水銀王、見参   作:ぽおくそてえ

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第7話 支援役

「おーい、ライ〜」

「バリスか。丁度良いぜ」

「どうしたんだ?」

「なぁ、俺のチームに入らねぇか?」

「いきなりだな」

「まぁな。で、今1人だろ?」

「ああ、基本そうだな」

「ならさ、頼めないか?」

「そうしたいのは山々だが、俺は色んなチームから協力や参加の要請が来てるからさ、正直少し難しいな。欲しい人材は回復役と支援(補助)役だろ?代わりに別の奴に行かせるから」

「お、そうか。お前の紹介なら間違いない」

 

バリスは回復と支援魔法を得意とするライサンダーの古くからの友人だから声をかけたが、普段から方々(ほうぼう)のチームに顔を出して協力しているのだ。一つのチームに固定で参入するのは難しいのはライサンダーも気づいていた。だが、彼の紹介なら信頼できるだろう。20分後、彼が連れてきたのは1人の女性だ。

 

「お兄様?呼んだ?」

「あ、別の奴って妹の……」

「シャラだ。お前も知っての通り魔法は強いんだが、戦闘経験がほぼ皆無でなぁ」

「なんだ、誰と組むのかと思えばライじゃないの」

「……ちょいと不安だね」

「だが、優秀な人材は大抵の場合他のチームに所属してるか適宜臨時チームを組んでるべ」

「そうだな」

「何よ、私じゃダメって言うの?」

「いやいや、そういうつもりじゃ」

「ふぅん?じゃあ別に仲間になっても文句は無い訳だよね?」

「ううむ」

「そこははっきり『はい』か『yes』と答える場面だよ?」

「断れねぇじゃん、それ」

「良いから良いから」

 

戦闘経験がほぼ無いのが不安要素ではあるが、誰だって最初は未経験である。しかし、危険なダンジョンに親友の大事な妹を連れてって何かあればと不安に駆られる。体感時間にして1時間、現実にして数分思案して辿り着いた結論は一つ、『連れて行く』事だ。

 

「はぁ……仕方ねぇ。シャラを連れてくぞ、バリス」

「妹の事、頼んだべ?」

「ああ。行くぞ新人」

「う、うっさい!言われなくても分かってるよ!」

「かっかっかっ」

「(妹の成長の為、本当に頼む、親友よ)」

「あ、そうだ。何があろうと仲間にした以上、守り通してみせるぜ」

「頼んだぜ」

 

仲間になった以上は出来うる限り五体満足でトラウマを抱えさせる事なく無事に帰って日常生活を送らせる。それがリーダーになった以上は守り通す一本の筋として持ち合わせている。

 

「シャラ、か。バリスは手が空いてなかったのね」

「何となく予想はついてたけどね」

「仕方ないじゃん。お兄様は引く手数多なんだもん」

「こうなった以上、しっかり連携取ってやっていくぞ」

「そっすね」

「彼、誰?」

「ああ、初対面か君ら」

 

まずシャラに双丁魔導銃使いのヘイル・マックイーンを紹介する。最近チームに入った新入りだが、実力は数回のダンジョン潜入で確かな物だと確信できるほどだった。そしてヘイルには癒し手の第一人者、バリス・グレイセスの妹で同じく癒し手のシャラを紹介する。まだダンジョン探索は二、三回しか行っていないから経験は浅いが、魔法は便利な物だ。回復に援護が出来るから安心して戦いやすい。今はギルドの医療室で働きつつダンジョン探索に向けて実力を高めようとしている。

 

「まぁ、よろしくっすね」

「ええ」

「今回は負の気について少しばかり調べるぞ。ダンジョンの外に多くは運べねぇから、出来る限り現地で調べるしかない」

「じゃあ研究畑の方達も?」

「同行する予定だ」

「ウチらだけで護衛しきれるかな?」

「そこであたいらの出番ですね」

「うぉっ!?びっくりした〜」

「グリーシャか」

「なんだ、リーダーじゃないっすか」

「元ね」

 

グリーシャ率いるチームとの共同戦線をマスターから仰せつかっているという。普段なら大丈夫だと確信めいて言えるのだが、グリーシャのチームにもライサンダーのチームにもまだ経験の浅いメンバーが多いから不安が募るばかりだ。それでも一度共闘したから多少なりとも戦い方は心得ているが。

 

「人数は多いに越した事はないですから」

「前と同じメンバーよね?」

「少し変わってます。1人追加です」

「その人以外は魔法を少し知ってる分、対応しやすいね。紹介してくれる?」

「この人です」

「リュウシュウと申す」

「よしなに」

「こちらこそ」

「これ、俺と組む奴に渡してる錠剤ね。水銀を多少吸っても平気でいられる薬さ」

「こいつはご丁寧に」

「ほれ、シャラも」

「貰うわね」

 

毒を多分に含む水銀を吸ってしまうと体が硬直したり、最悪死に至る。だから少しでも平気でいられる様に薬を渡しているのだ。ダンジョン探索者で別のチームや新人と組む際には渡す様にしている。話題はその新人、ヘイルやシャラになった。

 

「で、ヘイルは馴染んでる?」

「ええ、お陰様で」

「そりゃ良かった。お、チームにシャラも加わったんだ」

「お兄様のお願いだから仕方なく」

「嘘つけぇ、ノリノリだったじゃねぇか」

「はぁ!?誰が、いつ、ノリノリだったって!?」

「お前が、5分前に、ノリノリでチームに入っただろ?愉悦の表情をしてたぜ」

「ぐ、ぐぬぬ」

「お前は感情が顔に出やすいみたいだな。悪い事ばかりじゃねぇがな」

「わ、分かったよ、ノリノリで悪かったって」

「それより作戦会議よ」

 

和気藹々と団欒するのも悪くないが、今は仕事前。これからの事に集中せねば、困った事になるのは百も承知だ。今回の学者諸君の護衛に2チームで編成したとなれば、手分けして当たるのが常道だが、リーダー同士で決めて行くべきだろう。

 

「二手に分かれるか?」

「それぞれにあたいのチームとライサンダーさんのチームが付くと」

「妥当な所ね」

「でも戦力の分散はあまり得策じゃない気もするけど」

「そうしないと効率が悪いって事じゃないっすか?」

「それはそうだけど……」

「時間がかかればモンスターが寄ってきやすいんだ。お前の心配も分かる、だから出来る限り距離を離さずに調査するってのでどうだ?」

「分かったよ」

「これが、経験豊富なチームの会議かぁ」

「出来る限りこの段階で意思疎通して、連携ミスや目的の不一致、不安要素を潰しておくんだな。古来より『備えあれば憂いなし』と言うだろう?」

「それもそうだ」

 

学者諸君と現地合流したら潜入だ。前後左右、上下の警戒を怠るべからずと注意を払うが、シャラやヘイルからしてみれば上下とは何ぞやとなる。モンスター連中は地中や天井から襲ってくる事も多々あるのだから、上下も警戒対象なのだ。地面は大土竜、天井も大ヤモリが居る。

 

「た、多々あるの?」

「珍しくないですよね、ライサンダーさん」

「ああ、そうだな」

「うぇっ、マジっすか?」

「マジよ。私らも両手で数えきれないくらい経験してるわ」

「やっぱダンジョンのモンスターって野蛮だよ」

「彼らも必死に生きてんだ。こればかりは仕方ないさ、シャラ」

 

はてさて、今回は学者達の護衛が主任務。討伐したモンスターの遺骸も調査対象だから出来る限り綺麗な形で残して欲しいと頼まれたが、それは相手次第としか言えない部分もあるから保証は出来ない。

 

「今日はご協力いただけるみたいで」

「調査が進めば俺らにもメリットがありますんでね」

「分かりました。少しでも情報を持ち帰りましょう」

「シオン、音響魔法をレーダー代わりに利用するぞ。それでモンスターの出現を探知してくれ」

「あいあい。エコーだね?」

「要はそういうこと」

「了解〜」

 

学者諸君は戦闘向きの魔法を持ち合わせていないケースが多々あるから、こうして各ギルドの実力者に護衛してもらいながら現地調査に出掛けている。モンスターに襲われる危険が伴うが、素材が良いものが揃うから効率は爆上がりである。

 

「お、源泉発見」

「早速調査します」

「今まであまり研究は?」

「してはいました。ただ、情報を集めて統合するのに時間がかかりますぞ」

「一気に進むものでもあるまいに」

「出現自体は数百年前のダンジョンより数ヵ月前。超巨大モンスターが同時期に複数体死んだから、というのが通説ですな」

「死骸から何故負の気が出現したのか詳しく分かってませんがね。ダンジョンの構造からして精霊の仕業では無いかと推測されてます」

「そうですかい」

 

人竜戦役の際に竜と同時に超巨大モンスターの死骸が発生したと言うのが通説だが、彼らが何故戦闘に至り、死骸となって負の気蠢くダンジョンへと変貌したのか。そもそもその原因とされる精霊とは何者なのか。分かっていない事が多過ぎる。だからダンジョンを調べて少しでも分かっておくべき情報をかき集めて共有しておきたいのだ。

 

「ふむ、少し奥まで来ましたね」

「シオン、どうだ?」

「少し怪しくなってきた気がするし、何か大きい物に反響してる。岩じゃなきゃモンスターの可能性が高いよ」

「では、我々はこれにて下がった方が」

「よろしいかと思います。シオンにリュウシュウ、ヘイル、シャラ。俺らはその怪しい物に近づく」

「はっ」

「グレンダ。グリーシャ達と研究者諸君を連れて退避しな」

「え、ええ。でも戦い慣れたメンバーの方が良いんじゃ……」

「そうだよう」

「本来ならな。だが、それでは成長しないかもしれん。ここに至るまでに少し彼らの魔法を把握できている」

「そう。貴方がそれで良いなら。行くわね」

「ほいほい」

 

二手に別れて目的地と思われる大岩らしき物へと向かって行く。話を聞く限りとても見逃すとは思えない大きさらしい。ここまでは一本道、回り道ですれ違わないとは思えないのだ。

 

「さぁてと、こっからは実地研修だ。シオンに元傭兵らしいリュウシュウはまだしも、他の2人はまだ自己判断をするには難しいだろうし危険だろう」

「リュウシュウさんは崩落魔法っすか?」

「破壊の魔法という意味では同じだな」

「そうだったか。頼らせてもらうぜ、その技量によぉ」

「ライサンダーさんの経験と能力には及ばんよ」

「じゃ、ついてきて」

 

歩く事十数分。目的地に近づいてきて、シオンの反響も近くに存在すると感じ取れている。比較的暗いダンジョンでも、そろそろ視認できるくらいの距離には近付けているはずである。ここまで来れば見れる、各自警戒しながら慎重に歩みを進めて行く。

 

「ここら辺か?」

「近いよ」

「天は、大丈夫っす」

「地も異常なし」

「……何これ」

「デケェな。何故今までこれに気づかなかったんだ?」

「このダンジョン、何度も探索されてる筈だよね?」

「ああ」

「こ、怖くない怖くない……」

「水銀王の実力、見せてもらう」

「あいよ」

 

シオンとライサンダーでとりあえず大岩の周辺を魔法を交えて調査してみる。外には少し遠くに穴があるくらいで特に変わった痕跡は見られない。となれば、外から魔法で生成されたか、体表の鱗などが何かしらの方法で運び込まれたか。詳しく内側を調べようとしたら、異変を感じ取った。

 

「む?全員離れろ」

「な、何?何事?」

「グオオッ!」

「岩をモンスターが!」

「中に隠れてたか。大猿だな」

「ひいぃ?!」

「落ち着けシャラ。一旦下がれ」

「う、うん」

「まずは水銀を重石代わりにする。水銀は鉄や銅より重い」

「気化したのを吸い込めばタダじゃ済まないよ。気をつけて」

「そこら辺は考慮してる。さっきの薬だぜ」

「なるほど、そうだったね」

 

相手はこの岩を利用しているあたり、何かしらの魔法で入り込んでいたのだろう。相手の能力が分からない以上、最大限警戒して当たる他ない。

 

「俺が先頭に立つ。皆、隙を狙って撃ち込め。シャラ、強化術を頼むぜ」

「うん。緊張してきた」

「リュウシュウさん、右から頼みます。俺は左から」

「任された」

「援護するからね、皆」

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