見た目もステータスもパッとしない中年がやりこみ知識でぼちぼち異世界攻略 作:雨(あめ)
その後の道中は順調そのものだった。
モヒボアをはじめ、グラススライムやキラーフラワーといった手頃なモンスターを片っ端から狩り、屍の山を築いていった。
まあ、実際は黒い煙になって霧散するので山にはならないんだけど。
そのおかげで『魔石(小)』が21個、『モヒボアの肉』が7個、『グラススライムのエキス』が4個、『キラーフラワーの根』が5個手に入った。
肝心のレベルもそれぞれ5まで上がった。
そんなこんなでまだ日も高いうちに、街の入り口らしき門までついた。
そう、順調だった。ここにつくまでは。
「え…なんで!?」
「だから、この門を通るには許可証がいるんだって。」
しかし、せっかくここまで来たというのに、さっきからこんなことを言われて街に入れないのだ。
許可証なんてシステム、『Re : Genesis Online』にはなかった。
「じゃあ、その許可証はどこでもらえますか。」
「んー、王国の貴族様につてがありゃもらえるだろうが……。あとは、あれだな、何かしらのギルドに登録してたらギルドカードを許可証代わりに使えるぞ。都度手数料はかかるけどな。」
なるほどな。
「ギルドはどこに?」
「この大通りをずーっとまっすぐ行くとあるぞ。」
門番の男が指を指す。
長い長い大通りが続いているが、奥の方に噴水と、さらにその先に巨大な館が見える。あれだろうか。
「わかりました、では。」
俺は親切な門番に会釈をして門をくぐる。
「おう、がんばれよ。……って、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、待てい!!」
ちっ。自然に行けば入れるかと思ったのに。
「いや、俺も田舎から出てきたから気持ちはわかるぞ。でもだからと言って通せんのだ。」
この門番のおじさん、やけに人がいい。本当に心配してくれているのがわかる。
あまり困らせるのも忍びない。そう思い引き返そうかとも考えたが「モンスターもいるし、突き返すのは気の毒だが。」とおじさんの話が続く。
「兄ちゃん、いいか?とりあえずだな、許可証のいらない街もあるから、そこでギルドに登録するか、もしくは許可証かギルドカードを持ってるやつを探して同伴者として入れば問題はない。それも手数料がかかるし、頼むときにも多少の見返りは要求されるだろうが……あ、あと同伴者の件は一応グレーだから俺が教えたなんて言わんでくれよ?」
許可証かギルドカードを持ってる人の同伴者であれば問題ないのか。
金はないが、魔石や素材ならある。交渉次第では…。
街にすんなりと入れないというのは誤算だったが、これはいいことを聞いた。
「わかりました。何とかしてみます。」
「おう、気をつけてな。」
せっかくここまで来たが、やむを得ない。来た道を引き返す。
その辺のモンスターを狩っててきとうにレベル上げをしつつ、人が通るのを待つか。
しかし、ここらへんのモンスターは低レベル。高くて5、6だ。
同レベル以下のモンスターを倒した際の取得経験値量は極端に少なくなる。今の俺では効率が悪い。
交渉の材料が増えるのはいいが、どうせならレベルも…。
「……ん?」
そんなことを考えながら歩いていると、分かれ道に気になる道標が刺さっているのを見つけた。
俺が歩いてきたのとはまた別の方向に森があるらしい。
「行ってみるか。」
と、いうわけで。
やってきました。
「森ーーー。」
意外と時間がかかった。
空の色も微かに変わり始めてるし、野宿にならないか本当に心配になってきた。
しかしそんなことよりレベル上げだ。
もはやこうなったらひたすらにレベルを上げて野宿でも耐えうる体にするしかない。
近くでカサカサと音がする。何かが枝や落ち葉に擦れる音。
そして、森に足を踏み入れた俺を歓迎するかのようにモンスターが姿を現す。
木の陰にきのこの傘が見えたのでまさかとは思ったが、大丈夫な方だった。
人間の腰くらいの高さだろうか。大きく成長したきのこ型のモンスター、『マシュリン』だ。
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マシュリン
種別:
Lv:8
HP:40/40
MP:14/14
状態異常:
なし
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可愛らしい名前に反して、質感がリアルでなかなかな見た目をしている。
カサカサカサ。
「おうおうおう…。」
こいつらは常に群れを成して活動している。
例に漏れず今回も。さらに2体のマシュリンが姿を現した。
そして、マシュリンはプレイヤーを囲むように陣取る。
それに気づかず周囲を固められると、毒で瞬く間にHPを削られてゲームオーバーだ。
こいつらの毒は特徴的で、同じ個体から何度毒攻撃を受けても効果時間が伸びるだけだが、別個体からの毒を受けると猛毒という状態異常になり、さらに別個体の毒も重なり……最終的には凄まじい速度でHPが減っていく凶悪な状態異常になる。
モンスター本体はさほど強くないが、とにかく一体一の状況で戦えるように努めなくてはいけない。
動きは遅いので知識さえあれば対策は容易だ。
「とりあえず。」
最初に姿を現したマシュリン目掛けて走る。
すると、マシュリンの体が小刻みに震えだした。
「早速か。」
俺は進路を変え、大きく回り込むように動く。
マシュリンの震えが止まったかと思うと、「プシュー」という音とともに深緑色の霧が散布される。
あれがマシュリンの使う魔法。『ポイスト』だ。
広範囲なうえに発動後5秒はその場にとどまるので当たらないように細心の注意を払いながら距離を詰める。
そして、。
「殴る!!」
腕が沈み込み、そしてわずかな反発を返す。
体育で使うマットを思い出す質感だ。
マシュリンは反動を押し殺して倒れない。
そして姿勢を低く構える。
「はっ!当たるかぁ!」
マシュリンが『ポイスト』のクールタイム中に使用する攻撃は一つ、頭突きだ。
凶悪な魔法スキルの『ポイスト』と違ってまるで警戒する必要はない。
当然躱す。そして、。
「殴る!殴る!」
あと一撃で倒せる。が、ここではいかない。俺は大きく後退する。
それとほぼ同時、マシュリンの体から爆散するように緑の霧があふれる。
5、4、3、2、1……。
「……0!!」
命のカウントダウン。俺は踏み込み、右の拳を構える。
上方から振り下ろされた拳がマシュリンの傘に大きく沈みこんだ。
マシュリンはそのままうなだれるように地面へ座り込む。やがて体が崩れ始め、黒い煙となって消えた。
<マシュリン(Lv8)を倒しました。>
<経験値(27)を取得しました。>
「よし、あと2体。」
俺は顔へともろにあたる煙を払いながら、残りのマシュリンへと視線を向けた。
そのとき、マシュリンを挟んだ向こう側に人らしき影が見えた。
「だ、だれかぁ!!たっ……。たすけっ!!」
遅れてそんな声が聞こえる。若い女の声だ。
酷く焦っているよう。十中八九モンスターに襲われて逃げているところだろう。
助けるか?
いや、俺も結構HP厳しいしなぁ。
森の奥から来たみたいだし、変に強いモンスターとかだったら俺も死ぬ可能性が。
「いや、待てよ?」
俺は一人じゃ街に入れないから、入れてくれる人がいたらいいなと思ってこの森に来た。
あの人を助ける。恩を売れる。同伴者にしてもらえる。街に入れる。
「あれ……完璧じゃね?」
やっぱり俺には困っている人を見捨てるなんてことはできない。
すぐ行こう、いま行こう。あ、でも魔石は拾って。
「さぁ、いくぞ!!……どけぇい!!」
進路に立ちふさがるようにいたマシュリンを蹴り飛ばして俺は走り出した。