黒ずくめの組織の暗殺者がアポトキシンで幼児化した件 作:ummt
其の六 帝丹小学校 闇からの招待状 ❖
「なあ灰原……お前は『シャラクはエルダーとは別人』説を推したまんまか?」
小学校のボランティア活動として学校周辺のゴミ拾いをしている最中にそれとなく質問した。
「当たり前でしょう? ……確かに初めて会った時には組織の気配を感じたけれど、それは彼がヤンと暮らしていてエルダー達……ブルドン兄弟の支配下にあって何かしらを吹き込まれているからよ。……見てご覧なさいよ。組織でも有数の暗殺者があんな顔して子供達と一緒にはしゃげると思うの?」
目線を移すと、シャラクと歩美ちゃん達が偏光板を使ってゴミを観察していた。
「やっぱりこれすごいね!! ゴミもピカピカに見えちゃう!!」
光彦と元太と肩を並べて一枚の偏光板を見つめながら無邪気に笑っている。
「でしょう? 僕、将来は研究者になりたいから一杯勉強してるんだ。あ、光彦君、その空き缶にはタバコが入っているみたいから注意して。元太君、そこの雑誌は先生を呼んで捨ててもらっていい?」
……確かに今はただの子供に見えるが、それでも当初に放ったプレッシャーは本物だった。
「……演技派だったらどうすんだよ」
暗殺者なら、役に入り込むことは当然出来るはずだ。
「……江戸川君は彼が『一人称が変わるから』とか『頭が回るから』といった理由で疑っているのね。……私から言えば、小学一年生なら背伸びをしたり誰かのマネをしたがるものよ。……それに、私だから確信して言えることがある」
……研究者だからってことか。
「……なんだよ」
まさか『アポトキシン4869は天才である自分が主導して研究していたから、すぐさま後継の人材が安定した薬品を作り出せる筈がない』とかじゃねえだろうな。
「江戸川君は幼児化の痛み、元の姿に戻る際の強烈な痛みを経験してるはず。身体の変質には必ず代償として激しい苦痛が伴うのよ? それを毎日行うなんて常軌を逸している」
……それはそうだけどよ。
「拷問に耐える訓練をしていたら?」
灰原は大きな溜息を漏らすと、オレに向き直った。
「そういった訓練はしているかもしれないわ。……でもね、江戸川君。あなたや私は『数回の使用を時間をおいて行った』から脳や筋肉、骨に大して異常を来していないと考えるべき。……つまり、少なくとも約半月も毎日アポトキシンと解毒剤を交互に繰り返して、無事でいられるわけがないのよ」
……確かに、幼児化をすれば収縮を、元の姿に戻れば拡大を身体がするんだ。
筋肉組織や骨を生成する細胞に異常を来たすと考えるのが自然か……。
「……そりゃ、そうだ。何度も身体の変質させていたら頭がおかしくなっちまう……。……まてよ、頭……?」
オレと灰原が脳にダメージを負っていなかった事もあり、念頭に置いていなかったが……幼児化をすれば頭も縮まってしまう事になる。
てっきり『記憶と意識』が継続しているから、脳に関する事を考慮していなかった。
「なんの話? それよりも灰原さん、後で恋愛相談に乗ってよ。どうしたら梓さんに振り向いてもらえるのかな……宝石かな?」
目の前に出でて歩き寄ってくるシャラクからは、ただの『歳上のお姉さんに憧れて恋をしている小学生』にしか見えない。
「えっとねー、蘭姉ちゃんが学校で『アインシュタインが嫌いなもの』について宿題を出されたから、その答えが何なのかなー? って話」
灰原にアイコンタクトをすると、コクッと頷いた。
「ああ……『神はサイコロを振らない』の通り『確率論』を嫌ったみたいだけど……それじゃ在り来りだ。……アインシュタインが嫌ったものの一つとして挙げるべきは『不気味な遠隔作用』かな。これならいいんじゃない?」
シャラクは淡々と答えて、何も無い宙を見た。
「…… 『不気味な遠隔作用』……いわゆる『量子もつれ』のことね。随分と博識なようだけれど、ヤンから教わったのかしら」
灰原が問いかけると、シャラクはチラッと灰原を見て、また何も無い宙を見た。
「この程度で博識呼ばわりか。……まあいい。質問に答えてしまったから、順序は逆になってしまうけど放課後にゲームをしよう。今回のゲームは『観測者の色』*1だよ」
、、、
「このゲームはボクの勝ち!! シャラク君は研究者じゃなくてプログラマーにでもなったら?」
このゲームは相手のパターンを推測するものだが、シャラクとは僅差だった。
つまり知性や頭の回転に問題は無い……。
「あー……別にそれはいいかな。リバースエンジニアリングが出来ないとただコードを書けるだけじゃ意味がない」
灰原は溜息をついてシャラクの肩に手を置いた。
「あら、リバースと言うのなら仕様設計が全て書けると言うのね? なら今度私が口頭で言う内容を構築してみなさいよ」
……完全に『ビッグマウスの小学生をあやす研究者』に意識が乗っちまってる。
あれだけ腑抜けた油断と隙を示されたらそうなるか。
仕方がなく昇降口で解散すると、灰原が口を開いた。
「どうしても怪しいと言うのなら、存在の確認……『同時に存在するのか、しないのか』を確認しなさいよ。喫茶ポアロでエルダーのシフトを確認して、その日にシャラクを連れていけばいいじゃない。シャラクとエルダーが同一人物かどうかを知るなんて、簡単なことだわ。ヤンはきっと『同一人物説』を匂わせて、アポトキシンの後継版と解毒剤が大量にあると思わせたいんだわ。そうでなきゃ辻褄が合わない」
……確かに、灰原の意見は正しい。
……正しいからこそ、参っちまう。
「そうだな……ポアロに行って確認すっか……。百聞は一見にしかず、この目で確かめねえと……」
、、、
「ねえ、見て……気持ち悪い。真っ黒な封筒に毛質で白く『毛利小五郎様』って……」
そして探偵事務所に帰宅してからカバンを置いてポアロに向かおうとすると、蘭が奇妙な封筒を小五郎のおっちゃんに渡して見せた。
「切手なし、差出人もなし……どうせ新手の勧誘かなんかだろ……。なになに? 『貴殿の英知をたたえ、我が晩餐なご招待申し上げます』……どうせ名探偵を読んでパーティに箔をつけたいんだろ」
……いや、違う。
おっちゃんが破いた封筒から落ちた紙切れを拾い上げた。
「違うんじゃない? 封筒から『二百万円』の小切手が落ちたから。まだ相手が来るとも分かってないのに、変だよ」
差出人は『神が見捨てし仔の幻影』か……。
「そうだな……よーし、いっちょ行ってみっか!!」
……これは千載一遇のチャンス到来か。
シャラクを誘ってエルダーの観測を灰原に頼めば、同一人物かどうかが分かる。
まさか、ベルモットみたいな人間が協力しているとして、わざわざ喫茶ポアロに潜入しているエルダーに変装をするメリットがない。
そもそも、エルダーとヤンの目的がまだ何も判明していない。
灰原を探して連れ戻すか暗殺が目的なら既に実行している。
この場合、泳がせているなら『協力者の存在』を探すためか、実行出来ない理由がある。
ただし、これは灰原を探す目的が『アポトキシンが未完成であるから』の場合であって、シャラクとエルダーが同一人物でありアポトキシンの後継版と解毒剤が開発済みの場合なら話が変わってくる。
何故エルダーが記憶喪失としてポアロに潜り込んだのか、ヤンが帝丹高校の化学教師に赴任して、さらに帝丹小学校の校医になったのか。
ヤンも校医という職業を使うなら帝丹高校にも校医として潜り込んだほうが動きやすく個人情報も握りやすいはずなのにしていない。
エルダーに至っては不自然で警察から怪しまれる記憶喪失を自称するのが妙だ。
……絶対に、何かがある。
「うん!! お友達を一人誘ってもいい? シャラク君、転校してきたばっかりだから一緒にお出かけしたいんだ!!」
・開始時、白・黒の色と先攻(選ぶ側)/後攻(観測する側)を決める
・毎ターン、その回の選ぶ側が置きたいマスを1つ決める
・①縦、②横、③L字(上下逆)、④L字(上下左右逆)、⑤L字、⑥L字(左右)のランダム並びパターンが決定し、以降巡回する
・置いたマスがどの位置から始まるか(上中下、左中右)はパターン毎に個別
・先攻(選ぶ側)が選んだマスを含む3マスがハイライトされる
・先攻が選んだマスがそのうちどれかを、後攻はハイライトされたマスの中から『先攻が選んだのはここだ』と思うマスを1つ選ぶ
・当たれば後攻の色、外れれば先攻の色が先攻が本当に選んでいたマスに置かれる
・ハイライト候補のマスがすでに色で埋まっている場合、その方向にもう1マス先が空いていればそちらへずらしてハイライトし、そこも埋まっていればそのハイライトは表示しない
・盤面のどの空きマスを選んでもハイライトが1マスにしかならない状態になった時点、または空いているマスが無くなった時点で終了
・自分の色を多く置けた方が勝ち(同点は引き分け)