見た目もステータスもパッとしない中年がやりこみ知識でぼちぼち異世界攻略 作:雨(あめ)
翌日、俺たちは鎧を受け取るべく鍛冶屋を訪ねた。
扉を開けると、室内に籠った熱気が頬を撫でる。
同時に外から差し込んだ夕日が、俺たち二人の影を床に長く伸ばした。
狭い店内だ。
一歩入っただけで、眩しそうに顔をしかめるリゼの姿が目に入る。
「…あ、ノインさん!チヤさん!いらっしゃい!」
チヤが扉を閉めると、差し込んでいた夕日が遮られる。
眉をひそめたリゼの顔も自然と笑顔に戻った。
「こんにちは。」
俺が言い終わるよりも早く、リゼは走り出していた。
しかし、無視をするわけにはいかないと思ったのか、その場で足踏みをしながら、視線で返事をしてからまたすぐに走っていく。
カウンターの上にはまだ何もない。
少し早く来すぎたかも…なんて思ったが、出てきた親方が担ぐ大荷物を見て、いらない心配だったと胸を撫でおろす。
「…ちょうどできたところだ…さ、見てくれ。」
カウンターの上に広げられた包みから姿を現したのは、昨日見た西洋甲冑…ではない。
昨日のものとは随分見た目が変わっている。
「おお…。」
思わず声が漏れた。
基本素材は鉄だが、その縁が洞蟹鋼で補強されている。
僅かに角ばったシルエットは、ドイツのカステンブルストだったか、それを連想させる。
ただ、それよりかは流線型でより体にフィットするようなデザインだ。
鈍色の板金に暗灰色の装飾が映える、無骨ながらも美しい鎧。
まあ、こんなふうに批評はしてみるが、俺もゲームでかじった程度の知識なので全然詳しいわけではない。
ただ一つ、確実に言えることとしては…かっこいい。
うん、これは間違いない。l
そっと赤子を抱くように鎧を持ち上げる。
「…思ったより軽い。」
拳闘士は素早さへの恩恵が大きいクラスだ。
その利点が死んでしまうのは避けたかったが…これならその心配もない。
360度、いろいろな方向から眺めてしまう。
「これは…。」
俺はとあることに気づいて鎧の腰や脇といった部分を覗き込む。
「…気づいたか。」
しゃがれた声が嬉しそうに笑った。
親方が言うには、俺の戦闘スタイルを意識して体の可動域を狭めることがないよう関節部を削ってくれたらしい。
なんともありがたい気遣いだ。
件の冒険者が世界一の鍛冶屋だとほめたくなる気持ちもわかる。
「…着てもいいですか。」
「ああ、リゼ。」
「はいよ!」
俺の声が小さくなったのは、まだ現代日本にいた頃の感覚が抜け切れていないからだろう。
どうしても現実味がなくて、コスプレをしているような気持ちになる。
いや、今更だ。
現実離れしたことがたくさん起こっているのに、これは恥ずかしがるなんて変だよな。
うん。大丈夫。恥ずかしいことではない。
しかし、軽めとは言え、あの小さな体では重いだろうに…リゼは汗一つかかずに鎧の装着を手伝ってくれる。というかほぼ着せてもらった。
「…あとは…ここのベルトを引いて調整してください。」
「ああ、はい…ありがとう。」
感心している間に装備が完了した。
基本的には一人で着れるように設計されているらしいので練習しようと思う。
チヤも一人で器用に着ているので、宿に戻ったら教えてもらおう。
そんなことを思いながら、まだ若干締め付けの緩いベルトを引いていく。
すると、金属が体に密着していくのがわかる。
ぴったりになるまで引いて、体を動かしてみる。
「…おおー。」
なんだかんだと言ったが、人生で初めての鎧だ。
やっぱり感動する。
両腕を回したり、何度かジャンプしたりと体を動かしてみるが、本当に動きが妨げられることがない。
それに…。
…コツ、コツ…ガンッ…ガンッ…。
手で何度か板金を叩いてみるが、かなり頑丈そうだ。
具合を確かめていると、親方がカウンターを回り俺の前まで来た。
「…さっきも言ったが関節部が開いてる、下に革か鎖帷子でも着とけ……あとギャンベゾンも忘れるな。」
段々痛くなってくるぞ、なんて親方が笑う。
「……たしかに…。」
実はすでにちょっと感じていた。
「師匠ー!」
俺がいそいそとベルトを緩めていると、後ろからチヤの声が聞こえた。
どうやらチヤも鎧を装着し終えたみたいだ。
「どうですか!!」
「おお。」
さっきからこんな反応ばかりしているが、感動した中年なんてこんなものだ。
チヤの鎧も俺と同じく洞蟹鋼で補強されている。
それだけではなく、取れかかっていた板金なども修復されて、見違えるような勇ましさだ。
前の鎧は、若干の落ち武者味を醸し出していたからな。
「すごく似合ってる。」
「えへへ、お揃いですね。」
「そ、そうだね…。」
よくもまあこんなに恥ずかしいことを笑顔で言えるものだ。
というか、おっさんとお揃いって嫌じゃないか?
まあ、当の本人が嬉しそうに笑っているし…いいか。
「ああ、そうだ忘れんうちに…。」
「ん?」
親方はぼそりを呟くと、隣の部屋に消えていく。
物の数分で何かを手に戻ってきた。
ゴトッ…。
それをカウンターの上に置く。
なぜだろう。
形はまるで違うが、これが何なのかはすぐに分かった。
壁に視線を移すと、かかっていた剣がなくなっている。
「あいつの剣を直したものだ…といっても、あのままじゃ傷が深くて使い物にならん……だから切り詰めてロングソードにした。」
ガガガ。
親方はカウンターに置いたそれを俺たちへと差し出す。
「嬢ちゃんの剣、折れてたろ…良かったら使ってくれ。」
「えっ。」
驚いた。
そんな話はしたことがないし、当然店内で剣を抜いたこともない。
チヤも目を丸くしている。
なぜわかったのかと聞くと「揺れ方を見れば大体な。」なんて答えが返ってきた。
動くたびに柄の方がやけに揺れるから、気になっていたんだとか。
「…。」
チヤが折れた剣をインベントリから取り出して揺れ方を見ている。
俺も一緒になって観察してみるが、言われてみたらという程度しか違いがない。
さすが職人。凄まじい観察眼だ。
「本当にありがとうございます。」
俺たちは何度も礼を伝えた。
そのたびに親方は「礼を言うのはこっちだ。」と返した。
ゴブリンロードの一件で、俺たちばかりがいい思いをしている気がする。
ルシエラとアレクシアは、ギルドから必要最低限の旅費を受け取っただけだと聞くし。
装備をそろえるために蓄えたお金が丸々浮いてしまった。
嬉しいことではあるんだが、無くなる覚悟を決めていた分、肩透かしを食らったような気分だ。
まあ…いいか。
「チヤ…話がある。」
「え……はいっ。」
チヤが一瞬たじろいで、俺に向き直る。
ん、なんかやけにそわそわしてる気が。
それに、なんか顔が…。
あ。
夕焼けに染まる坂を上る二人。ふと足を止めた男が、女に言う。
「話があるんだ。」
うん、まあそんな雰囲気になりそうなセリフではあるけど。
……いやいやいや、ないでしょ。
俺おっさんだし。顔が赤いのは夕日のせいだ。
「あのダンジョンのことなんだけど。」
「え?」
「……え?」
「あ、いやなんでも。」
何、今のきまずい間。
チヤの目に光がない。ギルドのミアに怒ってた時の顔だ!こわい!!
「お、俺一人でボスを倒したいんだ、ビルドのために。」
「勝手にすればいいんじゃないですか。」
う、怒ってる。そりゃ、さすがにそうだよな。
二人で攻略してたダンジョンだし。
「あぁ、ごめん、無理だったら全然言って、俺、他のダンジョン探すから。」
「いや、別にいいですよ、そこじゃないので。」
そこじゃない…ってなんだ。
悩んでいる間にもチヤがどんどん先に行ってしまう。
どこに怒っているのかを何度か聞き出そうとしたが。
「ビルド馬鹿。」
返ってきたのはこれだけだった。