黒ずくめの組織の暗殺者がアポトキシンで幼児化した件 作:ummt
「じゃあ、今日こそ三人で蘭の家で勉強会ね!!」
園子に腕を引かれるがままに足を進めた。
「その前にポアロでケーキをテイクアウトしていかない? ベルさんはどんなケーキが好きなのかな?」
曇りのない笑顔を向けるエンジェルとのブレイクタイムに個人的な好みを持ち込む程、愚かではないわ。
「ケーキなら……なんでも好きです」
、、、
「梓さーん!! ケーキのメニュー表みせて!!」
喫茶ポアロに着くとどうやらエルダーは不在のようで、店内を見回したが目の届く範囲では監視カメラの類は見当たらない。
ただ、盗聴器等がテーブルの下や観葉植物等に仕込まれている可能性もあるけれど、客がキョロキョロと理由もなく探し回るのはどう考えても不自然。
何かキッカケがあれば……。
「こんにちは!! エルダーさん居ますか!!」
……たしかこの子は以前エルダーが灰原というシェリーの外見を幼くしたような少女と私に対してゲームをさせた時にもいた。
……エンジェルと共に暮らす江戸川 コナン。
仮にヤンのアポトキシンの改良版を投与されていたとして、灰原がシェリーとするなら、江戸川 コナンの正体は誰?
江戸川 コナンは何故エンジェルと……近しい間柄なの?
血縁関係、毛利 小五郎の依頼人か世話になった人間の子供、何にせよ毛利 小五郎が世話をする程の存在。
エンジェルと共に行動していたクールガイはジンの凶弾によってこの世から……。
……まさか、ジンが。
「ごめんね? エルダーさんは今日お休みなの」
店員がしゃがみながらコナンに目を合わせた。
その隣で、灰原ともう一人の子供が……。
「わあ……なんて美しい女性なんだ……僕のお嫁さんになって下さい!!」
金髪にエルダーと同じ瞳の……あれはカラーコンタクト?
エルダーによく似た子供が店員の首に勢いよく抱きついて、その拍子に店員は尻もちをついた。
「きゃ!! だ、だめだよ!! 女性に抱きついちゃ……」
……あれは、間違いない。
イザラ……エルダー・ブルドン、その人だ。
「コラ!! マセガキ!! 離れて!! 謝んなさい!!」
園子が子供の襟首を掴んだ瞬間、瞳孔を小さくして唸るような声を出した。
「……ああ? ……あ、すみません……本当に……一目惚れしちゃって……ご、ごめんなさい……嫌いにならないで……梓さん」
……梓。
……信じられない。
あのイザラが……あり得ない……いえ、この状況だからあり得るのか。
イザラが記憶喪失のエルダーとして毛利 小五郎の懐に入り込むミッションであったのはラムから聞かされていた事実。
やはり険悪であるはずのバイジウからアポトキシンの改良版を渡されている……つまり、幼児化と成人化を繰り返している事になる。
だからこそ、脳に致命的なひずみが生まれた……。
「大丈夫だよ。……でも、人が嫌がることをしちゃダメだからね? ……お名前は?」
……バカね、初対面でまだ名前を名乗られてすらいないのに『梓』と呼んでしまった。
「嫌……でしたか。……すみません。僕は家達 紗洛……シャラクって言います」
……違う。
いえ、違うわ……これは事実誤認への誘導……。
これは失態ではなく、周囲への『気づき』への明確なパス。
イザラは一体、何を考えているの?
「シャラク君か……カッコいい名前だね。これからもよろしくね!」
、、、
「それで……なんでガキンチョ達も一緒なわけ?」
その後、シャラクが突然『今在庫があるケーキ、全部ください!!』と突拍子の無いことを言って、その場にいる者の認識が一気に『シャラクは天然で梓にゾッコンある』という刷り込みに変わっていった。
「だって人数分ケーキを買っちゃったし、食べるなら早い方がいいし、みんなで食べた方が美味しいじゃない。ね? コナン君」
エンジェルが微笑むと、灰原の眉同士の間隔が狭まりコナンの眉は下がった。
……子供の豊かな表情筋ではポーカーフェイスを取り繕えないらしいわね。
「うん!! それよりさー、シャラク君……ヤン先生について教えてよ!! 新しく赴任してきた校医の先生!! 一緒に住んでるんでしょう?」
……なんですって?
ヤンが帝丹小学校の校医……?
その役目は新出 智明……今はプーシィが行なうはず。
彼が日本の医師国家資格の受験資格を満たしたとして審査をパスし免許を持っていても何ら不思議ではないけれど……。
何故プーシィを配置せずに自ら動いたの……?
……小学校に興味関心を持つ事柄、やはりアポトキシンに関連する者がシャラク以外にも居る……居るからこそシャラクが配置された……。
「またその話? うーん……ゲームに勝ったら教えてあげる。……はぁ、梓さんと結婚したいな……ねえ灰原さん、梓さんが僕を愛してくれる可能性ってあるかな? ……はぁ、無いよね……」
シャラクがケーキを頬張りながら宙を見上げた。
……誘導、真実、どっちなの?
「まったくマセガキときたら……。でも、私達も丁度『ブルドン先生を調べてみようよ』って蘭と話していた所なの!! 私達にも聞かせなさいよ!?」
なんてこと……ヤンに近づいてはダメ。
「ななっ……どうしてですか!? せ、先生を調べるって……何かあったんですか!? 何かされたんですか!?」
首を傾げて握り拳を胸の前で上下に振ると、エンジェルがぽつりぽつりと話し始めた。
「……個別に授業改善アンケートを渡されたから変かなって思って。でも、後から『他の人の顔色を伺って回答を合わせたりされたら困るからランダムに渡した』って聞かされたの。……やっぱり改めて考えてみると考えすぎだったかもしれないかな」
、、、
「それとね? 噂なんだけど……万引きして逮捕されちゃった女子の先輩が居たんだけど……その前の日の夜、校舎に忍び込むのを見たっていう子がいてね? ……後をつけると廊下から漏れた薄い光と微かな声が……ま、まあガキンチョにはまだ早いか。とにかく何かあったらしくてさ」
……そうだったの。
大方ヤンのルックスと身分に騙されて関係を持ち、適当に処分されてしまったんだろうけど。
私が校医の座から引き摺り降ろされてから鈴本 ロンシャンとして再び舞い戻るまでの空白の期間にそこまで横暴な行動を取っていたとは……。
「……ねえ……いい加減、三兄弟かくらいか教えてくれてもいいんじゃない?」
灰原が目線を腑抜けに向けると、呆れたような声が上がった。
「はあ? ゲームに勝ったら教えるって言ったろ? 手元にあるカードで戦ってみせろ、俺をこれ以上失望させないでくれ……はぁ……」
……確定した。
やはりヤンとイザラは犬猿の仲で間違いない。
お互いをただのNPCだとしか認識していない。
「ブルドン先生って兄弟がいたんだ……」
……ヤン・ブルドンとイザラ・ブルドンは二人兄弟。
「そのようね。自分を模倣する不出来な弟がいることは確か。……案外、近くに居るのかもしれないわ」
そして灰原もシェリーで確定でいいわね。
ラボの総責任者と指示を受ける研究者だったんだから、彼の『兄は自分であり、エルダーが弟で劣化したコピーキャット』であるという苛烈な認知の歪みに妄言と欺瞞を吹聴し続け、既成事実と化したテリトリーの中にいたからこその発言。
……イザラは二人の正体とヤン……バイジウの目的も知っている。
ここで彼を敵に回したら後々厄介になる。
「……小五郎のおじさんにATFで働いていたヤン・ブルドンを調べて貰えばいいんじゃない?」
江戸川 コナンが笑顔を向けた。
「……なっ、ならっ……ATFのHPや外部への冊子にヤン先生の名前が無いかを調べて、そこから大学や高校を辿っていけばいいと思いますっ!!」
私が動くしかない。
「ふーん、ベルって探偵に向いてるんじゃない? あとさ、僕甘いの嫌いだから……ベルが残りを食べてくれない? 吐き気がする」