今回もどうぞよろしく
「帰ったぜ〜」
「あ、兄ちゃん!」
「この子か。お前が戦って体張ってる理由は」
「そっすね。弟にだけは苦労はさせたくねぇんですわ」
「立派じゃねぇか。俺なんか自分の為に働いてるだけだしよ」
「兄ちゃん、この人誰?」
「俺のチームのリーダーさ」
「ライサンダーってんだ、よろしくな」
「よろしくね。オイラはフィルってんだ」
フィルとヘイルは少し歳が離れているが、彼らは大事な家族同士。フィルはまだ小学生で、今3年生だという。流石にまだギルドなどで働かせる訳にはいかないから、基本ヘイルが稼ぎを担当している。
「へぇ、まだ小学校に通ってんだな」
「そうなんです。だから俺が稼がなきゃ」
「辛い事を聞くが、親御さんはいつ頃?」
「弟が入学する直前だから、大体3年前っす。ギルドに引き取られて荷物の運搬やら何やらの裏方として働き始めたのもその頃でして。今年からダンジョン関連で働き始めた感じっす」
「そうか」
「ねぇねぇ、兄ちゃん、勉強教えてよ」
「了解だ」
「ふふ、良い兄弟だ」
兄弟の仲睦まじい様子を眺めながら、かつて兄のレイと過ごした日々を思い返していた。いろんな戦い方を教えてもらっていた事、ギルドでの仕事を教えてもらっていた事、様々な勉強を実践を踏まえて教えてもらっていた事など実に多種多様にだ。生きていたら何と言われていただろうかとふと思い返す事が今もある。
「フィルは魔法使えるのか?」
「火の魔法がちょっとね」
「まだ弱火程度っすけどね」
「小学生ならそんなもんだ。強力な魔法が使えたらヤバいね。ま、ネネって前例があるが」
「シオンの姉御の妹さんでしたっけ?」
「そうそう」
「ネネさんって、オイラと同じ学校に通ってんだ」
「ほほう、興味深いね」
「それより、勉強だろ?」
「はーい」
幼い弟に勉学を何とかして学ばせようとしている兄の姿はかつての自分と重なる。親が居たとはいえ、1番の教師は兄だっただろう。親御さんの居ない彼らにとってヘイルはまさしく親代わり。金も自分以上に入り用だろうから、どうにかしてやれないかと思案してしまう。金の有り余っている自分とは立場も違うだろうし、後輩のシオンと似た境遇だと思うと忍びないのだ。
「ヘイル」
「何でしょう?」
「今度の仕事から俺の取り分の1割を回してやる」
「えっ?でも……」
「必要な人に金を回す。暮らすのに何かと金が入り用だろ?」
「そうですが」
「俺の心配はいらんよ、結構稼いできたから。俺より使う必要のある人間に回すべきだ」
「……ありがとうございます。この借りは仕事にて返します」
「それで良い。だが、くれぐれも死ぬ真似だけはするなよ?」
「うっす」
一人で暮らす気楽な男より、家族を養う必要のある人に少しでも金を融通すべきだろう。だから比較的高単価の上級ダンジョンで稼いでヘイルやシオンに回してやるべきだろうという思考に至る。さて、ここで弟のフィルの宿題がひと段落ついた所でライサンダーから一つ提案が為される。
「よし、これで宿題終わりっと」
「少し魔法の練習をするかい?」
「良いの?」
「まぁな。指導には慣れてる」
「済まねぇっすね」
「良いんだよ。仲間の家族も仲間みたいなもんさ」
「良かったな、フィル。色々教えてもらいな」
「うん!」
「弟、か」
「どうしました?」
「いんや、俺にも家族は居るが、弟や妹に憧れてる部分があるんだな」
「兄貴……」
「済まん、暗くなったな。さ、少しずつ教えてくぜ」
「おお〜!」
彼の扱う炎の魔法は強く念じると強力に出るシンプルなものだ。それと、一点に集中させるのも大事であろう。まだ小学生では高温を出すのは難しかろうが、練習あるのみだ。まず行う練習方法として人差し指の先に火を集める感じであろうか。まずはそれをやってみようとなる。流石は上級常連の指導役、教えんのに慣れてるとヘイルも感心しきりだ。とはいえ、ライサンダーからしてみれば実践から学んだ経験を伝えてるだけなのだ。しかも嫌いとはいえ、勉強せねば身に付かん物もある。さて、フィルが力を込め始めると、少しずつ温度が上がっていっている感覚を覚えた。それからかれこれ1時間、鍛錬はここで終える事になる。
「ぷはー!」
「今日はここまでだな。毎日練習すれば上手く使えるさ。1ヶ月練習してみて慣れたら、今度は掌に範囲を広げてみよう」
「うん」
「自信持て。お前なら俺より強くなる」
「良かったな。このお兄さんは人を見る目はあるから」
「わかった!」
「よし、帰ろう」
「俺はここまでだな。大事にしろよ、家族をさ。そうだ、来週仕事だから」
「うっす」
それからしばらく後、ギルドにライサンダーのチームとグリーシャのチームが揃い踏みとなった。この日潜るダンジョンは決めてあり、伝達するのみとなっていた。ライサンダーの独断とはいえ、潜るに値するだけの根拠はある。
「集まったわ」
「ダンジョンに再びこの2チームで潜るぞ」
「ライサンダーさん、今回はどの様な場所へ?」
「ハシャかヴァーリエの目撃情報が上がっていた場所だ。地図で言えばここのダンジョンらしい」
「そこは、上級の……」
その中でも結構強いモンスターの多い所だ。強者揃いとはいえ、不安になるのが普通だ。実力をつけて胆力もついたヘイルですら大丈夫だろうか?と不安になっている。だが、これに関しては未知の領域、なんとも言えないのだ。
「あまり突っ込んで危険な真似はしない方が良いんじゃ……」
「だが、他のチームを危険に晒す訳にもゆくまい」
「う〜ん、どうすべきか」
「もしや、お
「どうした、ティア」
「私の懸念を少し伝えようかと」
曰く、ライサンダーの命に関わった傷を負わせた相手がヴァーリエやハシャの様な小翼竜種ではないかと。曰く、爪痕に魔力の残渣が体に残っていたと。曰く、それはこの前会った時によく似た形状だった事で確信に近づいたと。親を殺したであろう相手なら油断大敵だ。
「なるほど、俺の死と関係ありそうな相手って事か」
「本来なら止めるべきだけど、どうすべきかはお
「ふむ……」
「どうする、ライ?」
「まずはコピーして反射する力に対抗する術を探ろう。視界外から近距離魔法をぶっ放せば行けるらしいのは前の戦いで分かったが」
「ああ、グリーシャさんの魔法っすね?」
「そう。拳を交える戦法なら行けなくもない」
「でも、それ出来る人限られてない?」
「確かに。私も慣れてないし」
接近戦方に慣れているのはライサンダーにグリーシャ、シオン辺りだけだ。魔法は本来近接拳法の苦手とする距離を遠距離攻撃で以って補っているのだ。拳法に組み合わせる接近して発動する魔法でなければ慣れていないのも致し方ない部分がある。少し修行期間を設けるべきか迷っているが、そんな時間は無いだろうとグリーシャに止められる。後は武器を使って補うしかないだろうかと思う。
「しかしなぁ」
「シオンの姉御、グリーシャの姉御の魔法と兄貴なら行けんじゃねぇっすか?」
「そう簡単に言うけど……」
「物は試しって言いますぜ」
「そうねぇ、やってみましょうよ。苦手な私がこう言うのもアレだけど、一番頼れるのはティアの魔刀じゃない?」
「私が?」
「そう。物理力に頼るなら、それが一番」
「ライ、どうするつもり?グレンダの言う通りにする?」
「仕方ない、今回は急拵えだが俺を含めた4人で先鋒を務める」
「おお〜」
変化の激しいダンジョンでは昨日まで通じてた戦法が通じないなんて珍しくない。急拵えの戦術はダンジョン探索者では良くある。だから慣れている。その頃、ダンジョンの奥深くではヴァーリエが傷を負の気で癒して終えていた。
「くくく、少し癒えた」
「ヴァーリエ、行くつもりか?」
「あいつらは邪魔だからね、狩れる内に狩るべきだよ」
「止めはしない。戦力維持の為にも生きて帰れよ?」
「はいはい」
竜族は滅亡の一途を辿っている。目的を達する為には1人でも欠かせないだろう。家族だからと心配しているわけではなく、お互いをただの戦力としてしか見ていないが、それがお互いにとってごく自然な感覚なのだ。家族としての情など過去の大戦に置いてきたのだ。そのヴァーリエが向かうのはライサンダー達の向かったダンジョンだった。
「ここだ。ここにいると聞いているが、果たして……」
「そう簡単に行くかなぁ?」
「そっすよね、態々待ち構えますかね」
「こればかりはやってみなきゃでしょ?ねぇ、ライ」
「そうそう、グレンダの言う通りよ」
「シャラさんまで。お
「……よし、行くぞ!」
「決断力の速さ、見習うべきかしら?」
「リーダーも出来ているのでは?」
「まぁ、多分ね」
グリーシャとライサンダーが先導する形で目的地となる最奥部まで目指す。ここまで凶暴なモンスターしか現れていないのはヴァーリエが弱いモンスターを狩っているからだろうか、不明な部分も多いが進んで情報を集めて行くしかない。
「ここまで三階層目で出現無しっすか」
「上級なだけあってモンスターは凶暴。ここに潜入すれば人間に追い付かれないと考えてかしら、お
「そうだろうな。痕跡を追うぞ」
「この奥へと続く人間の様な足跡、これかな?」
「分からん。でも裸足な辺り、可能性は大だ」
「これを追っていきましょう、ライサンダーさん」
「リーダー、慎重に行きましょう」
「合同任務なら注意して当たるべきです」
「そうだね」
奥へと進むと、特殊なモンスターの痕跡が増え始めていく。赤紫の特徴的な毒々しい体毛や鱗、爪痕などだ。まだ落ちていったばかりの物で新鮮だ。間違い無いだろう、あの宵闇の暁竜の異名を持つ鏡黒竜一族の物であろうし、そうとなれば、やはりここに留まっていると考えられる。
「だんだんそれらしき鱗や体毛が出始めましたね」
「グリーシャさんはどう判断します?」
「進もう。ライサンダーさん、それで良いですね?」
「ああ、それしか道はない。シオン、済まんが音を反響させてレーダー代りにするぞ」
「あいあい」
進む事数階層、目的地に到達した。目の前には人影を確認できた。そこに居たのは目指していた相手、鏡黒竜一族の1人だ。
「見つけた……」
「やっとか。どちらかと思えばヴァーリエか」
「また会ったね。今日こそ逃げずに勝負しようか」
「調子に乗るなよ、宵闇の暁竜」
「まずは私から。二刀居合、絶華!」
「ふんぬぬぬっ!」
「止めた!?」
「出来るだけ至近距離から仕留めろ、行くぞ」
「はいっす」
「皆の衆、ヴァーリエを仕留めにかかるぞ」
「はい」
「道は開くっすよ」