今回も是非ご覧いただければ幸いです
「ここだ」
「近場ですね」
「ギルドの近くは探索の簡単な物が多いというからね」
「逆説的に簡単なダンジョンの近場にギルドが出来たとも言えるわ」
「おや、ライか」
「なんだ、魔法道具屋の
「ギルドやダンジョンの近くで商売するのが俺のやり方さ」
「確かにそうだな」
各地のダンジョンの前には移動する魔法道具屋の露天商の人々が店を構えるのが当たり前の光景となっており、必要な物資が急に出た時などに重宝しているのだ。しかも使いやすいアイテムが多いし、手ぶらで来てもある程度の品揃えがあるから移動時に楽だというメリットがある。
「さ、何か買っていくかい?」
「そうだなぁ」
「なんか、どこかで……」
「ダンジョンに良く現れる露天商の1人よ」
「探索者相手によく商売してるんだ」
「はぁ、なるほど」
「ヘイル、普通の銃用の予備弾丸は居るか?」
「お、良いのがありそうっすね。こりゃ買いですぜ」
必要な物資を買い込み、これで準備万端だ。初級のダンジョンだが、こういうダンジョンこそ落とし穴が潜んでいるとよくダンジョン探索をしている人は感じている。
「早速入るぞ。ゆめゆめ油断するなよ?」
「分かってる。初級の時ほど足元を掬われない様にしなきゃね」
「高難度モンスターは難易度に関係なく出てくる可能性があるから」
「なるほど、そういうもんなんすね」
「モンスターはダンジョンの内外から発生するからな」
「外からってのはまぁ、何となく分かるんですが、内ってのは一体?」
ダンジョンの負の気が集まって、死体や飛び散った血から発生するっていう事らしい。負の気は精霊達が関与していると聞いた事がある。古の人竜戦役の竜の遺体を少しずつ分解していると言うし、ダンジョンで散ったものたちの遺体も分解しているとか。散ったものの血や魔力によって性質が違うから、ダンジョンが少しずつ変わっていると考えられている。
「まずは第2階層まで来たな」
「ここまでは特に問題ないわね」
「その様だね」
「き、緊張するっす」
「全6階層らしい。まだ先はあるぜ」
「急がず焦らず、だね」
「落ち着いて行けば成果は出るから」
「何度か来てますが、やはり緊張しますぜ」
「慣れ過ぎはあかん、油断大敵だ。緊張感があった方が良い」
ライサンダーも未だに探索で緊張するとか。ベテランですらそうなのだ、新人のヘイルに緊張するなというのは無理がある。道中何が起こるか分かったものではない、常に緊張感を持って警戒しながら職務を全うするのが探索者の基本だ。
「グルル」
「中型のモンスター出現だな」
「私から動くわ」
「援護するよ」
「後方から攻めますぜ」
「後ろを気にせずひたすらに進め、グレンダ」
硝子の刃を空中に浮かべ、先手を取って飛ばしていく。更に氷柱の様に空中から落とす戦法に出るが、うまく避けられる。隙を見つけては突っ込んでくるモンスターを牽制する様にヘイルが弾丸を撃ち込み、グレンダの立ち直る時間を作り上げていく。
「ゴアッ!」
「硝子片をばら撒いてやる」
「グッ」
「なるほど、動けば刺さる地雷の様な物。そういう訳っすか」
「そこに光を当てれば。はあっ!」
「ギャウ!」
「反射っすか。器用っすねぇ」
「だからチーム組んでんだよな。俺らも行くぞ」
ライサンダーら後方で控えていたメンバーも本格的に攻撃へと切り替えていく。硝子の破片で動きづらくなっているモンスター目掛けて魔法を当てていく。
「散らばった硝子、使わせてもらいますぜ。おらよ!」
「跳弾か。やるね」
「ブフゥ!」
「突風か」
「ル〜ララ〜、ルル〜」
「グル?」
「音響魔法と歌魔法の合体か」
歌を乗せた音を壁に当てながら全体に響かせ、モンスターの居る位置まで届いた事を確認してから衝撃を与えてダメージを与えていく。更に歌の魔法の効果で幻聴や幻覚、はたまた体内から響かせる効果を狙っていく。味方の行動に猶予を与える為に動きを封印するし、攻撃を当てやすくする効果がある。シオンは攻撃と援護を同時に行える便利な魔法を扱えるから、重宝している。
「しゃ、俺の魔法で半径5メートルから水銀の弾丸をぶっ放してやるぜぃ」
「俺も通常弾に魔法弾を放ちまっせ。水弾に雷弾っすよぉ」
「グ、グググ……ブルッ!」
「逃げた?」
「今深追いする必要はねぇな。立て直してからゆっくり奥へ向かうぞ」
少しずつ前進していって、最奥部に待ち構えるボス級のモンスターに対峙できる準備を整えていきたいが、初級ダンジョンにしては敵モンスターが厄介だ。数やパワーが中級レベルはあると言っても信じられるレベルなのだ。
「クソゥ、モンスターが意外と面倒なのが多いっすねぇ」
「だな。本当に初級か?」
「変化している可能性があるね」
「まずは最下層のボスモンスターの居るであろう場所まで進みましょ?」
目的はあくまでも探索、決して殺しだけではない。だから魔力を温存しつつ環境に適応した数々のものを採取したり観察して記したりするのだ。なんだかんだで戦闘で苦労したものの、なんとか最下層の大広間に到達した。しかしそこにあったのは意外なものと1人の剣士だった。
「着いたっす」
「……」
「誰だあいつ?」
「さあ?あんな変わった格好と仮面した人、一度見たら忘れないけど」
「しかもあれ、ボスモンスターよ」
「俺が声をかける。皆、どんな状況になっても良い様にな」
同じ人間であれば、ここに居る目的はおそらくダンジョンの探索で得られた情報や物の採取で得られたのを金に変えるというのが相場だ。だが、同じダンジョンに潜ったチーム同士で争うなんて事も珍しくないから油断はしない。
「よぉ、初めましてかな?」
「初めまして、お……いや、ライサンダーのチームだね?」
「確かにそうだが、あんたは何者だね?」
「何故こんなダンジョンの奥の方に……」
「旅の者だよ。ティムって言うんだ」
「怪しいね。モンスターを斬ったにしては2振りの刀の鞘が綺麗だし、鍔も幾らか変わってそうだ」
「言われてみればそっすね」
「光を纏う刀と闇を纏う刀、これが僕の武器だよ。これでダンジョンに潜ってるんだ。そして、この
「それ、貴方のお兄さんと同じ紋様の……」
「いや、俺のは持ってる。アレは特殊な加工が為されてて、この国に2つとねぇ筈!」
その剣士が持っていたのは本来ならライサンダーしか持ち得ない、兄から譲り受けた
「そのモンスター、俺らで狩る予定だったんだがなぁ?どうしてくれるんだ?」
「残りの素材などは好きにすれば良い。僕は少し貰えればそれで良いから」
「はっ、そうかい」
「どうする、兄さん?」
「モンスターの一部を持って先に帰ってろ。初級たぁ言え、危険なダンジョンで大型モンスターを倒して暫く経過しているあたり、実力はあるみたいだし無用な訳がなさそうだな。俺らの誰かに用があんだろ?」
「そうだね。ライサンダー、君に用がある」
「そうか」
「気をつけて」
「そのつもりだ」
恐らく殺されはしまい。殺すつもりなら悠長に無駄話に付き合ってはくれないだろう。しかも、良く注意深く見てみればティムの持つ2振りの刀の柄、どこかで見た様な気がするのだ。一瞬間が空いてそうなのかと問い返される。確か、ギルドマスターに引き継がれている物と似てる気がするが、何故ギルドにいないティムが持っているのだろうか。一度見せてもらった気がするから間違いなさそうだし、それにその
「僕は詳しい事は聞いてなくてね」
「ま、その事は後で確認すりゃ良い。俺と何の話をしたいんだ?」
「君の実力を確かめたい」
「何故また?」
「いずれ共闘するかもしれないからね」
「……良いだろう」
初級とはいえ単独潜入でボスまで綺麗に片付けているのだ。実力なら上級でも通用するだろう。旅の者ならいずれまた出会う機会もあり得る。実力者の知り合いは1人でも多くいれば将来助かる可能性が高まる。その為には実力を良く知っておいて損はあるまい。
「さ、始めよう」
「(さて、俺の
「(あのライサンダーと正面から戦える。全盛期の実力を知れれば充分だ)」
「……銀弾!」
「くっ!」
「(幾つか弾いてから横に退くか)」
「でぇい!」
「おっと」
二振りの太刀を振り回すティムの攻撃が触れた岩を容易く切り裂いたあたり、それなりの筋力があり、剣捌きでは斬るべき筋もちゃんと見えている無駄のない効率的な太刀筋だ。当たればタダでは済むまい。少しずつ距離を詰めて
「その
「兄貴の武器を知ってるのか?」
「噂程度だけれども、ね!」
「っと」
「せいっ!」
「甘いんだよ」
距離を詰めては離れて、互いの最適な間合いを探り合いながら戦っていく。ライサンダーとしては近距離だけが兵法ではないから水銀を有効活用しながら戦っていくが、ティムも二つの太刀、白耀と玄耀の飛ぶ斬撃で応戦する。だが、実力ではライサンダーの方が上なのだろう。苦戦を強いられている。
「ふっ、はっ!」
「くっ……(やはり戦い慣れている。これが20年前の真の姿か!)」
「どうした?」
「ふ、やはり強いと思ってね。僕の見知っている情報より格段に強いのを実感している」
「そうなのか?まるで未来や過去を知っているかの様な」
「そうかな?良いじゃないか、それは」
「ま、過去で会ってれば忘れねぇけどな、その格好。観客の多い闘技場に行った記憶もねぇし」
互いに一進一退と硬直気味だ。押し切る為にも魔法と
「銀鞭!」
「柔軟さと硬さの両立か」
「はいやっ」
「だが、対処できないとでも?はああっ!」
「(見切ったか?初発で動きに対処できる奴は少ねぇがよ)」
「せやぁ!」
「その剣術、誰に学んだ?俺の兄貴特有の動きも含まれてる!」
「父に。血の繋がった父ではないが」
「そうかよ。突っ込むのは野暮って奴だぁな」
「有難い」
一気に距離を詰めて攻め立てるティムの剣撃を、時折傷を受けたり与えたりしながら上手く対処している。次の策の為に一旦距離を離して煙玉を使用する。少し煙が晴れるまでにティムは斬撃を数発飛ばすが、当たった実感がない。暫くすると、盾を使ったライサンダーの姿を発見して一気呵成に攻め立てる。
「はぁ!」
「おっと……」
「隙あり!」
「へっ」
「むっ、溶けた?」
「そっちは分身だ」
「くっ、これが本来の使い道か」
「おらぁ!」
「うわっ!」
「くそ、躱しやがった」
「(危ない、仮面が外れかけた。ここで正体がバレる訳には)」
互いにすれ違い様に魔法を発動して切り抜けていく。それぞれに浅くない傷が出来たが、ティムとしてもライサンダーとしてもそれぞれ収穫は得られた。互いにそれなりの実力があるのだと。
「……けっ、擦り抜け様に斬りつけてたか。右肩が、痛むぜ」
「はっ、くっ……傷が」
「そこまでだぜ。俺は人殺しを嫌う」
「僕の負けだ。自分の知っている通り、いや、それ以上の実力だったよ」
「納得して貰えたかな?」
「ああ。いきなり仕掛ける真似をして申し訳ないね」
「お前もかなりのモノだった。俺の動きを知っているかの様な動きだったぜ」
「ありがとう。またいずれ会おう」
「いんや、外まで一緒に行こう。互いにこの傷では、単独行動は危険だ」
「心配してくれるのかい?」
「まぁな」