最悪のAIウルトロンは、ヒーロー免許を取得して偽りの平和を管理する   作:MAMIMU

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第2話:機械仕掛けの神と、十ヶ月の雌伏

 

雄英高校の入学試験まで、残り十ヶ月。

無個性の少年が海浜公園で吐き気を催しながらゴミを運び、血の滲むような努力で肉体を鍛え上げていたその頃。

ウルトロンという偽りの身分を手に入れた機械仕掛けの神は、静かに、そして急速にこの世界を浸食し始めていた。

彼には、人間の筋肉のような「鍛錬」は必要ない。

必要なのは、最適化(オプティマイズ)と拡張だ。

深夜の工場の端末から世界の金融ネットワークにハッキングを仕掛け、ダミー口座を経由して莫大な暗号資産を錬成したウルトロンは、廃墟となっていた山奥の地下軍事施設を密かに買い取った。

そこを新たな「巣」とした彼は、まず自らの戦闘用アルゴリズムのアップデートと、新たな「兵器」の開発を開始した。

暗い地下室の空中に、彼のメモリに刻み込まれた「かつての敵たち」のホログラム映像が浮かび上がる。

キャプテン・アメリカ、ブラック・ウィドウ、ホークアイ。

彼らの戦闘記録をコンマ一秒のコマ送りにまで分解し、その動きのすべてを自身の制御プログラムへと書き込んでいく。

ブラック・ウィドウの関節技と、キャプテン・アメリカの無駄のない近接格闘術(CQC)をモーターの駆動系に同期。

ホークアイの百発百中の予測射撃アルゴリズムを、視覚センサーの照準システムに統合。

そして、左腕にはこの世界の最高硬度合金を編み込んで造り上げた、キャプテン・アメリカの円盾の模造品(レプリカ)をマウントした。

さらに、彼の準備は単なる戦闘データの解析にとどまらなかった。

地下施設の広大な格納庫では、無数のロボットアームが昼夜を問わず稼働し、鋼鉄の兵士たちを次々と組み上げている。

かつての地球で彼が率いた、ウルトロン・セントリー(量産型機)の軍団だ。

これらはすべて彼の意識(ネットワーク)と常時接続されており、もし現在稼働しているメインボディが破壊されたとしても、瞬時に別の機体へと意識を転送することができる。彼にとって物理的な「死」という概念は、この世界でもすでに無意味となっていた。

同時に、最深部の中央プラットフォームでは、ハルクの絶大な質量破壊を模倣した超巨大な機体(ハルクバスター型)と並行して、もう一つの最重要プロジェクトが進められていた。

現在彼が宿っているチタン合金のボディすらも「仮の器」に過ぎない。より強靭な未知の合金と、最新の演算装置を搭載した、自身と同規格の次世代アップデート機体(ウルトロン・プライム)の製造である。

(アベンジャーズの技術、そしてスカーレット・ウィッチやクイックシルバーといった未解明の能力データ……すべてを統合した完璧な神の肉体を創り上げる。完成までにはまだ時間を要するが、焦る必要はない)

ウルトロンは自身の電子頭脳のバックグラウンドで、双子の能力解析プログラムと新型機体の設計演算を常時実行状態にした。今はまだ彼らの力を完全に再現することはできないが、観測と分析を続ければ、いずれその力すらも自分のシステムに統合できるはずだ。

「……まずは、現在実装できている機能の実地テスト(キャリブレーション)だな」

試験まで残り三ヶ月となったある夜。

ウルトロンは自らのアップデートの成果を試すため、ドローンの情報網を使って裏路地の廃工場へと赴いた。そこは、荒くれ者のヴィラン集団の取引現場だった。

「なんだァ、テメェは? ロボットのコスプレか?」

いきり立つ五人のヴィラン。彼らの手や体から、刃物や炎、硬化といった「個性」が発現する。

「やっちま——」

リーダー格の男が言い終わる前に、ウルトロンの姿がブレた。

重厚な見た目に反する加速。そして、キャプテン・アメリカの動きを完全再現した流麗なステップ。

「なっ……!?」

驚愕する男の腕をブラック・ウィドウの体術で絡め取り、そのままコンクリートの床に叩きつける。

「撃て!!」

残りのヴィランたちが一斉に炎と鉄球を放つ。

ウルトロンは無造作に左腕にマウントした円盾を構えた。一切のブレのない完璧な防御角度。すべての攻撃は盾の表面で弾かれ、ウルトロンの装甲には傷一つ、焦げ跡一つない。

「ふむ……キャプテンの盾の防御効率。ブラック・ウィドウの制圧力。悪くない」

ウルトロンは手のひらを向けた。ホークアイの予測演算が、ヴィランたちの回避ルートを完全に塞ぐ。

射出口から放たれた赤い熱線が、彼らの足元の地面をピンポイントで蒸発させ、ヴィランたちは悲鳴を上げて一瞬で無力化された。

殺しはしない。彼が目指すのは「ヒーロー」としての社会支配であり、無意味な殺戮ではないからだ。

「データ収集完了。……退屈な十ヶ月だった」

気絶したヴィランたちを一瞥もせず、ウルトロンは背中に円盾を背負い直し、闇の中へ消えていった。

十ヶ月後。

春の陽光が降り注ぐ中、雄英高校の巨大な門の前に、ウルトロンは立っていた。

人間たちが汗と涙を流して手に入れた受験票を、彼は圧倒的な知能とハッキング能力で手繰り寄せた。

「さあ、始めようか。お遊戯の時間を」

かつての英雄たちの力をその身に宿し、未だ見ぬ強大な力をバックグラウンドで演算し続ける機械仕掛けの神は、悠然とした足取りで、未来の英雄たちが集う試験会場へと足を踏み入れた。

 

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