第15話、楽しんでくだされば嬉しいです
「赤紫色の竜、2体いるんだって?」
「ああ、少なくとも目撃した限りではな」
「コピーしてこちらの魔法を模倣してくるんです」
「鏡黒竜一族の名に違わぬ能力の様だな」
「厄介だぜ、数で押し切れればどれほど楽か」
「今は2チーム合同任務期間とはいえ、せいぜい10名前後。全員が攻撃向きとは限らないから、大変だな」
「全くです」
今回の一件でどんな敵と相対したか報告を兼ねて焼肉屋にやって来た。昔は同級生だった事からよく授業後の打ち上げに来ていたが、最近はこうしてバリスと飲み食いする機会も減っており、結構久しぶりに盃を交わす。ティアを連れて来たのもバリスに紹介する為だし、妹のシャラの話をする為でもある。
「ホルモンにタン塩、ハラミ、豚トロです。ビール3人前も追加です」
「ありがとよ」
「焼肉、初めてなの」
「そうなのか?」
「ええ」
「それじゃ、俺がオススメをじゃんじゃか頼んでやる」
「バリスは肉屋の長男だ。肉に関しては良く知ってる」
「お肉屋さんのお子さんが危険なダンジョン探索の魔導士に?」
「不思議がられるのも無理もない」
親の店を継ぐ選択肢もあっただろうが、バリスもシャラもダンジョン探索者やギルドの治療班に回る選択をした。その為、バリスの弟でシャラの兄に店の後継を任せているらしい。若干の後ろめたさから稼ぎを家に入れていると話しており、暇な時は手伝いもしているのだ。実家はそれなりに儲けており、街のあちこちにある飲食店に幅広く肉を卸している。この店もその一つだ。
「どれも美味しい……」
「だろ?俺ん家から仕入れてるからな」
「焼くのも上手だな。流石、肉を良く知ってる」
「命を頂戴する以上、美味しくいただくのが礼儀だ」
「そうですね。我々は彼らに生かされている」
「良い飯はいつも食えるとは限らねぇ、それを肝に銘じてほしいね」
「命を頂戴するとはそういう事さ」
「では、有難くもっといただきます」
「おう。っと、ティアの話を少し聞かせてくれよ」
未来においてどんな生活をしていたか、どうして未来からやって来たのか、ギルドに入るまでどう過ごしていたのか。話せる範囲で伝えていくと、バリスは少し表情を曇らせていた。うら若き女性が、たった1人の親と周りの人々を救う為に重責を負ってやって来たとは思わなかったのだろう。未来へ帰れない可能性を考慮して、帰り道をかなぐり捨ててまで過去にやってくるのは並大抵な覚悟ではあるまい。
「かぁ〜、苦労したんだなぁ。泣けるぜ」
「泣いてる場合か。彼女の様な人を産み出さない、それが俺らの使命だ」
「お
「ま、その通りさ。俺らは生を全うして未来を変えてみせる」
「俺らは簡単にくたばるつもりはねぇ」
「うん!」
「さ、じゃんじゃか食って力付けるぞ。どんどん頼みな」
「俺とバリスで全額持つ」
「当たり前だ、テメェの食った分は出せよ」
「けっ」
「仲良いのね、お
「ガキの頃からつるんでるからな」
小学校の頃からの友人だ、互いの手の内はよく分かっている。性格も付き合い方もその頃からさして変わっていない。喧嘩もしたし、一緒に悪さもした。だからこそ信頼しあえる関係に至っている。話題はこの場にいる3人に関わりのあるシャラに移る。
「妹は元気か?」
「当たり前だ、お前との約束だからな」
「それなら良し」
「聞く事、それだけで良いのか?大事な妹なんだろ?」
「お前を信用してるからな」
「はっ、そうかい」
「お
「ま、ギルドで信頼できる数少ない奴の一人だからな、互いによ」
彼ら2人は互いを信じているのがティアには少し羨ましいかんじだった。さて、互いのチームでの動きなどを話し、大いに盛り上がった。そしてティアのいた未来ではどんな感じだったのかを聞いて警戒心を高めて、少しばかり今後の戦い方の参考にしていくつもりだ。
「よし、帰るか」
「ティア、コイツの事、よしなに頼むべ」
「ええ、無論そのつもり」
「良い娘さんだ。大事にするんだな」
「ああ、そうするつもりだ。俺には勿体無いほど良い子だ」
「そうだな。ティア、頑張れよ」
「はい!」
バリスとの3人での食事会から翌日、体から毒が抜けてまともに動く様になったのだ。体がまともになれば今度は修行をするのが楽しみとなっている。1人で修行でもしていようかと思案していたら、隣にいたグレンダから提案がなされる。
「じゃ、私が鍛練に付き合うわ」
「済まんな、グレンダ」
「姐さん、昨日の発言、本気かなぁ?」
「でしょうね」
「そうでなけりゃあんな事言わんですぜ」
「昨夜何があったの?」
「あ〜、まぁねぇ」
「ティアになら言っても良いか」
昨日グレンダ達はライサンダーとは別で集まって呑んでいたのだが、そこでグレンダからとある発言が飛び出したのだ。長い付き合いのシオンの様に普段の様子からなんとなく察していた人間も居たが、シャラやヘイルはそれを聞いた時には驚いたものだ。その発言を簡潔にまとめると、グレンダはライサンダーに好意を寄せている。産まれた時からの付き合いだから、そういった感情があってもおかしくはないのだが。だが、ここまで伝えていないからライサンダーは果たしてどう思っているか分からない。
「なるほど、お
「半ば酒の勢いだけど、本音なのは間違いないと思うよ。思ってもない事、言うつもりのない言葉は出てこないだろうし」
「まぁ、古くからの付き合いだから、なんらおかしくもないけどね」
「兄貴も
「隣に居るのが当たり前だったし」
「でも、案外気付いてる可能性も……」
「どうだか」
「なんだ?何の話をしてんだ?」
「や、なんでも」
「そうか、なら良いが」
修行に適した場所へと移り、真正面から全力でぶつかり合っていく。相手の実力を良く知っているからこそ出来る戦い方だ。好いている相手だから、古くから隣にいた女性だから、そういったものは一旦横に置いておこう。やれる事は何でもやる。
「本気で行くぜ、全力を引き出せる様にな」
「勿論」
「おお、あの2人の全力ですかい」
「学べる事は学んでいこうよ」
「高度過ぎたら私達に使えることがどれ程あるか分からないけど」
「お
「大丈夫だって。いざってときはウチらで止めるから」
「でも……そうね」
「心配になるのは分かるけどね。2人とも、無茶は厳禁だからね〜」
「分かってる。そこら辺は弁えてるつもりだ」
全力、だが限界や相手のダメージを考慮して戦う事。その見極めは難しいのは良く分かっている。最悪の場合、シオンあたりが止めに入ってくれるだろう。さて、先手で動くのはリーダー・ライサンダーだ。両手を合わせ、錬成する仕草をすると、作り上げられたのは古武術で使われる打撃武器だ。
「まずはこちらから仕掛けようかね。ほれ」
「トンファーね」
「これ見りゃ攻め方はよぉ、分かるだろ?」
「撒いた硝子に突っ込んできたらやばいの、承知の上でならね」
「はっ、そりゃそうだな……つぇあ!」
「お、トンファーの側面から水銀の弾が」
「はいっ」
「硝子で防ぐのは、分かってるんでねぇ!」
「乗り越えた!」
「背後から来るのは分かってるのよ」
「へっ、鋭い硝子に化ける塊が配置されてたか」
硝子がばら撒かれたのなら、それを排除しながら進んでいくか、すり抜けていくのが定石だ。ここでは素早く切り抜けて発動する前に移動していく。後ろで弾けていく硝子片に気を配りつつグレンダへと打撃を加えていく。しかしグレンダも硝子分身の発動などで対抗していく。
「せいっ、はっ、とりゃあ!」
「(速い。でも、負けられない)はっ!」
「ぬっ……周囲にばら撒くか。これでは近づきづらい、良い判断だ」
「その前に結構打撃が当たったけどね」
「こっちも硝子が当たって傷が出来たがな」
「ふふ、こうして魔法を交えると、中学生時代を思い出すわね」
「確かにな。懐かしいね」
「さ、続けましょ」
近距離攻撃に対応するなら中・遠距離攻撃を放つ。これもまた一つの定石とも言える戦術だ。ばら撒かれた硝子片を有効活用する為に敢えて攻め込ませていた点もある。ここに光を当てて乱反射させるのがグレンダの得意な戦い方だし、これで幾つもの敵をライサンダーと共に屠って来た。しかし、手の内を知っているし、特徴も把握しているから上手くいくか自信がいまいちない。
「光を反射させる」
「あらよっと」
「それなりの密度の弾幕を避けるとは」
「やりますね、兄貴」
「何百回ダンジョンに潜ってるかを考えればさ」
「ま、そうとなりゃ経験で避けられるんだろうね」
「伊達に水銀王と呼ばれてないっすね」
「姐さんも万華鏡と呼ばれてるけどね」
「硝子片でも喰らいなさい!」
「痛え!」
「ちょっ、こっちにも飛んできてるよ!」
「伏せて。二刀・往ナシ崩刃」
「た、助かったぁ。ねぇシオン、止めなくて良いの?」
「まだだね。まだ本気じゃないし、制御できているから」
「あれで、ですかい?」
「そう。何年も2人を見てきてるから分かるんだ」
それからというもの、一進一退の攻防が続き、互いに少しばかりヒートアップしている。硝子を蒔けば、それを避け。突っ込んでくるならそれを往なす。手の内を20年以上付き合っているから把握している。だが、ライサンダーはなるべく傷を与えない様にあえて避けやすい様に戦っている様に見える。
「どうした、まだ本気ではあるまいに!」
「言ってくれるわね。その台詞、後悔しないでね!」
「流石に不味いね。恨まないでよ、『子守唄』!」
「うがっ……」
「眠っ……」
「全く、油断も隙もありゃしないっての」
「はぇ〜、あの2人が速攻で眠りましたぜ」
シオンの歌魔法は視力の次にかかりやすい聴覚に訴えかける魔法だし、巨体で人間以上に効きづらい対モンスター用に強化してるから、人間相手なら結構すぐ効くのだ。だから精神的にタフな2人でも速攻で眠りに落ちるという寸法だ。2人をこのまま鍛練場に置いておいては他の利用者の邪魔となるから医務室へ移動させた。
「ううん、うがっ?」
「起きた?」
「なんだ、さっきのはお前か、シオン」
「当たり前。兄さん達やり過ぎ」
「うっ……『子守唄』ね、これ」
「姐さんも起きたね」
「止めてくれたのね」
「そっ」
「熱くなりすぎたか」
とりあえず目が覚めたから医務室を本来使いたい人が使える様に空けておく。10分ほど寝ていたが、まだ眠気が襲ってくる。耐性のある彼らですらこうなのだ。
「ふぁ、眠い」
「強力だからな、シオンの歌魔法は。まだ若干眠気が……」
「ほらほら、2人ともしっかり。暫くしたら仕事に行くんだから」
「そうだったな。6日後に潜るぞ」
「準備に取り掛かりまっせ」
「じゃ、各自必要なアイテムや作戦を用意する事」
ライサンダーも普段は魔法道具屋でアイテムを品定めして、使える物を買ったり作戦の幅を広げたりと常に勝つ為に取れる手段は取っておきたい。そこでギルドのある街で散策していると、一つの魔法道具屋で見覚えのある背中を見かける。ヘイルだ。
「弾丸に爆弾、飛び道具は必須っすよねぇ」
「おん?ヘイルじゃねぇか」
「ああ、兄貴。奇遇っすね」
「弟さん、元気かい?」
「グリーシャ姐さん含めて皆様のお陰で稼げてまして。なんとか2人で暮らせておりますぜ」
「そりゃ良かった。弟妹を自分の手で守る。そこがシオンと同じ境遇だからな、心配だったんだ」
「ありがとうございます」
「良いんだよ。俺らギルドメンバーは兄弟みたいな関係だ、いつでも頼ってくれ」
「うっす。あ、そうだ、今から会ってみますか?」
「良いのか?」
「良いっすよ〜」
「有難い」
やってきたのはごく普通のアパートの一室だ。ヘイル曰くギルドの提供している寮の様な物らしい。さて、弟に会えるなら何を話そうか考えながら部屋へと入っていく。