見た目もステータスもパッとしない中年がやりこみ知識でぼちぼち異世界攻略   作:雨(あめ)

7 / 15
第七話「同伴者。」

痛い。俺の体はボロボロだ。

戦闘中はそこまで感じなかった痛みだが、今になってじわじわと襲ってきた。

動けん。

 

「…。」

 

ああ。

 

さっきの女の子が俺の顔を覗き込む。

完全に忘れていたが、俺は2人を助けるために戦っていたんだった。

 

目が合うと「ひゃっ…生きてる!」なんて小さな悲鳴をあげる。

一応命の恩人なんだが、随分な反応だ。

 

そして、霧散するジェネラル・マシュリンの残骸を呆然と見つめて「本当に倒しちゃった……。」なんて呟いている。これはちょっと気持ちいい。

 

いや、しかし、そんなことより。

 

「あの。」

 

「はいっ!!」

 

「こいつどうにかしてもらえます?」

 

俺の視線の先には一体のマシュリン。寝転がる俺の傍、寄り添うように立っている。

そう、残しておいたあの一体だ。

 

体が震えてる。おい…おいおいおい待ておま…。

 

ボフン。

 

緑。

 

「あっ。」

 

「けふっ………う、気持ち悪い。」

 

「ああああ!ごめんなさい!!」

 

女の子は咄嗟に剣を抜いて流れるようにマシュリンへ突き刺す。

HPは減らしていたので、その一撃で簡単に崩れ落ちる。

 

その後も彼女はひどく動揺した様子だったので、落ち着かせる意味も込めて互いに自己紹介をした。

女の子の名はリーア、男の子はトマというらしい。

 

リーアは意識のないトマを俺の横に寝かせると、抜き身の剣を握りしめたまま周囲の警戒にあたってくれた。

俺はそんな彼女の好意に甘えて、毒が抜けるまで動かないでいることにした。

 

状態異常が切れる頃には体の痛みも落ち着いてきて、少しだが動けるようになった。

 

俺なんかよりよっぽど重症なトマの容体を確認する。

 

==========================

 

トマ

種別:人類・人属

 

Lv:7

HP:2.5/11(51)

MP:8/8

 

状態異常:

致命傷 出血 気絶

 

==========================

 

 

『致命傷』の状態異常がついている。

これはまあ読んで字の如くだが、致命判定がつくと付与される状態異常で、各ステータスの減少を招くうえ、放っておくと徐々にHP上限が減少。さらに進行すると気絶し、そのまま死に至る。

 

自然に回復することはないし、俺の持っている回復魔法『ヒール』でも治療はできない。

特級相当の回復手段か、街での治療で解除するしかない。

 

「…。」

 

とはいえ、何もしないのも気が引ける。

まあ、気休め程度にはなるか。

 

「ヒール。」

 

薄緑の光が彼の全身を包む。かざした手のひらがほんのり温かい。

とりあえず、現状の上限である11までは回復した。

 

俺もまだ少しふらつくが、これ以上ゆっくりはしていられない。立ち上がって体の調子を整える。

 

「リーアさん!街まで戻ろう!」

 

マシュリンがこっちに来ないよう、少し離れた場所で交戦していたリーアに呼びかける。

 

「…はーい!」

 

ちょうど戦闘も終わったらしい。

こっちに手を振りかえして応える。

 

「一応、ヒールはかけておきました。」

 

「本当にありがとうございます。」

 

彼女は深々と頭を下げた。

まだ、同伴者の件については話せていない。

森から街までは少し距離もあるので、道中で交渉をしなければ。

 

「あっ。あれはいいんですか?」

 

どう切り出したものかと考えながら、街への帰路に着こうとした時、リーアに呼び止められた。

その細い指が示す先。地面の上に輝く塊が見える。

 

「あっ、忘れてました。」

 

あれは魔石。今まで見てきた欠片のようなサイズのものとは比べ物にならない、れっきとした塊。

おそらく『魔石(中)』だ。

 

魔石は換金に使えるほか、錬金術や鍛冶にも使用できる。

中には魔石を使用して魔法を行使するクラスや、魔石を埋め込んだパペットを使役するクラスなどもあり、何かと汎用性の高い素材だ。

 

とはいえモンスターを倒せば必ず落ちるので、無くて困ったなんていう状況になることはまずない。

 

「おおっ…。」

 

野球ボールくらいのサイズのそれを拾い上げる。予想より僅かに重い。

表面は黒曜石のような暗色をしているのだが、内側に緑色の光を携えていて、回すとキラキラと光る。

 

沈みかけた夕陽が差し込むとより一層美しく、見惚れてしまいそうになったが、そんな時間はない。

 

インベントリへしまう。

 

「ん…?」

 

宙にぽっかりと空いた穴の先。

地面にまだ若干残骸が残っているが、その中に何かが埋まっているのが見えた。

それを掴んで引っ張り出してみる。

 

「これは…。」

 

いわゆるレアドロップというやつだった。

落ちたのは『マッシュルームキャップ』というきのこの傘のような見た目をした帽子。

 

 

==========================

 

マッシュルームキャップ ※推定Lv:10

<高品質><魔法防御力+5><MP回復(微)>

 きのこの傘を模したかわいらしい帽子。胞子の効果によってMPが徐々に回復する。健康被害の報告はない。今のところは。

 

==========================

 

 

この装備は、見た目のインパクトも相まってよく覚えている。魔法をメインで使用するプレイヤーに人気があったアイテムだ。

効果が非常に優秀なので、強化を繰り返して中盤まで使っているプレイヤーもいたくらいだ。

 

小さな女の子のキャラがつけてると、キャラも立ってたしかに可愛かった。

ただ、まあ俺は……。

 

「うん。」

 

街の名物おじさんになるつもりはないので、そっとインベントリにしまった。

 

「い、いまのレアドロップですか。」

 

戻ってきた俺の顔を見ながら、リーアが呟くように聞いてきた。ゴクリと喉がなっている。

 

「ああ、そうみたいですね。要ります?」

 

リーアの戦い方を見るに、彼女は魔法剣士だ。

詳しいビルドまではわからないが、俺よりかは使いこなせるんじゃないかと思う。

 

「い、いやいや!!貰えませんよ!!!」

 

だが、全力で否定されてしまった。

まあ、あの見た目じゃゲームでギリだよな。

 

「…そろそろ行きましょうか。」

 

「ああ、そうですね。」

 

「……あのぉ。」

 

「?」

 

「………やっぱりアイテム詳細だけ見せてもらえませんか?」

 

俺たちは街への道を歩き出した。

 

道中はとくに手強いモンスターが出るようなこともなく、問題も起こらなかった。

俺が街に入れなかった話をすると、快く同伴者の件も受けてくれた。

 

本当に情けないが、お金がないということも伝えて、ひとまずということで『マッシュルームキャップ』を差し出したが、やっぱり断られた。

 

むしろ、手数料はお礼として払わせて欲しいと言われたが、おじさんが10代にお金を出させるわけにもいかないので、後日ギルドで待ち合わせて払うというところで着地した。

 

しかし、あんな啖呵を切っておいてなんだが、ギルドの一般受付(未登録者向けの受付)はすでに閉まっており、素材の換金ができないらしく、宿代を借してもらうことになった。

 

こんな歳になって10代にお金を借りる日が来るとは。

なんとも恥ずかしい。

 

門についたとき、あのおじさんに一言挨拶をと思ったが、当番が変わっていた。

よってこれは後日とする。

 

トマを教会に隣接する診療所に届けてから、リーアとも別れた。

その際におすすめの宿を教えてくれた。本当にどこまでもいい子だ。

 

「いらっしゃい。」

 

勧められた宿に入ると、受付と思しき場所に人の良さそうなおばちゃんが立っていた。

 

「どうも。お部屋ありますか。」

 

「ええ、空いてますよ。何泊のご予定で?」

 

「とりあえず一泊でお願いします。」

 

一泊分の代金しか借りていないので当然一泊。素泊まりだ。

ぽんぽんぽんとチェックインの手続きが進む。

 

正直限界だった。

俺は部屋に着くなりベッドへと倒れ込む。

 

ゴンッ。という寝具にあるまじき音がしたが、もはやそれすら気にならない。

 

「ふう。」

 

今の俺には羽毛布団と変わらないほど心地いい。

全身の力が抜けていくのがわかる。

 

「さあ、寝るか。」

 

寝る。

 

寝る…?

 

……。

 

いや、待て待て待て。

何普通に寝ようとしてるんだ。

 

『寝る』という単語で思い出したが、何かおかしくないか?いや、おかしい。

ずっと違和感は感じていた。

 

「…これ……本当に夢か?」

 

あまりにも長すぎる。しっかり半日は経ったぞ。

そのうえあらゆる感覚がはっきりとしすぎている。

 

明晰夢っていうのは見たことがないけど、案外こんなものなのか?

 

それとも、何かが起こって全く別の世界。それこそ『Re : Genesis Online』の世界に来てしまったとか…。

 

うん。

 

「まあ……なんでもいいか。」

 

よくよく考えてみると、仮にそうだったとして俺に損があるわけじゃない。

むしろ嬉しい部類に入る。

 

それに、いくらベッドの上で悩んだって答えが出るわけでもなし。

ただあるのは、夢にしろ現実にしろ、俺がまだこの世界にいるという事実だけだ。

 

「うし、寝るか。」

 

普通に爆睡した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。