今回もよしなに頼みます。
「ヘイルをチームに入れたい?あの、一体ダンジョンで何が……」
「一応本人の希望だし、彼なりに何かダンジョンで得たものがあったのだろう。だが、この提案を受け入れるかどうかはお前の判断に委ねるつもりだ。あくまでも今のリーダーはお前だ」
「別に構わないですよ」
「良いのか?」
「ま、若手育成は分担すべきですしね。相性もあるだろうし」
「分かった。ありがとな」
「良いんですよ、これくらい」
「おや?何か話し合いかね?」
「ああ」
マスターには今回のダンジョン探索で起こったチーム編成に関して具申しておこうとなった。ヘイルを今のグリーシャのチームから自分のチームへとチェンジする事の是非を念の為に確認しておこうとなった。ギルドでの緊急時の編成に影響してはマズいだろうと考えての事だ。グリーシャの言っていた通り、新人育成の事も考慮せねばならない。グリーシャは快く引き受けてくれたが、色々と考慮せねばならないマスターの立場も窺わねばならない。
「ってな訳。大丈夫か?」
「良いよ。基本そこら辺はリーダーたる君と彼女の判断に任せてるし」
「OK」
「ただし、少しずつ経験を積ませてあげる事、それが条件だよ」
「了解。俺らに出来る事ならするさ」
「助かります」
「よろしくお願いします、兄貴!姉御達も!」
「おう」
これで正式にチームを再編し、必要な書類にも記載しておいた。これからはヘイルもライサンダーの指揮下に入る。そこで、新人参入と恒例行事を兼ねて飲み会を開く事となった。互いを知り、それぞれの性格を理解する事も兼ねている。
「さて、今度こそ酒飲みに行くぞ」
「勝ちって訳じゃないけどね」
「良いじゃないの、新しいメンバーも加わったし」
「良いんすか?」
「いつもこうなの。『ギルドに無事帰還したら酒を酌み交わす』、これが私らのチームの儀礼なの」
「何か理由でも?」
「願掛けだってさ、兄さん曰く。皆で宴会をする為に全てを賭け、精霊の加護を受けられる様にしたいって」
「は、はぁ、そうっすか」
皆で飲む時はいつも行っている店で飲む。そこなら気兼ねなく、安く沢山飲めるのだ。ギルドから徒歩数分、皆が飲んでも帰れる場所にある。ヘイルとシオンが弟妹の世話を終えてからでも間に合う時間を選んで後々集まる事となった。
「おう、親父さん」
「来たな、
「俺ぁもう23だぜ?坊主はねぇだろ」
「オイラからしたら餓鬼には変わりねぇよ」
「相変わらずね、店長さん」
「なんだ、お前らも一緒か」
「ここの常連なんすね」
「まぁね」
「お、そっちのお前は新人かい。ようこそ、法皇の酒場へ。オイラは店長のリジーだ」
「え、ええ。ヘイル・マックイーンです、どうぞよしなに」
「おう」
軽く挨拶を済ませていつもの席へと向かう。ここで飲み食いする物は粗方決まっているから注文も楽なものだ。ライサンダーは彼の好きなウィスキーのロックだ。ビールも嫌いではないが、ここではいつもウィスキーだし、グレンダ達もいつもビールだ。だから店に来て数分で彼以外の酒も運ばれてきた。
「はいお待ち」
「お、ありがとな」
「お前はビールで良かったか?」
「ええ、はい」
「ツマミはこれらで適当に食っときな」
「あいよ」
「おお、美味そうっすね」
「ここの飯は絶品だからな」
まずは乾杯をして酒を飲み、杯を空けて次々に酒を頼んでいく。そのついでにいつもと同じメニューや、ヘイルの好みの食べ物を頼んでいく。今日の主役は彼だ、彼に飲み食いのペースを合わせていく。味の濃いもの、淡白なもの、多種多様な酒場飯を食らっては酒を飲む。
「煮魚も焼き鳥も豚の角煮も揃ってる、うん。最高」
「酒のつまみにはもってこいだな」
「結構値段はお手頃ですね」
「そうでもなければ庶民向けの酒場はやってけねぇよ、なぁ坊主」
「俺に経済や経営の話を振っても仕方ねぇだろうがよ」
「何においても勉学は必要だぜ?『日々是勉学也』と言うだろ?」
「ふふ、ライは昔から座学は苦手だものね?」
「学校が嫌いだったな。学校に行きがてら潜ってたダンジョンの方が実りがあったぜ」
学問より実践を好むタイプだったライサンダーは高校卒業と共に本格的にダンジョン探索を繰り広げていたが、それより以前からダンジョンには潜っていた。皆が幾つの時からダンジョンに潜っていたのかとヘイルから問われて、皆それぞれのタイミングがあった。基本初めてのダンジョンは中学か高校の授業の一環だ。
「皆さんはいつ頃からダンジョンに?」
「俺は14歳から、つまりは9年前くらいからだぁな。最初は授業の一環でね」
「同じ頃ね、私も」
「ウチは10から。活動開始が2人が3年目に突入した頃だけど」
「シオンの姉御、だいぶ早いっすね?もしかして、俺と同じくご家族か親戚の方の為ですか?」
「自分と妹の学費と食費を捻出する為にね。学業の傍ら兄さん達のチームに加わってって感じ。親が亡くなったのがその頃だから」
「大変でしたね」
「妹がまだ小さい頃だったから、兄さんや姐さん、ギルドにはかなり世話になったよ」
「良いんだよ。俺らは家族みてぇなもんだろ?」
「そうそう。同じギルドのメンバー同士だし、魔導士は相身互いというでしょ?」
「ありがとう」
同じギルドの身内同士でもそうであるし、商売敵と普段は競い合っている他のギルドのメンバーとも情報交換や物品の交換は、必要とあらば積極的に執り行っている。これも人間が生き残るには必要な事だ。かつての人竜戦役の経験から同じ人間同士で争っている場合ではないと理解しているからだ。さて、楽しく酒を酌み交わしていたが、ライサンダーが何か異変を察知して振り向くと、グレンダへと向けられたナイフを空中で止めてみせた。
「むっ?」
「どうしたの……うわっ!」
「危なかったな。で、ナイフなんて何故飛んできやがるんだ?」
「空中でキャッチするとは……恐るべき反射神経っすね」
「この速度なら難なくな」
「テメェ!今何つった!」
「もう一度言ってやるよ、このスカタン!」
「なんだ、喧嘩か」
「もぉ、酒場でやらないでよ」
「ったくよぉ」
振り向いてみるとそこには喧嘩している2人の同じギルドの魔導士と思しき男達が言い争いをしていた。荒くれ者の多い魔導士なら日常茶飯事だが、ここは一般市民も利用する酒場。巻き込まれて怪我人が出れば大騒ぎになりかねない。店内で争わせて怪我人が、なんて事になれば街に世話になってるギルドの存続に関わる事態となりかねない。
「おい、ここで喧嘩するな。他の客の迷惑だ」
「外野が口出ししてんじゃねぇ!」
「別に外の決闘場でやる分には構わねぇってんだ。店の外でやんな」
「けっ」
「おい、行くぞ。テメェをボコボコにしてやる」
「やってやろうじゃねぇか。あんた、どちらかが殺す前に止めろよ」
「しゃあねぇ奴らだぜ。俺の分の飲み代は置いておく、会計は任せた」
「はいはい」
街にはこういった事態に備えて、合法的に勝負や拳を交えた修行を行える場所として決闘場が各地に設けられている。国の中には大きな闘技場もあり、これは国王の好みが反映されているとも、国内の鬱憤を少し解消させる為に作られたとも言われている。
「さて、決着はどうつける?」
「降参するか明らかに負けと認められる場合。それか審判が止める状況だな。どうだ?」
「それで良いぜ」
「殺す気満々の攻撃や急所への攻撃は禁止だ。行なったら即止めるつもりだ」
「ああ、そうだな」
「じゃ、始めようか。どっちが強えかはっきりさせようぜ」
「(こいつら、確かギルドに居たな。なんかチーム内の喧嘩っぽいぜ)」
「よっしゃ、今日こそ決着つけたるわ」
「それはこちらの台詞じゃ大馬鹿者が」
「何してんのかなぁ、あの2人は!」
「あんた、同じチームなのか?いつもああなのか?」
「は、はい。実力は拮抗しているし、仕事中は上手く連携しているんですが」
「それ以外は犬猿の仲って感じか」
「そうなんです。仲裁するのはもう、大変で」
「ご苦労さん」
「全く、私の身にもなれと」
「決着がつけば話は簡単だろうが、拮抗しているなら……」
「多分相打ちかと」
「だよなぁ」
話にも出ている通り、喧嘩は魔法を交えて行われたが、実力は拮抗しているからか中々決着がつかない。このままでは2人とも倒れるまで終わらないだろう。面倒になったのも相まって仲裁に入る。
「おい、そこまでそこまで」
「こいつ!」
「俺らの真ん中に!?」
「彼は水銀王、私達のギルドの上級者よ。中級メンバーくらいなら止めるのなんて難しくないわよ」
「こいつが」
「通りで」
「俺の事は良い。それよりもだ」
「同じチーム同士仲良くしろと?」
「いんや?喧嘩したけりゃすりゃあ良い。そうして競い合って磨かれる腕もあろう」
「……」
普段は喧嘩ばかりでも仕事はそれでも上手くいっているのだろう。ならばそれで良いのだろう。この職、成果を上げるより生き残る事が最優先だ。その実力が磨かれるのであれば多少の喧嘩は良いじゃないかと説く。全く小言や喧嘩、対立の無いチームの方が珍しかろう。喧嘩出来る材料があるっていうのは互いに良く見えている証拠だ。その言葉を聞いて何か文句でもあるのかと身内のグレンダに問い詰められてしまう。
「ま、何はともあれ生きろ。俺が言いたいのはそれだけだ」
「お、おう」
「そうか」
「じゃあな。グレンダ、行くぞ」
「はいはい。言いたい事はたっぷりあるから」
「うげっ」
「変わった男だ」
「確かに。だが気風の良い男だ」
「実力者って変わり者が多いって聞くよ」
これで一件落着。明日は初級のダンジョンに潜る事になった。グレンダ曰く、喧嘩の仲裁どころか煽ってどうするのかと文句や愚痴が溢れる。
「あ〜あ〜、聞こえねぇなぁ」
「あ、あはは……仲良いっすね、あの2人」
「産まれた頃からのスーパー幼馴染だってさ。親御さんがお隣らしい」
「じゃあ二十数年間も一緒って事っすか?」
「そっ、いっその事付き合えって感じ。人前でイチャイチャしちゃってさ。アレも夫婦喧嘩かっての」
「はぇ〜」
こんな夫婦漫才のような空気に付き合わされるシオンは、またかと愚痴を溢していた。面倒だからここで止めておかなければ長く続くだろう。
「2人ともそこまでだよ」
「うい」
「今日はここまでにしてあげるわ」
「まだ言い足りねぇのかよ……」
「無論よ」
「ったくよぉ」
「文句の一つや二つ、あった方が普通なんでしょ、兄さん?」
「そらそうだがよぉ」
「まぁまぁ、ここは落ち着いてくださいや」
「そうだね」
「助かったよヘイル。この借りはいずれ返すからさ」
「良いんすよ。母ちゃんと父ちゃんがこういう感じですから」
「じゃ、また明日な。愚痴は後で幾らでも聞いてやるから」
「はいはい」
「ありがとうございました」
「じゃあね」