【オーバー・ワールド・オンライン】-電子の旅人は星を見上げる- 作:御魚天国
目を閉じた次の瞬間、耳に聞こえてくるのは周囲の環境音。
鳥の囁き、風のそよぎに、土を踏みしめる音。
そして鼻をくすぐる、それらの匂いと感触。
俺はゆっくりと目を開くと、最初に射し込んで来たのは太陽の光と熱だった。
俺はその景色を見た瞬間、目の前の景色を現実だと誤認しそうになり──
「これって、ゲームだよ、な……」
と、思わず呟いて、なんとか認識を取り戻す。
目の前に広がる森の光景は紛れもなく、現実そのものであった。
匂いや感触、音や光、ありとあらゆるものが俺の全身を、五感を、これが現実だと言っている。
(脳に直接情報を与え、現実での意識を切り離して、どーのこーのって話だったよな……)
俺は曖昧な記憶でこのゲームの仕組みを思い出しながら、身体を回したり準備運動などで五感を確かめる。
全身は過不足なく動く。
多少体格は違うし、筋肉のつき方もだいぶ違うが、それでも自分の身体そのもののように動かすことができる。
「まさしく現実だな」
確かめたいことは死ぬほどあるが、一先ずはそれらは置いておくことにしよう。
それらを優先して知りたいことがある。
(確かメニューを開くには……メニュー、メニュー……)
メニュー画面を開くには念じればいいらしいが……と、メニューと頭の中で唱えていると、突然目の前に半透明のウィンドウ画面が姿を表す。
それに触れると『Welcome クロッカー』と表示されて、メニュー画面が表示される。
上からアイテム、ステータス、スキル、などといったものが表示されており、一番下にはサポートとオプションが存在していた。
そしてそのウィンドウ画面から少しはみ出た左下。
電源マークが表示されており、どうやらここからログアウトできるようだ。
俺はアイテム欄を開くと、そこには初期アイテムである武器や防具、回復アイテムと……そして『手鏡』というアイテムがあることを確認。
手鏡はどうやら自分の設定した身体を見ることができるらしい。
俺はアイテム欄から手鏡を取り出し、メニュー画面のはみ出た右上、バツボタンを押してメニューを閉じると、手鏡を通して自分の身体を見る。
手鏡には自分の身体の全てが映っており、周りからはどう見えるかよくわかるようになっていた。
やはり多少の肉体差はあれど、設定した通りに現実の俺──天飛 刻一の身体に近しいもの。
健全な高校2年生の肉体に近く、かつそれよりは筋肉質でありながら、容姿決めの時に選んだ初期装備の少しデカ目のフード付きマントによって目元は隠れて見えないようになっている。
見えないようになってはいるが、俺の視線からはちゃんと周りが見えるのだから不思議なものだ。
そう言えば、俺は男を選んだが性別を選択できることを考えるに、元の世界が男でもこの世界ならば女の子になれるのだろうか。
(まぁ、選択させるってことはなれるんだろ、恐らく)
素晴らしいね。
「あっ、そうだ。こっちも見とかないとな」
俺が手鏡を手放すと、自然と手鏡はアイテム欄に収容される。
それを横目で見届けながらメニュー画面を開くと、ステータスを押して俺の今のステータスを確認することに。
▽▽▽▽▽
『クロッカー』
Lv.1(旅人)
HP∶100
MP∶50
STR∶10
INT∶10
VIT∶10
DEX∶10
AGI∶10
LUK∶10
保有スキル∶『スラストLv.1 』『受け流し』
△△△△△
なるほど、一般的なRPGと大体同じなようだ。
恐らく他のゲームと同じ扱いではあるだろうが、一応説明を見ておくか。
多分メニューのサポートから言葉の解説はあるはず……っとあったな。
開くと下の方に用語解説と書かれている欄があり、俺はそこを軽くタップして開く。
するとざっと簡潔ではあるが、ステータスそれぞれが何を示すか、上から順に書かれていた。
STRは筋力、筋力に関係するステータス。
物理攻撃力や、力仕事関係のイベントでの成功判定に影響する。
INTは知力、魔法に関係するステータス。
魔法攻撃力や、魔法的仕掛けでのイベントの成功判定に影響する。
VITは防御、守備力に関係するステータス。
ダメージ全般はこのステータスで計算される。
魔法系統はこれに加えてINTも関係してくるらしい。
DEXは器用、技術に関係するステータス。
物理、魔法、共にダメージの倍率に影響する。
それ以外にも一部スキルの成功判定にも影響する。
AGIは俊敏、速さに関係するステータス。
移動最高速度や回避率などに影響する。
LUCは幸運、運に関係するステータス。
アイテムドロップ率や、一部スキルの発動率に影響する。
ってことらしい。
かなり大雑把に書いているが、プレイスタイルによって上げるものを選べばいいのだろう。
シンプルだな。
そしてスキル。
これらは行動によって発生する『発動型スキル』と、パッシブのように常に効果を発揮する『常時発動型スキル』の二つがある、とのことらしい。
流石にここらへんは事前に仕入れた情報だ。
ほとんど、とはいったが、多少なりとも頭に入れておかないと、行動を取るにも取れはしないだろ、ということで。
でだ。
俺のスキルは二つ、『スラスト』と『受け流し』。
それらのスキルの文字を軽くタップしてみると、それを覆うようにしてスキルの説明文が長々と表示される。
分かりやすく言うと『スラスト』は攻撃系、剣で盾に振り被る時に発動し、攻撃の威力と重さを上げる。
で、『受け流し』は相手から攻撃を受けた時、剣で受けることでダメージと衝撃を緩和するスキルらしい。
説明はこんなところだが、実際に使ってみない限りは感覚がわからないだろう。
ここらへんは要検証だな。
ステータスの次は装備だ。
説明を閉じて次に装備をタップして開く。
軽く装備欄を見ると欄にあるのは『右手』『左手』『頭』『体上』『体下』『腕』『足』『アクセサリー』、アクセサリーは何もなく、それ以外は完全に初期装備が付けられている。
右手には片手剣、頭装備は設定していないが、フードを付けていることもあって、そこで数値は加算されているっぽい。
「ま、ここらへんは要検証だな」
それよりも──
(そろそろなんな動きたいな……検証、その他諸々は後でも出来るし)
俺は腰に吊り降ろした片手用の剣を抜いて、右手に宿るその重さを確かに実感する。
だが不思議なことに、確かに重さはあるのだが、それを俺は軽々と振るうことができた。
体が非常に軽く、現実では思い通りにならない体が、ここでは思い通りに動き回る。
試しに剣を振りながら、周囲の木を蹴って跳んで、アクロバティックに動き回ってみるが、一度も失敗することなく思い通りに動くことに成功。
まさにゲームの中だからこそか。
「なんつーか……すっげぇ不思議な感じだな」
そんなこんたで調子に乗った俺が、楽しく剣を振り回しながら一通り動き回り終わり、次にスキルを試してみるべく剣を構えたその時、突然近くの茂みが蠢き出す。
俺はその気配に思わず足を止め、その茂みのほうへと視線を向けて、剣を片手に少し距離をとる。
胸のざわめきとともに構えていると、なにかが勢いよく飛び出してきた。
俺は横に飛んでそれを避けると、急いで姿勢を戻し剣を構える。
するとそこには四足の獣、狼が俺に牙を向けて唸り声をあげていた。
体を小さめで覇気はないが、その牙は間違いなく俺の首を掻き切ることはできそうだ。
「『レッサーウルフ』か。ザ・RPGって感じのやつだな」
奴の頭上へ視線を向けてみると、そこには名前とその隣に緑の棒状に表示されたHPバーが存在していた。
示すアイコンはNPC。
色によって分かると聞いたが、そのアイコンの色は赤く、明らかに敵であることを示していた。
「初エンカウントってわけか。OWO、どんなゲームか見せてもらうぞ!」
唸り声を上げながら走り出す狼は、俺の首元めがけて飛びついてくる。
そこに剣を構えると、奴の噛みつきを剣で受け止める。
押し込まれるも、威力はそこまでなく簡単に弾くことができた。
これが『受け流し』なのかはさておき。
弾かれてバランスを崩した奴に向けて走ると、バランスを崩したやつに向けて振り下ろす。
だが、急に起き上がって飛び退くと、唸り声を上げながら俺を睨みつけて横に走る。
そしてそのまま近くの茂みに隠れると、その気配を消してしまった。
俺は改めて剣を構えると、辺りへと視線を向ける。
茂みの動きでなんとなく、ヤツの動きは見えてきた。
俺は奴の動きに合わせて、体の向きを変えていき、そして茂みの動きと音がなくなったその瞬間だった。
奴が茂みから飛び出してきた。
俺はそこ向かって走り出し、剣を振り上げると『スラスト』を撃ち放つ。
スキルのエフェクトに剣が光り輝き、俺がするよりも遥かに速い速度で剣が放たれ、レッサーウルフを通りざまに真っ二つ。
縦に切り裂いてしまったのだった。
目の前に小さなウィンドウと共にリザルトが表示される。
少々のお金である『ラザ』と経験値を少々取得。
俺はそれを確認すると閉じて、片手剣をしまう。
深呼吸をして胸に手を当てると、想像以上に鼓動が速く動いていた。
これはゲームによるものか、それとも現実のものなのか。
少なくとも俺はかつてない興奮を抱いていた。
「ま、まさか俺が、ここまで動けるとは……い現実じゃないってのはわかってるんだが、なんというか……凄いな」
感想にもならない言葉を残し、俺は周囲の光景を見渡す。
「……よし、大体どんなもんか分かったし、そろそろここらへんから旅立つとするか」
そうして俺はこの場から離れるべく、森の中を歩き始めるのだった。