8話目まで来ました
今回も是非ともご覧くだされ
「落下する蓋だぜぃ」
「ブルル」
「幻影響歌!」
「耳塞げ!」
「うっす」
「うん」
「なるほど、聴覚に訴えかける幻術か」
『相手の動く前から高速で仕掛ける』、これがライサンダー流の戦い方の一つだ。確かに相手に自分の魔法を一度披露するから余計な情報を与えかねないが、それでも早く仕留める為や相手の動き方を探る意味では有効な手段の一つなのだ。そこへシオンの音魔法で幻覚へ陥れる戦術だ。
「混乱してる。抑えたる、数珠鳥居!」
「毒弾、撃ち込むっす」
「足元を崩す。追撃に行かれよ」
「グゴゴ」
「抵抗できるか。ネバネバした水銀のネットだ。今のうちだぜ?」
「はぁ!」
「よいしょっと。衝波!」
「初めてのわりに連携が上手くいってるな」
「集中、集中しなきゃ」
「周りをよく見ておこう。回復役のお前がやられちゃ元も子もないぞ」
後衛は戦術の要とこのチームの場合はなる。攻撃ばかりでは成り立たない戦術も後衛の支援役がいて初めて成り立つ場合も多々ある。だから彼女をなんとしても守らなければならないとライサンダーは考えているし、シオンも同感だ。
「ブルァ!」
「うわっちょ」
「危なっ!」
「毒?」
「あれは酸だ」
「銃弾が一部効いてないのって……」
「皮膚に粘液でも付けてんのか、溶かしてる可能性がある」
「グギャ」
「来るぞ」
魔法を扱うモンスターの厄介なところは前触れを理解するのに多少時間を要するところ。人間相手の場合、言葉から探り合いが出来るが、喋れないモンスター相手にする場合はその方法が使えないという難点がある。だから試行回数を増やして探り探りやるか、危険を承知で一気に攻め込む方法がよく取られる。突っ込んできた敵モンスターの狙いはライサンダーでもシオンでも無さそうだ。攻撃が手薄、すぐに後方へ行こうとする。となれば、相手の狙いは一つ。厄介な補助役を潰す事のみ。
「ガアッ!」
「うわわっ!」
「狙いはシャラか」
「させねぇっすよぉ〜。ほい」
「ちょっ、お姫様抱っこは恥ずかしいから下ろして!」
「贅沢言わねぇっす」
「シオン、リュウシュウ。今のうちに行くぞ」
「お〜」
ヘイルがシャラを抱えて縦横無尽に駆け回っている間に体制を立て直してすぐさま攻撃を四方八方から繰り出していく。これ以上のダメージは辛抱たまらんと感じ取ったのか、相手も後方へと下がって溜め込む仕草を見せる。これにライサンダーは長年の勘から何かを察知、全員へ後退を指示する。
「グググ」
「む?全員後退!」
「えっ、どうしてまた。今こそ……」
「魔力を溜め込んでいる。一定範囲を攻撃するつもりだ!」
「う、うん」
「部分的に天井を崩落」
「そこに水銀で棒を生成」
「バァァ!」
「来た!」
その攻撃は周囲の地面から酸を溢れ出させる攻撃だった。リュウシュウの作り出した岩の輪に水銀を絡めて天井からぶら下げて待避地点を急拵えではあるが、生成できた。これで全員無事に上部へと避難できた。
「危なかったぁ」
「床から酸が溢れ出すなんて」
「無害な水銀を天井からぶら下げて正解だったな」
「行動が早いこって。流石は兄貴達」
「リーダーを伊達に何年もやってないね」
「当たり前だ。引いたな、降りるぞ」
辺りを見回してみると、酸で溶けた部分が多数出来ていた。暫く原状回復するまで時間を要するだろうが、それは今考える必要がない事。相手を仕留める事に集中せねばなるまい。
「魔の酸は普通のものより溶かす能力に長けている。注意していくぞ」
「は〜い」
「俺やヘイルの魔法は相性が悪い。シオン、リュウシュウ、メインを頼めるか?」
「あいあい」
「助けを請われたならば、応えてみせるのが筋というもの」
「俺らも後ろから援護するからよぉ」
酸性液には水銀で防ぐ方法を取るが、いつまでもこのままでは厳しかろう。どこかで仕留めなければジリ貧になってしまう。酸性液を辺りにばら撒く敵だ、戦い慣れたライサンダーの魔法でも限度がある。防げるだけ防ぐが、自力で頼むとなる。そこへシャラも協力するとだいぶ体が軽くなった。これで攻めも守りもやりやすくなるだろう。原始的で時には野蛮と蔑まれるが手数で押し切るしかない。段々ダメージを蓄積していき、良いところまで行く。
「よいしょ。衝波・真空刃!」
「岩戸礫崩!」
「液化弾丸発射!」
「造形はお手のものっすね」
「魔法は想像力だぜ?」
「それもそうだね」
「相手の動きを鈍くしたよ」
「仕掛ける。トドメはお前達に任せたべ」
「はいやっ、地割れだ」
「一回の戦闘であまり沢山は使えねぇが、国崩シ!」
「最後はウチ。でぇい!」
これで仕留められた。当分安全は確保されただろう。そこへやってきたのは先程撤退したはずだった学者諸君とグレンダ達だ。折角安全圏に送り届けたのに何事かとなる。
「ふう、なんとか勝てたな」
「ライ!」
「グレンダ達か」
「撤退してたんじゃ……」
「どうしても研究者さん達がやり残した事があるって言ってましたね」
「負の気の研究資材がまだ少ないですな」
「ついでにこいつも使うか?負の気を多く含んでる筈だ」
「モンスターの死骸ですか。研究所に送りましょう」
数分研究材料を調査してみた結果、簡単だが多少なりとも情報が導き出せた。やはり負の気は精霊達の食後などに現れるガスと考えられるという結論だ。その死骸を食し、そこから精霊達の体内から発せられるガス。それを更に生きたモンスターが喰らい、死して循環する。そう考えるのが道理ではないかと推察される。
「厄介だな」
「今からこの輪廻を解くのは難しいよ」
「そのつもりはない、今この生活を変えては大変だ。だが、敵を知り、己を知る事で対策は出来るだろう」
「もうしばらくお付き合い願いたく」
「はいよ」
遺骸の搬送の準備と新鮮な研究材料を少しでもここで調査しておきたい。そうすれば普段以上に研究が捗るというもの。この時間を逃したら次はいつ出来るか分からない。かれこれ十数分、調査はひと段落となった。
「今日はここまでにしましょう」
「分析はこれからですな」
「今回得られた新情報は全てのギルドに伝達してくれ」
「心得ましたぞ」
「逃すかい?私が」
「誰あれ?」
「……逃げるぞ」
「で、でも!」
凄まじい殺気だ、ライサンダー達を殺しにかかってくるつもりだろう。ならば1人でも多く生かして帰す。その為なら多少の危険は承知の上だ。今は生きて情報をギルドに戻す必要がある。それに、ここで死ぬつもりは毛頭ないし、なんなら狩り取るつもりでいる。
「グリーシャチームは学者諸君と撤退を。それ以外のメンバーは少し抵抗しよう」
「へぇ、私に挑むんだ」
「お前、この前の四つ腕の翼竜だろ?」
「え!?」
「良く分かったね?で、それで?」
「俺ら全員殺すつもりだろうが、逃げ切らせてもらうぜい」
「『静かなる刃』、『霧中斬士』の持ち合わせていたその
「へぇ、兄貴を知ってんのか。は、そうかよ」
恐らくダンジョンで遭遇でもしたのだろうし、もしかしたら痛い目に遭っていたのだろう。ならば使う他ない。だが、これはあくまでも切り札と位置付けておくべきだろう。先手を打ったのはライサンダーだ。
「つぇあ!」
「はい!」
「なんすか今の?」
「鎖鎌の分銅を同じ様に撃ち出した……」
「俺と同じ魔法?」
「ふふっ、最後までもつかな?」
「シオン、原理が判明するまで幻歌魔法は使うなよ」
「分かった」
ライサンダーと同じ水銀魔法なのか?それが分かるまで情報は小出しにすべきだろう。特にシオンの歌魔法は敵味方問わず影響が出やすい魔法だから、慎重に使わざるを得ないのだ。だからまずは使うにしても衝撃波からだろう。
「はいやっと」
「おっとっと、よいせっ」
「クソ、暗器まで真似しやがる」
「破ぁ!」
「うわっ!飛ぶ衝撃波!?」
「複数で行けば対応が難しいみたいだな。ヘイル!」
「うっす!」
二つ目の魔法が見えない方面から飛んできたから防げなかったのか、はたまた複数同時に来るのが難しいのか。結論にはまだ至っていないが、複数の魔法を同時に扱えば良い。事実グレンダの発した硝子は相殺せしめたし、その直後に撃たれた水銀も落とせた。だが、それにしては発動した魔法属性しか使えてないのだから、ヘイルの魔法で対処せしめたら、回避したのだ。見えない範囲から複数属性が苦手なのか?と疑問に思う。
「
「暴発するぞ、無茶すんな」
「限界は見極めてますぜ」
「そうか、なら俺も。せいせい!」
「硝子の吹雪も行くわよ」
「それを震わせて傷を作る!」
「みんな、魔力は気にせず行きなって」
「ちっ、連携力は流石だね。まず、これとこれか」
「ぬっ?シオンとグレンダの魔法?」
両方の翼から放たれたのは硝子と音響魔法だ。ここにいるメンバー以外の魔法は使われてない。ならば、真似をしたり反射したりする魔法なのか?新たな疑問が浮上するが、それにしてはヘイルの魔法はコピー出来ていない。何か原理があるのだろう。
「シャラ、平気か?」
「なんとか」
「安全な場所から魔法を使いなよ?」
「うん」
「ふん、そいつから狙えば良いんだ」
「させねぇよ」
「あはは!ならば、あんたから死にな!」
「ライ兄さん!」
やってきたのはライサンダーの水銀魔法と同じ属性による刺突だ。シャラを庇う様に前にライサンダーが立ち塞がり、体のあちらこちらに棘が突き刺さり、見ているだけでかなり痛々しい。だが、庇ったお陰でシャラには一発たりとも当たらずに済んだ。
「肩に腕と脇腹、脚に頬と全身を貫かれても平然としているとは」
「言ったろ、させねぇと」
「魔法で止めた?」
「だからシャラに刺さらなかったんだ」
「ボーッとしてる暇はないわよ。喰らいなさい!」
「ぐっ、慣れてるね」
「はっ、くそっ……何とか抜けたか」
「ライ、下がってて。ここは私達が」
「た、頼む」
「シャラ、止血と回復お願いするよ」
「うん」
「クソッタレ、無茶しちまったか」
「何で無理して庇ったのさ」
「お前の兄貴との約束だ」
バリスと約束したのだ、何があろうと仲間にした以上、守り通してみせる。自分から約束したのだ、守り通してなんぼだろう。その間もグレンダ達が後ろへ通さぬ様に戦い抜いている。
「彩色硝子!」
「なら、砕く!」
「来たわね。シオン!」
「揺らすよ」
「ぐ、細かく刺さるなぁ」
仲間が、リーダーが体を張って仲間を守り抜いたのだ。何が何でも倒すか撤退させなくてはチームメンバーとして、仲間としてあるまじき事だ。絶対に無事に帰してみせる。
「このまま戦っても分が悪そうだね」
「ま、待て!」
「最後に名前を伝えて帰るよ。私はヴァーリエ、鏡黒竜の末裔だよ」
「鏡黒竜?」
「まさか、宵闇の暁竜と呼ばれた、あの一族か!?」
「じゃ、またいずれ。その時は完全に狩るよ」
「くっ、傷が……」
「リーダーの兄貴には俺が肩を貸すっすよ」
「悪いな、痛ぇ……」
「無茶したわね」
「帰るぞ。グリーシャ達と合流せなならん」