四葉真夜を無事に見つけ出しアンの部屋に押し込み、細雪で姿を隠しながら研究所を無事に抜け出し少し離れた場所まで歩いてきた。
「さて、ここらで良いよな」
辺りを見渡して一応追跡されてないか確認する。まぁ、ありえないけど念には念を、ね。
「解除しますか」
「きゃっ」
ああ、彼女からすれば突然解除されたみたいなものだものね。可愛く尻もちもついちゃうよね。
「やっと出れた」
「あら、思ったより冷静ね」
「あんな空間に居たんですもの。少しは冷静になれるわ」
「そう。まあいいわ。所で居場所を知らせる物とか持ってないの」
「持ってないわ、そんなの」
ん?いや、そんな訳ないよな。確か友人の話を聞いた限り、彼女が誘拐され救出されるまでに掛かった時間は3日という短時間の筈だ。中国の南半分が独立した国とはいえ決して小さい面積じゃないのにどうやって彼女を短時間で見つけることができるんだ。
「ねえ、家族か使用人誰でも良いから渡された物はない?」
「え?ええ、確か英作叔父様からこれを」
見せられたのはあまり変わり映えのしないペンダントだった。
「そうちょっと貸してくれないかしら」
「壊さないでちょうだいね」
「少し調べるだけだから壊さないよ」
ペンダントを少し調べてみる。特に変わった感じはしなかった。オーソドックスな考えならこれがGPS付き発信機って可能性が高いよな。
「返すわ。ありがとう」
私の考えが正しいならここにいればいずれ助けに来るわよね。でも、こんなところにいつまでもいる訳にはいかない。
「動くな」
「ん?」
「貴様、どうやってそこの娘を連れ出した!」
ああ、なるほどもう見つかったのね。研究所の人間も馬鹿じゃないみたいね。
「教える訳ないでしょ。こんな年端もいかない少女を誘拐して人体実験しようとするようなクズ共に」
「我々は魔法師の明るい未来のために…」
「そういうのは良いから」
少し探ってみたけど10人くらいか。その位の人間に囲まれているわね。
「良いからその娘を此方に渡せ!さもなければ貴様を殺す」
「貴女、私のことは良いから逃げて」
「大丈夫よ。私の側から離れないでね」
さてどうするかな。あまり殺したくわないけど…この場合は仕方ないか。
「ねえ、あんたら重力に押し潰されたことはあるか?」
「何を…!?」
「え?え?」
使ったのは中原中也の異能力【汚れちつまた悲しみに】。私たちを囲んでいた連中の重力を操作したことにより急に倒れ、そのまま地面にめり込んでいった。本来この異能は私自身が触れた物や人にしか効果を発揮できないけど、地面に能力を伝播すれば直接触れることなく力を使うことができる。
「重力操作。そのまま地球の一部になりな」
「CAD無しでこんな芸当ができるなんて」
因みに研究所の人間はいまだに地面にめり込み続けている。でもそろそろ声が聞こえなくなってきたし、そろそろ解除しても良いかもしれないな。
「はぁ、厄介なことになったな。また追っ手が来るかもしれないし…何か連絡できるものないかしら」
「その人達が持っているかもしれません」
「そうね。良いの何か持っていれば良いのだけれど」
まぁ、持っていたとしてもさっきの重力操作で壊れていなければ良いんだけど。探ってみると携帯端末が見つかった。
「携帯端末、ね」
「それでどうするのかしら」
「ちょっと、ね」
これを使って四葉の誰かの携帯端末をハッキングでもしてここの位置情報でも送れば早くても明日あたりにはここに来るかも知れない。
「異能力【蒲団】」
田山花袋の異能力【蒲団】は触れずに視界内の電子機器を自在に操作し処理をすることができ、常人の数十倍の処理速度を得ることができる。まぁ、私は花袋みたいな凄腕のハッカーじゃないけどまぁ何とかなるか。
「さて、こんな物で良いかしら」
ハッキングを何とか成功させた私はここから少し離れた場所の位置情報を送りつけた。
「ここから移動するわよ」
「この人たちはこのままでいいの」
「意識を取り戻したところで全身の骨が砕けているから何も出来ないわ。このまま放っておく」
そう説明した後四葉の家に送りつけた位置情報の場所に移動し始めた。
そういえば私にハッキング技能なんてなかった筈なのにまるで慣れているかのように出来たわ。これも転生による特典みたいな物かしら。
「ここら辺よね」
「ここで何するの」
「さっきここの位置情報をあんたの家に送りつけたのよ。だからここで待っていれば来るはずなのだけど」
流石にすぐには来ない、か。でも時間はかからないはず…誘拐されたのが当主の娘なのだから血眼になっているのが普通だ。
「時間を指定してなかったんですね」
「そうね。うっかりしていたわ」
時間指定しておけばよかった。言われて気づくとわ。
「それより貴女の力は魔法ではないのですか」
「魔法ではないわ。最初に言ったでしょ。私の力は異能力…わかりやすく言うなら超能力ね。あんた達が現代魔法というものの原典と言えばいいか」
「BS魔法、つまり貴女はBS魔法師なのかしら?いいえそれなら一つの系統の力しかない筈なのに貴女の力には当てはまらないわ」
「BSってどういう意味かは知らないけど多分違うわ」
「BSっていうのは『Born Specialized』の略で魔法として技術化が困難な異能に特化した魔法師をBS魔法師と言います」
「ふーん。つまり他の人が当たり前にできることは出来ないけど生まれながらに宿した特出した大きな力があるってことね」
「別に魔法が全く使えない訳ではありません。ただ、使えるけど平均以下というだけです」
まぁ、私はきちんと調べた訳じゃないからわからないけど魔法は使えるかもしれない。
そんなくだらない話をしていると誰かが近づいてくる気配を感じた。
「真夜様、無事ですか」
「貴方は重蔵叔父様?」
「貴様か!真夜様を攫ったのわ!」
「叔父様、待って!」
「はぁー重力操作」
「く、体が…動か、ぬ」
慌てているとは言えいきなり攻撃しようとしてくるか、普通。動けない程度に重力を強くする。
「あら…」
「貴女、体が」
「な、なんだ」
体が透けてきたのを見て驚く。ああ、これで送り届けた認定なのね。
「お別れみたいね。残念だけど」
異能を解き、そう言う。
「お別れって貴女は一体」
「何、簡単な話。私はこの時代から2、30年先の未来からきた存在なのよ。ちょっととある異能の失敗で過去に来ちゃっただけよ」
「未来って、そんな…こと…それにお礼もまだ」
「礼なんていいから。ああ…でもそうね。なら、約束しなさい」
「約束…ですか」
さっきからおっさんの方は黙っているみたいだけど、状況を理解してないみたいだな。
「これからの人生、人を世界を恨むことも憎むこともあるだろうけど許す心を持ちなさい。それと家族を、好きな人を、他人を大切にしなさい。そして幸せになりなさい。後悔しないようにね」
「それが約束ですか」
「ええ、そうよ」
もう、体の半分以上が消えていた。言いたいことは言ったから後悔はない。
「それじゃあ、さよならね」
「待って!最後に名前を」
「名前?碧䒾よ、柳河碧䒾」
こうして私の意識は途絶えた。