新しい小説を投稿します。
暫くは月一更新で進みます。
どうぞよしなに。
「グオオッ!」
「ふん!」
「ブ、ブバッ!?」
「俺の、勝ちだ」
「ライ、相変わらずエゲツない魔法ね、その水銀魔法は」
「お前の硝子魔法もな、グレンダ」
数百年前に突如として現れ、今となってはありふれた存在となったとあるダンジョンの中でライことライサンダーはモンスターを相棒たるグレンダと共に仕留めていた。ここに溢れる気がモンスターにとっては良い餌だし、彼らの素材が魔導士達や市井の人々の生活に必要不可欠な物となっている。
「今日のダンジョン探索、成功だな」
「隠し部屋を見つけたのは良かったわ」
「珍しい鉱物がガッポリだ」
「ギルドで換算してもらいましょう」
「おう。そういやぁ……」
「ど、どうしたの?」
「シオン、連れてこなかった事で怒らなきゃ良いが」
「あの子の本分は学生。今日は授業だから仕方ない」
「半ドンじゃなかったか?出発してすぐに帰っててもおかしくねぇ、間に合っただろと言いそうだ」
「あ、ああ〜……」
彼ら2人は妹分たるシオンとチームを組んでいるのだが、親のいないシオンは学生生活を送りながら生活の糧としてダンジョン探索に注力している。この国の学校では基本的な数学や国語など以外にも魔法の使い方からダンジョンでの過ごし方まで教えている。ダンジョンで生活する人々を1人でも多く送り出そうというのだ。はてさて、ライサンダー達も無事にギルドに戻ってきてギルドマスターのレジンに顔を見せる。
「おーい、帰ったぞー。ほい、お土産」
「随分沢山持って帰ってきたね」
「『隠者の酒場』でこういう鉱石を欲しがる奴は大勢居るからね」
「とりあえず鑑定に回しておこう」
「代金は明日いただきにくる」
「それまでには終わっているだろうね……シオン、帰ってきてるよ」
「やっぱりか」
今日は学校に半ドンで出掛けていたシオンが恨めしそうな顔をして待ち構えていた。妹を親代わりで育てている様なものだ。生活がかかっているから尚更だろう。高校まで義務教育ではあるものの、学費はかかるし飲食を含めた生活費は必須。彼女の様な存在はギルドでも珍しくないし、毎日生きるのに必死なのだ。
「姐さん、兄さん。酷いよ、2人とも〜」
「シオン、悪かったって。でも授業を優先して欲しい親心の様なもの、分かっちゃ貰えないかな」
「うう〜、仕事行かなきゃ学費が〜」
「貴女の分はギルドで負担するから大丈夫よ」
「ウチのじゃなくて妹の分だよ、姐さん」
「ああ、ネネのか」
「親が居ないからウチが稼がなきゃなんだ」
「しょうがねぇ、明日換金した分の一部を渡してやる」
「助かるよ」
同じチームで組んでいる以上、金を必要としている人に優先的に分配するのだ。彼女を誘い損ねたのはリーダーたるライサンダーの失策である以上、責任は自分にあると思っている。チームのメンバーが居なければ探索や依頼は失敗する可能性が上がるからだ。
「とりあえず明日は休みなんだな?」
「そうだね」
「ダンジョン、潜るか?」
「良いの?」
「おう」
「ありがとう!助かるよ!」
「貴方が良ければ私も同行するわ」
「頼むぜい」
翌日、シオンの学校が休みなのを確認してダンジョン探索に繰り出していく。少しでも情報と素材や研究材料を持ち帰って資産に変えていかなければならない。特に小学生の妹のネネを抱えるシオンの生活を少しでも楽にさせてやりたいのだ。自分だけならそう焦る必要もないが、家族がいる人はそう気楽なものではないだろう。今日はギルドから少し離れたダンジョンに向かう。
「よし、今日はここだ」
「ありがとう、ライ兄さん。昨日の報酬を少し分けてもらえて」
「学費は意外と馬鹿にならん額だからなぁ」
「それにウチは食費もウチが持ってるからね」
「
「まだ12歳。今が食べ盛りだよ」
「これからもっと増えるぞ〜?」
「そうなんだよね。どうしよう」
「ま、これからの事はその時考えろ。今はこのダンジョンだ」
辿り着いたダンジョンは負の気というものが良く出ている。何処のダンジョンに潜っても相変わらず負の気が出ていることに軽口を叩くシオンだが、ダンジョンの中に住まうとされる精霊はこれを基にダンジョンを生成している。ライサンダーらの魔法もこの負の気を利用しているのだが、魔導士とモンスター以外には毒なのだ。雑談をしてても仕方ない、とりあえず探索開始に乗り出した。
「第一階層はこんな感じだね。地図にまとめといたよ」
「ありがとう。助かるわ」
「ギルドで実践と授業で習ったんだよ、ダンジョン攻略の基礎は情報収集に有ると」
「大事な事だ、よくよく覚えておけ」
「このダンジョンには火と熱を好むモンスターが居そうね」
「確かに火があちこちで出てるし、少し熱いな」
「薄着で正解だったよ」
「水分は忘れるなよ」
ダンジョンはそれぞれ住まう精霊の違いから構成される階数や、中の属性がそれぞれ違うとされている。今回は火のダンジョンだ。好む性質からそこに住まうモンスターも違いがあるのだ。
「第二階層突破、と。これが第三階層への階段だ」
「この先にどんなモンスターが居るのかしら?」
「それを調査するのがウチらの役目だよ、姐さん」
「まぁ、そうなんだけれど」
「さ、行こうぜ。戦闘になっても良い様に準備を」
「ええ」
長年ダンジョンに潜っているが、ダンジョンってなんで場所ごとにこんなに変わってるんだろうかと疑問が浮上する。先程話した精霊力だけでは説明がつかない気がしているのだ。謎の多い場所なのがダンジョンである。地上に現れて三百余年、研究してるけど解明されていない部分も多いのだ。
「人類の未到の地が多いからね」
「だから調査し甲斐があるってもんだぜ」
「ここがあるから生活出来ている人達も大勢居るわ。私もその1人」
「ダンジョンの現れる前の昔はどう生活してたんだろうな」
「さて、どうだろうな」
「確か人間と竜族で戦争して、人間の勝利に終わってたはずだよ」
「ああ、人竜戦役か」
人竜戦役。350年ほど前に起こった竜と人との戦争であり、数と魔力、知力で人間が上回り、結果として人間が勝利をおさめたのだ。竜はほぼ滅したとされていて、人間が隆盛期を迎えていられるのも勝ったからだ。
「詳しい事は書かれてないけど、モンスターがダンジョンと結びつく様になったのはその戦役が多少なりとも関係していると書いてあった様な」
「竜の亡骸に沿う様にダンジョンが、って説だったか?事実なのかを含めた仔細は不明だが」
「そう。なぜか負の気を纏った遺骸が近くにあるらしいわね」
「うむ、そうか。そこら辺の調査を含めてやっていくしかないな」
少しずつ奥へと向かっていく一行だが、次第に熱が本格的に3人を襲い、どんどん体力を奪っていく。奥に行けば行くほど精霊力が強まっていくとされ、モンスターも負の気も強まっていくとされている。
「暑っ、暑すぎだろ、ここ」
「まるで火山ね」
「奥に行くにつれて温度が……」
「くそぉ、俺の魔法が固形化しにくいな。液体のままじゃ取れる選択肢が減っちまう」
「私の硝子も溶けかねないわ」
「じゃ、ウチの魔法の出番だよ」
「悪い、頼らせてもらうかもしれん」
「はーい」
硝子を操るグレンダと水銀を操るライサンダーの魔法は熱に弱いのだ。特にライサンダーの魔法は温度と衝撃などで形態を変える魔法なので、ダンジョンの構成の影響を他の2人に比べて受けやすい一面がある。その一方でシオンは音響魔法や歌魔法の類だからそこら辺に強いのだ。
「はぁ、暑い……」
「冷却魔法剤とか持ってきて正解だったな」
「溶けちゃいそうだよぉ」
「そろそろ大型モンスターが登場するだろうぜ。用心せぇよ」
「まだ第6階層でしょ?来るかしら?」
「徐々にモンスターが強くなってるし、俺の水銀の弾丸や硝子の反射を使った光魔法に対応し始めている」
「炎の使い手かな?」
「どうだろうな。ダンジョンの頂点に立つなら相手の弱点を突く魔法の可能性がある」
「水とかかしら?」
「あり得る」
各ダンジョンには最奥部の大広間と中間に近い部分に広間があると傾向から言われているが、まだ完全に理解できていない部分もあるからまだ確定はしていない。それが通説となっている。ライサンダーらが辿り着いたのはその内の最奥部だ。
「大広間だよ」
「一番暑いわ」
「マグマが噴出してやがる」
「……モンスター発見ね」
「あれは
「なんでこんな所にダイオウヌタが?」
「さぁね。恨みは無いけど、これも仕事。狩るぞ」
「生態系を崩される前にね」
好き好んでこんな暑い中に暮らしているのか、はたまた迷い込んだのか。氷属性と土属性の多いダイオウヌタはここに来る機会はそう多くないと今までの経験から推察する。侃侃諤諤と議論していても仕方あるまい、戦闘をして狩るしかない。先手を取ったのはリーダーたるライサンダーだ。経験豊かだから冷静に行動できている。
「まずは動きにくくする。よいせっ」
「バルァ!」
「水銀の糸か。器用ね、相も変わらず」
「そこにウチの魔法で。そぉれ、衝波!」
「ブルル!」
「氷の壁?」
「あいつの魔法だ。しかも糸も食い込んでなかったか」
「えっ?どういう……」
「見てみろ。体に氷の鎧を薄くつけてやがる」
「戦い慣れてるわね」
「やれやれ、そう簡単にはいかんかね」
氷を薄く纏って、それを糸が付着して早々に剥がし取った。これで身動きが取れた、そういう事だろう。だが、この程度で慌てるほどではない。ライサンダーらは経験があるから、これくらいなら慣れたものだ。
「俺の水銀は知っての通り毒だ。あいつの体内に入れれば動きを鈍らせるくらいは可能だ」
「傷でも作れればいけるかな?姐さん、援護するよ」
「やるしか無いわね」
「お前らの魔法ならいけるだろ。悪いな、損な役回りばかりでよ」
「良いのよ、仲間でしょ?」
「じゃ、行くぞ。戦闘再開だ」
グレンダの硝子魔法はこの国では珍しい魔法だ。しかもこれだけでなく光魔法も多少なりとも扱える器用さを持ち合わせている。様々な大きさに形成できて、突き刺す事と切り裂く事が得意で、設置型と能動的に攻撃する事が出来る。そこに振動を加えれば深く突き刺す事が可能となる。まずは極小サイズを相手の周辺にばら撒いていく。
「粉塵、生成」
「音響で広範囲にばら撒くよ」
「ええ」
「……」
「様子見か。距離を取り始めてるわね」
「凍らせてもダメだと判断したと思う」
「なら、鏡乱光線!」
「っ!ブルァ!」
「ちっ、厄介な魔法だ」
「壊せないか試してみる。破ぁ!」
「っと、凄い振動ね」
シオンの音響魔法などは比較的使い手の多い属性であり、文字通り音を出す他に振動を加える事が得意である。グレンダの魔法との相性からライサンダーが前のチームから彼のチームに引き込んだという経緯がある。硝子が振動して突き刺さるのを避けたいダイオウヌタは下がるが、それを予見していたライサンダー達は範囲外から接近していたのだ。
「ご対面」
「ブルル」
「なぜこいつがここに?熱に強い個体なのかしら?」
「知らん。どうせ負の気につられたんだろ」
「ブヒィ!」
「「せいっ!」」
「バファ……」
「おお、良い連携だ」
「トドメ、任せるわよ」
「ああ。そこの傷に、水銀を」
シオンとグレンダの一撃で気絶した相手に傷跡から猛毒の水銀を流し込んで死滅させた。ライサンダーの魔法は危険極まりないから、かつては避けられた過去がある。今は中和する薬を専門の者に作らせたおかげでグレンダ達に影響が出にくくなっているのだ。
「終わったな」
「このクソ暑いダンジョンに氷魔法のモンスターって意外だったよ」
「確かに」
「元の住処を追われた可能性は捨てきれん」
「あり得るね」
「ま、そこら辺は研究職に任せるべきだな」
「帰ろう」
モンスターの素材や周りにある鉱石などを出来る限り持ち帰ってダンジョンの仕組みなどを理解するのに用いる。それがダンジョンが生成されてから行われてきた人間達の営みなのだ。有史の中でもごく短期間でしかないダンジョンの歴史だ、理解するまでまだ時間はかかるだろう。
「ふう、外は涼しいな」
「あふぅ」
「疲れたわぁ」
「帰るまでが仕事だ。モンスターの素材を持って帰るぞ」
「はーい」
「貴方の魔法、殺しに向いてるわね」
「回復や強化とか、そういうのを除いたら基本殺し向きだ」
「まぁ、そうね」
モンスターの遺体は分解すれば持ち帰れなくはないが、それにはそれの専門職というのがある。ダンジョン内で研究する方が鮮度などが良いが、毎回研究職を連れて潜るのは大変だし、出来る事も多い訳ではない。だから頼るのが運搬屋と呼ばれる存在だ。
「おーい」
「お、モンスターの運搬かね?」
「頼めるか?宛先はギルド『隠者の酒場』の提携研究所だ」
「応ともよ」
「これが運賃だ、頼めるか?」
「あいよ。お前らぁ、仕事だぞぉ!」
「うっせえっすよ!聞こえてるっすよ!」
「黙って仕事しやがれアンポンタンが!」
「あっはっはっ、どこの運搬屋でも見れる光景だな。へっ、これで手ぶらで帰れる」
「ギルドに報告しに行こうよ。情報はまとめてあるから」
「毎度助かるね」
「授業の実践にはもってこいだもん」
「真面目ねぇ、シオンは」
「ライ兄さん達ほどじゃないと思うよ」
「どうだかねぇ」