65階層ゲリラライブと限界オタク
「ひっ……!? 後ろ! 後ろからもなんか出てくるーーッ!?」
ベヒモスの威圧感に震えるクラスメイトたちの背後――階層の出口付近から、赤黒い魔法陣とともに無数の骸骨剣士『トラウムソルジャー』が溢れ出し、後方戦線はパニックに陥っていた。
「クソッ、前後に挟み撃ちだと……!?」
メルド団長が顔を青ざめさせた、まさにその瞬間だった。
「はいみんな注目〜! 湿っぽい空気はあーしがパパッと吹き飛ばしちゃいまーす☆」
突如として、ハジメがサバサバとした掛け声とともに足をドカンと踏み鳴らした。
錬成によって足元の石床が隆起し、トラウムソルジャーの軍勢のど真ん中に、立派な『特設ステージ』が組み上がる。
さらにハジメは、どこからともなく光るアンプとマイクを取り出すと、華麗なステップでステージの上へと躍り出た。
「65階層のみなさーん! 盛り上がっていくよーッ!!」
シャウトとともに、爆音で鳴り響くノリノリのEDM。
ハジメが金髪を揺らし、フリル入りの(なぜか着替えている)衣装で歌って踊り始めた瞬間――異変が起きた。
「「「グォォォオオオオオンッ!!(超絶合唱)」」」
殺気立っていたはずのトラウムソルジャーたちが、突如として武器を投げ捨て、整列。
完璧に揃ったキレのあるオタ芸(ロマンス)を打ち始め、ハジメの歌声に合わせて地鳴りのようなウルトラオレンジのコールを叫び出したのだ。
死者たちの軍勢が、一瞬にして「訓練されたドルオタの群れ」へと変貌を遂げる。
「……は?」
呆然と立ち尽くす清水と遠藤の手に、ぬっと謎の感触が残る。
気がつけば、二人の手には眩い光を放つフルカラーのサイリウムが握らされていた。
「おい……なんで俺たちまでサイリウム振ってんだよ……っ」
「知るかよ! 勝手に手が……手が『推し色』に発光してんだよ……ッ!」
清水と遠藤が冷や汗を流しながら「なんで俺たちがこんなところで……」と引きつつも、無意識に腕を振らされる。
その横では、谷口鈴が「ウェーイ! ナグモン超絶カワイイーッ!」と完全にノリノリで両手のサイリウムをぐるぐる回していた。
そして――決定的な異常者が、そのとなりにいた。
「ハジメちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!! 好きだーーーッ! こっち見てハジメちゃんッ!! 尊い……ッ! 存在が尊すぎるよぉぉぉッ!!」
香織である。
ガチの眼光、血走った瞳、額に浮かぶ汗。極限まで研ぎ澄まされた限界オタクの表情で、眩い水色のサイリウムを狂ったように振り回し、喉が千切れんばかりの奇声を張り上げていた。
「(ダメだ……あいつら完全に脳のタガが外れてやがる……)」
絶望的な表情で引く清水をよそに、カオスなライブ会場の熱気は最高潮に達していた。
――その時だった。
「あんたら……こんな時に何やってんのよーーーッ!!」
般若のごとき鬼の形相となった八重樫雫が、疾風のごとき足さばきでステージ脇へと乱入してきた。
「うわっ!? し、シズシズ!?」
「今ハジメちゃんがレスくれたのにぃぃぃッ!」
雫は問答無用で、ガチ応援中の香織とノリノリの鈴の首根っこをガシッと力任せに掴み上げた。
「行くわよ二人ともッ! ベヒモスが目の前に迫ってんのよッ!!」
「嫌だぁぁぁッ! ハジメちゃんのソロパートが終わるまでは離れないぃぃぃッ!」
「待ってシズシズ! アンコール! アンコールだけ叫ばせてぇー!」
叫び狂う香織と鈴を、雫はまるでゴミ袋でも運ぶかのようにズルズルと地面に引きずりながら、猛スピードで前線のベヒモスの元へと連行していくのだった。