黒ずくめの組織の暗殺者がアポトキシンで幼児化した件   作:ummt

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裏章 ブラン
学校 其の一 不愉快な学園生活


 

「はぁ……幼児化してから元に戻るの体がバキバキになってキツイな……」

 

 ラムからの直々の命により『記憶喪失を詐称して警察の保護下に入り毛利小五郎の懐に入り込む』というミッションとは別に『個人的な趣味』の範囲でヤンが作った薬を服用して、帝丹小学校に入り込んだのはいいが……。

 実年齢が33歳だと1錠が10歳の増減になるため、幼児化のAPTX5011を2.5錠服薬して、戻る時には成長化のTLPN0140を同じように2.5錠服薬しなければならない。

 その服薬も一瞬で効果が現れる魔法のようなものではないので、変態しきるまでには3分掛かり場合によっては長くて7分という時間を要するという致命的な非再現性、乱れがある。

「まあ仕方がないか……」

 いくら天才だと持て囃されても個人ラボでは研究資材や設備に制限が出てくる。

 最新鋭機を兼ね備え物資や材料を全て定量的に確保するのは難しい。

 そんな事を思いながら鍵を複製しておいた帝丹小学校近くの公民館で幼児化を解除して用意した服に着替えると、あらかじめ決めておいた公園に向かって走った。

 ……まだ小学校の終わりの会が終わってから時間は経っていない。

 会が終わった後は何事も無かったかのように小林先生に挨拶を済ませて、クラスメイトになった子供達に愛想を振りまき、昇降口を過ぎて校門の門扉で姿が隠れた瞬間、公民館まで走り抜いた。

 途中、ジグザグにパルクールしながら道を進んだために道なりに追いかけて来られる事は恐らくないだろう。

 ……ただ、江戸川 コナンという子供がやたらとシェリーに引っ付き回って、自分を警戒していた事が気がかりだ。

 昇降口ですれ違った時も靴を持ったまま挨拶し、校門まで走って振り返ってみても靴を持ったままで俺の行動を観察していた。

 灰原 哀がシェリーだと確定するのは拾った髪の毛と教科書を捲る際に付いた指紋で充分だが、江戸川 コナンについても調べたほうがいい。

 DNA検査程度ならアメリカにあるヤンの個人ラボで済んでしまうし、シェリーに至ってはラボの研究者になるにあたり指紋とDNAの提出をしているからな。

 ヤンが保険として個人的に研究者達の個人情報を掌握してくれて助かる。

「江戸川 コナン……工藤君……」

 シェリーが放った『工藤君』という言葉。

 あの時は『知人』としていたが、話の流れからしてどう考えても江戸川に対して発言していた。

 なら、江戸川の旧姓が工藤なのか? 

 他の人間が同じ呼び方をしていない以上、あだ名である事は考え辛い。

 

「……江戸川もアポトキシンを飲んだ者、知性がある者、工藤姓。……アポトキシンを使用して殺害された者のリストを洗い出すか」

 

 公園に到着すると、適当にベンチの角で頭をぶつけて『希望の花』のポーズを取って道に転がった。

 公民館からこの公園までの監視カメラの位置は把握している。

 そして、誰かに発見されれば自分が倒れているのを見て警察を呼ぶ。

 なんて簡単なお仕事なんだ。

「お兄さん大丈夫ー?」

 この声、まさか1年B組の吉田さんか? 

「う……頭が痛い……頭痛が痛い……誤用するくらい痛い」

 如何にもというように側頭部を抱えながら起き上がった。

「だ、大丈夫ですか!? 歩美ちゃん!! 救急車を呼びましょう!!」

 目を擦りながら薄目を開けると、家達 紗洛として出会ったばかりの吉田さんと円谷が心配そうに顔を覗き込んでいる。

「大丈夫……多分、転んだんじゃないかな……」

 たんこぶになった頭皮を擦ると、向こう側から小嶋が駆け寄ってきた。

「オイ、頭を打ったなら救急車を呼んだほうがいいってコナンも言ってたろ」

 ……少年探偵団のリーダーは江戸川か。

「元太くん!! お水をお兄さんにあげて!! 光彦くんは救急車を呼んで!!」

「はい!!」

 円谷がスマホを操作し始めたのを見て、阿呆になったように首を傾げてみせた。

「大丈夫だってば……君が操作しているそれは何?」

 すると、3人は目を丸くして顔を見合わせた。

「兄ちゃん……大丈夫じゃねーじゃねぇか。ただのスマホだぞ?」

 よしよし、スタントマンとしてアクション俳優の演技を間近で観察していた甲斐があったな。

 少なくとも子供にはこの記憶喪失の演技は通用する。

「お兄さん、これはスマートフォンですよ? もしかして記憶喪失なんじゃないですか? ……お名前は?」

 名前なあ……。

 偽名を使うと後々厄介だし、入国もエルダー・ブルドンではなく家達 紗洛で済ませているし、なにより戸籍の改竄はヤンが行っている。

 それにプーシィがエルダー・ブルドンはスタントマンの演習中に川に飲まれて行方不明であるとFBIに提出済みのはず。

「ええと名前はね……」

 暫く考えるフリをして、困ったように口を開いた。

「名前はエルダー。……それと、職業は探偵だった事しか思い出せないや」

 十分も経たないうちに救急車が到着して、救急隊員が担架に自分を乗せると運び上げた。

「お兄さん!! お大事に!!」

 手を振る子どもたちに手を振り返して、そのまま救急車に揺られた。

 警察病院には組織に所属している脳外科医のガリアーノが居る。

 頭部損傷による一次的な解離性遁走の一種との診断を下すだろう。

 

「ありがとう、みんな」

 

 そして、警察病院で端的に言えば記憶喪失であるとの診断を受け、身元を証明するものも所持金もなく、頼る当てもなく宿もない。

 指紋から前科者でないことから一時的に警察の保護下となり、空いているアパートを与えられる運びとなった。

「エルダーさん、アナタにはこの携帯電話を貸与しますので、何かありましたら連絡をください。念のため当面の生活費として13万円を支給しておきますから」

 自分の対応に当たった高木刑事から携帯電話と宿舎の鍵、茶封筒を受け取ると作り笑いを浮かべて頭を掻いた。

「何から何まで捜査一課の刑事さんにお世話になってしまって申し訳ないです」

 これで携帯電話の連絡帳や通話履歴から警察の情報が追える。

 スマートフォンではないから、GPSや内部アプリケーションについても細工が幾らでも可能、なんてイージーモードなんだ。

「それと、アナタに会わせたい人が居ます。きっと頼りになってくれるはずです」

 そう言って車に案内されると、カーナビには『毛利探偵事務所』の表示があった。

 

「……なんて親切な人達なんだろう。僕は運がいい」

 

 、、、

 

「あっ……ヤン先生……」

 

 資料室のラックに手をつかせながら考えを巡らせた。

 毛利 蘭の父親は毛利探偵で、母親は敏腕弁護士の妃。

「君も手が早いね。まさか転任早々求められるとは思わなかったかな」

 近隣には作家の工藤 優作と女優である有希子夫妻と、その息子である工藤 新一が住んでいる。

「や、ヤン先生……女子達に人気だから早くしないと盗られちゃう……から……」

 女子の背中に手を置いて、前後に揺ら揺らしながら出来事を整理する。

 あの時、毛利 蘭は受話口に向けて『新一』と発話した。

「そうみたいだね。……僕は君のものではないのに」

 ただ、工藤 新一はジンが用いたアポトキシン4869で死亡したと報告を受けた。

 錠剤の使用者と服薬者の情報は総責任者の僕にエスカレーションされるフローになっている。

「先生っ……私の彼氏でしょ?」

 となると、ジンは経過観察を怠り報告に虚偽を働いたということ。

 それに、工藤 新一は東の高校生探偵として活躍していたことから幼児化の条件に当てはまる。

 ……なら、工藤 新一は幼児化しつつ毛利 蘭に『工藤新一として』通話が出来る特殊な状況。

 誰かに技術提供をされながら匿われている。

 

「だから、何言ってんの?」

 

 、、、

 

「蘭、聞いた? 3年生の先輩が万引きで捕まったんだって。びっくりよね? そんな事をするタイプには見えなかったのに。人は見かけによらないわね……」

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