見た目もステータスもパッとしない中年がやりこみ知識でぼちぼち異世界攻略 作:雨(あめ)
痛い。俺の体はボロボロだ。
戦闘中はそこまで感じなかった痛みだが、今になってじわじわと襲ってきた。
動けん。
「…。」
ああ。
さっきの女の子が俺の顔を覗き込む。
完全に忘れていたが、俺は2人を助けるために戦っていたんだった。
目が合うと「ひゃっ…生きてる!」なんて小さな悲鳴をあげる。
一応命の恩人なんだが、随分な反応だ。
そして、霧散するジェネラル・マシュリンの残骸を呆然と見つめて「本当に倒しちゃった……。」なんて呟いている。これはちょっと気持ちいい。
いや、しかし、そんなことより。
「あの。」
「はいっ!!」
「こいつどうにかしてもらえます?」
俺の視線の先には一体のマシュリン。寝転がる俺の傍、寄り添うように立っている。
そう、残しておいたあの一体だ。
体が震えてる。おい…おいおいおい待ておま…。
ボフン。
緑。
「あっ。」
「けふっ………う、気持ち悪い。」
「ああああ!ごめんなさい!!」
女の子は咄嗟に剣を抜いて流れるようにマシュリンへ突き刺す。
HPは減らしていたので、その一撃で簡単に崩れ落ちる。
その後も彼女はひどく動揺した様子だったので、落ち着かせる意味も込めて互いに自己紹介をした。
女の子の名はリーア、男の子はトマというらしい。
リーアは意識のないトマを俺の横に寝かせると、抜き身の剣を握りしめたまま周囲の警戒にあたってくれた。
俺はそんな彼女の好意に甘えて、毒が抜けるまで動かないでいることにした。
状態異常が切れる頃には体の痛みも落ち着いてきて、少しだが動けるようになった。
俺なんかよりよっぽど重症なトマの容体を確認する。
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トマ
種別:人類・人属
Lv:7
HP:2.5/11(51)
MP:8/8
状態異常:
致命傷 出血 気絶
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『致命傷』の状態異常がついている。
これはまあ読んで字の如くだが、致命判定がつくと付与される状態異常で、各ステータスの減少を招くうえ、放っておくと徐々にHP上限が減少。さらに進行すると気絶し、そのまま死に至る。
自然に回復することはないし、俺の持っている回復魔法『ヒール』でも治療はできない。
特級相当の回復手段か、街での治療で解除するしかない。
「…。」
とはいえ、何もしないのも気が引ける。
まあ、気休め程度にはなるか。
「ヒール。」
薄緑の光が彼の全身を包む。かざした手のひらがほんのり温かい。
とりあえず、現状の上限である11までは回復した。
俺もまだ少しふらつくが、これ以上ゆっくりはしていられない。立ち上がって体の調子を整える。
「リーアさん!街まで戻ろう!」
マシュリンがこっちに来ないよう、少し離れた場所で交戦していたリーアに呼びかける。
「…はーい!」
ちょうど戦闘も終わったらしい。
こっちに手を振りかえして応える。
「一応、ヒールはかけておきました。」
「本当にありがとうございます。」
彼女は深々と頭を下げた。
まだ、同伴者の件については話せていない。
森から街までは少し距離もあるので、道中で交渉をしなければ。
「あっ。あれはいいんですか?」
どう切り出したものかと考えながら、街への帰路に着こうとした時、リーアに呼び止められた。
その細い指が示す先。地面の上に輝く塊が見える。
「あっ、忘れてました。」
あれは魔石。今まで見てきた欠片のようなサイズのものとは比べ物にならない、れっきとした塊。
おそらく『魔石(中)』だ。
魔石は換金に使えるほか、錬金術や鍛冶にも使用できる。
中には魔石を使用して魔法を行使するクラスや、魔石を埋め込んだパペットを使役するクラスなどもあり、何かと汎用性の高い素材だ。
とはいえモンスターを倒せば必ず落ちるので、無くて困ったなんていう状況になることはまずない。
「おおっ…。」
野球ボールくらいのサイズのそれを拾い上げる。予想より僅かに重い。
表面は黒曜石のような暗色をしているのだが、内側に緑色の光を携えていて、回すとキラキラと光る。
沈みかけた夕陽が差し込むとより一層美しく、見惚れてしまいそうになったが、そんな時間はない。
インベントリへしまう。
「ん…?」
宙にぽっかりと空いた穴の先。
地面にまだ若干残骸が残っているが、その中に何かが埋まっているのが見えた。
それを掴んで引っ張り出してみる。
「これは…。」
いわゆるレアドロップというやつだった。
落ちたのは『マッシュルームキャップ』というきのこの傘のような見た目をした帽子。
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マッシュルームキャップ ※推定Lv:10
<高品質><魔法防御力+5><MP回復(微)>
きのこの傘を模したかわいらしい帽子。胞子の効果によってMPが徐々に回復する。健康被害の報告はない。今のところは。
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この装備は、見た目のインパクトも相まってよく覚えている。魔法をメインで使用するプレイヤーに人気があったアイテムだ。
効果が非常に優秀なので、強化を繰り返して中盤まで使っているプレイヤーもいたくらいだ。
小さな女の子のキャラがつけてると、キャラも立ってたしかに可愛かった。
ただ、まあ俺は……。
「うん。」
街の名物おじさんになるつもりはないので、そっとインベントリにしまった。
「い、いまのレアドロップですか。」
戻ってきた俺の顔を見ながら、リーアが呟くように聞いてきた。ゴクリと喉がなっている。
「ああ、そうみたいですね。要ります?」
リーアの戦い方を見るに、彼女は魔法剣士だ。
詳しいビルドまではわからないが、俺よりかは使いこなせるんじゃないかと思う。
「い、いやいや!!貰えませんよ!!!」
だが、全力で否定されてしまった。
まあ、あの見た目じゃゲームでギリだよな。
「…そろそろ行きましょうか。」
「ああ、そうですね。」
「……あのぉ。」
「?」
「………やっぱりアイテム詳細だけ見せてもらえませんか?」
俺たちは街への道を歩き出した。
道中はとくに手強いモンスターが出るようなこともなく、問題も起こらなかった。
俺が街に入れなかった話をすると、快く同伴者の件も受けてくれた。
本当に情けないが、お金がないということも伝えて、ひとまずということで『マッシュルームキャップ』を差し出したが、やっぱり断られた。
むしろ、手数料はお礼として払わせて欲しいと言われたが、おじさんが10代にお金を出させるわけにもいかないので、後日ギルドで待ち合わせて払うというところで着地した。
しかし、あんな啖呵を切っておいてなんだが、ギルドの一般受付(未登録者向けの受付)はすでに閉まっており、素材の換金ができないらしく、宿代を借してもらうことになった。
こんな歳になって10代にお金を借りる日が来るとは。
なんとも恥ずかしい。
門についたとき、あのおじさんに一言挨拶をと思ったが、当番が変わっていた。
よってこれは後日とする。
トマを教会に隣接する診療所に届けてから、リーアとも別れた。
その際におすすめの宿を教えてくれた。本当にどこまでもいい子だ。
「いらっしゃい。」
勧められた宿に入ると、受付と思しき場所に人の良さそうなおばちゃんが立っていた。
「どうも。お部屋ありますか。」
「ええ、空いてますよ。何泊のご予定で?」
「とりあえず一泊でお願いします。」
一泊分の代金しか借りていないので当然一泊。素泊まりだ。
ぽんぽんぽんとチェックインの手続きが進む。
正直限界だった。
俺は部屋に着くなりベッドへと倒れ込む。
ゴンッ。という寝具にあるまじき音がしたが、もはやそれすら気にならない。
「ふう。」
今の俺には羽毛布団と変わらないほど心地いい。
全身の力が抜けていくのがわかる。
「さあ、寝るか。」
寝る。
寝る…?
……。
いや、待て待て待て。
何普通に寝ようとしてるんだ。
『寝る』という単語で思い出したが、何かおかしくないか?いや、おかしい。
ずっと違和感は感じていた。
「…これ……本当に夢か?」
あまりにも長すぎる。しっかり半日は経ったぞ。
そのうえあらゆる感覚がはっきりとしすぎている。
明晰夢っていうのは見たことがないけど、案外こんなものなのか?
それとも、何かが起こって全く別の世界。それこそ『Re : Genesis Online』の世界に来てしまったとか…。
うん。
「まあ……なんでもいいか。」
よくよく考えてみると、仮にそうだったとして俺に損があるわけじゃない。
むしろ嬉しい部類に入る。
それに、いくらベッドの上で悩んだって答えが出るわけでもなし。
ただあるのは、夢にしろ現実にしろ、俺がまだこの世界にいるという事実だけだ。
「うし、寝るか。」
普通に爆睡した。