見た目もステータスもパッとしない中年がやりこみ知識でぼちぼち異世界攻略 作:雨(あめ)
『Re : Genesis Online』
―「始まる創成。君よ、どう生きる。」をコンセプトに作られたファンタジーMMORPG。
まさに一つの時代を作ったと言っても過言ではないこのゲーム。
実装された膨大な情報量は、数々のプレイヤーを虜にしてやまない。
ダンジョンの種類は300以上。取得可能な装備品や敵mobの数に至っては攻略サイトでさえ把握を諦めるほど。
そのうえ特殊な条件下でのみ出現する強大な力を持ったネームドモンスター、異常な取得難易度で数々のプレイヤーを帰らぬものとしたユニークアイテムなど、やりこみゲーマーの中枢神経に直接手を突っ込み何らかのあれをあれしているのではないかと思わせるほどの危険なコンテンツの数々。
一体何人の人間が廃人と化したことか。
だが『Re : Genesis Online』の魅力はそれだけにとどまらない。
このゲームを語るとき、決して外すことのできない要素が一つある。
それは職業クラスシステム。
剣士や魔術師といった戦闘職から、刀剣工や薬師といった生産職まで、その数は80を超える。
プレイヤーは、この中からメインクラスとサブクラスを選び、自分だけのスタイルを作り上げていくこととなる。
また一つ一つの職業には凄まじい大きさのスキルツリーが用意されている。
これはつまり、メインクラスとサブクラスが同じでも、スキルのビルドによっては全く違う戦闘スタイルになるということを意味している。その可能性はまさに無限大。
このシステムによって「絶対破壊神官」「薬漬け拳闘士」「無限開墾おぢ」といった数々の名ビルドが誕生。
リゲナー(Re : Genesis Onlineプレイヤー)たちの狂気にも近い『Re : Genesis Online』愛を目の当たりにしたネットは一時騒然。
そして、このゲームは、瞬く間にMMORPGの代名詞としての地位を確立することとなる。
知れば知るほどに深みへと沈んでいくような、逃れようのない快感。
これは紛れもなく、もう一つの世界、もう一つの人生。
しかし、それが今日、8年という長い歴史に幕を下ろすこととなった。
『サ終』である。
俺は泣いた。
大いに泣いた。
今でも思い出す。
友人に誘われて、サービス開始とともにゲームを起動したあの日。はじめてゼネティアの地を踏んだときのあの高揚を。
草原を歩く雑魚モンスターに軽い気持ちで手を出して瀕死になった。ドロップ品をかき集めて作った寄せ集めの装備で大陸中を駆け回った。おふざけ半分で組んだビルドが予想外の性能を発揮し、腹を抱えて笑った日もあった。
友人があまりログインしなくなってからも、俺はこのゲームを続けた。毎日毎日、ユニークアイテムを集めて、ネームドモンスターを狩り、新たなビルドを試しては、また次の可能性を探した。
ときには、敵mobのモーションの作り込みに感動して、それを一日中眺めてることさえあった。
そう。間違いなく、あの日々は人生だったんだ。
突然の『サ終』。いや、当然告知はあったが。
とにかく、俺は半身を失ったかのような失意の中にいた。
それでも現実からは逃げられない。結局俺はしがない32歳の社畜にすぎないのだ。
明日も仕事がある。寝ないわけにはいかない。
そんなこんなで枕を濡らしながらも床に就いたわけだが。
「これは一体、。」
目を覚ますと、ぽつり、草原に立っていた。
現実の俺の心情といえば、どう取り繕っても穏やかとはいえない。
しかし、それとは対照的に、ここは随分と長閑な風景だ。
空は天高く、緑と青ばかりがこれでもかと視界を埋め尽くす。
どこからか吹き来る風が、草の間にさらさらと鳴っていた。
太陽は穏やかで暖かい。遥か先には森や山脈が青白く霞んでいる。
反対を向けば、遠くに街が見えた。人の営みが白煙となって空に溶けている。
「ははーん、これはあれだな。壊れかけた心の均衡を保つために、俺自身が作り出した夢。」
顎に指を添え、したり顔でつぶやく。
確かめるようにこぼした言葉も、受け取るものがいないので、ただ虚しく空を舞った。
「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ……ピ?」
そんな俺の前を通りかかった1匹の生物。
完全に目が合う。
「……はぁっ!!!」
俺に電撃走る。
二足歩行の体。カエルのような顔からだらしなく伸びる舌。水かきのついた手に、鳥のような足。そして全身を覆うふわふわとした体毛。
間違いない。
あの常軌を逸したデザインは、多くのリゲナーが始めてエンカウントすることになるであろうモンスター。みんなのアイドル、ケロピヨちゃん!!!
どういうことだ。
なぜここに。
ぴきーん。
沸々と湧き出る疑問の果てに一つの答えが導き出される。
つまり、これはただの綺麗な景色ではない、?
ここは『Re : Genesis Online』の舞台。ゼネティア大陸、!?
夢とはいえこんなチャンスはないぞ。
俺は一度でいいからあの綿毛のような羽毛を撫でてみたいと思っていたんだ。
「け、ケロピヨちゃーん、こっちにおいでー。怖くないよー。」
両手を広げてゆっくりと近づく。
小さな命に迫るおじさんの影。
さながら事案だが、これは俺の夢。好きにさせてもらう。
「ピ?」
まったく。どこを見ているかまるでわからないあの間抜け面がたまらないじゃないか。
はぁ。柔らかな毛並みが風に揺れている。もう少し。もう少しで。
「ピゲェッ!!!」
「うぉっ!」
あと一歩というところでケロピヨの手に握られていた木の棒が振り抜かれる。
すんでのところで躱したが、そうだ、そうだった。
ケロピヨはゲームの開始地点である草原にスポーンするmob。
多くのプレイヤーが最初に遭遇するモンスターでありながら、攻撃の予備動作がほとんどなく、レベルに対してのステータスも高め。
リゲナーの間では初狩りのケロピヨの異名を持つ、れっきとしたモンスターなのだ。
「俺のレベル帯じゃマスコット扱いだったからな、。忘れていた。」
いや、しかしまずいか。
今気づいたが俺の服装は布の服。『Re : Genesis Online』の初期装備で間違いないが、そのほかの、いわゆる武器の類がない。
キャラクリの際に初期クラスを選択すると、一応はそれに応じた武器をもらえるはずだが。
キャラクリなんてしてないし、言わずもがなクラスの選択だってしていない。
「つまり、俺は今…無職、?」
いやいや、夢の世界なんだからどうとでもなるでしょ。
剣来い。剣。けーん!ソード!!ブレード!!!カタナ!!!!
「あぶなっ!!……だめだ。全然思い通りにならない。」
もたもたしている間にもケロピヨの攻撃が飛んでくる。
街まで逃げようかとも考えたが、その隙を突いて更なる一撃が飛んでくる。
無表情で言葉も通じない。
が、どうやら俺を見逃すつもりはないということだけわかった。
こうなったら素手でやるしかないか。
「サーチ!」
俺の声に応じて、空中で光の粒がはじける。
それらが集まって文字を形成する。それはケロピヨのステータス。
「これは使えるのか、よかった。」
あれで何も起きなかったら、草原で唐突に叫び声をあげたただのやばいおっさんになるところだったが、ひとまずそれは回避した。
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ケロピヨ
種別:持識じしき類・蛙鶏あけい属
Lv:1
HP:21/21
MP:8/8
状態異常:
なし
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表示されたのはかなりシンプルな内容だ。
だが、十分。
『Lv:1』か。個体ごとに若干の差はあるものの、あのケロピヨは、
物理攻撃力:6~7
物理耐性:9~11
素早さ:8
持久力:7
といったところだろう。
ケロピヨは魔法を使わないし、『Lv:1』であれば戦技も持っていない。
しかし、問題はあの木の棒だ。あれは装備品として扱われる。
物理攻撃力にきっかり『+5』のボーナスが乗るのだ。
つまり物理攻撃力は、個体値を考慮して最大で『12』となる。
これも初期スポーンの草原でケロピヨだけが異様に強く感じる一因となっている。
かくいう俺も始めた頃は何度も辛酸を舐めさせられた。
さぁ、対して俺のはどうかな。
「ステータス。」
==========================
ノイン・レーゲンシュライン
種別:人類・人属
メインクラス:---
サブクラス:---
Lv:1
HP:25/25 MP:10/10
物理攻撃力:9 物理耐性:7
魔法攻撃力:7 魔法耐性:5
素早さ:6 持久力:5
精神力:10 幸運:3
状態異常:
なし
装備:
布の服 皮の靴
スキル:
なし
==========================
これも問題なく出た。
けど、これは……。
俺も『Lv:1』になっているのはまあいいとして、こんなにも弱いものだったか、?
いや、あまりにも、。
そうか。
「無職だからか。」
『Re : Genesis Online』では、プレイヤー自身のレベルの他に、クラスごとにも独立したレベルがある。
そして、選択中のクラスとそのレベルに応じてステータスにボーナスが乗る仕様だった。
俺の知る限り、無職なんて状態は存在しない。
つまり、何のボーナスも載っていないステータスを見ること自体はじめてだ。
まあ、たしかにクラスボーナスを除けば『Lv:1』なんてこんなものか。
いや、随分シビアだな、俺の夢。
というか『物理攻撃力9』か、。
ケロピヨの物理防御力から考えて、俺が与えられるダメージは1.75~2.25。
これは基本値なので実際は当たりどころや速度に応じて加算、減算がある。
具体的には頭などの急所に当てると最大で1.5倍。速度が乗ると、これも最大で1.5倍。
クリティカルが出ればさらに2倍に跳ね上がるが、こっちは今の俺のステータスでは期待できない。
速度を乗せて、かつ頭部にあてれば1.5x1.5で2.25倍になる。
つまり安定して狙えるのは3.9〜5程度のダメージ。
逆に腕や足などへのヒット、速度が十分にのっていないなどの理由でそれぞれ最大0.5倍減算される。
対して、ケロピヨの攻撃は基本値で4.75〜5.5。
当然、部位や速度による変動も適用される。
当たり所によっては3発で沈む計算だ。
つまり、俺がケロピヨに勝利するためには、あの攻撃を避け続けて、かつ的確に頭部への打撃を繰り出す必要がある。それも条件がそろったものを6発ほど。
速度と持久力が劣っているので逃走は絶望的。
決めるなら短期決戦。
状況としてはかなり厳しいな。
今世は諦めて、リスポーンを狙うのも一つの手だが…。
「いやいや。」
夢にまで見た光景が目の前に広がっているんだ。まあこれこそが夢なんだけど、。
とにかく、そんな状況で開始地点から10歩も歩いてないのに『死』なんて、あまりにも悲しいじゃないか。いつ目が覚めるかだってわからない。
それに、。
「今、ここに立っているのは、『Re : Genesis Online』を8年間やりこんだ、正真正銘のリゲナーだ。」
そんな自信を握りこみ、俺はケロピヨと正面から向かい合った。