黒ずくめの組織の暗殺者がアポトキシンで幼児化した件 作:ummt
「灰原は先に帰ってろ。オレが尾行する」
いつもなら『組織に関わらないで』と引き留めに回る灰原も静かに頷いた。
「江戸川君……くれぐれも無茶はしないで」
灰原はピスコに正体がバレてしまったばかりで、過敏になっているのもあり精神的に不安定だ。
なるべくケアをしてやらねーと……。
「ああ、心配すんなって。……気をしっかり持てよ」
、、、
「またね、江戸川くん」
昇降口でニコニコと笑うシャラクに作り笑いを浮かべた。
「じゃあねー!! シャラクくん!!」
シャラクはチラリと振り返ると、右手を上にあげてヒラヒラと振ったあと真っ直ぐ校門に向かった。
校門の門扉でオレの姿が見えなくなった隙に走り、距離を取りながら尾行をすればいい。
門扉で姿が見えなくなった瞬間に走って陰に隠れて外を見渡すとシャラクの姿がなかった。
「な……あの一瞬で……あり得ねーだろ」
道は丁字路になっていて、見晴らしのいい左右の道を確認しても姿が無い。
なら、真っ直ぐ走り去り、角に消えたのか……。
急いで走って姿を探すが、下校時間なのも相まって学童で溢れている。
「ね、ねえ。転校生のシャラクくん見なかった?」
当たりにいた学童に声を掛けるが、皆が首を横に振った。
……仕方ねえか。
道を引き返して学校に戻り、職員室の戸を叩いた。
「どうしたの? コナンくん、そんなに慌てて……」
しゃがんで目線を合わせる小林先生に適当な教科書を見せた。
「あのね? シャラク君が教科書を忘れちゃったみたいだから届けたいんです。シャラクくんのお家の住所、教えてください!」
小林先生は困った顔をして立ち上がった。
「ごめんね。個人情報になるから住所はシャラクくん本人から聞いてくれるかな。教科書は明日渡せばいいから」
クソッ……やっぱそうなるよな。
「でも、シャラクくん予習したいって言ってたし……」
小林先生が苦笑いしている隙に職員室内の机を見た。
……あった、住所が記載されている書類。
「はーい。分かりました。明日渡します!!」
お辞儀をして、直ぐにまた昇降口から駆け出した。
シャラクの住所は杯戸町、決して遠くはない。
只管バス停を目指して走った。
米花町でないならバス通学だろう。
そうなれば通学ルートは粗方見えてくる。
「すみませーん!! 乗りまーす!!」
バスに乗って周辺の景色と、シャラクの姿がないかを確認した。
尾行ではないにせよ、住所が分かれば家族構成や暮らしぶりからどんな人間なのかが分かる。
これは、オレの探偵としての持論だ。
「……必ず、正体を突き止めて見せる」
バスに揺られて15分もしないうちに最寄りのバス停に着き、降車した。
「……杯戸町の……古めの住宅地があるエリアか」
盗み見た住所には、閑静な住宅……築年数が古く、敷地が広めで庭付きの一軒家が立ち並ぶ住宅街が記されていた。
ただ、住所の最後にある番地が二丁目の60しか見えなかったから、あとは地道に表札を確認していくしかない。
「参ったな、杯戸町西方二丁目って思ったより広いな……」
電信柱の住所を見ながら歩いていると新しい表札が掲げてある邸宅を見つけた。
「あった……家達」
「紗洛のお友達?」
……嘘だろ。
オレが気配を察せなかった?
クルッと振り返って笑みを浮かべた。
「はい!! ボク、シャラクくんのクラスメイトです!!」
背後にはシャラクと同じ金髪をした背の高い浅葱色の目をした薄く目を空けて男が佇んでいる。
「……そうなんだ。何の用?」
すべてを見透かすようなガラスのような瞳に背筋に寒気が走った。
「シャラクくんとお友達になりたくて……」
下を向いて靴のかかとで地面を蹴った。
「へえ、だから無断で家まで来ちゃったのか。で、君の名前は?」
……なんで無断だと言い切れるんだよ。
クラスメイトに住所を話すことは考えられないとでもいうのか?
「ボクは江戸川 コナンです!! シャラクくんと同じ1年B組です!!」
手を挙げてジャンプをしてみせた。
「……そう。僕はヤン・ブルドン。帝丹高校で化学教師をはじめました。紗洛の親戚のお兄ちゃんだよ」
何だよ『はじめました』って、就職は『冷やし中華はじめました』みたいな軽い出来事じゃねえだろうが。
コイツが蘭の話していた怪しい化学教師か……。
揃って帝丹高校と帝丹小学校に編入、身内に不幸があったからと新しい場所で新生活を始めるか?
普通はシャラクを引き取ってヤンが今までの暮らしを続けるか、ヤンがシャラクの身内の家で働き始めるかじゃねえか?
「じゃあ、ヤン兄ちゃんって呼んでもいいですか?」
ニパッと笑うと、ヤンはニコッと微笑んだ。
「いいけど、君の家はどこ?」
……な、なんでそんな話になるんだよ。
「えー? 知らない人に個人情報教えちゃいけないって先生が」
「お前はシャラクの住所をショルダーハッキングした。だから僕に教えるのが道理だろ」
場が氷点下まで下がったと錯覚するほど手指が冷えた。
「なんでそう思うの? それって、シャラクくんは個人情報を絶対に漏らさない訓練を受けたって証明しているようなものだよ」
シャラクは組織の人間なのか……?
「あは、君すごいね。『ショルダーハッキング』って単語、理解してるんだ」
……しくじった。
見え見えの罠だったか。
「ボク、ミステリーが好きだからそういう単語に強いんだ!! ヤン兄ちゃんも詳しい人なの?」
首を傾げると、ヤンは静かに答えた。
「あっそう。僕は詳しいよ。僕より兄さんの方が詳しいかな。ナイトバロンの基本ロジックを作ってアプリケーションのソースを書いたのも兄さんだから」
闇の男爵……ナイトバロンウイルスの作成者が身内に居るだと!?
「そ……うなんだ。へ〜……会ってみたいなあ。そのお兄さんに」
ナイトバロンは組織が利用していただけで作成者までは特定されていなかったから、内部製か外部のアプリケーションを利用しているだけか、外注なのかさえ不明だった。
もし兄が組織なら、コイツも組織の人間か。
ただ、確証がねえ。
外注先のプログラマーという線もある。
「よくナイトバロンを知ってるね。江戸川 コナンくん」
冷や汗が首筋に垂れた。
「え? ナイトバロンはよく知らないけど、プログラムを書ける人ならすごいなって思っただけだよ?」
怯んだら負けだ。
「ふーん。で、君の住所は?」
……帝丹高校の教師として名乗られて、事実確認出来ないから拒否をするとした場合、コイツは『なぜそこまで疑うか』とするだろう。
「喫茶ポアロの上、毛利探偵事務所でお世話になってまーす!!」
両手をあげて笑ってみせると、ヤンは猛禽類の様に目を見開いた。
「毛利探偵事務所……なるほどね。……長話して引き留めてごめんね? 紗洛は今家にいないから、また遊びにおいで。江戸川 コナンくん」
、、、
「クソッ……疑惑が深まっただけで収穫ゼロか」
ただし、シャラクがヤン・ブルドンという元ATF職員と同居しているという事実関係は把握した。
シャラクは黒に限りなく近いグレーだ。
考えをまとめながら帰路を歩くと、喫茶ポアロに蘭と小五郎のおっちゃんの姿を見掛けた。
「蘭ねーちゃん!! 今晩は喫茶ポアロで食べるの?」
「君がコナンくんか」
テーブル席に座る二人に気を取られてキッチンの奥から歩いてくる男に気づけなかった。
「お兄さん、だーれ?」
振り返ると、ヤンと瓜二つの薄黄色をした瞳をした男が小動物を狙う猛禽類のように見下げている。
「うーん、エルダーっていうんだけど、実は記憶喪失でね。今日から喫茶ポアロで働く事になったんだ。よろしくね」
そう言って右手を差し出した。
「こんにちは!! 江戸川 コナンです!! よろしくお願いします!!」
手を取ると、石のような感触で温かさも冷たさも感じない温度だった。
まるで、生きていないかのようだ。
「梓さんに怒られてばっかりになりそうだから、サポートしてくるるてうれしいな」