お待たせしました、よろしくお願い申し上げます
「マスター、依頼は成功……なんだがなぁ」
「ああ、この前の剣士ティムだね?こちらも君達が出立した後で聞いたよ」
「まぁそれは良いんだよ、無事に終わったんだから」
「ライサンダー、お前も依頼料を受け取らないと聞いたが」
「手を下したのが俺らじゃないからな」
「この仕事は実績勝負だからか」
「とりあえず無事に帰って来てくれて良かったよ」
暗殺任務は殺されるリスクを考慮せねばならないから、表のダンジョン探索依頼より危険がつきまとう。だから任せられる人物はそう多くはなく、アグニやライサンダーの様な強力な魔法や実力のある存在でなければ任せにくい。さて、早めに帰ってもらってたグレンダ達が待ち受けていたが、アグニとの共同任務と聞いてどんな仕事だったのか察しがついていた。
「お帰りなさい、ライ。アグニと仕事なんて暫くぶりじゃない?」
「まぁな」
「また裏方でしょ?」
「あいつとの共同任務ともなればな」
「殺しかぁ」
「今回はティムに横取りされたぜ」
「会ったんだね?」
「ああ」
ティムがどんな生活をしているのかまでは謎だが、今現在では国の方で仕事を請け負っているという。つまり、国も認める程の実力者と言うわけだ。さもなければ素性の分からない剣士は雇いにくいだろう。
「そうなんだ、国の方で」
「詳しくは知らんが、まぁ、そういう仕事に就いててもおかしくねぇ。あの腕なら雇われても不思議じゃないしね」
「ふぅん。そんな人が居るんだね」
「どうしたよ?」
「かっこいいなぁ!国に仕える剣士、すごい良い響き!」
「お前は進路をギルドに決めたんだろ?」
「そうは言ってもねぇ。よし、ギルドで実力つけていずれ国に仕える!」
「あはは、夢があって良いわね」
「ま、お前がそのつもりなら止めねぇよ」
夢を持って活動するのを応援するのもリーダーの務めだろう。将来を見据えているならそれが一番だと言える。その為にも彼女の実力を向上させるべきで、それを達成するには修行するかダンジョンに潜って経験を積むべきだろう。特に焦らない心の強さは実践を積む事が効果的だろう。
「よし、また仕事だ。ダンジョンに潜る」
「おお〜」
「今度は何が起こるっすかねぇ」
「さぁね。ダンジョンは何が起こってもおかしくない場所よ」
「今までもそうだったし、これからもそうだよね」
「さぁて、今回はどんなモンスターと出会うかねぇ」
「酒を楽しむ為にもね」
ギルドから片道1時間かかる場所へと出かけ、現地のギルドに挨拶してからダンジョンへと潜る。いつも通りの仕事だ。
「今回は砂地のダンジョンね」
「地属性を得意とするモンスターが多いらしいよ」
「足を取られて動けなくなるのは防ぎたいっす」
「魔力を足に薄く纏わせろ。それで楽に動ける」
「これも経験に基づく知識なんだ……」
「こればっかりはね」
魔導士が砂場のダンジョンに潜る時は魔力を足に纏って砂に足を取られずに済むようにして歩く。これはダンジョンにおける重要な技術だ。さて、いつも通りにギルド前の商売屋から道具を買い付ける。
「
「いらっしゃい」
「攻撃アイテム、これで買えるだけ」
「どれ……あいよ、毎度あり」
「何故急に?」
「今まであまり無かったわね、そこまで買い込むの」
「嫌な予感がする、それだけだ」
こういう時の勘は当たる。ライサンダーの経験に伴う危険信号が何かを感じ取ったのだと思われる。だから、彼の直感を信じて出来る限り支援しようとグレンダ達は決意を固める。買い付けた魔法武器を腰の袋へと仕舞い込んでダンジョンへと入り込む。
「暗い洞窟系と砂地系は目より耳が発達して音に反応するモンスターが多いぜ」
「音か。上下に普段以上に意識を向けなきゃいけないわね」
「気付いたら足音を追うように、なんて事もザラだから」
「ひえっ……」
「こ、怖がらせないでよ」
「常在戦場、その心意気でいろって事さ」
「そっすね」
裏仕事ほどではないが、時折死人や大怪我を負うくらい者が出るくらいにはダンジョン潜入にも危険はつきまとう。だから出来る準備や備えはしっかりしておきたい。『ゆめゆめ油断すべからず』、これは長らくこの業界にいる人間にとっては常識だ。その頃ダンジョンの内部では砂を泳ぐ少し大きめの魚の群と遭遇していた。
「砂魚の群れだ!」
「ウザってぇっす!」
「皆踏ん張ってよ!」
「硝子の剣、本当ならそんな丈夫じゃないってのに!」
「しゃあ!」
このダンジョンに住まうモンスターは集団で襲ってくる種類が普段より多い様に感じる。だから厄介に感じるし、魔力消費量が多いから体への負担が大きい。やっとこさやってきたのは第三階層、普段の倍の時間がかかっている気がする。
「3階層でこれかよ。ひぃ、きっつ」
「恐らくまだ先は長いわよ、ヘイル」
「ふむ、その前に中間地点の広間だ」
「え?もう?」
「ああ」
「あ、ホントっすね」
「何か潜んでるはずだ。全員警戒を」
シオンの音響魔法を使うべきか黙考する。相手も使えるとなると逆に混乱の元だ、だから慎重にならざるを得ない場面もある。だが、魔法を使う必要も無くなった。目の前に1人の女が牙を向けて立っていたからだ。
「グルル」
「あれは、ヴァーリエかしらね」
「ちっ、またアイツか」
「その
「魔法を無駄遣いできん」
「ふふふ、また会ったね」
「けっ、やってらんねぇ」
「さぁ、今回も楽しませてよ」
「来るぞ」
相手は
「そういうこった!オラァ!」
「甘い、甘ったるい!魔力の息吹だ!」
「そう来ると思ったぜ」
「(こいつ、潜り込んで!)」
「兄貴、俺に力を!でやぁー!」
「バハッ!」
「大きいダメージだね、流石だよ」
魔導アイテムが攻撃では大したダメージを与えられなかったが目線をそちらへ対処させる為に逸らす事が出来て有効活用された。その隙に兄より譲り受けた
「ぐ、ぐふ……その
「そうだ。お前の様な奴に効く」
「ふん、例え私に勝っても他にまだ格上は居るよ?」
「だからどうした?ほれ、かかってこいよ」
「言ってくれる。これまでにコピーしてきた魔法の一部、披露しよう。砂漠大波!」
「皆固まれ!
「振動で左右に逸らすよ。
「へぇ、やるね。ならば、下からはどうかな?」
「これは……」
「剣山っす!」
「このアイテムで壊しながら進む!」
「分かったよ!」
「……」
グリーシャの魔法に適切に魔導アイテムを使用しながら魔導を極力使わずに進んでいく。それをグリーシャの後方から静かに眺めている人物が1人、居た。その者は密かに懐刀に手を伸ばし、抜き取る。
「硝子魔法で攻撃するわ。硝子砲!」
「はっはぁ、コピーさせてもらう!」
「ちっ、厄介ね」
「無茶すんな、グレンダ」
「ええ」
「ほほう、詰めてくるか。ならば!」
「まさか……」
「あの魔法陣、音響魔法だよ!ここはウチが!」
「記憶から呼び出しやがるか、厄介だぜ」
「ただ、魔力の消耗は激しいけどね。よいせっ」
「はあっ!」
「ぐっ、凄え風圧っすね」
「同質の魔力の衝突では良くある」
魔力の衝突はなるべく避けたいが、場合によっては使わざるを得ない。アイテムを使って距離を詰めて
「あれは……」
「皆の衆、好機だ」
「何?貴方、何を言って……」
「せやぁ!」
「はい!」
「ぐっ!まさか背後に刀使いが居るとは!」
「流石だ、ティム」
斬る事に成功するが、少し太刀筋が浅かったのか外れてしまった部分があり、トドメを刺すには至らなかった。だからすかさずに体勢を立て直して声をかける。
「……お
「あいよ」
「ふん、同じ攻撃なぞ……はいやっ」
「飛んだ?」
「そうすると思ったぜ、ティム!」
「ああ!」
「
「「回転斬!」」
「ぐあっ!」
二振りの
「ぐぬぬ、この前より腕を上げたな」
「テメェもな。まさかカウンター喰らうとは」
「ここはまた退く」
「へっ」
「ライ!」
「また無茶して」
「済まない。だが助かったぜ、ティム」
「……それなら良かった」
「で、俺をお
「あ……」
「つい癖で口走ったんだろうな」
義父と呼ばれるにはまだ歳が若い。ティムはどう見たってライサンダーとそう歳が離れていない。兄と呼ばれるならまだしも、父と呼ばれるとは想定外だ。ティムも覚悟を決めたのか、話し始めようと思った。
「そろそろ、正体を明かすべきだね」
「ただの魔刀使いじゃねぇんだろ?」
「そうだね。まずは顔から明かすよ」
「お前、やはり女だったのか」
「そう、僕は……いえ、私は女だったの。その事も隠してごめんなさい」
「いや、何となく腕力から察しはついていたから、別に良いんだが」
「それで分かるのライくらいよ?」
「流石ね。それと、これからが本題なのだけれど……」
短い藍色の髪に美しい翡翠色の瞳、そして整った顔立ちをしているティム。ライサンダーの予想通り女性だったが、彼女が本題に入ろうとしていても少し戸惑っている雰囲気を醸し出していた。いずれ話すだろうと覚悟を決めていたものの、いざ話そうとすると緊張がまさってしまっている。
「あの、その……」
「言いにくい事かもしれんな。皆に帰ってもらうか?」
「いえ、大丈夫。すぅ、はぁ……」
「落ち着いたか」
「はい。私は、未来から来た貴方の義理の娘。名前はティアなの、お
「……え?」
「ええっ!?娘がライ兄さんに!?」
「ど、どど、どういう事っすか!?」
「驚くわよね、誰でも」
「し、しかも未来からですって?」
左様、彼女の持つその
「で、その
「これもお
「有り得ないわよ、だってライはマスターじゃないもの」
「確かに今の俺はただの一介の魔導士だ。ギルドマスターの座からは遠い」
「私のいた未来ではマスターの座に数年座していたと聞いてる。その後ギルドは解散、刀はお
「ほほう」
「私は貴方と結ばれる方、そして貴方自身を救う為に来た。それはひいては人類の為に」
「どういう事っすか?」
「何か事情があって、って訳だね?」
「ええ、話すわ」
ティアの話を統合するに、ライサンダーらのギルドのみならず、各地で有力な魔導士が大勢、短期間で死ぬ未来が近づくのだという。戦力バランスや人数の変動によることがきっかけなのか、モンスターと人間の戦力バランスが崩れ、未来は危険な状態に陥っている。そこで未来の出来事を変える為に過去へやってきたと。でも、どうやって来たのか疑問が残る。彼女は未来の道具で時空を超越する羅針盤でやってきたのだ。指定した時間軸に移動できるけど、この特殊な砂に魔力を集めるのに数年は掛かるから、そう簡単には使えないらしい。未来にはそんな便利な道具があって、知り合いにもらえたのが驚きだ。
「しかし、義理とはいえ娘が居るたぁな。驚きだぜ」
「貴方は奥様を亡くしてから私を引き取り、一緒に各地を旅してた。その方が亡くなってから魔法を使う機会が減ったし、ギルドを閉じた。しかも私が15歳の時に傷を負って……それからというもの、他のギルドにも影響が出ているの」
「そこを改善する為に未来から?」
「ええ。1人でも多くの人を救いたいの」
「ねぇ、ライの奥さんって誰?」
「ライの相手ならそれなりの使い手だもんね」
「気になるよ」
「えっ?いえ、私が引き取られた時には亡くなってたから誰かまでは」
「そ、そう」
「う〜ん、気になるなぁ」
未来を変える為に、戻れないかもしれないリスクを負ってでもこの時代にやってきてくれたのだ。それだけの覚悟を決めて過去から変えていこうという心を感じ取った。なんとしても未来を救う、その心意気に感じ入る物があったから、ライサンダー達も何としても力になってあげようと思ったのだ。
「よく来てくれた。辛かっただろうに」
「お
「お前の想いは無駄にしねぇ、絶対に」
「会いたかった、ずっと会いたかった!」
「なんか、想像より大変そうでしたね」
「聞く限りかなり荒れていた世界みたいだし」
「可哀想ね、そんな世界で暮らしてたなんて」
「これからは事が終わるまで一緒に居よう」
「ええ!」
「未来から来て歳が近かろうが、義理であろうが、お前は俺の家族。守り抜いてみせるし、悲しませる事はしないつもりだ」
ようやく若かりし頃の父親に出会えたのだ、涙が自然と流れ落ちる。ライサンダーは抱きしめて、落ち着くまで待ってあげる。数分間経ってなんとか落ち着いてみた。
「落ち着いたか?」
「ええ、お陰様で」
「よく見たらかなり可愛いし、世間的に見ても美人の部類よね」
「どんなお化粧してるんだろ?」
「えっと、物資が安定しない時もあったからしてる余裕がほぼ無くて。スキンケアくらいよ?」
「す、スキンケアだけでこの肌の良さ」
「嘘でしょ?飾り気のない美しさってやつ?」
「嘘じゃないけれど……」
「素材美ね」
「やれやれ、一旦帰るぞい」
「え、ええ」
女性陣が色めき立つ中、彼女らを説得してギルドに帰った。途中で電話で報告するよりギルドに帰って直接話した方が早かろうと、ティアを連れてギルドへと帰還を果たす。
「マスター、戻った」
「おお、そうか。む?そのお嬢ちゃんは?」
「私はティア・マーキュリー、ライサンダーお
「む、むむ、娘!?なんとまぁ、可愛い子だ事で」
「優しく強く美人。未来の俺にとって自慢の娘だっただろう」
「そ、そこまで褒めなくても。照れるわ」
「ふむふむ。とりあえずこのギルドで働きなさい。見る限り、それはギルドの至宝たる刀の様だしね」
「やはりそうだったか」
「国の方には連絡します」
さて、ギルドにたどり着いてひと段落ついた。早速ティアの実力を知る為に修行を兼ねた手合わせを申し込む。
「ティア、お前の剣術から色々と学ばせてもらうぞ」
「私の剣術がお
「ああ。国に信頼され、数々のダンジョンを潜り抜けてきた剣術に学べる事は多い。戦いを通じて様々な相手から学べ、それが俺の持論だ」
「それなら良いけど」
「しゃ、頼むぜい」