見た目もステータスもパッとしない中年がやりこみ知識でぼちぼち異世界攻略 作:雨(あめ)
「にゃっ!シルヴィア!…い、いつものバカみたいな強気はどうした!…これじゃ、あぁしが悪者みたくなっちゃうにゃ…!」
俺が反応に困っていると、シルヴィアと呼ばれた受付嬢は深々と頭を下げたまま、リーアとトマの名前を口にした。
なるほど。二人へ個別に事情をきいたところ、俺の話に嘘偽りがないことがわかったらしい。
いや、誤解が解けたならよかった。
「お二人とも、命を救われた身で分配など受け取れないので全額ノイン様にとのことでした。先日の代金、ご用意しております。」
リーアとトマの影響か、呼び方がレーゲンシュラインからノインになっている。
まあ、レーゲンシュラインって長いし呼びづらいよな。
…なんていうのはどうでもよくて。
「ありがとうございます…あの、どうかお気になさらず。」
彼女の態度に思うところがなかったと言えば嘘になる。
ただ、さっきの受付でのやり取りを見てても分かるが、冒険者の中にはチンピラ同然の輩もいる。…というか大部分がそうだと思う。
受付嬢というのは、ギルドの威信を背負って日々そういった連中と渡り合っているのだ。
一度でも舐められたら付け込まれるかもしれない。彼女たちも必死なんだろう。
俺だって一介の社会人だった。
話の通じないクライアントに振り回される苦労はわかる。
そう思うと、あれだけ気丈な態度をとれるのはすごいと思うし、素直に尊敬の念もわいてくる。
「え?な、何の話?…シルヴィア?」
「ミア、南の棚の上から三段目右端。」
「へ?何の呪文にゃ…?」
この獣人、昨日受付を無断で離席していたあのミアらしい。
色々と問題がありそうだ。この子が受付の時は要注意。俺の脳内メモに刻み込む。
「南の棚の上から三段目右端…行け!!」
「はい!!……えーと、南の棚の上から三段目右端…南の棚の右から淡々とカモノハシ…南の橋を右から淡白なカモノハシ……。」
ぶつぶつと呟きながら奥へと消えるミア。
3歩目ですでに間違えていた気がするけど大丈夫だろうか。
「先ほどの換金の件につきましても、重ね重ね申し訳ございません。私が改めてお手続きをさせていただきます。」
「あ、ありがとうございます。」
シルヴィアが素材を指で弾きながら、慣れた手つきで計算を行う。
「お待たせいたしました。魔石(小)が49個で98,000ゼル、マインスパイダーの毒嚢が7個で16,800ゼル、洞蟹ハサミが6個で7,200ゼル。合計で122,000ゼルとなります。それと先日の魔石(中)が10,000ゼルです。」
パンパンに膨れ上がった袋と小さな可愛い袋がそれぞれカウンターに乗せられる。
「あの、魔石(中)の代金は今あの受付嬢さんが取りに行ってるんじゃ…。」
「どうせ間違えますから。」
あのミアっていう受付嬢、よくクビにならないな。
「この度は本当に申し訳ございませんでした…ところでなんですが。」
「はい。」
「そちらの方は?」
シルヴィアが俺の横をじっと見ている。
何とも言えない訝しげな表情を浮かべて、二度三度瞬きをしたり、目を擦ったりして、何度も何度も確認している。
「あー、チヤさんです。昨日ダンジョン探索で出会いまして今は一緒n…。」
「師匠の弟子です!」
俺の言葉が終わる前にチヤが食い込んでくる。
しかし、何だろうか。シルヴィアの反応がさっきからおかしい気がする。
「チ…チヤさん…?」
「はい!チヤです!!」
「チヤさん…チヤさん…。」
何か気になることでもあるのか、口の中で咀嚼するようにもごもごと何度もチヤの名を繰り返す。
「え!?!?!?」
そして、ぎょっとするような短い絶叫がギルド中、いやおそらくギルドの外まで響き渡る。
魚のモンスターにこんな鳴き声のがいた。デバフ付けてくるやつ。
「あ、あの…大変申し上げにくいのですが…。」
そう切り出したシルヴィアの口から衝撃的な事実が告げられる。
「実は、昨日夕方ごろにですね…チヤさんの死亡届が出されまして……今朝方受理されたため…現在、チヤさんのギルドカードは効力を失っております…。」
「へ?」
「大変申し訳ございません!!すぐに新しいものをご用意いたします!もちろん手数料は不要ですので、少々お待ちください!!」
シルヴィアが大急ぎで奥へと走っていく。
「師匠!私死んじゃってました!」
言い方よ。なんでちょっと嬉しそうなんだ。
大方、昨日のあのおっさんが帰還と同時に報告でもしたんだろう。
ギルドカードは身分証としても使える。死亡時は悪用などが起きないよう登録を抹消するらしい。
まあ、ダンジョンで行方を眩ませた冒険者の死亡確認なんて不可能に近いと思うし、こういうことも往々にして起こるだろう。
本人も点で気にしていないようだし。
「この度は大変申し訳ございませんでした!」
というわけで新しいギルドカードも貰って、俺たちはその場を後にした。
ギルドを出るとき、俺のことを睨みつけていた冒険者たちが何とも言えない顔で道を開けてくれた。
『モーゼの海割り』ならぬ『ノインの人割り』だ。
…なんかグロいな。
その後、俺とチヤは噴水広場でリーアを待った。
当然チヤとリーアは面識がないので、俺は二人と出会った時の経緯などを、ギルドであったことも交えつつ話した。
「助けられるのは私が初めてじゃなかった…。」
なんてよくわからないことを漏らすチヤを横目に、俺はギルドから受け取った大きい方の袋を開き、半々に分けてチヤに渡した。
はじめは「こんなにもらえない」と言われたが、チヤには助けられたし、これから武器屋にも行くんだからと説得して何とか受け取ってもらった。
そして10,000ゼルの入った小さい方の袋に6,200ゼルを入れてリーアへの返却分もまとめた。
「あ、ノインさん!!」
そうこうしているうちにリーアがやってきた。
隣にいるのは…トマだ。もうすっかり回復しているらしい。教会の診療所、恐るべし。
「こんにちは、リーアさん、トマさん。」
「あ、あなたがあのノインさんですか!…あ、ありがとうございました、あなたのおかげで、僕は…僕は……。」
トマが顔をぐじゅぐじゅにしながら握手を求めてくる。
やんちゃそうな顔なのに意外と礼儀正しい。
二人は半年前に田舎の村から出てきたらしい。
その村には兵士の常駐もないし、当然この街にあるような立派な壁もない。
一年に数回、冒険者に依頼を出してモンスターを間引いてもらうので精一杯という状況だから、自分たちが実力をつけて、村に道場を作るのが夢なんだと話してくれた。
何この子たちいい子過ぎる。おじさん泣きそう。
そんな時、先輩冒険者からジェネラル・マシュリンというモンスターの話を聞いて、一刻も早く村に貢献したいという焦りから森に行ってしまったと…。
ジェネラル・マシュリンはマシュリンを呼び寄せるからレベル上げにいいよ、とでも言ったのか。
あれは決して新人に勧めるような相手ではない。何を考えているんだまったく。
リーアとトマは今回の件で懲りたらしく、堅実にレベルを上げていくことにしたそうだ。
それがいい。
「じゃあ、私たち今日もレベル上げがあるので!!」
「ノインさん!今度ぜひ戦い方を教えてください!!シュッ…シュッ・・・。」
もう行くというので、先日のお礼を伝えながら、リーアにお金の入った袋を渡す。
去り際にトマがシャドーボクシングをしていたのが気になるが…。あの子、魔法職だろ、たぶん。
「武器は使おうねー!」
俺が各所に悪影響を与えている気がしてきた。
「ふう…。さて、武器屋に行きますか。」
「はいっ!!」
二人と別れた後、俺たちも街の雑踏の中へと足を踏み入れる。
目的は投擲武器と剣、あとは鍛冶屋にいって防具を誂えてもらいたいが、いくらするか分からないのでとりあえず話だけでも聞けたら嬉しい。
まあ、そんなにお金もないので、とりあえずは投擲武器が最優先だ。
これも足りないならマッシュルームキャップを売ってもいい。
そうして意気揚々と武器屋に入ったのだが、ここで予想外の事態が起きる。
武器屋一軒目。
「投擲武器?うちにはないね。」
武器屋二軒目。
「え?投擲武器?ないない!そんなの!」
武器屋三軒目。
「投擲武器って、あの投擲武器?」
武器屋四軒目。
「当店にそのようなお品は。あ、でもこちらの槍なんt…。」
武器屋五軒目。
「あ?到底無理?なんだい藪から棒に。」
…。
いやなさすぎない?
ゲームでは店の商品はランダムで決まっていた。
が、ここは現実。当然、需要があって供給がある。
そんな当たり前のことを失念していた。
投擲武器は…言うまでもなく需要がないらしい。
次で六軒目。
さすがに、チヤにも申し訳なくなってきた。
ここになければ…。
「ございますよ。」
「え?」
「師匠ー!」
チヤが目を輝かせる。
「投擲武器ですよね。数は少ないですが、そちらの棚に…。」
小綺麗に髭を整えた店員がゆっくりとした動きで俺たちの後ろを指さす。
俺とチヤはフリスビーに飛びつく犬のように振り向いた。
あった…。
あったけど…。
「ありましたね!投擲武器!!」
チヤが嬉々として商品の一つ、投げナイフを手に取る。
「あら、まあ!よくお似合いですこと。」
店員は貼り付けたような笑みでチヤを褒めちぎる。なんとも嘘くさい。
チヤも乗せられてポーズを取りはじめた。
「チヤさん。」
「はい!」
「それを置きなさい。」
「は、はいっ。」
チヤは手に取った武器に傷をつけないよう、そっと棚に戻す。
「店員さん。」
「なんでございましょう。」
「投げ斧はありませんか。」
「…投げ斧ですか。大変失礼ですがそのように扱いづらい武器を市販品で入手するのは困難かと。ほら…でも、見てください。この投げナイフ。お嬢様に大変よくお似合いですよ。」
「えへへ。」
チヤは店員の甘言に踊らされ、その顔を緩めている。
しかし、投げナイフにクナイにチャクラム…。
ここにあるのは華奢で繊細な投擲武器ばかり。
全身金属鎧の重戦士がそんなものをチマチマと投げて何が楽しいんだ。
まったくもってわかっていない。
重戦士の投擲武器は投げ斧だと相場が決まっている。
投げ斧は重量が重く、扱いの難しい投擲武器ではある。使う人を選ぶというのは認めよう。
それでも、あの武器種の持つクリティカルダメージ上昇という特殊効果がこのビルドには必要なのだ。
あと一番かっこいいだろ。普通に。
俺は眉間に指を押し当てたまま、店を後にする。
「待ってください!師匠ー!」
「お、お客様!商品を!!」
「あっ!あっ!ごめんなさい!」
鍛冶屋によって防具を誂えてもらおうかと思ったが、こうなったら投げ斧も一緒に作るしか…。
でもさすがに数日はかかるよなぁ…。
その間の投擲練習は諦めるか。
でも、防具ができたら、俺はソロで行かなくちゃいけないところがある。
チヤの特訓に付き合うのは随分先になってしまいそうだ…。
「師匠…。」
そんなことを思いながら歩いていると、チヤがぽつりとつぶやいた。
何かをじっと見つめている。その視線を追うと、裏路地の先にボロボロの荒ら家が見えた。
取れかけて、ほとんど引っかかっているだけになった看板が、風に煽られてキィキィとなっている。
傾いた看板に合わせて、俺とチヤも傾く。
そこには『武器、防具、鍛冶』と書いてあった。
武器屋兼防具屋兼鍛冶屋らしい。
見た目だけならやっているかも疑わしいような有様だが、カンカンと鎚を打つ音が聞こえてくる。
ごくりと喉が鳴る。俺のか、チヤのか。
いや、たぶんどちらもだろう。
ラーメン屋でもこういう汚れた店の方がうまかったりする。
武器屋もそうだったり…。
そんな妙な期待を胸に、俺たちは歩き出す。