見た目もステータスもパッとしない中年がやりこみ知識でぼちぼち異世界攻略 作:雨(あめ)
<クリスタルバット(Lv25)を倒しました。>
<経験値(520)を取得しました。>
<ダンジョンマスターを倒しました。>
<ダンジョン『共鳴洞窟』は無力化されます。>
<ダンジョン『共鳴洞窟』は6日後に消滅します。>
<クラス『気功士』の解放条件を満たしました。>
<称号『挑戦者』の解放条件を満たしました。>
ログが流れる。
「来た…。」
俺はテディベアのぬいぐるみよろしく、地面にへたり込んだままそれらを順に追っていった。
そして、一つのログの上で瞳が静止する。
視線の先に浮かぶ文字。
…気功士。
これは、その名の通りではあるが、気功術を操るクラスだ。
解放条件は、素手、かつ、支援魔法を付与された状態でダンジョンマスターにとどめを刺すこと。
あと、なぜかはわからないが「ソロでの攻略」などというなかなかにきついおまけまで付いている。
どうやら運営は、素手使いの変態をとことんいじめたいらしい。
解放条件が分かりづらいせいで、このクラスが見つかった時はそれなりに盛り上がったりもした。
しかし、そんなプレイヤーたちの熱も長続きはしなかった。
初期のスキル構成が拳闘士と似たり寄ったり、というかほぼ同じ…おそらくだが、これが要因の大部分を占めているだろう。
違いと言えば『初級剣術』『初級棍術』『初級気功術』が追加されているくらい。
反対に『初級鉄鉤術』は消去されている。
まあ、性能が尖っている拳闘士と比べて、いろいろと扱いやすくなってはいる。
そのせいか『気功士』は『拳闘士』の上位互換くらいの認識で止まっている節がある。
だが、俺は認めない、認めないぞ。
拳闘士と気功士…そのどちらも愛しているから。
この二つでは派生していくスキルが全然違うし、何より拳闘士は鉄鉤術を扱える数少ないクラスのひとつだ。
これはつまり、忍者のロールプレイができるということにほかならない。
…いや、まあ、そもそも忍者ってクラスがあるんだけれども。
「…。」
<メインクラスが気功士(Lv1)に変更されました。>
なんだかんだ言っておきながら、クラスは変える。
気功士へクラスチェンジしたことで、メインクラスのレベルは1に戻った。
心なしか鎧が重くなった気がする。
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ノイン・レーゲンシュライン
種別:人類・人属
メインクラス:気功士(Lv1)
サブクラス:聖職者(Lv18)
Lv:18
HP:9/68 MP:5/49
物理攻撃力:40 物理耐性:11 (+20)
魔法攻撃力:19 魔法耐性:20
素早さ:30 (-10) 持久力:23 (-8)
精神力:42 幸運:15
状態異常:
出血
装備:
洞蟹鋼の軽鎧 洞蟹鋼の籠手
洞蟹鋼の臑当 黒深卿の襤褸布
スキル:
一撃一殺(弐) 化勁 攻撃力上昇
素手戦闘の素人 地下世界の耳
地下世界の目 肉体硬化 ヒール
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ステータスを見ると、感覚だけではわからない変化が可視化される。
MPや精神力など、聖職者の恩恵が大きいところにはそこまで変化がないものもある。
だが、拳闘士から恩恵を受けていたところは、やはり目に見えて下がってしまっている。
特に素早さが装備の影響もあって、20まで下がっているのがつらい。
攻撃力も『素手戦闘の素人』の効果で40パーセントアップされていてこれだ。
もとの値は29くらいだろうか。…この上昇値なら、鉄の剣でも装備した方がよほど強い。
しかし、そう落胆することもない。
なぜなら、拳闘士で解放したスキルの一部は、気功士でも引き継ぐことができるのだから。
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ノイン・レーゲンシュライン
Lv:18
(使用可能ポイント:18)
メインクラス:気功士
Lv:1
(クラス専用ポイント:0)
<初級拳闘術(0/10)>
<初級剣術(0/10)>
<初級棍術(0/10)>
<初級気功術(0/10)>
<持たざる者の矜持(10/15)>
<足技(0/5)>
<一撃の型(6/10)>
<連撃の型(0/10)>
<鉄壁の型(6/10)>
<攻撃力上昇(0/50)>
<素早さ上昇(0/50)>
サブクラス:聖職者
Lv:18
(クラス専用ポイント:14)
<初級長杖術(0/10)>
<初級短杖術(0/10)>
<初級槍術(0/10)>
<初級聖魔法(0/10)>
<初級回復魔法(3/10)>
<初級支援魔法(3/10)>
<道を歩むもの(0/15)>
<聖リーベの訓え(0/10)>
<聖ユスティーの訓え(0/10)>
<精神力上昇(0/50)>
<魔法耐性上昇(0/50)>
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スキル画面を眺めた俺は、不敵な笑みを浮かべる。
厳密にいうと、共通しているスキルはクラスチェンジをした時に、すでに解放済みの状態からスタートになる。
たとえば『初級剣術』なんかはありとあらゆるクラスについているので、なんらかのクラスで取得しておけば、その他のクラスも恩恵を受けられる。
そして、拳闘士と気功士は初期スキルのほとんどが共通している。
…つまり、今までの努力が一切無駄にならないというわけだ。
ただし、同じように見えるスキルが、すべて同じとは限らない。
『鉄壁の型』が6まで取得済みになっているものの、俺のステータスのスキル欄には『受け流し』がない。
代わりに表示されているのは…『化勁』。
この、一見バグかと思うような現象の理由は単純明快。
拳闘士の『鉄壁の型(6/10)』で取れる『受け流し』が、気功士のスキルツリーでは『化勁』に変更されているのだ。
ちなみに、この『受け流し』と『化勁』に限って言えば、効果に特段の違いはない。
完全に雰囲気…運営の遊び心だろう。
こういうふうに、取得できるスキルや、その先の派生先が変わることは結構ある。
だからリゲナーはクラスチェンジの度に出る脳汁を止めることができないんだ。
「よしっ。」
一通りの確認を終え、俺は立ち上がる。
そのまま身体を伸ばすと、全身を走った痛みに頬の筋肉が二、三度引きつった。
いや、しかし、そんなことは全く気にならない。
ようやく一つ、ステップを進められた気がする。
レベルを上げれば、まともな攻撃スキルも手に入る。
次にやるべきことも、もう明確に決まっている。
俺の心は有頂天。
クラスチェンジハイになっている。
できれば今すぐにレベリングに行きたいところではあるが…。
…落ちつけ、俺。
視線をゆっくりと下げて、自分に言い聞かせる。
「早く帰ろう…。」
俺の身体はボロボロだ。
攻撃力や素早さも下がっているし、これ以上の無茶は本当に死んでしまう。
この前お世話になったばかりでなんとなく気が引けるが、そんなことを言っていたら出血であの世行きだ。というわけで、早く診療所に行こう。
急いでここを去らなければいけない理由はそれだけではない。
壁が、奥の方からパキパキと音を立てて迫ってきている。
ダンジョンマスターを失った迷宮は、一日に一階層というペースで塞がっていく。
このボス部屋も24時間後には土の中。
そして、最初から何もなかったかのように、ダンジョンそのものが消滅する。
ゲーム内には、迷いに迷った末、逃げ場を失って土に飲み込まれた冒険者の日記なんてアイテムまで存在した。
そんな悪趣味なアイテムを作成した運営の鬼畜っぷりも込みで、しばしばネタにされていたものの、モタモタしていたら俺も同じ運命をたどりかねない。
「おっとと。」
想像すると、この洞窟の闇が一層恐ろしく感じられてくる。
早いところ出よう。
そう思って歩き出した足が、ふと止まった。
「魔石の回収がまだだった。」
どうもこいつのことを忘れてしまいがちだ。
気をつけないとな。
そう思いながら、俺は黒煙の立ち上る部屋の中心へと足を踏み入れる。
そこには、大きな魔石がゴロンと転がっていた。
片手で握るにはギリギリな大きさ。
俺は大人しく両手で拾い上げて、そっとインベントリの中へしまう。
「え…。」
そこで、俺の動きが止まった。
岩の上に、白銀の輪が輝いている。
ちょうど魔石の下敷きになるようにして、そこに落ちていた。
間違いない。
「晶星の指輪…。」
これは、クリスタルバットの固有スキル、『黒穿響』。そして、『星点』という特殊なスキル。
…この二つを使用可能にする装備だ。
「明星の騎士なら喜ぶんだろうけど…。」
苦笑交じりにこぼした自分の言葉に、懐かしさを覚える。
明星の騎士。
これは、『明星を歌うもの』というサブクエストに出てくるクリスタルバットを擬人化したキャラ、及び、それを元にキャラを作成するロールプレイの名称だ。
盲目の少女のために歌うクリスタルバットと、それを取り巻く人々とを巡るサブクエスト。
まあ、最終的にプレイヤーは倒すか倒さないかの二択を迫られるわけだが…結局どちらを選んだとしても、結末は悲劇になる。
だから、俺はあまり好きではない。
しかし、一部のプレイヤーには刺さったようで、ネット上に架空のキャラが生み出されるだけでなく、ゲーム内にも白銀の鎧を身に纏った明星の騎士なる魔法剣士が多数発生した。
余談だが、明星の騎士は大抵弱い。
当然、姿を消せるわけではないし、唯一のクリスタルバット要素とも言える『黒穿響』を主軸に置いたビルドにしているものの、肝心のこのスキルが、とにかく扱いづらい。
狙いがつけれないうえに、『星点』で水晶を作り出してからでないと機能しない。
そうだ、『星点』は宙に水晶を作り出す魔法だった。
しかし、こいつも発動に時間がかかりすぎるうえに、たしか単体では攻撃性能を持たないんだ。
つまり、準備が整うまでは完全な無防備になる。
はじめからそこにある水晶を使って『黒穿響』を放つクリスタルバットとは違い、火力を出すまでの時間が長く、また『星点』を挟むせいでMP消費のコスパという面においても最悪と言わざるを得ない。
どうせビルドを組むならこの辺りも徹底すれば…とも思うが、明星の騎士でそこまでやっている人は見たことがない。どちらかというと見た目重視で装備の効果なんかも度外視な印象だ。
もちろんそういうプレイスタイルも否定はしない。
本人が楽しければそれでいい。
ただ、俺はやろうと思ったことが一度もない。
「…。」
いや、せっかくなら。
そう思って、俺は白銀の輪を指にはめた。
ここなら『星点』を使わずとも周りに水晶がある。
試すにはちょうどいい。
そんなわけで、サクッと『黒穿響』を発動してみる。
指輪が震えた。
同時に、甲高い音が空間を満たしていく。
キィィィィン……。
その音に応えるように、周囲の水晶が輝きを増していく。
「おお…。」
なんだかんだ言っても初めての攻撃魔法。
胸が踊った。
キリキリキリ……。
水晶が軋む。
ビカッ!!!
光も、弾けるように連鎖をはじめた。
俺の喉が思わず鳴る。
そして…。
…ピュン。
…そうめんみたいな白い線が数本。
「…。」
俺はそっと指輪を外した。