見た目もステータスもパッとしない中年がやりこみ知識でぼちぼち異世界攻略 作:雨(あめ)
店内は薄暗い。そのせいか開け放たれた扉の先で燃える炉が殊更目についた。
煌々と吹きあがる炎を見ていると、隣の部屋に立っていても心なしか熱を感じる。
カンッ!カンッ!カンッ!……。
火花を散らしていた鎚の音が止まる。
そして、ギシ…ギシ…と木を踏みしめる音。
「…何の用だ。」
奥から出てきたのは店主と思しき筋骨隆々の爺さんだった。
白髪の髭と眉毛で顔の大部分が見えない。
髪の毛は全て上に持ち上げて縛っている。パイナップルみたいだ。
「武器を買いたいんですが、見せていただいても?」
「…。」
…。
え、無言?ど、どういう意味の無言だろうか。
肯定か否定か。だめだ全然表情が見えない。
ガンッ。
「きゃっ。」
そのとき、背後でチヤが短い悲鳴を漏らした。
店の扉が開いて、チヤにぶつかったらしい。
「あれ…また、壊れたかな。親方ー……えっ?」
その扉から、小さな赤髪のパイナップルが入ってくる。
声からして女の子らしい。
目が合うとお互いに動きが止まった。
何なんだこの空気は。
爺さんも何も言わないし。
帰った方がいいんだろうか。
「客…?この店に…?」
女の子が目を見開いて呟いた。
「客じゃ…。」
「あぁ!あぁ!あぁ!親方はいいから!もうあとはあたしに任せて…!」
何かを言いかけた爺さんを奥へと追いやった後、女の子はパタパタとカウンターの前までかけてくる。
すっぽりとカウンターの裏に隠れてしまって、立ち上がった髪の毛しか見えない。
ふわふわとカールのかかった赤毛の毛束が右に左にとあたふた揺れる。ふと何かを思いついたのか、また奥に消えて、今度は椅子とともに戻ってきた。
よじ登ると、ちょうど胸から上くらいの高さになる。
なるほど、考えたものだ。
「いらっしゃいませ!大変失礼いたしました!今日はどのようなご用件で?武器、防具、日用雑貨、なんでもございます。鍛冶は…今は日用雑貨しか受け付けていませんが。」
「武器を買いたくて…見せていただいてもいいですか?」
「ええ、ええ!もちろん!いくらでも見ちゃってください!」
なかなか癖の強い店に来てしまったようだが、とりあえずチヤと手分けして店内を見て回ることにした。
と言っても、周りを見回すと鍋やコップといった日用雑貨ばかりだった。
今は武器や防具の鍛冶も受け付けてはいないみたいだし。訳ありなんだろうか。
この棚も日用品ばかり。
こっちも。
店の奥で、ようやく武器と防具が置かれた棚を見つけた。
しかし、ほとんど数がない。ここもだめかもしれないと諦めかけたとき、足が止まった。
「あった…。」
ボロボロの店内。もはや倉庫と言われた方が納得するような、雑多に散らかった商品棚の片隅で"それ"は埃をかぶっていた。
投げ斧だ。
震える手でゆっくりと持ち上げる。
宙に舞った埃が店内に差し込む光でキラキラと輝いた。
「おぉ…。」
近くにいたチヤも見様見真似でそれを取り、唸っている。
手のひらによく馴染む柄に、無骨な金属板が乗っている。刃の部分には革製の鞘がつけられていた。
いわゆる近接戦闘用の片手斧、ハンドアクスなんかより一回りか二回りほど小さい。
それでも、ずっしりとした重さがあって、それがなんとも心地いい。
飾り気などはほとんどないが角度を変えると刃の部分にかろうじて刻印が入っているのが見えた。この店の看板にもあった文様だ。
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鉄の投げ斧 ※推定Lv:5
<高品質+><物理攻撃力+12><クリティカルダメージ上昇>
小ぶりな鉄製の斧。投擲用として調整がされている。これで近接戦闘なんて考えたくもない。素直に投げて使うのがいいだろう。
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ザ・最初に入手する武器といった感じだが今はこれで十分。まさかこんな営業しているかもわからない武器屋に置いているなんて。
いや、待て。よく見ると高品質+までついているじゃないか。
なるほど、攻撃力補正が高く感じたのはそのせいか。
これはこの店の鍛冶師の腕がいいという証明だ。
「師匠。」
「あぁ。」
俺とチヤはお互いの顔を見合わせて頷く。何度も何度も頷く。
我々にしかわからない感動があるのだ。
いかん、他のやつに取られる前に買わなくては。
「これいくらですか。」
投げ斧をひとつ、カウンターに乗せる。
小ぶりとは言え随分と重いだろうに、女の子は軽々と持ち上げていろいろな角度から見ている。
「値札が付いてないや。」
ぽつりとつぶやくと、「少々お待ちを!」といって、また店の奥へと消えていった。
「あの投げ斧、いくら?」
炉のある部屋から微かに声が聞こえてくる。
「何…?」
「だから、投げ斧だよ。値札が付いてなくて。」
そんなやり取りの後、女の子のものとは違う重い足音が近づいてくる。
さっきの爺さんだ。
「お前ら、これが欲しいのか。」
扉の先からのっそりと出てきた親方の手にはさっきの投げ斧が握られている。
「はい!欲しいです!」
俺はカウンターに身を乗り出す勢いで答える。
「そうか…。」
なんだろう。眉毛の奥の瞳が俺たちを見定めている気がする。
「…これは一本20,000ゼルだ。」
「い、一本20,000…。」
チヤがポツリと呟く。
20,000か…。
ゲームだと一本8,000とかだったような。
高いな。
でもここは…。
「まあ……どうせ買い手ももういないんだ。一本15,000でいい。こんなとこで眠ってるよりかは、こいつにとってもいいだろ。」
俺が買うというよりも前に値下げの提案。ありがたいが、妙な言い方だ。買い手が"もう"いないというのはどういうことなんだろう。
爺さんはやれやれと息を吐きながらカウンターの奥にある椅子に腰掛ける。
「…昔物好きな冒険者がいてな、とにかくおかしな奴だった。ちょうど嬢ちゃんみたくでかい鎧を着こんでてよ、剣やら盾やら打ってやったが、ある日突然投げ斧を作ってくれなんて言い出して。こいつぁ、その時に打った代物よ。頼まれたから作ったのに、もう10年も取りに来てねぇ。」
ギルドにも確認を取ったが、そのあたりを境に活動記録も途切れていたそうだ。
投げ斧使いの重戦士だとしたらぜひ会ってみたかったが、その様子だともう生きてはいないんだろう。
「…お前ら、坑道に行く用事はないか。」
坑道。坑道か…。
そんな文字をどこかで見た気がするが、思い出せない。
「たぶん、北にあるウハ坑道のことだと思います。」
そんな俺の様子に気づいたのか、チヤが耳打ちしてくれる。
それで思い出した。たしか、ギルドの掲示板に坑道に関する依頼が貼ってあった。
ゴブリンが住み着いて要塞化してるとかで掃討してほしい、みたいな内容だったはず。
ゴブリンは武器や魔法も使う厄介なモンスターだ。特に上位個体のもとで群れを形成すると、より凶悪性が増す。今の坑道は十中八九そういう状況だろう。
報酬も高くはなかったし、受けるやつはなかなかいないと思うが…。
「…いや、ないならいいんだ。で、買うのか?」
「買います。」
5本あるというので全部買うことにした。
「おい、リゼ…。」
「うん!」
あの子はリゼというのか。
赤髪を揺らしながら残りの4本を取りに行ってくれる。
それとベルトに着ける金具もいるかと聞かれたので、買っておく。
これは言ってしまえばただの金属の輪だが、斧の柄を差し込むことで携帯を容易にしてくれる。いわば、斧用の剣帯みたいなものだ。いちいち鞄やインベントリから出すよりかは随分と楽になる。
これが一つ800ゼルなので合計で4,000ゼル。
俺のアドバイスで買うことになったわけだし、俺が全額出す気でいたのだが、チヤにそれはだめだと言われた。
正直全部買うと完全に一文無しになるのでありがたい。
最終的には俺が金具五個と投げ斧三本、チヤが投げ斧二本を買う形になった。
リゼが取り付けを手伝ってくれる。
五本全てを腰につけると邪魔になりそうだったので、右腰に二本、左腰に一本、それから残りの二本は鎧の胴体の帯に着けることにした。
「ジャジャーン!どうですか、似合ってますか!」
誇らしげに仁王立ちするチヤの横で、リゼが手のひらをしきりに動かして「キラキラキラ…。」とささやいている。
「似合ってはいるが、リゼさんに変なことをさせるのはやめなさい。」
「えへへ。」
親方はとっくに中へと引っ込んでしまったが、リゼが入り口まで見送りをしてくれる。
店を出た俺とチヤは互いに顔を見合わせた。
たぶん、同じことを考えていると思う。
投げ斧の練習もしなくちゃいけないし、俺もレベル10になったのでスキルを試したい。
「行ってみますか、坑道。」
「はい!」
裏路地から大通りへの道を歩き出す。
グゥ~。
2歩か3歩歩いたところで、どこからか奇怪な音が鳴る。
空を見上げると太陽が高く昇っていた。
「その前に腹ごしらえかな。」
「はいっ!!!」