最悪のAIウルトロンは、ヒーロー免許を取得して偽りの平和を管理する 作:MAMIMU
「君は、ヒーローになれる」
オールマイトからもらったその言葉から始まった僕のヒーローへの道は、想像を絶する茨の道だった。
事件の翌日、彼に連れられてやってきたのは、不法投棄のゴミで埋め尽くされた海浜公園。
そこで僕は、オールマイトの持つ「個性」の真実を知らされた。
「受け継がれていく力……!」
「そうだ。一人が力を培い、その力を次の一人へ渡し、また培い、渡していく。救けを求める声と、義勇の心が紡ぎ出してきた力の結晶。その名も『ワン・フォー・オール』!」
生まれながらに持っているのではなく、譲渡される個性。
彼が長年探し求めていたその後継者に、僕を選んでくれたのだ。胸が張り裂けそうなくらい嬉しかった。
だが、無個性の脆弱な肉体にその絶大な力を入れれば、四肢がもげて爆発してしまうらしい。
「だからこそ、君にはこのゴミだらけの海浜公園を清掃してもらう! 名付けて、『目指せ合格! アメリカンドリームプラン』だ!」
その日から、僕の地獄の十ヶ月が始まった。
学校へ行く前も、放課後も、休日も。ひたすらに重い冷蔵庫やタイヤを引きずり、運び続ける日々。
筋肉は悲鳴を上げ、何度も吐き気を催し、ベッドに倒れ込む毎日だった。
(足りない……)
雄英高校の入試まで、時間が圧倒的に足りなかった。
僕は無個性だ。他の受験生たちは、物心ついた頃から個性を使いこなし、ヒーロー科に入るための準備をしてきている。マイナスからのスタートである僕が、みんなと同じ土俵に立つためには、オールマイトが作ってくれたプラン以上のことをやらなければ追いつけない。
睡眠時間を削り、勉強しながらダンベルを上げ、限界を超えて体を酷使した。
ある日、過労でゴミの山に倒れ込んだ僕に、オールマイトは「プランをオーバーワークしている! 焦る気持ちはわかるが、これじゃあ本末転倒だぞ!」と叱った。
「だって……頑張らなきゃ……オールマイトに、追いつけない……!」
「君は……私の期待に応えようとしているだけじゃないんだな」
「最高のヒーローに……なるんだ!!」
僕の言葉を聞いたオールマイトは、元の筋骨隆々の姿になり、僕を抱え上げて笑った。
「なりてえモノに、なりてえんだな。……狂気の沙汰だぜ! いいだろう、私が手綱を引いてやる!」
そこから先の記憶は、泥と汗と痛みにまみれて、よく覚えていない。
ただひたすらに、前だけを見て走り続けた。
そして、雄英高校入試当日の朝。
日の出の光が差し込む海浜公園には、もう一つのゴミも残っていなかった。
「おおおおおおおおおおっ!!」
清掃完了の証として、最後に残った巨大なトラックの上に立ち、僕は朝日に向かって雄叫びを上げた。
服の下の体は、十ヶ月前とは見違えるほどに引き締まり、筋肉が波打っている。やり遂げたんだ。
「驚いたぜ、少年。まさか、ギリギリどころか時間前に終わらせちまうとは。器はできた! あとは君次第だ!」
オールマイトが、誇らしげに僕を見ていた。そして、彼は金髪の前髪を一本むしり取ると、僕の前に突き出した。
「さあ、これを受け取れ。……食え!!」
「えっ」
「DNAを取り込めばいいんだよ! 早くしないと試験に遅れるぞ!」
「思ってたのと違うううう!!」
結局、涙と汗にまみれた十ヶ月の集大成は、髪の毛を丸呑みするというなんとも言えない形で幕を閉じた。
力が湧いてくるような実感は、まだない。
それでも、僕は雄英高校の門の前に立っていた。
「でっけえええ……!」
見上げるほどの巨大なH型の校舎。ここが、僕の夢の舞台。
一歩を踏み出そうとした時、背後から聞き慣れた怒声が響いた。
「どけデク! 殺すぞ!」
「か、かっちゃん!?」
爆豪勝己。ヘドロ事件の後も彼の態度は変わらない。むしろ、僕をより一層鬱陶しがっているようだった。
僕は慌てて道を譲り、彼の背中を見送った。
(よし……行くぞ!)
気合いを入れて歩き出した瞬間、自分の足がもつれた。
(いきなり転ぶ!?)
アスファルトに顔面から激突する——と覚悟して目を閉じたが、いつまで経っても衝撃は来なかった。
恐る恐る目を開けると、僕の体は地面の数センチ上で宙に浮いていた。
「あ、ごめんね! 勝手に個性使っちゃって。でも、転ぶと縁起悪いもんね」
ふわり、と体を起こしてくれたのは、丸顔で優しそうな女の子だった。
「緊張するね、お互い頑張ろう!」
彼女はニッコリ笑って、校舎の方へ歩いていった。
(女の子と……お、お話ししちゃったぞ!!)
※実際は一言も発していない。
胸の高鳴りを抱えながら、僕は筆記試験の会場である大講堂へと入った。
数百人の受験生たちが座る中、壇上にはプロヒーロー・プレゼントマイクが立ち、実技試験のルール説明が始まった。
仮想敵(ヴィラン)であるロボットは3種類。それぞれにポイントが設定されている。
僕が必死にメモを取っていると、突然、前方の中央に座っていた眼鏡の受験生がピシッと手を挙げた。
「質問よろしいでしょうか! プリントには4種類のヴィランが記載されています! 日本最高峰の雄英がこのようなミスをするとは恥ずべきことです!」
そして、彼はこちらをビシッと指差した。
「そこの縮れ毛の君! さっきからブツブツとやかましい! 遊び気分で来ているなら今すぐ立ち去りたまえ!」
「ひっ……! す、すみません……」
周囲からのクスクスという笑い声。僕は恥ずかしさで両手で顔を覆い、身を縮めた。
だが、その時。
背中のずっと後ろの方……講堂の最後列あたりから、**何かとてつもなく冷たく、重苦しい気配**を感じた気がした。
振り返ろうとしたが、プレゼントマイクの声がそれを遮った。
「オーケーオーケー受験生! 4種類目の敵は0ポイントの『お邪魔虫』だ! 倒す意味はないから、見かけたら逃げることをオススメするぜ!」
説明が終わり、いよいよ実技試験の演習場へと移動する。
(やるしかない。オールマイトからもらった力……ワン・フォー・オールを、ぶっ放すんだ!)
手のひらを強く握りしめながら、僕は決戦の地、演習場Bの巨大なゲート前へと向かった。
そこには、想像を絶する『蹂躙』が待ち受けているとも知らずに。