今回もどうぞよしなに
「ネネ〜、連れてきたよ〜」
「会いたかったよ、お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
「そうかい。お前もそろそろ受験する年齢だろ?」
「来年から中学だし」
「じゃあ、私達に何か習おうというのも?」
「その対策の一環らしいよ」
「だって、筆記試験だけじゃ受からないんだもん」
「ははぁ、実技か」
そう、この国では国語や算数、魔法学だけではなく実技試験も組み込まれており、座学と実技の両面で受験生を
「ネネ、お前の魔法、何だったっけか?」
「大樹魔法だよ」
「何だ、私らより実用性のある魔法じゃない」
「でも、今は大して範囲広くないんだもん」
「まだ12だろ?無茶はしない方が良い。高度な魔法は体への負荷が大きいからな」
「そうは言っても、使い方とかコントロールの方法とか知っておくべきじゃないかしら?実践を通じてね」
「そうだな。それが魔道士の育成の
教えるとなればまず行うのが相手の魔法の属性に威力や範囲などを知っておく事。そうでもしなければ適切に指導できない可能性があるからだ。魔力の質が良いシオンの妹でもうすぐ中学生ともなれば期待できそうだ。
「まず、どれくらいの範囲ですぐに使えるか見せてもらえるかな?」
「うん。すぅ……はいっ!」
「おお、結構な樹が出たわね」
「でも、これが一瞬だと限界だね」
「こればかりは経験だぜ」
「あら、あの花は何かしら?」
「樹海に咲く花だったと思うよ」
「毒のないヤツだが、能力が発展すればもしかしたら毒の花も出せるかもしれん」
「そうなんだ」
予想通り、いや期待値以上の成果だ。4人をぐるりと囲うように5メートルは超える大樹が出現した。造形に関してはシオンよりライサンダーらの方が得意だ。造形と錬成速度に関しては彼やグレンダの得意分野だろう。
「そうね。早速鍛錬を始めるわ」
「お願いします!」
「まずは造形速度を上げる事。それと魔力消費量を効率化する事ね」
「範囲は良いの?」
「それは魔力の効率化をしてからよ。いきなり莫大な魔力消費を貴女にやらせるのは危険だわ」
「そうだった」
錬成や造形の魔法は創造力に想像力と手数が武器だ。まずは何をすれば良いのかという問いに基礎となる魔力量の増加による
「今言った方法が素朴かつ一番の近道だ。試験まで半年はあろう、少しずつ練習の機会を増やしていけ」
「うん」
「本当は中学や高校に上がってからやるんだけどね」
「今思えば体の未発達な学生にやらせんのはどうかと思うがな」
「全くだね」
「人数が足りてないとも思えないけども」
「ま、一人でも多く輩出したいのだろうぜ。で、今言った方法で錬成速度を上げる」
早速鍛錬に移る。まず指南役を務めるのはライサンダーからだ。水銀の魔法で作り出したのは大きめの的だ。同時に複数の的へ壊せるくらいには必要な最小限の魔力量を把握しつつ素早く発動させるものだ。
「まずは俺の作り出したこの的に大樹を作っては当てて、大樹を壊してもう一度発動するってのを繰り返して試行回数を増やすぞ」
「うん!」
「では、的は3つからだ。始め!」
「はぁあ!」
まずはライサンダーによるスパルタ式鍛錬術により、消費限界を含めて己の魔法について知っていく事を目指す。試行回数を増やしてどれだけ魔法を扱えるか、それを知れたら無茶をする事も減るだろう。かれこれ数十分にわたって魔力を休みなく使い続けて、時折2人で指導しながら終了とした。
「はひ、はふぅ」
「お疲れ様」
「ほう、案外行けんじゃねぇか」
「我が妹ながら立派になったね」
「ど、どーも」
「ほれ、休め」
「どうして同じ魔力消費したお兄ちゃんは平気なのぉ?」
「経験値だな、こればかりは」
「まぁ、普段から魔力を消耗してるから慣れてんでしょ」
「だね」
さて、ボチボチ家路につこうかと歩き始めると、前方に現れたのは裏家業のエキスパート、アグニだ。無用で現れる様な男ではあるまい、マスターからの用事でもあるのだろう。だからこうして目の前に現れたのだ。恐らく、推測通りならアグニと組んで仕事でもしろと言うのだろう。
「ライサンダー」
「マスターからの探索仕事か?アグニ」
「依頼は依頼だが、影だ」
「ほう……皆の衆、先に帰っててくれ」
「どうしたの?」
「ちょいと、な」
「分かったわ。詳しくは聞かないでおく」
この一件は表沙汰に出来ない。だから彼女らを先に帰す。他のチームにも知らせられないだろう、だからギルドから大半の人が立ち去ったタイミングを見計らってマスターに要件を尋ねてみる。
「マスター、何事だ?」
「
「ほう?それならアグニの方が適任では?」
「今回は二人で行ってもらう。そうさせてもらった」
「なるほど、だいぶやりやすいね」
「潜伏はこちらの魔法で行う。仕留めるのはお前の水銀でな」
「任された」
「では、標的だよ」
「こいつは……」
「暗殺者だとされてるよ。しかも探索者ばかり狙ってるそうだ」
「そうか。行ってくる」
直近で被害が出ており、その標的が現れたという街に出向いてみる。まずは情報集めからだ。ライサンダーは表から、アグニは得意とする裏からだ。少し離れた場所からそれぞれの場所に出向こうとした瞬間、何か察知した。
「む?待て、あれは……」
「……奴だな」
「こちらにはまだ気付いてなさそうだな」
「ふっふっふっ」
「……すれ違ったな」
「ふむ、金属を幾つか持ち合わせてるな。暗器の類かな?」
「何故分かる?」
「特殊な金属の擦れる音、服の膨らみ、そう言ったのをすれ違い様に探知したんだ」
「ライサンダーも殺し屋向きの才能を持ってるな」
「まぁ、この人混みで何故聞けたか謎だが」
「しかし、暗器使いか。厄介だな」
「あちらも闇に溶け込むのは得意そうだ」
標的は暗器使いとなれば、上や裏道から狙ってくる可能性が高いし、闇に溶け込む手段を持ち合わせていてもおかしくない。始末するには相手の得意戦術にハマらない様に気をつけねばなるまい。
「さぁて、どう始末するかね」
「相手のやり口が分からない以上危険はつきものだ」
「暗器使いは闇に徹するが掟。闇魔法を使えてもおかしくない」
「奴は、ギラついた目をしてたし不穏な空気を纏っていたな。まるで虎や獅子の如き……」
「人は虎や獅子であってはならない。そうなれば強くなるかもしれんが、人としての心は死ぬ。結果として強さばかり追い求めて冷徹残酷な奴になろう」
「そうだったな」
「少し探り入れてくれ」
「うむ」
早速裏稼業の伝手の同志に調べさせてきた結果、ライサンダーの予想通りやはり暗器使いだ。だが、影魔法ではなく、毒使いだそうだ。暗器に毒を塗って一撃で仕留めきれなくてもジワリジワリと攻め込んでいく寸法だろう。
「予想の範疇だったな。あり得ねぇとは言い切れん」
「明日仕掛ける。魔法以外の武装はどうなっている?」
「暗器に煙玉、効くか分からんが毒針も持ってきているぜ」
「それだけあれば十分だ。狙うのは夜と行こう」
夕暮れの時間帯の逢魔時を超えて、黄昏時となった。月が薄雲に隠れ始めている。目標が相手を傷つけて殺しを確実にしようとして、一時撤退して様子見をしようとした。ここで一度治療をさせようとする。
「今日も月光の元、成敗完了」
「ぐっ、うぅっ……」
「(居たぞ。ライサンダー、追おう)」
「(ああ)」
「……仕事の時間。あの人の手は汚させない」
暗殺者を暗殺すると言う今回の任務を果たす為にアグニの作り出した影に潜り込んだライサンダー達は密かに後を追う。それを建物の上から見つめていたのは仮面をつけた前に戦ったティムだった。ティムも同じ標的を狙って依頼を受けているのだ。それから数分、裏道で表から全く見えない場所までやってきた。
「(止まった。発煙を)」
「(おう)」
「むっ?げほっ、スモークボムか!」
「(俺の
「
「ガハッ!」
「やぁ、前に会ってから少し時間が空いたかな?」
「ティム!」
「知り合いか?」
「少しばかりな。前に会ったんだ」
「僕も同じ依頼主から受けて来たんだ」
「そうだったのか。お前、もしかしてこの裏稼業で稼いでいるのか?」
「いや、今回は特殊だよ。僕は今国の方で少しばかり働かせてもらってるんだ」
「なるほどな」
「じゃ、僕は報告に戻るよ」
「あいよ」
「彼奴、直前まで殺気を感じなかった。裏稼業向きの人材だな」
「ああ。本来なら少ないに越した事は無いんだがなぁ」
とりあえず仕事は終わった。依頼を直接クリアした訳では無いが、無事にティムが片付けてくれたから一旦ギルドに帰る事になった。
「やれやれ、失敗とは言い切れないが成功とも言えねぇな」
「まぁ良いではないか、依頼は結果的に上手く行ったのだから」
「そうだな」
「国に報告が行ってるだろうから、ギルドにはそちらから報告が上がるな」
「俺らはとりあえず帰ろう」
「仕方ない」