見た目もステータスもパッとしない中年がやりこみ知識でぼちぼち異世界攻略 作:雨(あめ)
腹ごしらえを済ませた俺は、一度ギルドに戻って情報を集めることにした。
求めていたのは、日帰りができる距離にあって、かつレベルも程よいダンジョン。
やはり、その手の情報はギルドに集まる。
さっきの今でまた中に入るのかと気が重かったが、噴水のある広場にも掲示板があったため、そっちで確認ができた。便利だ。
このギルドという存在自体は『Re : Genesis Online』にも登場した。
ダンジョンや魔物といった脅威から人々を守るために組織された団体であり、国家間、および種族間の情勢から影響を受けることがないよう、どの政府とも一定の距離を置いた独立機関として、世界の各地で活動を行っている……という設定だった。
ただ、ゲームの中でプレイヤーがギルドに所属するということはない。
あの世界においてのプレイヤーは、政府やギルドのような特定の勢力には属さず、それでもその能力の高さを認められてあらゆる勢力から特権を与えられたという、なんとも微妙な立ち位置の存在だった。
そしてゲームにおけるギルドは「ダンジョンの基本情報を教えてくれて、アイテムの換金もできる便利な場所」くらいの認識でしかない。
素材はその辺のショップでも売れるし、エンドコンテンツのダンジョンになると「我々にも未知数の…。」としか言わなくなるので、メインストーリークリア後は行くこともなくなる。
まあ、しかし、この世界でもダンジョンの情報が見れるようで安心した。
それどころか、ダンジョンとは全く関係のない、周辺地域からの依頼というのも、所狭しと張り出してあった。
プレイヤーのような超常的な存在がいないせいか、この世界のギルドの権威は、ゲームの中よりもずっと大きいように見える。
何はともあれ、近くに手ごろなダンジョンはあった。
俺はその情報を手帳に書き記して街を出てきた。
ちなみにこの手帳も露店で買った。ペンは広場にあった雑貨屋で手に入れたものだ。
手帳は3,000ゼル。ペンは1,100ゼル。うん…紙は貴重なのかな。
……お金のことばかり考えるのはよそう。
「えーと、共鳴洞窟…か。」
これが今回攻略するダンジョンの名称だ。
4級相当のダンジョンらしい。級で言われてもいまいちピンとこない。
ただ上層に出現するモンスターのレベルが8~12とちょうどよかったのでここにした。
街もそうだったが『Re : Genesis Online』では見た覚えがないダンジョンだ。
この世界のモンスターやスキル、装備はゲームの中と同じなのに。不思議だ。
「あ。」
そんなことを思っていると入り口を見つけた。
小さな丘を登りきった先、眼下に目をやると、ぽっかりとその口を開けているのが見える。
芝生の上にところどころ岩が転がっている。
そんな何でもない地面なのに、その場所だけ綺麗に繰り抜かれたかのように巨大な穴が開いている。
あれがダンジョンの特徴で、発生すると地盤沈下のように唐突に穴が開く。
入り口は真っ黒でいくら覗き込んでも中が見えることはない。
それはもう暗闇というよりかは、黒い気体で満たしていると言った方が近い。
中は特殊な魔力で満たされており、空間そのものが変質している。
穴の中を下ってきたはずなのに青空、なんてこともざらにある。
まあ、このダンジョンは共鳴洞窟って名前だし、たぶん洞窟なんだろうけど。
「さ、いくか。」
時間も惜しいのでさっさと入ってしまう。
というか初ダンジョンで逸る気持ちが抑えられん。
おっさんがいい年してと自分でも思うが、こればっかりはしょうがない。
今回の目的は、あくまでレベリングだ。
攻略などは考えず、上層で目についたモンスターを片っ端から狩るつもりでいる。
まあ、レベル8~12ということであればなんとか対応できるだろう。
…たぶん。
……おそらく。
………やばいやつがいなければ。
ここに来てからの戦いというのはどうにも博打のようになりがちでいけない。
まあ、このスキル構成ではしょうがない部分もあるが、早いところクラスレベルを10にして安定した戦いができるようになりたい。
「よしっ。」
気を取り直して、入り口に一歩目を踏み入れると、ひんやりとした冷気を感じた。
足、体、肩、そして首。水の中に沈んでいくように俺の体が飲み込まれていく。
「何も見えんな。」
ついに頭まですっぽりと闇に覆われる。
視界が零に近くなった。
ゲームならこのあたりでロードが入り気づけばダンジョンの中にいるのだが、ここではそうもいかない。
当然自分の足で歩いていく必要がある。
右手で壁に触れながら、ズリズリと足を滑らせるように下がっていく。
微かに足元が見えるようになったかと思うと、次の一歩で一気に視界が開けた。
「おお。」
上を見上げると、黒い霧のような闇が漂っている。
どうやら入り口に煙のような幕を張っているらしい。
手を闇の中に入れてかきとるように動かすと、ふわりと闇が下りてきて、少ししてまた戻っていく。
「こうなってたのか。」
なんとも興味深いが、入り口で闇と戯れていてもレベルは上がらない。
「進もう。」
やはり、中は名前の通りの洞窟だ。壁のあちこちから白くて大きな水晶が突き出ていて、それが淡い光を放つので内部はことのほか明るい。
階層ごとに出現するモンスターのレベルが書いてあったが、種類までは書いていなかった。
どんなモンスターに会えるのか。
たのしm……。
ゴトッ。
「ひっ!岩が動いた!」
…。
あれ。
今この岩がひとりでに揺れてたよな。
気のせいか?
ゴトゴト。
いや、やっぱ動いてるわ。
「こいつは…。」
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ケイブクラブ
種別:
Lv:9
HP:56/56
MP:15/15
状態異常:
なし
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「やっぱり。」
洞窟に住む蟹『ケイブクラブ』。こいつもゲームに出てきたモンスターだ。
名前からして蟹なんだが、ごつごつとした巨大な外殻で岩に擬態しているその姿は、どちらかというとヤドカリに近いような気がする。
いや、しかし。
「こいつかぁ……。」
外れを引いたような気分だ。
こいつらは素早さ、攻撃力がともに皆無なので安全に戦えはする。けど物理防御が硬すぎて効率は最悪だ。弱点はあの殻の中だし。
魔法ならダメージもそこそこ通るのだが。
「聖魔法…。」
…いやないな。
すでに予定になかった回復魔法を取っている。これ以上のポイントの浪費は避けたい。
しゃあなし。
パンと自分の手を打ち付けて気合を入れる。
「殴るか。」
その絵面はさぞかし酷いものだっただろうと思う。なんせ大の大人が半狂乱になりながら岩を殴っているのだから。有名な物語、浦島なにがしに出てくるカメをいじめていたあの子供たちも、この光景を見た日にはドン引きして、その勢いのまま大人の階段を上ってしまうだろう。
<ケイブクラブ(Lv9)を倒しました。>
<経験値(39)を取得しました。>
20発以上殴ってようやく倒れる。本来は15、6発で倒せる計算だったのに、途中でダメージカットの魔法を使いやがった。
所詮は防御だけが取り柄の蟹。一歩下がれば攻撃も避けられるし、当たったとてダメージはたかが知れている。
時間がかかるだけで苦戦などしようもないが…。
「いや、この際贅沢はいうまい。」
経験値はちゃんと入っているし、安全で安定したレベリングなんて本来喜ばしいことじゃないか…なんて胸に引っかかるコレジャナイ感を押し殺し、俺は蟹狩りマシーンとなる決意を固める。
まあ、ダンジョンの同じ階層には平均して1~3種類くらいのモンスターがいるものだ。
蟹以外にも何かいる可能性は全然あるし。うん。
「とにかく進もう。」