黒ずくめの組織の暗殺者がアポトキシンで幼児化した件 作:ummt
「すみませーん!! 新出先生いますかー!?」
まったく……校医の不定期な勤務に大学での研究室との往復とヤンのクソ野郎の無茶振りに参ってるのに、今度は見知らぬ子供かよ。
……新出 智明の知人、対応をしくじると不味いな。
「あれ? コナン君、どうしたの? 帰って明日の準備した方がいいんじゃない?」
後を振り向くと毛利 小五郎の娘、毛利 蘭が下校しようとカバンを肩に掛け直しながら子供に声を掛けて近寄ってきた。
「……コナン君か。……僕に何か用かな?」
しゃがんで目線を合わせて、ニコッと笑ってみせる。
「あのね? 鶏がヒヨコになって、また鶏になれる魔法のアメがあった時、何回もアメを食べたら鶏ってどうなるのかなって思ったんだ。学校で『鶏が先か卵が先か』ってお話があったから、新出先生ならお医者さんだから分かるかなって」
……この子供、師匠が飲んでる幼児化の薬の事を知っているのか?
ヤンの手先……?
幼児化した組織の末端工作員か?
……やっぱり師匠はヤンの薬を何らかの弱みを握られて服用せざるおえない状況になっているんだろうか……。
『俺は近々子供の姿になって訪日するから、その時は頼んだ』
滅多に連絡を寄越さない師匠からそう言った趣旨の通達を受けた時には何の冗談かと思ったけど……本当に子供の姿になって来たからな……。
最近、おチビちゃんになった師匠は滅多に大学に忍び込んで姿を現さないから心配だ……。
「鶏さんがヒヨコになったり、その逆を繰り返すんだね? まず考えられるのは『寿命が縮む』かな。細胞分裂のたびにテロメアが消費される。次は『がん化』で幾度も細胞分裂をすると遺伝子の突然変異が起こりやすい。それに骨と筋肉を破壊して伸縮するから骨粗鬆症や骨折、腱の断裂が起こるからまともに動けなくなるし、皮膚も壊死するね。後は内臓、主に心臓と脳へのダメージかな。普通なら変質した時点でシナプスが破壊されて廃人になりそうだけど、そうでなくても記憶喪失になったり認知機能が低下して精神錯乱を起こすと思うよ。脳器質性精神障害……頭を打って性格が変わったってお話、聞くでしょう?」
そういえば師匠って幼児化の薬、まさか服用一回だけだよな……。
あんな劇薬の服用なんて、多く見積もってもせいぜい三回くらいまでが限度。
それ以上は高次脳機能障害を確実に抱え、記憶障害や注意障害、遂行機能障害やら社会的行動障害といったものが蓄積されていく。
成人の脳みそが小学生サイズに圧縮され、また膨張なんて脳みそが確実に壊れることくらい師匠なら理解しているだろうし。
もし師匠が頻繁に服用していたら、少なくとも大脳新皮質……例えば前頭葉が損傷して大脳辺縁系がコントロールできなくなり、性欲や本能に支配された制御不能な超暴力の化け物になってしまう。
……考えただけでも恐ろしい。
「じゃあ、アメはたくさんたべちゃいけないんだね……」
そうだな……もし薬の定期的な摂取をする場合、新たな薬品が必要になるだろう。
先ずは脳、記憶と意識、感情の保護、脳細胞の生成を要としてニューロンとシナプス、脳細胞を保持することが最優先。
脳の情報は記憶を常に保持しては忘れるを繰り返す不安定な記憶媒体。
状態の連続性を確立させる薬……例えばテロメアと身体の伸縮を繰り返した不思議の国のアリスを組み合わせた『テロメアリス』みたいな名前が付けられるようなもの。
……ヤンはこういった補完薬を開発しているのだろうか。
「……詳しく教えてくれてありがとうございました!! ……新出先生」
、、、
「あ、梓さん……今日は一人で来ちゃいました……」
下校をすると、適当な理由を作って園子とエンジェルと帰宅時間をずらして新出 智明に成りすましたシュナップスの後を尾行すると、あら不思議……新出 智明はエルダーの姿に変わった。
下校前に廊下で慌てて電話を取るシュナップスの姿を見たから嫌な予感がして追いかけてみて正解だったわ。
恐らくはエルダーからの変装の指示ね。
もしヤンからの命令であれば事前に連絡があるか、同じ職場なんだからわざわざ電話でやり取りをする必要性がないから。
特に、ジョディ・サンテミリオンのような何処かの組織に属しているような人間が居るのならアイコンタクトや手信号で済ませてしまったほうが安全。
「いえいえ、ロンシャンさんがいらしてくれて嬉しいです」
エルダー……あの時はシャラクの姿だったけれど、彼が榎本 梓にご執心なのは分かったわ……一体なぜ彼女なの?
彼はハニートラップ要員の練習相手として使われるほど女の扱いには長けていた男。
ただの喫茶店の店員に恋をするなんて、いくら薬の副作用の可能性があるとしてもちゃんちゃらおかしいわ。
この謎を解き明かせれば、少なくともエルダーの弱点が必ず見つかるはず。
「ロンシャンさん、ご注文は?」
そう言って、彼と姿形を似せたシュナップスがきりりとした顔で注文を取った。
……まだまだね。
自身の変装対象への憧れ補正が掛かっているから、本人が持つ独特な仄暗い雰囲気まで掴みきり、凹凸のある複雑な人物像を本人に寄せられきれていない。
シュナップスとは変装を得意とする構成員同士で顔なじみではあったけれど、歴が長ければ咄嗟の変装指示をこなせてしまうなんてことは……なかったようね。
「……お、オススメをください」
、、、
「……ったく、なんでガキを二人も連れて出かけなきゃならねーんだよ!! 招待客は『三名様』までだ!! 追い出されて車で待機することになっても知らねーからな!!」
憎まれ口を叩いても、お父さんはシャラク君をレンタカーに乗せてくれた。
「いいじゃない。食事はでないかも知れないけど、御屋敷には入れてくれると思うから」
シャラク君とは喫茶ポアロで出会ったばかりだけれど、梓さんのことが大好きで、少しボーッとしている感じの男の子。
「ありがとう御座います。家に居てもすることが無いので……。一緒にお出かけが出来て嬉しく思います」
灰原さんや光彦君と同じように、少し大人びていて背伸びをしたがる普通の小学生。
この子がブルドン先生と同居していると聞いた時は驚いたけど、きっと複雑な事情があるのね。
ブルドン先生はヤン・ブルドン、シャラク君は家達 紗洛として苗字が違うから親戚関係なのかな。
瞳の色もブルドン先生は緑、シャラク君はオレンジっぽいイエローで、髪の色は同じ……従兄弟か再従兄弟、顔立ちも似ているから血縁者なのは間違いないんだろうけど。
「僕も嬉しいよ!! ……シャラク君とお出かけできて」
コナン君も後部座席に座って、俯いているシャラク君に声を掛けた。
やっぱり気にかけているんだ……『ケーキを全部ください』と言った時、シャラク君はランドセルからパンパンに膨らんだ茶封筒から現金を出そうとして、慌てて止めるとポケットから取り出した折りたたみ財布から6人分のケーキ代を支払った。
……ブルドン先生は育児放棄というか、面倒を見ずにお金だけを渡して生活させているのかもしれないと誰しもが思ったはず。
「うおっ!! 何だなんだ!?」
車がガコンッと音を立てて側溝の蓋に乗り上げた衝撃で浮いた。
「ボクがタイヤをみるね!! ……あーあ、タイヤがダメになっちゃってるよ」
車を降りてお父さんがトランクを開けると、溜息をついてタバコをふかした。
「チッ……スペアのタイヤ、積んでねえじゃねえか……ったく……」
困っちゃったな、JAFを呼ぶにしたってこんな山奥じゃ……。
「道の先にコンビニがあるみたいです。そこに寄ってみてはどうでしょうか」