冷ややかな視線を向ける。その、光輝の胸元を制するように掲げられた手には、静かだが確かな拒絶の意思が込められていた。
「待って,光輝」
雫は制した手を静かに引くと、戸惑う光輝から視線を外し、クラス全体をゆっくりと見渡した。
「清水君の言う通りよ。私たちはこの世界の人間じゃない……全員で無事に日本へ帰る。そのために、今は生き残ることを第一に考えましょう」
雫の静かで芯のある声が、室内に染み渡っていく。
清水が提示した容赦のない現実を受け止め,雫の言葉の意味を噛みしめるように、遠藤や香織、そしてクラスメイトたちも深く深く頷いた。
部屋の隅でそのやり取りを見つめていた愛子先生は、言葉を発することなく、そっと目頭を熱くさせながら静かに後ろからその背中を見守り続けた。
クラス全体に広がった自発的な覚悟の輪を感じ取り,光輝は張り詰めていた胸の奥から、小さく息を吐き出した。
「……そうだな。俺,一人で突っ走ろうとして悪かった」
己の危うさと不完全さに気づいた光輝は納得したように深く頭を下げ,クラスの絆は召喚初日にして『全員で無事に生きて帰る』という強固な一つの目的へと結束したのだった。
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――こうして生存戦略を共有したクラスメイトたちは、続いて城の広間で盛大な歓迎会へと臨むことになった。
長いテーブルに並ぶ宮廷料理にクラスメイトたちが目を奪われていると、会場の入り口から華やかな衣裳を纏った王女リリアーナと、その弟のランデル王子が歩いてきた。
まだ幼いランデル王子は、入場した瞬間から、クラスの最前列にいる白崎香織の姿をじっと見つめ、分かりやすく顔を赤くしていた。完璧な容姿と聖女としての儚げなオーラを持つ香織に、完全に一目惚れしてしまっているのだ。
そんな王子の視線にいち早く気づいたハジメが、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべて清水の肩を小突く。
「ちょっと清水、見てよあの王子様。香織のことガン見してて超分かりやすくて草」
「お前……一応王族だぞ、不敬罪で首が飛んでも知らんからな」
歓迎会が中盤に差し掛かり、お酒や食事が進んでお互いの緊張がほぐれてきた頃、クラスのムードメーカーである谷口鈴が、持ち前のフランクさでリリアーナ王女の懐へと飛び込んでいった。
「ねぇねぇリリっち! そのドレスめっちゃ綺麗! 日本の女子高生の制服と、ちょっとだけ交換して着てみたりしない!?」
「ええっ!? わ,私,ですか……!? 宮廷の礼儀としては流石に……というかリリッちとは一体…」
「いーじゃんいーじゃん,ちょっと別室でさ!」
鈴の強引なノリに押し切られ、困惑しつつも楽しそうなリリアーナは、クラスの女子数人とともに一度別室へと退場していった。
やがてガラガラと扉が開く。だが,戻ってきたリリアーナの様子は,完全に尋常ではなかった。
「う、うぅ……あの、す、鈴さん……本当に、これで合っているのですか……?」
リリアーナは顔の耳の裏まで真っ赤に染め、生まれたての小鹿のように両膝をガタガタと震わせていた。
それもそのはず、トータスの貴族社会において,女性が素足を晒すなど到底あり得ない。日本の女子高生の,膝上まで露出したミニスカートは、王女にとっては完全に「破廉恥な異端の格好」だった。リリアーナは溢れそうになる涙を必死に堪えながら、少しでも露出を隠そうと、両手で必死にスカートの裾をぎゅーっと下へと引っ張り続けている。
逆に、ゴージャスなフリルの王宮ドレスを身に纏って「ウェーイ!」とはしゃぐ鈴との温度差が凄まじい。
「王女様マジ制服似合いすぎ! 生足とか眩しいんだけど!」
リリアーナの制服姿を絶賛するハジメだったが,彼女のブラウンの瞳は、すぐに隣で王宮ドレスを着てはしゃいでいる鈴の元へとロックオンされた。ハジメはサバサバとした足取りで鈴へ歩み寄り、至近距離のドレスをさりげなく観察する。
「てかそのドレス,近くで見るとシルクの光沢えぐいし,パターンの引き方もめっちゃ計算されててヤバいんだけど。鈴ちょっと動かないで,型紙の構造とかちょっと気になるわ」
(相変わらずナグモン、服のことになると急にオタクモード入るんだから……w 異世界に召喚されても全然ブレないの、ホント流石すぎるし!)
目の前で真剣な顔をしてドレスのつなぎ目を凝視し始めたハジメの姿に、鈴は呆れつつも、この理不尽で極限な状態でも変わらない『ナグモン』のマイペースさにどこか救われる心地がして、心の中で思わず苦笑いを浮かべていた。
だが、当のリリアーナや周りから見ればただの怪しい奇行である。
ハジメの真剣すぎる視線と距離感に、リリアーナは生足を晒した羞恥心も相まって、いよいよパニックになりそうで顔を真っ赤にする。
「ええっ……!? アナタ、急に何を……っ」
と狼狽える姉を守ろうと、ランデル王子が必死の形相で割って入った。
「な、無礼者! 姉上に……いや,姉上のドレスに気安く近づくな! 僕は不浄な異世界人になんか負けないぞ! 僕は……白崎さんのような,気高く美しい人しか認めないんだからな!」
香織の方をチラチラ見ながら必死に強がるランデル。だが、その隣でリリアーナは真っ赤な顔のまま両手でスカートの裾を必死に押さえつつ、慌てて弟の肩をちょんと引いた。
「ら、ランデルっ、そんな大きな声を出しちゃいけません……! あ、あの、南雲さん、その……我が弟が失礼なことを……っ、どうかお気になさらないでください……!」
恥ずかしさのあまり潤んだ目をしながらオタオタと謝るリリアーナの姿に、ハジメは「いや、謝らなくていいってw」と苦笑しながら、ランデルの目線に合わせてその場にしゃがみ込んだ。
「あはは、王子様は香織がタイプなんだ? でもさ、あいつの愛、マジで重くて四次元重箱弁当レベルだからアンタじゃ受け止めきれないってw」
「な、何の話だ! 意味が分からないぞ……っ! だ、誰が子供扱いしろと言った!」
子供扱いされて真っ赤になって怒るランデルの頭を、ハジメは「はいはい、がんばれがんばれ」と軽くポンポンと撫でる。
「ちょっ……おい、勝手に触るな不敬者――っ!」
憤慨するランデルを、リリアーナが「もう、ランデルっ……!」とさらに顔を真っ赤にしながら慌てて制する。
ハジメは「じゃあ頑張んな」とからっとした笑顔で手を振り、サバサバとその場を離れていった。
残されたランデルは、頭に残る触感とハジメの去っていった背中を悔しそうに睨みつけ、それからそっと、遠くにいる香織の美しい横顔へと視線を向けた。
「……っ、なんなんだあいつは……不敬にもほどがあるぞ……っ」
顔を真っ赤に染めながら、自分に言い聞かせるように、小さな王子はぽつりと呟くのだった。
「……僕は絶対に、あんな奴になんか負けない。白崎さんにふさわしい、立派な男になって見せるんだからな……!」