よろしくお願い申し上げます(リンゴォ風味)
「おう、マスター」
「おっ、ライサンダー達か。良く帰ってきた、研究の報酬は明後日には渡せるってさ」
「そうか」
「君達には負担を強いている事を謝らねばなるまいね。いつも先発隊として情報収集を任せて申し訳ない」
「私達が役に立つならそれで大いに結構よ」
「ま、とりあえず今日は休ませてもらうぜい」
「うんうん、それで良い。今はゆっくり過ごしなさい」
いつもならここでギルドの酒場や近くの飲食店で、無事に帰還した事を祝う儀礼として飲み食いをするのだが、これは強制ではない。基本的には行われるのだが、それぞれに事情があるからだ。
「俺は酒飲んで帰る。お前らは?」
「妹が待ってるから先帰るね。ご飯のおかずを作らなきゃだし」
「私もすぐ寝たいわ」
「ああ、じゃ、ここで解散だな。また後日に儀礼をしよう」
「お疲れ様でした」
ギルドの酒場でも充分美味しい酒と飯を食らえるのだが、今日は外の酒場な気分なのだ。街中をぶらつきながら目星をつけようと歩いていると、知り合いから声をかけられた。同じギルドで働く別のチームのリーダー、グリーシャだ。
「どこで飲もうかねぇ……」
「ありゃ、誰かと思えばライサンダーさんじゃないっすか。一緒にどうです?」
「グリーシャか」
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ」
「お前は食う量が半端ないからな、出費がよ」
「自分の分は自分で出しますから」
「分かったよ。相席させてもらうぜ」
「どうぞ」
お互い上級のダンジョンで良く潜る事もあるベテランだ。互いに新しいメンバーを連れてダンジョンに連れていく事も良くあった。だからチームがコロコロ変わる事も珍しくないのだ。事実ライサンダーも今のチームになるまでにグレンダ以外は違うメンバーとなっているのだ。
「今どうだ?チームと上手くいってるか?」
「お陰様で。まだ多くは組んでないですが」
「それ聞いて安心した」
「ライサンダーさんこそどうなんですか?」
「良いチームだからな、今のところ目立った問題は無いぜ」
「あたいの前のチームは良い奴らだったんですが、癖の強い奴が多いですからね。羨ましいですよ」
「はっはっ、そうかい」
こればかりはリーダーにならなければ分からない苦労だろう。ギルドに入る人間は金や名誉のために入る者が多く、癖のあるメンバーが大半だ。だからそれを統率するのは一苦労なのだ。
「ほい、ビールのおかわりとツマミです」
「いただこう」
「ライサンダーさん、未だにその
「兄貴、レイの形見だからな」
「『静かなる刃』、『霧中斬士』、色々呼ばれてましたね」
「冷静な仕事人だった。兄貴亡き今も俺の憧れだな」
「敵として見かけたらまず逃げろ。それが鉄則でしたね」
「それほど恐れられていたんだ。無理もない、戦場で会ったら殺されるか重傷を負うくらいの相手だったらしいし」
「だけど、味方や市民には優しかった。
ライサンダーの兄のレイはギルドきっての実力者だったのだが、仕事中に仲間を庇って亡くなったという。こういう事はダンジョン探索ではしょっちゅうだ、彼も覚悟の上だろう。仲間の話では小翼竜と思しき相手だったと聞いている。彼の持ち合わせていた
「近くダンジョンに潜る。どこかでまた会うかもな」
「その時はよしなに頼みますよ」
「こちらこそ」
「グレンダさんとシオンさんにもよろしくお伝えください」
「ああ、しかと聞いたぜ」
「じゃ、あたいの分の飲食費です」
「うん、確認完了だね。確かに受け取った」
「また飲みに行きましょう。今度は互いのチームを交えて」
ここでグリーシャとは別れてそれぞれ帰路につく。ライサンダーも歩く事十数分、ようやく家の近くまでやってきた。
「ふう、やっとこさ帰ってこれたか」
「……ライサンダー」
「うぉっ、びっくりした!……なんだ、アグニか。俺に何か用か?」
「マスターからの依頼だ。次はここだとさ」
「どれ」
「詳しい事は聞き及んでいない。直接聞く様にな。では」
「けっ、相変わらず闇に溶けるのが早い事で。しかし、新規ダンジョンとはね。2人に相談するか」
アグニはギルドで働く裏稼業の情報屋だ。潜入や暗殺に長けた魔法を扱う男で、各地の人間が彼の扱う情報を欲しがっているのだ。彼からマスターが依頼を通したがっていると聞き、翌日グレンダ達に通達した。彼女らの協力が無ければ新規ダンジョン攻略は難しかろう。無理強いは極力しないのが彼の方針なのだ。
「えっ?新規ダンジョン?」
「マスターの頼みだと。もしかしたらグリーシャあたりとの共同任務となるやもしれん」
「ウチは大丈夫だよ」
「確かに私達はよく先発隊を請け負ってるものね。良いわよ」
「了解。じゃ、マスターに詳しく聞いてくるよ」
マスターはギルドのカウンターの前にある特等席に座している事が多い。今回の様に依頼してくる事は珍しくもないし、ライサンダーのチームに情報収集を依頼してくる事は多々ある。だから慣れたものなのだ。
「マスター、今回の件、詳しく聞かせてくれ」
「アグニから依頼の件は行っているね。何、そう複雑な話じゃないさ。新しく出たダンジョンに情報収集へと赴いて欲しいって事だよ」
「場所はシェラか」
「あそこは15年ほどの周期で内部構造の大きく変わったダンジョンが現れている」
「じゃ、また変わった構造になったと?」
「そうさね」
「面妖なものだな、ダンジョンはよぉ」
「現れ始めて三百余年、まだ不明な場所も多い」
人竜戦役が切っ掛けならば竜の事を調べれば少し分かるかもしれないが、最早伝説の域になるからなかなか研究が捗らない。だからダンジョンを徹底的に調べる他ないという訳だ。さて、今回行くダンジョンは沢が近いからそれに沿った属性になると踏んでいる。
「ここの地図にあるダンジョン、今まではよく水が流れていた。今回どうなるか分からんが」
「ふむ、水や水を利用する樹木の魔法を操る奴が多そうね」
「ウチの魔法が効くと良いけど」
「ま、なんとかするしかねぇさ」
「ライサンダー、ちょっと良いかね?」
「どうした?」
「グリーシャと新人3名を同行させるよ」
「グリーシャはまだしも新人は無理じゃねぇか?このダンジョンはよ」
「経験を積ませる為だね」
「私達で援護するから」
「……仕方ねぇ、やらせよう」
確かに今回のダンジョンは中級レベルだ。まだ組んで日の浅いチームに行かせるのは危険だ。だからこそ今回は経験豊富なライサンダー達に同行させようと考えているのだろう。早速グリーシャ達のチームがやってきて即席混合チームの結成だ。
「やあやあ、ライサンダーさん。グレンダさんとシオンさんも」
「新規チームだったんだね」
「先週末からです」
「まだ数日ってとこか。ウチの音魔法、歌えば身体能力を強化出来るからね」
「頼らせてもらいます。ほら、挨拶だよ」
「う、うっす」
グリーシャのチームの新人達は合計3名。彼らと軽く挨拶を交わしていく。魔法属性と名前を伝えていく。毒使いのグリーシャの事はさておき、新人達に先に伝えてもらう。
「双丁魔導銃の使い手、ヘイルっす!兄貴達の力になりたいっす!」
「マリーです。錬成魔法が得意です」
「水操作のワーズ」
「おう、よろしくな。俺らは……」
「
「知ってたか」
「有名ですよ、探索者の間では」
「実力は他の奴らの方が上だと思うんだがな」
「それより、向かいましょうよ」
「おう。っと、その前に。これを飲んでおけ。俺の魔法を吸っても平気でいられる魔剤だ」
「あたいの魔法の耐性をつける薬もどうぞ」
ライサンダーの魔法とグリーシャの魔法はかなり危険で少しでも対策しておかねば体が動きにくくなるし、グリーシャに至っては死に至る可能性が高い。それだけ毒魔法と毒を内包する水銀を扱う魔法は危険なのだ。さて、辿り着いたダンジョンが内部構造の変化を起こしている可能性が高い。今回の探索で変化の傾向を探れればと考えている。
「前回来た時と似てますね、水の出てる所とか」
「本当に新しくなってるのかしら?」
「どうなんだろ」
「調べるぞ。精霊達はどの場所でも気紛れらしいからな」
「精霊信仰っすね。教科書で読んだっす」
「そうだね。四大精霊の元、様々な精霊がダンジョン内外に住まうらしいから」
「四大精霊ねぇ。彼らは自由の権化の様な存在らしいけど」
「彼らに関しては会った人が少なすぎて情報が錯綜しているな。出会った人間に力を託したと伝説に残っているが……」
「確かに」
「精霊達は何かを見極めようと、そういう事ですか、ライサンダーさん?」
「恐らくな」
雑談も良いが、まずは内部の情報を少しでも持ち帰る事だ。植生、虫や小動物を含めた生態系、モンスターの属性傾向、地質。様々な情報が今後の探索に役立つだろう。それに地図を作成すればより一層便利になるだろう。だが、前回と結構様変わりしていて探索も一苦労だ。精霊の気まぐれで地形が変わるなんてザラだ。
「む?」
「地図と違いますね」
「やれやれ、やはり変わってたか」
「精霊は実在する、その証左かしら」
「こうも変わってると信じざるを得ないよね」
「どうしやすか、兄貴」
「その呼び方は……ま、個人の自由か。俺らの役目は前後の変化を探る事だ。調査しながら必要があればモンスターの狩りをする」
「うっす」
「ヘイルだったか?お前、良い目つきだ。普通新人ならもっと無謀な目をするか、恐怖に飲まれるが……無謀じゃあないし良い意味で覚悟が決まってるぜ」
まだギルドで働いて日が浅いというが、目からやる気が漲っている。しかも他2人含めて引き際を弁えているとグリーシャが話してくれた。更に奥へと話しながら進んでいくと、次第にライサンダーの口数が突如として減って黙りこくった。
「……」
「どうしました?ライサンダーさん」
「感じるか、グリーシャ。奥で蠢く何者かの気配ってのを」
「そ、そうなんですか?あたいにはまだ何も」
「間違いない、何か強者が居る」
「何でか分からないけど、ライのこういう勘は当たるのよね」
「生命としての危険信号か何かだろう」
「ライ兄さんの十数年にわたる戦闘の経験からだろうね」
「死の溢れる中に生を実感する生き方だったからな」
中級ダンジョンの奥の方に何か強者の空気感を感じ取った。そこまでの間に魔力を温存しながら進み、出来るだけ負担を減らしながら進む。特に新人達には無理をさせられない。しかし、そう簡単にはいかないだろう。
「せいっ」
「よっ」
「兄貴、ここモンスター多くないですか?」
「中級以上だとこれが普通。彼らと組むとこういうダンジョンは良くあるよ」
「は、はぁ」
「魔力のペース配分は重要だぜ。10階層以上なんて珍しくないからさ」
「ここが中間地点だと前の地図では書いてあるわね」
「少し休息を取るぞ」
「はい」