黒ずくめの組織の暗殺者がアポトキシンで幼児化した件 作:ummt
「はぁ……また振り出しに戻っちまったな」
入院中、灰原から告げられた3つの選択肢。
『アナタの選択肢は3つ。1つ目はこのまま彼女に何も話さずに冷酷に接し続ける。2つ目は組織に正体がバレるわけがないとタカを括って彼女に真相を話す。3つ目は……これ、白乾児の成分を参考にして作ったAPTX4869の解毒剤の試作品。……どう? 死ぬかもしれないけど……試してみる?』
この3つ目の選択肢を選び、蘭にだけ事情を説明するつもりが、事件に巻き込まれちまってなし崩し的に元の姿のまま推理ショーを始めてしまった。
ただ、シャラクやヤン、エルダーといった三人の疑わしき人物から『コナンと新一は別人である』と認識させ『新一は生存しているが所在を追えない』とさせる事は出来ただろう。
ヤンが大爆笑した理由は『東西の名探偵が揃っておかしな格好をして大衆の前に姿を現した』からか、もしヤンが組織だとして『死んだはずの工藤 新一が蘇った』からか……どちらにせよまともな感性をしていたら笑いのツボにはならない筈だ。
組織に『新一は生きている』と報告されたとしても、今新一の姿をする者は居ない。
つまり組織は捜索に無駄骨を折ることになり、もし再捜索が始まったのならこの土日で何かしらの動きがあってもおかしく無い。
「あら、進展はあったんじゃない? ……彼女との仲が深まった」
灰原と俺は下校時間になると光彦達を阿笠博士の家に向かわせて喫茶ポアロに向かった。
……今日はシャラクが登校して居なかったのが気がかりだが、何かを準備しているのか現状では何も分からない。
シャラクは携帯電話を持っていない癖にゲーム機を開発して病室に持って来て寄越した。
チープな作りの外観の割に中のソフトウェアはしっかりしているもので、到底小学生がおいそれと作れるものではない。
……ヤンの兄、ナイトバロンの基礎を作ったとされる人物が作成し、シャラクが作ったとして『侮れない小学生』として警戒心を向けさせたのか。
博士にゲーム機を分解してもらい、盗聴器等が仕掛けられていないか確認してもらったが、怪しいものは何も無かった。
……それに、シャラクはオレを命がけで救護したんだ。
シャラクはヤンやヤンの兄に操られている可能性が高い。
「茶化すんじゃねーって」
昨日の夜まで解毒剤の効果が持続し、米花センタービル展望レストランで蘭に大切な話をしようとしたタイミングで再び事件に巻き込まれてしまい、また幼児化してしまい今に至る。
蘭から『ずっとコナン君を博士に作ってもらった薬で小さくなった新一だと思っていた』と告白され『いつか必ず絶対に戻るから、それまで蘭に待っていてほしいんだ』とコナンの姿で伝えたが……。
……まずは蘭がコナンと新一は別人と認識してくれただけでも、今後の立ち回りもしやすくなるからな。
「彼女……江戸川君と工藤 新一を同一視しなくなったからといって、組織からの抹消リストに載らなくなり安全になったとは……考えないことね」
、、、
「いらっしゃい!! コナン君に灰原さん」
喫茶ポアロに訪れると、梓さんがしゃがみながら挨拶をしてくれた。
「あ、コナン君に……誰? 彼女かな?」
エルダーがカウンターから歩いてくると、灰原が氷のように固まった。
「あ……あ……」
顔面蒼白になり、唇からは血の気が引いて紫色になってしまっている。
……やはり、組織の人間だったか。
「灰原さん、安心して? エルダーさんは記憶喪失なんだって!!」
記憶喪失が詐称だとしても、今エルダーから動くことは無い。
もしこのまま灰原を拉致しても上にはおっちゃんが居るし、高木刑事には何時でも連絡出来るようになっている。
組織に通達するにしても、ポアロには盗聴器を仕掛けてあるから直ぐに察知可能。
……後はどさくさに紛れて発信器と盗聴器をエルダーに付けられれば、準備は整う。
「シェリー、よく来たね」
……な、なんだと……。
何故コードネームを今言ったんだ?
オレ達に自身が組織の人間だと明かしても問題ないと言うことなのか……?
組織の魔の手が直ぐそこまで迫っているというのか……?
「もう!! エルダーさんが変なあだ名をつけるから、灰原さんが困ってるじゃないですか!!」
梓さんが空気を裂くように割ってはいると、エルダーは頭を掻いて苦笑いをした。
「可愛い子だったので……つい」
……確かにシェリーは『可愛い人』という愛称ではある。
「ごめんなさいね? 灰原さん。エルダーさん、私のことも『シェリー』って呼ぶし、若い女性のお客さんには必ず言うの。女性を見たらすぐに口説くナンパな人だから気をつけてね!!」
そう言ってエルダーの脇腹をどついた。
「……そ、そうなの。……とんだスケコマシね……」
灰原は正気を取り戻した様で、深呼吸をしながらテーブル席についた。
「へぇー、ならエルダーさんはフランスで暮らしたことがあったのかな」
エルダーは顎に手を置いて考える仕草を見せ、その後は閃いたとでもいうように掌に拳をポンと置いた。
「そうか!! コナンくんは頭がいいね。……灰原さんの気を悪くさせちゃったみたいだから、灰原さんも僕に渾名をつけてよ」
沈黙があった後、灰原は重い口を開いた。
「……そうね……。イザラはどうかしら……フランス南部とスペイン北部で話されるバスク語で『星』を意味するの。……アナタの金色の髪にピッタリだわ」
、、、
「はい、どうぞ。季節の限定パフェが2つとエルダーさんからのお詫びのバナナチップス」
梓さんがトレイからテーブルに皿を移すと、エルダーはスタッフルームに入っていった。
「ありがとう!! 頂きます!! ……灰原、エルダーは……」
パフェを口にしながら灰原に小声で話かけると、灰原は淡々と応えた。
「……間違いないわ。彼はバイジウの弟で暗殺者のイザラよ。二丁拳銃を使い、縛りゲーとして絞殺縛りや銃弾数縛りを愉しむ異常者……。彼は左目が薄茶色に白がかった黄土色、右目がヘーゼルのように薄茶色に緑がかった緑土色という非常に稀なオッドアイで、見たら直ぐに分かるのよ。……分かっても彼の目を見たターゲットは死ぬから、あえて見せていたのね」
……ということは、今の両目が黄色い瞳なのはカラーコンタクトをしている……。
……まてよ。
「なあ、それならどうして今はカラコンなんてつけてるんだ? 組織内とミッションの時にもつけていなかったんだろ?」
何故わざわざこのミッションだけカラコンをつけた?
警察が身元証明した時にカラコンは確認しているだろうし、身元調査でもバレるのに、なぜだ?
カラコンをしなければならない理由……いや、カラコンを長時間外さないでいる理由……頻繁に付け替えないといけない事象が……。
「あ、コナン君も来てたんだ!!」
声に反応して振り向くと、蘭と園子が見知らぬ眼鏡姿に金髪を三つ編みにしておさげにした帝丹高校の女子を連れていた。
「紹介するわ!! この子、今日転校してきた鈴本 ロンシャン!! ベルっていうの!! ねー? ベル!!」
園子に肩を叩かれて、ベルと呼ばれた女子は恥ずかしそうに頭を下げた。
ベル……まさかベルモット!?
……なーんて、流石に女子高生に潜伏はねーな。
「う……は、初めまして。鈴本 ロンシャン……です。ベルってあだ名は園子さんが『スズよりベル』ってつけてくれました。……う、ロンシャン……変な名前……ですよね……」
灰原の方を見ても特段恐れ慄いていないようだし。
「確かに『鈴木 田中』みたいな名前ですが、響きがおしゃれでいいですね。……そうだ、初対面同士ですし、簡単なゲーム『表裏一体』*1をしませんか?」
……ヤンの兄もゲームに詳しく、ヤンと共に住むシャラクもゲームを作ってきたが……。
灰原をヤンに会わせてしまったら、それこそショックにならねえか?
「……ええ、いいわ。やりましょう? 鈴本 ロンシャンさん」
・目的:相手より先に、自分の7つの星すべてを初期色とは異なる色に塗りつぶすこと
・先攻/後攻はゲーム開始時にじゃんけんで決定
以降は1手ごとに交互に手番が回る
・自分の手番では、手札「0・1・2・3・ランダム」から1枚を選ぶ
(ランダム札は開始前に0〜4の数字が決める/手札5枚を使い切れば使用していないものから再選択可能)
選んだ数字の分だけ、星の色を反転させる
0は何も起きない
・変換する星は自分のものでも相手のものでも自由に組み合わせて選べる
(例:3なら自分1個+相手2個、など。合計が数字とぴったり一致する必要がある)
・手札の5枚(ランダム札含む)をすべて使い切ったプレイヤーは手札をリセットして再び5枚から選べるようになる
同時にそのプレイヤーの初期色の白黒が入れ替わりる(=目標が反転)
・毎手番の後、両プレイヤーの状態を確認し、初期色から完全に反転しているプレイヤーがいればそのラウンドの勝者となり1勝とする
両者の星を配り直して次のラウンドへ進む
・先に2勝した方が総合勝利