「戻ってきたぞ」
「兄貴、大丈夫っすか?」
「こいつのお陰で無事な」
「じゃ、僕はここで失礼するよ」
「ああ。ちゃんと治療はしろよ?これ渡すからよ」
「あ、ありがとう」
傷だらけになってチームメイトの所までライサンダー達が戻ってきた時には流石にメンバー達は心配の声を上げる。だが、何処か晴れやかな表情をしているライサンダーを見て、諦めの感情が込み上げてくる。さて、ティムとはここで別れるので、実力を見せてくれた相手が傷だらけのまま帰るのも忍びないのでよく効く塗り薬を渡しておく。しかし、ティムは一体何者なのか?当然の疑問が噴出するばかり。
「ギルド関連の武器にお兄様の
「あいつが何者なのか、気になりはするが今はダンジョン探索や情報提供を優先すべきだ」
「そうだね」
「ま、今はギルドに帰還する事だな」
まず行うべき仕事を終えてから詮索するのも遅くはないし、今後また出会う事もあるだろう。その時でも充分だろうから、ギルドに無事帰還する選択肢を取る。戻ったらまずは報告だ。マスターに事の顛末の仔細を極力伝えていく。
「そうか、変わった剣士が」
「ここに例の太刀、白耀と玄耀はあるか?」
「うむ。あれは厳重に管理してる」
「そう、盗み出された訳じゃないのね」
「アレは国王から授かった至宝。そう簡単に盗まれてたまるかい」
「だよなぁ」
「だが、どこかから漏れたのか。過去の段階はなさそうだ。だって誰かが伝えて実行したとしたらここには無いはずだよ。未来の時間軸、または並行世界からの人物の可能性があるね」
「並行世界か。そこまでは考えてなかったな」
「普通はその発想にはならないわよ」
「まぁ、そうっすよね」
ティムについてはとりあえずまた会ったら情報を聞き出してくれとマスターから頼まれた。秘刀を持ち歩いてる存在なのだから、少しずつでも情報を仕入れておきたい。で、マスターに聞きたい事として赤紫の小型竜の話となった。各ギルドや国軍と提携しているアグニ達情報屋を各地へ送り、事細かに調べさせている。
「アレは普通のモノじゃねぇと思う」
「負の気と同化しただけでなく、色合いが普通のワイバーンのそれと違いすぎる。恐らく血を多く浴びているのだろう」
「ま、その内分かるだろ」
「適当だねぇ、兄さん」
「仕方ねぇさ、馬鹿の考え休むに似たりって言うしな。情報が無い中じゃ深く考えてもどうしようもねぇだろ?」
これ以上は侃侃諤諤と議論するのは無理だろう。ライサンダーの言う通り、例のワイバーンらしきモンスターに関しては馬鹿の考え休むに似たりなのだ。情報無き今は兎にも角にも集めてくるのが一番だ。だが、今日はもう疲れたので酒を飲んで帰って寝るのが最適解だ。
「よし、治療もしたし、酒だ酒」
「例の儀礼ですな」
「そそっ」
「これが楽しみなのよねぇ」
「確かに仕事へのメリハリがつくって感じっすね」
「験担ぎとしてはもってこいだし」
「おーい、ボーッとしてねぇで行くぞ」
「はいはい」
「行こっか」
「うっす」
本来はこの儀礼、縁起が悪い事だとされていて、物語では縁起の悪い典型的な例なのだ。だが、ライサンダーは現実は小説などとは違うと考えている。今までだってやってきても無事に帰ってきているのだ。
「でも事実は小説より奇なりとも言いますぜ?何が起こるか分かったもんじゃない」
「だからこそ験担ぎをして少しでも前向きになろうってんだ」
「ま、そういう考え方もあるかしら」
「生き残る為のクセが縁起や験担ぎとして残ったそうだぜ?」
「へぇ」
験担ぎを兼ねた宴会で気分転換をする。チーム内の交流と意見交換をする場ともなっている。今日はライサンダーもウイスキーではなくまずはビールだ。
「お、ビールだ」
「ハーフ&ハーフだぜ」
「これがまた美味いんだよなぁ」
「良いよねぇ、それ。ウチもそれだけど」
「じゃ、全員分揃ったみたいだし、乾杯と行くか。乾杯!」
「いただきます、乾杯」
「うっす」
今日の宴席の話題はやはりというべきか、ティムの事になった。手合わせしたライサンダーが何か掴んだのではないかと推察される事から、ギルドで話していた事以外も聞こうとなった。不確定な情報だったから伝えてない事もあるのだ。
「あの剣士、何者ですかい?」
「歴戦の男剣士にしては腕力が無かった印象だ」
「じゃあ女性って事?」
「あくまでも可能性の域を出ないが、あれでもそこらの男よりパワーはありそうだがね。だが、筋力だけと言うより技術でも斬ってる節があるな」
「技術で?」
「力任せじゃねぇんだわ、逆に無駄な力を抜いているね。無理くり斬ってねぇな」
「へぇ、そんな感じなんだね、剣術って」
「俺も詳しくは分からねぇ、門外漢だからな」
「まぁ良いじゃないの、とりあえず飲みましょうよ」
この日も法皇の酒場で酒とつまみを楽しみながら話に花が咲く。ギルドのメンバーがよくここ法皇の酒場に来るのは美味しい食事にありつけるからだ。
「お、今日も美味いな」
「オイラの店が法皇を名乗る以上、不味い飯は提供できんからな」
「ま、確かに」
「一流は現状に満足しない、常に上を目指すもんね」
「一流、か。俺も頑張らなきゃっすね」
「常に色んな事物から学び続けろ。
「そうね、それが成長に繋がるわ」
日々是勉学也。これが日々変化していくダンジョンで柔軟に対応していくのに必要な心構えだとライサンダーは感じている。学べるものは出来る限り取り入れるのが流儀だ。さて、ここで話の主題になったのがヘイルの今後についてだ。
「さてと、ヘイル」
「へい、何でございやしょう?」
「初級で多少リーダーの指揮に慣れるか、それなりの難度の中級で腕試しをするか。どちらが良いかね?経験を積むべきというマスターの指令だからね」
「そうっすねぇ」
「さりげなく上級を除いてるね」
「まぁ、あまりお勧めじゃないから。グリーシャも油断ならないって言ってたし」
「確かにいきなりはキツイか」
「じゃあ、初級で。少しレベルアップした方が良いかもしれないっすね」
「よっしゃ、任せい」
早速翌日にはメンバーを統括するリーダーとしてマスターに今後の方針の相談に出る。成長の為に経験を積ませろという指示を達成させるのだが、無茶させてしまってはギルドとして責任を負う事になるから事前に相談しにきたのだ。
「マスター」
「何だね?」
「少しヘイルにリーダーの訓練を積ませたい。無論俺の補助付きで初級ダンジョンだが」
「これも経験だね。良いよ」
「有難い。本来ならもう少し戦闘経験を積ませてからなんだが……」
「そこはリーダーの判断に任せたい」
「あいよ」
「だが、君の経験から来る判断で以て彼を支える事。良いね?」
「そのつもりだ」
まずは明日は前とは別のダンジョンに向かう次第となった。ここからはヘイルにリーダーとしての経験をしてみてもらう。だから、事前会議を主体的に先導してもらう訓練を取る。だがいきなりは難しかろう、少し援護するつもりでいる。
「頼めるか?」
「うっす」
「はいはい」
「まずどう攻略するかっすけど」
「うむ」
「潜入任務並みに警戒しながら行きますぜ。この間の言葉が真実なら、初級ほど気が抜けないですし」
「そうだな」
「魔力の消耗を抑えながら戦闘を最低限にするなんてどうです?」
「悪くないわね」
「初めての判断にしては上々じゃない?」
「確かにな」
「ただ、上手くいくかどうかっすね。皆さんご協力のほど、よろしくお願いします」
作戦通りに上手くいく保証はないが、これも鍛錬だ。少しずつ判断力をつければ良いし、最初から全て上手くいくなんて中々無い事だから失敗は仕方ないだろう。翌日、目指したのは初級ダンジョンの一つだ。
「ここっす」
「俺らが援護する」
「自信持って行こうよ」
「ありがとうございます。その言葉で少し救われるっす」
「いきなりなんだ。失敗から学ぶくらいの気持ちで行け」
「撤退は恥じゃないから」
「そっすか。じゃ、行きましょう」
ヘイルのリーダーとしての初陣が始まる。結構な緊張感が全身に現れているが、無理もない。だが、戦う内に少しばかりほぐれてきたのか、普段通りの戦い方が出来始めている。なるべく戦闘は避け、極力魔力を温存するが、必要とあらば戦っていく。
「裡門頂肘!」
「かちあげて体勢が崩れたっすねぇ。そこに上から魔弾連射!
「すごい連携力」
「ウチらより上手くない?」
「流石兄貴」
「お前もやるじゃねぇか」
互いの魔法や拳法がこうも噛み合うのは同じ属性や相性の良い物でもそう多くはない。何かしら戦い方が理解できているからこそだろうし、同性故の何かがあるのかもしれない。まだダンジョンも道半ば。当たり前だがまだリーダーとしちゃ半人前、それでも上手く指示が出せてるじゃないかと感じている。将来大物になる可能性を秘めている。
「お陰様で何とか」
「ここまで早く成長するとはな、驚きだぜ。俺らを追い抜くのもすぐじゃねぇか?」
「いやいや、そんなまさか」
「あり得ないとは言い切れないわね」
「それにしても、俺らのチーム……補助魔法の使い手が少ないな。全員攻撃向きというべきか。強いて言えばシオンの歌魔法くらいか?」
「だよね」
「うし、ギルドに帰ったら一緒にスカウトに行くぞ」
「へい」
「どんな人を誘うの?」
「回復役だな、端的に言えば」
「そうか、そうなるわね」
「強化とかで援護できりゃ尚更良いがね」
倒すには攻撃だけが重要な訳ではない。守りと回避力、つまりダメージを減らす事も大事だと感じている。特に毒や病に冒されるリスクがあるから尚更だ。だから1人でも多く支援役が居てくれれば楽に事が運ぶ。そうこうしている内に最下層の方へと進んで大広間に辿り着いた。
「ここが最下層の筈でっせ」
「やるなぁ、ここまで無傷だ」
「安全の為に遠回りした場面があったからっすよ。アドバイスを実践してるに過ぎねぇっす」
「それをやるかどうかはリーダーの判断力あってこそだぜ?」
「そうそう」
間違った判断をしてチームが壊滅、なんて良く聞く話だし、実際それで今のギルドだけでも数百年の間に何百、場合によっては千近い数のチームが解散に追い込まれてる。慎重さと冷静さはリーダーの大事な素質の一つだ。
「そ、そんな褒めんでくだせぇ。俺は上に立つ素質はまだねぇっすよ」
「謙遜を」
「その心を忘れるなよ。恭謙自牧、虚心坦懐。それがリーダーにこそ必要さ」
「後は経験さえ積めばいけそうね」
「逆に経験が思考を押し固めてしまう可能性すらある。常に柔軟にな」
「へい」
これからは経験を積んで少しずつ成長して判断力や魔力、反射神経を鍛えていけば高難度のダンジョンやそこに住まうモンスター相手に十二分に戦えるだろう。だが、今回は最後にあまり経験が積めなかった。なんせ何事もなく終わったからだ。ダンジョンから帰ってマスターに報告すると一安心といった表情になった。
「で、結局何事もなく無事帰ってきたと」
「山場もなくな」
「大型は居なかったっすね」
「偶然かしら?」
「偶にある、気にすんな」
「ま、まぁそうだね」
「次だ次。切り替えていくぞ」
「そっすね」
「……ま、今までの経験からして次にヤバいのが来そうだな」
「そうねぇ」
「気をつけて行こうよ」
「経験則かぁ」