Fate/-(フェイト・マイナス)   作:名無しのレイ

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第十四話

 

 

―――響きわたる金属音。

ウェイバーと分断されたランサーは、疾走しながらバーサーカーと激闘を繰り広げていた。

これではますます主と引き剥がれていくだけだ、と思いながらも、

いかに優位に立てるとはいえ、油断すればこちらがやられる、と思いながらバーサーカーを迎撃するランサー。

だが、そんなバーサーカーの視界の片隅に、疾走するセイバーの姿が目に入る。

 

そして、ランサーに向かって襲いかかっているバーサーカーは、セイバーを見つけた瞬間、猛烈な勢いでバーサーカーはセイバーに向けて疾走する。

バーサーカーの敏捷性は、A+。

なんと最速で名高いランサーとほぼ同等の速度である。

バーサーカーは凄まじい勢いで跳躍と疾走を繰り返し、ランサーを攪乱しながら、

それでも最短のルートでまるで本能で襲いかかる獣のようセイバーへ接近する。

 

一方、ランサーもバーサーカーと同等の速度を持っているとは言え、

いきなりのバーサーカーの移動に戸惑い、バーサーカーを見失ってしまっていた。

 

「くっ……。どこにいった……。

このまま主の元に……いや、あのバーサーカーを放置するのは危険、か……。」

 

もしもあのバーサーカーを放置すれば偶然主に出くわして襲いかかるかもしれない。

だが、主が他のマスターやサーヴァントに出くわす可能性も十分にありうる。

どうするべきか……と彼が一瞬考え込んでいたとき、向こうから剣戟が響きわたる。

それに導かれるようにして、ランサーはそちらに向かって疾走した。

 

 

 

―――時間は少し戻る。

他のサーヴァントたちが戦っている漆黒の闇の中、

セイバーは市内を疾走していた。

 

あの狼煙の元に恐らくアイリスがいるのは間違いない。

大聖杯を起動させるためには、小聖杯を手に入れなければならない。

あのような狼煙を上げたということは、小聖杯……杯の守り手であるアイリスフィールを手に入れた者たちである事は間違いない。

ならば、その先に彼女がいるはず!

セイバーは嫌な予感を振り払うように、猛烈な勢いで疾走する。

 

アイリスフィールを取り戻すべく疾走していたセイバーだが、背後から襲いかかる猛烈な闘気に反応して、振り向きざまに剣を振るう。

響きわたる剣戟。

バーサーカーの手にしていた擬似宝具と化した鉄柱を迎撃したセイバーはザザザ、とそのままバーサーカーと距離を取る。

今まで幾たびも戦っているこの狂戦士といい加減決着をつけなくてはいけない。

 

 

「……いい加減にその真実の姿を表すがいい!バーサーカー!!

我が名は、ブリテンの王、アルトリア!貴様の名前は!?」

 

その瞬間、セイバーの背筋に悪寒が走った。

彼女はようやく悟ったのだ。

この相手の正体を知ってはならない。

知らない間に切り捨てるべきだったのだ、と直感が告げていたのだ。

 

「ア……アァ……サァ……。」

 

ボロボロと偽装されていた表面の黒い甲冑が剥がれていく。

そこから現れた甲冑は、優美にして繊細、それでいて重厚な装甲そのものだった。

その甲冑は、セイバーがよく見慣れたものだった。

そして、決してセイバーが認めたくない存在であったのだ。

 

「サー……ランスロット……!!」

 

―――円卓の騎士が一人。

湖の騎士、完璧なる騎士。サー・ランスロット。

円卓の騎士の中でも最高の騎士と呼ばれる誇り高き騎士は、以前とは全く異なり、狂える騎士へと変貌を遂げていた。

そして、彼が抜き放つ優美にして猛烈な魔力を放つ剣こそ、彼の真の宝具『無毀なる湖光(アロンダイト)』

湖の精霊から与えられたエクスカリバーと対を成す神造兵装だ。

だが、その剣は親友である騎士たちを切った罪により、魔剣として変貌している。

 

「あ……あああああああああ……。」

 

呆然と立ち尽くすセイバーに対して、バーサーカー……いや、ランスロットは凄まじい勢いでアロンダイトを叩きつける。

連撃連撃連撃連撃。

 

その技の切れは、バーサーカーになっても一向に衰えを知らない。

彼のスキル『無窮の武練』はいかな状態にあっても、十全の戦闘能力を発揮する。

もはやセイバーは防戦一方だ。

バーサーカー……ランスロットの持つ『無毀なる湖光(アロンダイト)』はエクスカリバーと源を同じにする神造兵装である。

しかも、ランスロットのステータス全てを向上させ、竜の属性を持つ者に対してはさらに追加ダメージを与える。

 

竜の属性を持つセイバーに対しては、天敵ともいえる剣である。

 

「ランスロット……。貴方は、救うばかりで導かなかったこの私をそんなに恨んでいるのですか……。」

 

やはり。

私は。

誰にも理解されぬまま。

ただ一人で―――。

 

「……いいや、セイバー。

前にも言ったはずだな。貴様は、決して孤独ではない、と。」

 

その言葉と共に、セイバーとランスロットの間に凄まじい勢いで『何か』が飛び込んで、

堅い金属音と共に、ランスロットのアロンダイトが受け止められる。

 

そこにいたのは、魔槍を構え、軽鎧を纏ったサーヴァント。

最早、彼らにとって見慣れたサーヴァントの姿だった。

 

「フィアナ騎士団!ディルムッド・オディナ見参!!

これ以上貴様の好きにはさせんぞ!狂犬め!!」

 

ギギギ、と手にしたゲイジャルグでアロンダイトを受け止めながら、ランサーはランスロットに向けて叫ぶ。

それを呆然を見ながらセイバーは思わず呟く。

 

「ラ……ランサー……。な、何故、私を……?」

 

「……いいや。セイバー。これは決してお前を救った訳ではないさ。

ああ―――そうだ。

いまようやく分かった。俺は……お前が気に入らないんだ!!」

 

ギリ、と歯噛みをしながら、ランサーはランスロットを睨みつける。

彼とて、アーサー王とランスロットの因縁は知っている。

裏切りの騎士。円卓の崩壊の招いた騎士。

それは……まさしくゲッシュによってフィアナ騎士団を裏切ってしまったディルムッドそのものではないか。

 

そうだ。俺が戦うのはセイバーのためだけではない。

こいつは俺だ。忠誠を誓いながら主に刃を向けた俺自身なんだ!

ギリギリ、とディルムッドは歯が砕けそうなほど強く歯噛みをする。

ザッザッと足音を立てランスロットに近づきながら、ディルムッドは口を開く。

 

「なるほど。認めたくはないが認めよう。

確かに俺とお前は似たもの同士、鏡像だよ。ランスロット。

お互い忠臣であろうとして主に逆らったもの同士だ。

だがな、俺とお前では一つ違うことがある。」

 

ヒュン、と魔槍を回転させると、その切っ先を真の姿を表したランスロットに向ける。

 

「それは……俺は、『主自身』には一度たりとも刃を向けたことがないという事だ!!

この『荷車の騎士』め!!」

 

「ガ……アアアアアアアアアアアッ!!」

 

『荷車の騎士』という言葉を聞いた瞬間、今までセイバーに向けて敵意を向けていたバーサーカーは、瞬時にランサーに向けて疾走する。

 

『荷車の騎士』

それはサー・ランスロットにとって最大の侮辱とも言える言葉である。

かつて、乗馬を失ったランスロットはそれでも誘拐されたグィネヴィアを救うべく、

当時罪人などしか乗ることが出来ない荷車に乗り、彼女を救うために尽力した。

それを知った王妃やケイ卿は、彼が騎士道に背く行いを行ったため、

それをなじったとされる。

結局、それは誤解であったのだが、その結果として彼が『荷車の騎士』という

不名誉な称号は広まってしまうこととなったのだ。

 

 

伝承によれば、ランスロットはアーサー王からの一騎討ちを避け続けたとあるが、

今のバーサーカーと化した彼が恨みをもってアーサーであるセイバーに襲いかかっていた事は間違いない。

 

それに比べ、ディルムッドは主であるフィンやフィアナ騎士団自体には刃を向けなかった。

さらに己の最後の元になったフィンを恨む事はなかった。

そして、今回の聖杯戦争にディルムッドが参加した理由も、己の忠義を証明するためだ。

そんな彼からすれば、己の王に恨みを持ち、さらに刃を向けるランスロットは己の鏡像であり、決して許してはならない存在だった。

 

「お前を打倒し、俺自身の影を……もう一人の俺を打倒する!

それが、俺の、ディルムッド・オディナの誇りだ!!」

 

そう叫び、ランサーはこちらに襲いかかるランスロットを迎撃する。

猛烈な勢いで振るわれるアロンタイトを、ランサーは二本の魔槍で華麗に受け流していく。

 

「救うばかりで導かなかった?

ならば……それを補うのが臣下の役目だろうが!!

王の負担を減らすのが臣下の勤め!

王に全てを託すなど……それは忠義ではない!」

 

そう言葉を放ちながら、ランスロットの猛攻を凌ぐランサー。

一見すると防戦一方な状況だが、それでもランサーが諦めている様子などまるでない。

ランスロットは攻撃のみに集中して、防御をまるで行なっていない。

自らの鎧に自負を抱いているのか、それともまるで防御の事など考えていないのか。

間違いなく後者だろう、とランサーの莫大な戦闘経験は告げていた。

ならば、防御に徹し、隙が出来た瞬間に破魔の紅薔薇の一撃を叩き込む。

瞬時に、彼のスキルである心眼:真Bのスキルがそう告げていた。

 

「俺がお前を裁いてやるぞ!荷車の騎士め!!」

 

「ガアアアアアアアアアアア!!」

 

真の力を発揮した彼の剣無毀なる湖光(アロンダイト)はエクスカリバーに勝るとも劣らぬ剣であり、

エクスカリバーと起源を同じくする神造兵装である。

この剣を抜いている間は、ランスロットのパロメーターは一ランク上昇し、

さらには、龍を退治したという逸話から、龍の因子を持っている英霊に対しては追加ダメージを与えることができる。

そのため、龍の因子を所有しているセイバーに対してはまさしく天敵とも言える剣である。

 

……だが、今相対しているのはセイバーではなく、ランサーたるディルムッドである。

 

《破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)―――!!》

 

ランスロットの強烈な一撃をディルムッドは破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)で上手くやり過ごし、受け流す。

ステータス的に考えれば、バーサーカーと化して、さらにアロンダイトを開放してステータスを上げたランスロットに敵うはずはない。

 

だが、ディルムッドはその暴風のような猛烈な連撃を、まるで柳のように魔槍で上手く受け流し、

凄まじい威力をもったその一撃一撃の威力を受け流していく。

まともに受ければ、いかに魔槍と言えど一撃で破壊されかねないその攻撃を、

上手く柔らかく受け流す事によって防御するその行動は。まさに『柔よく剛を絶つ』の典型である。

 

それは、彼の持つスキル、膨大な戦闘経験を持つ、心眼(真)Bの力である。

修行・鍛錬によって身に付けたその洞察力は、相手の能力を冷静に把握し、的確な活路と勝機を見出す事ができる。

 

 

破魔の紅薔薇で受け流されたアロンダイトは一瞬だけその膨大な漆黒の魔力を喪失させただの剣に戻る。

いかに神造兵装とはいえ、その根源たる魔力を封じられ、宝具としての力を喪失してしまえば、ただの剣でしかない。

 

だが、破魔の紅薔薇によって魔力を失うのは一瞬だけでしかない。

当然、アロンダイトは瞬時にランスロットから注がれた魔力により再起動する。

だが、その再起動され振るわれたアロンダイトは、再びディルムッドの破魔の紅薔薇とぶつかり合う事によって、再び魔力が消失してしまう。

 

再起動→魔力喪失→再起動→魔力喪失→再起動。

 

アロンダイトと破魔の紅薔薇が幾たびもぶつかり合う事によって生み出される無意味なサイクル。

さすがのアロンダイトと言えど、魔力を込めればいきなり全力の出力が出せるはずもない。

例えて言うなれば車やバイクのエンジンと同様だ。

いきなりエンジンのかけ始めで全開の出力にはならない。

少しづつ出力を高めていく事によって全開の出力を出すことができるのだ。

 

こんな状態では、いかに星が生み出した神造兵装であるアロンダイトであろうが、その力を発揮できるはずもない。

これが、ディルムッドが宝具頼りの英霊に対して強いとされる所以である。

 

文字通りの意味で、ディルムッドこそが、ランスロットの天敵といえるのである。

そしてその激戦の中、こことは離れた場所でのたうち回っている一人の姿があった。

それはバーサーカーのマスター、雁夜である。 

 

「あ……あああああああああああああああ!!」

 

大英雄であるランスロットがフルパワーで戦うとなれば、それを維持するために膨大な魔力が必要とされる。

その魔力を供給するために、雁夜の体内の刻印蟲は、雁夜の体内を貪り喰らいながら蠢く。

そして、それは雁夜に対してはまさしく地獄の苦痛をもたらしていた。

苦悶にのたうち回る雁夜。

だが、負ける訳にはいかない。負ける訳にはいかない。負ける訳にはいかないのだ!

だけど―――何のために俺は戦っていたんだろう?

 

そんな雁夜に対して、言峰の使用する使い魔が姿を表す。

神父が使い魔を使用するなどあってはならないのだが、魔術師である時臣に弟子入りして魔術を習った彼ならば不思議な事ではない。

 

「よく頑張っているな。雁夜。

ならば、褒美として一ついい情報を教えてやるとしよう。

君の執着している時臣師だがね。

すでにこの世界には存在しない。残念なことだかな。」

 

―――瞬間、雁夜の思考が停止した。

時臣がすでにいないとしたら、俺は一体何のために戦ってきたのだ。

何のために戦ってきたというのだ!

……い、いや、俺は■のために、■のために―――!!

 

ほんの一瞬。

だが、高度な集中力が必要となる魔術の使用においては、その一瞬の隙によって容易く破滅する事もありうる。

ましてや、己の肉体を蝕む刻印蟲を制御しなければならない雁夜にとっては。

そのたった一瞬制御を失った刻印蟲は、雁夜の生命力の全てをバーサーカーへと注ぎ込んだ。

 

「が……は……。」

 

そして、全ての生命力を吸い取られた雁夜は、静かに息を止めていた。

これが彼の最後だった。

 

 

 

 

 

その瞬間、アロンダイトを振るうバーサーカーの動きが明らかに鈍くなった。

それは、マスターである雁夜を失った事により、魔力供給が絶たれたためだが、もちろんランサーがそれを知るよしはない。

こんな格好のチャンスを見逃すランサーではない。

だが、今だランスロットのアロンダイトは脅威である。

いかに魔力不足で鈍ったとはいえど、星から与えられた神造兵装などまともに食らっては、軽鎧しかもたないランサーでは一撃でやられかねない。

ならば、あのアロンダイトを一瞬でも止める必要がある。

一瞬さえ動きを止めれば、ランサーの破魔の紅薔薇の前では魔力で構築された鎧など紙切れ同然。

その一瞬でケリがついてしまうだろう。

そのための手段を、彼の持つ心眼は瞬時に導き出す。

多少危険はともなうが、多少のリスクはやむを得まい。

 

そう判断すると、ランサーは一度距離を取ると、すっと構えを変化させる。

その構えは今までとは異なり、微かだが、脇腹への防御が甘い構えだった。

その分他の防御力に重点を置いているのだが、見る人が見れば、ほんの僅かだが、そこの防御が甘いと見抜くだろう。

そして、そんな隙を見逃すほど、ランスロットは甘くない、

ランスロットは猛烈に踏み込むと、ランサーの脇腹の向けて鋭い突きを叩き込む。

 

そして、狙い通りランスロットのアロンダイトの切っ先は、深々とディルムッドの脇腹に突き刺さった。

 

「グ……ガアアアッ……!?」

 

だが、ランスロットはアロンダイトを引き抜こうとした瞬間で違和感に気づいた。

―――抜けない。

そう、ディルムッドの脇腹に深々と突き刺さり、がっしりと固定されたまま抜けなくなってしまったのだ。

それは、ディルムッドが腹筋に全力で力を込めて引き締める事によってアロンダイトをがっしりと固定しているからである。

脇腹を貫かれながら、にやりとディルムッド壮絶な笑みを浮かべた。

 

「ニホンにはいい言葉がある。

それを貴様に教えてやろうランスロット。

それは……肉を切らせて!骨を絶つという言葉だ!!」

 

《破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)―――!!》

 

アロンタイトの威力の前ではディルムッドの軽鎧はまさしく紙切れ同然であり、

ディルムッドの破魔の紅薔薇の前では、いかなる重装甲のフルプレートと言えど、

魔力で構築されている以上、魔力を絶つ破魔の紅薔薇の前では同様に紙切れ同然なのである。

 

ディルムッドの破魔の紅薔薇は、確実に深々と確実に、ランスロットの心臓を貫く。

ディルムッドの魔槍は、心臓を貫き、確実にランスロットの霊核を破壊される。

さらにディルムッドは、瞬時に破魔の紅薔薇を引き抜き、電光石火の早業で、ランスロットの鎧が修復する隙を与えずに、

同じ傷口に必滅の黄薔薇を叩き込む。

 

霊核を確実に破壊し、なおかつ破魔の紅薔薇から必滅の黄薔薇のコンボでは、

どんな超再生能力を持っていようが、滅びは免れない。

 

そして、次の瞬間、同時にランスロットに残っていた魔力も完全にゼロになり、

まるで燃料の切れた機械のようにがくんと停止する。

 

それは、ランスロットのマスターである雁夜からの魔力供給が完全になくなってしまった事を意味する。

ただでさえ大英雄であるランスロットを維持にするには膨大な魔力を必要とする。

さらに、真の宝具であるアロンダイトを使用したバーサーカー状態の大英雄では、どれほどの膨大な魔力が必要とされるか想像がつかない。

 

そんな莫大な魔力を、いかに刻印蟲を使用したと言えど、駆け出し魔術師である雁夜が供給できようはずもない。

そして、全ての魔力を吸い取られた魔術師の行く末は……言うまでもない。

雁夜は、その全てをランスロットに吸い取られてしまったのである。

そして、魔力供給が途絶えてしまった上に、残った残存魔力も完全に使い果たしてしまったため、

ランスロットは急停止してしまったのである。

 

サラサラと塵になっていく己の姿を見ながら、バーサーカーという軛から解き放たれたランスロットは、

正気を取り戻し、静かな晴れやかな顔で目を閉じたまま呟く。

 

「……なるほど。これが私に降された罰か。

罪には罰が下されるのは必然。

……礼を言うぞ。ディルムッド。」

 

そうというと、ランスロットは目を閉じたまま、静かに天を仰ぐ。

 

「ああ―――よかった。

ようやく、私は私を裁いてくれる相手に出会えた……。

ありがとう……。私の罪を裁いてくれて……。

アーサー王よ……。私の罪は……償えただろうか……?」

 

その言葉と共に、ランスロットは完全に塵へと帰って行った。

その姿に、二人の一騎討ちを呆然と見るしかなかったセイバーはやはり呆然と呟く。

 

「ラ……ランスロット……。

私は……私は……。私はどうすれば……。」

 

「胸を張れ!セイバー!!」

 

そんな呆然としているセイバーに対して、ディルムッドは怒鳴りつける。

 

「俺には解る!あいつの鏡像だからこそ、俺には解る!

だが……それでもお前の理想は間違ってはいない!

あいつは……ランスロットはお前に倒してもらいたかった!

お前に裁いてもらったかったんだ!

決して『無かった事』にしてもらいたい訳じゃない!

お前と一緒に戦った戦友の想いを……無かった事にしてはいけない!」

 

だが、そんなディルムッドの叫びでも、

呆然としているセイバーを完全に元に戻す事はできない。

 

「けれど……私は……私はどうすれば……。

どうすれば……ディルムッド……。」

 

「ならば行け!聖杯の元へ!

聖杯の元でお前自身の答えを出すんだ!セイバー!

お前の答えはお前自身にしか出せない!

他人が与えてはならないんだ!行け!自分の答えを出してみろ!!」

 

「俺には聖杯は必要ない。

俺は最早救われたからだ。主に召喚されたその時からな。

主も、聖杯は必要ない。そんな物に何も意味などないんだ。

だから、お前が手にしろ。そして答えを出せ。

その後でなら、存分にお前との決着をつける事ができる。

今の迷っているお前と戦っても、何も意味はないからな。」

 

その彼の言葉に、今まで狼狽していたセイバーもようやく冷静さを取り戻し、

彼の言葉に静かにうなづく。

 

「ディルムッド。礼を言います。

いずれまた!また必ずお会いしよう!

いずれまた!必ず!!」

 

その言葉と共に、セイバーは猛烈な勢いで疾走する。

まるで彼に対する未練を振り払うように。

 

「……悪いな。約束を果たせなくて。」

 

お互いに誓った再戦の約束。

それが恐らく永遠に果たされない事を、彼ら自身がよく知っているのだ。

 

ランスロットのアロンタイトによって与えられた脇腹の傷からだくだくと大量の血が流れるが、

ランサーは適当な布を包帯代わりにして腹に巻く。

通常の人間ならば重傷だが、令呪の力により戦闘続行A+が与えられた彼には、

問題なく戦闘行動が行える。

だが、そんな彼に対して、かつんかつんと足音と共に何者かが近づいてくる。

この状況で運良く主に出会えるとは思えない。

ならば、敵サーヴァントか敵マスターである可能性が高い。

バッ、と二つの魔槍を構えて戦闘態勢に入ったランサーの元に姿を表したのは、黄金のサーヴァント、アーチャーだった。

アーチャーは苦り切った不愉快そうな顔をして、ランサーに向かって言葉を投げかける。

 

「……全く、目障りな忠犬だな。

ここまで我の邪魔をするとは……良い度胸だな。狗め。

貴様がいなけば狂犬と戦ったセイバーは絶望に囚われ、

もっと容易く堕ちたであろうに……余計な手間をかけさせおって。」

 

苦々しげにアーチャーはランサーに対して言葉を投げつける。

よほど、己の思惑を外されたのを面白く思っていないのだろう。

確かにランサーがいなければ、セイバーはもっと絶望に囚われていたはずだ。

それでは、彼にとっては非常に都合が悪いのだ。

 

それと同時に、アーチャーの背後の空間が歪む。

またあの宝具による連続攻撃か、と身構えるランサーだが、

アーチャーが取り出したのは、一本の真紅の凶悪な装飾が施された魔槍だった。

 

「これはな。ランサー。

かの光の神の御子……クーフーリンが振るった魔槍。

『必ず心臓を貫く魔槍』ゲイボルグの原典だ。

貴様の最後には相応しかろう?」

 

「宝具の原典だと……!!貴様、まさか最古の英雄……!?」

 

「フン、お喋りがすぎたか。ではな、忠犬。

不愉快な狗ではあるが―――その忠誠はこの英雄王たる我が認めてやろう。

それを誇りに思い―――疾く逝け。」

 

その言葉と共に、膨大な魔力と共に魔槍が凄まじい勢いで射出される。

ギルガメッシュは担い手ではないため真名開放はできないが、それでもゲイボルグの原典であるその魔槍は、

真名を開放せずとも自動的に相手の心臓を追尾する機能を有している。

しかも、威力はオリジナルのゲイボルグと何ら変わらないのだ。

とっさに二本の魔槍で迎撃しようとしたランサーだったが、

ゲイボルグの原典は予想もできない自由な軌道で空を駆け、そのままランサーの魔槍をすり抜けると、

ランサーの心臓へと突き刺さる。

 

これを防ぐためには、強力な幸運か強力な防壁が必要となるが、

いかに幸運のステータスがウェイバーとの契約によって上がっているとはいえ、

魔槍の呪いを回避できるほどの幸運を得られる訳ではない。

 

心臓を魔槍で貫かれ、口から血を吐き出しながらランサーはどう、と地面に倒れ伏す。

 

「これで狗どもは消えたか。

後は残ったのは我とセイバーのみ。

ふむ、良い。実に良い展開だ。

さあ、セイバー。今から我直々に貴様を迎えに行ってやるぞ。

おとなしくその運命を受け入れるがいい。」

 

そうアーチャーはいうと、地面に倒れ伏すランサーには一瞥もせずに歩き去る。

確実に霊核を破壊した以上、すでにランサーは終わったと思っているのだ。

確かにそれは事実である。

 

心臓を貫かれ、霊核を破壊されたランサーの肉体は少しづつ消え始める。

今だランサーの意識はあるが、

後は、このままただ消え去るのを待つだけ……。

 

―――否!断じて否!!

例え心臓を失おうとも……この身が完全に消え去るまで諦めるわけにはいかない!!

そして、主との約束を、忠誠を破るわけにはいかない!!

 

「ぐ……あああああああああああっ!!」

 

ランサーは、魔槍を杖代わりにして何とか立ち上がると、

己の胸に刺さったゲイボルグの原典を引き抜き、投げ捨てる。

確かに、霊核は、このゲイボルグの原典によって破壊され失われた。

だが……まだ手は動く、脚も動く。槍も振るえる。

ならば……俺は戦える!!

 

ランサー自身は無自覚だったが、これはウェイバーの『必ず帰ってこい』という

三つの令呪の力である。

令呪の力はランサーに霊核を失っても戦い抜ける戦闘続行A+の力をランサーを与えているのである。

戦闘続行Aのクーフーリンでさえ、霊核を失ってもなお戦う力があったのだ。

その上のA+ともなれば、霊核が破壊されてさえなおしばらく戦い続ける力があるのだ。

 

胸から夥しい血を流しながらも、それでもランサーは疾走し、跳躍した。

そう、約束である己の主のところへと帰るために。

 

 

 

 

「ハアっ……!ハアッ……!!」

 

サーヴァントが戦っているであろう闇の中、ウェイバーは走っていた。

何度かラグズのルーンストーンでランサーに連絡を取ろうとは試みていたのだが、全く反応がない。

それは、ラグズのルーンストーンが破壊されたか、落としたか、戦闘中で反応できない事を示している。

もう一つ最悪のパターンもありうるが、それは考えないようにする。

あれほどの実力を持ち、なおかつ令呪を三つ連続で使用した状態のランサーがあっさり倒されるなど想像したくもない。

そして、疾走している中、彼はよりによって最悪の相手と出くわしてしまう。

 

「ふん、雑種か。

貴様のような雑種が我の前に出るとはな。不愉快だ。」

 

黄金のサーヴァント、アーチャー。

その実力は今までの戦いで知り抜いている。

 

「だが、安心するがいい。雑種。

今の我は忙しい。貴様ごときを相手にしている暇はないのだ。

貴様の忠犬は最早存在しない。この我の手で直々に誅伐してやったのだからな。

サーヴァントを失った雑種ごときなど我にはどうでもいい。さっさと消え去るがいい。」

 

アーチャーの言葉に、ウェイバーはとてつもない衝撃を受けた。

その言葉は、つまりこのサーヴァントがいともたやすくランサーを倒したという事。

 

「ラ、ランサーを倒しただと……!!嘘だ……ッ!!」

 

その言葉に、ウェイバーは狼狽しながら答える。

もし令呪が残っていたのなら、その魔力の繋がりや令呪の喪失によってサーヴァントの存在が確認できていたのかもしれないが、

今の彼は令呪を三つとも使い切った状態である。

おまけに、ラグズのルーンストーンも通じないとなれば、アーチャーの実力からしてそうなっても不思議ではない。

 

「嘘ではない。確かに我自身の手で霊核を破壊してやった。

いかなサーヴァントであろうが、霊核を失えば消滅するのが必然。

今の我は貴様ごとき雑種を相手にしているほど暇ではないのだ。

さっさとこの場から消えるがいい。雑種。

……我の慈悲と寛容もこれまでだぞ?」

 

ギリ、とウェイバーは歯を強く噛み締める。

アーチャーの言葉は真実なのだろう。

このサーヴァントがわざわざ逃げる雑種ごときを後ろから闇討ちする面倒な事などするとは思えない。

逃げられるというのなら、大人しく逃げるのが戦略的には正しいやり方だ。

……だが、それでも。

 

ウェイバーは、背中に背負っていた模造のベガルタを抜き放つと、それを構えた。

ウェイバーの構えは素人以下だ。

しかも、模造ベガルタの重さに耐え切れずよろよろしている。

それを見て、アーチャーが微かに眉を潜める。

 

「……貴様、王である我に刃を向けるとはどういう事であるか分かっているのか?

雑種ごときが王の慈悲を足蹴にするとは。

しかも我と貴様の実力の差は分かっておろう。

忠犬を失って血迷ったか?」

 

「ああ。分かってる。分かってるさ。

大した魔術も使えない僕じゃサーヴァントの相手なんてできない。

だが……それでも僕は王だ!王なんだよ!!

忠誠を誓った部下をやられて……黙っていられるものか!」

 

その血を吐くようなウェイバーの絶叫に対して、

一瞬沈黙したあとに、まるでとても面白い物を見たかのように

ハハハハ!と軽やかにギルガメッシュは哄笑する。

 

「……ふん、この英雄王である我の前で雑種ごときが王道を語るとはな。面白い。

なるほど。臣下からの忠誠に答える。それが貴様の王道か。

―――その王道、見事である。

この英雄王である我が認めてやろう。貴様は、確かに王たるにふさわしい器だ。」

 

だが、次の瞬間、ギルガメッシュがぎらりとサーヴァントですら恐怖を抱く紅い瞳でウェイバーを睨みつける。

 

「……だが、それと我に刃を向けた非礼は別だ。

真の王は天上天下に英雄王である我ただ一人のみ。

王は我一人で十分。他の王など不要だ。

つまり……これは決闘というわけだ。王同士のな。」

 

すでにアーチャーには見逃してやろうなどという考えはない。

目の前の雑種が王を自称するというのなら。

それを叩き潰すのが真の王たる者の勤めである。

アーチャーの背後の空間が歪み、そこからおよそ十の宝具が姿を表す。

 

「だが、いかに王同士とはいえ、貴様と我では実力に差がありすぎる。

ゆえに貴様にハンデをくれてやろう。

我の一撃をいかなる手段であろうが偶然であろうが構わん、凌いでみせるがいい。

もしも我の一撃を凌げるというのならば、貴様の王道はここに滅びる運命ではない、ということだ。

運命が貴様を選ぶというのなら、今回だけは見逃してやろう。せいぜい上手に凌いでみせるがいい。」

 

その瞬間、ゲート・オブ・バビロンから宝具が射出され、猛烈な勢いでウェイバーに襲いかかる。

ウェイバーにはそんなものを防げる実力などない。

ルーンストーンごときでは猛烈な勢いで襲いかかる宝具など到底防げはしない。

ここまでか、とぎゅっと目を閉じるウェイバーの目の前に、文字通りのごとく疾風の速度で蒼い影が飛び込んでくる。

 

「デ……ディルムッド!?」

 

「あああああああああああっ!!」

 

胸に穴が開き、霊核を失いながらも、ディルムッドはなおウェイバーの前に立ち、彼の盾となる。

ドスドスと鈍い音を立てながら、魔槍が彼の肩を貫き、何本もの聖剣や魔剣が彼の胴体やふとももに突き刺り、さらに彼の片腕も切り飛ばされる。

だが、それでも彼は残った片腕で魔槍を振るい、残った襲いかかる宝具を弾く。

 

霊核を失ったディルムッドは、それでもなお疾走し、

ウェイバーの盾となって。無数の宝具をその身に浴びたのだ。

 

全身を様々な宝具で貫かれながら、ウェイバーに襲いかかる宝具を防ぎきった彼は、そのままドッと地面に倒れ伏す。

もはや彼の全身はズタボロだ。

霊核を失い、胸に大穴を開けて、全身を宝具に貫かれてもなお存在しているのは、ウェイバーの令呪によって与えられた戦闘続行A+の力である。

ランクAですら霊核を失ってなお行動できる力を持っている戦闘続行のスキルは、彼にこれほどの力を与えていた。

 

「あ……主よ……。よ、よかった……。

お、俺は約束を、約束を果たせました……。」

 

「馬鹿野郎!ディルムッド!!

僕は帰ってこいとは言ったが……ここまで無茶をしろとは言ってないぞ!!」

 

だが、それもここまで。

これほどの大ダメージを負ってしまった以上、すでに存在することはできない。

さらさらと少しづつ彼の肉体は塵へと還りつつある。

 

―――ああ、よかった。今度こそ俺は最後の最後まで忠誠を示す事はできた。

その想いと共に、彼の肉体は少しづつ塵に還る。

 

「主よ……どうか、貴方は貴方の道を……。

俺は……貴方に忠誠を捧げられて……よかった……。」

 

いかに令呪の力により戦闘続行A+の力がついたとはいえ、

ランスロットのアロンタイトにより令核を破壊され、

アーチャーの無数の宝具によって全身を串刺しにされてしまっては、存在できはしない。

だが、彼はこの上ない満足感に包まれていた。

願い通り、思う存分戦い、主に忠誠を誓う事ができたのだ。

己の願いをこれほどないカタチで叶えた彼は満足げな笑みを口元に浮かべる。

 

運命よ!見るがいい!

俺は―――。

今度こそ―――。

最後まで、忠誠を―――!

 

その思考を最後に、ディルムッドは完全に消滅した。

その有様を見ながら、アーチャーはフン、と鼻を鳴らす。

 

「ディルムッド……!ちくしょう、ちくしょう……!!」

 

「ふん、忠犬は最後まで忠犬であったか。見事だ。最後まで主に尽くすその忠誠、褒めてやろう。

貴様たちの王道と忠誠の褒美として、今回は見逃してやるとしよう。

感謝するがよい。」

 

「……ッ!!」

 

ボロボロとただひたすら泣いてるウェイバーは泣きなからアーチャーを睨みつけるが、それをアーチャーは一笑の元に笑い捨てる。

 

「我を倒したければせいぜい力をつけるがよい。弱小の王よ。

貴様が我と同等の力を身に付けたのなら

その時は正々堂々と貴様を叩き潰してやろう。

……ま、そのような事は天地がひっくり返ってもありえぬがな。

それでは、さらばだ。弱小の王よ。」

 

ハハハハハと哄笑を上げながら悠然とギルガメッシュは闇に包まれた中を歩き去っていく。

 

「ちくしょう……ちくしょう……ッ!

何が、何が王だ……!僕には何の力もありはしない……ッ!!

ちくしょう……ッ!!」

 

ダン!とウェイバーは握り締めた拳をアスファルトの床に叩きつける。

何回も何回も、血が出るまで叩きつける。

だが、そんな風に悔しがっても現実が変わるわけではない。

僕はここで倒れるわけにはいかない。

ディルムッドの想いを無駄にしないためにも。

そう考えた彼はよろよろとその場から立ち去っていった。

 

―――これが、ウェイバーとランサーの聖杯戦争の集結だった。

 

 

 

 

一方、冬木会館の内部。

そこでは言峰綺礼と衛宮切嗣の激戦が繰り広げられていた。

切嗣の切り札であるはずの起源弾。

それは予備令呪を魔力のバックアップとして使い捨て、使用する言峰に対しては通用しなかった。

今は固有時制御によって攻撃を回避し、キャリコの面制圧によって何とか言峰を近づかせないようにしている。

だが、このままではジリ貧だ。

 

その切嗣の一瞬の隙を狙って黒鍵を盾代わりにしながら、キャレコの弾丸を弾き、言峰が切嗣へと接近する。

そして、懐に飛び込んだ言峰は、八極拳、双纒手を切嗣の胴体に叩き込む。

 

これは相手の攻撃をいなし、防御をこじあけ、足から送られた力を背中の筋肉で増幅し両手で放つ掌打である。

 

令呪の膨大な魔力によって身体機能を増幅した言峰の八極拳は、凄まじい威力を発揮する。

両手で放たれた掌打の威力によって、切嗣の胴体の内蔵や心臓の重要器官は打ち砕かれ、骨も残らず粉砕される。

 

しかし、その傷は切嗣の内部にある全て遠き理想郷の力によって瞬時に再生された。

彼は、固有時制御によって加速された腕でコンデンターの銃床を振るい、言峰を殴り飛ばすと、そのまま大きく距離を取る。

距離を取りながら、切嗣は言峰に対する対策を練る。

そして、一つの案が浮かぶ。

 

―――零距離射撃。

いかに言峰と言えど、超至近距離からのコンデンサーの零距離射撃を回避する事はできまい。

いかに起源弾による魔術回路のオーバーフロウが無効化されると言っても、コンデンサーの弾丸を食らって無事ですむはずはない。

 

だが、それは同時に武術の達人である言峰の間合いに入るということだ。

通常ならば、瞬時にやられるだけの話だが、今の切嗣の体内にはアヴァロンが内蔵されている。

このアヴァロンの力ならば、どんな攻撃だろうが瞬時に再生させてくれるはずだ。

その効果は、先ほど、切嗣自身の体で試してある。

 

そう判断した禁断の三倍の時間加速を使用し、切嗣はただ前へと疾走する。

それに対し、言峰もこちらへと迫り来る。

 

二人ともお互いしか見ていなかった。

ほかの事は何も見えていなかった。

そして、そんな彼らに対して上から聖杯の泥が降り注いだ。

 

 

一方、セイバーはただひたすら聖杯を求め市民会館へと向かっていた。

そこで見つけたのは、すでに冷たくなったアイリスフィールの肉体。

 

親友であったはずのランスロット。

そして護ると誓ったはずのアイリスフィールの喪失。

 

それはセイバーにさらなる絶望を齎し、それは聖杯に対する執着へと変貌を遂げていた。

 

何としても聖杯を手に入れなくてはならない。

その執着は、彼女の翠緑色の瞳を黄鉛色へと変色させていった。

 

……だが、それで本当に正しいのか?

聖杯を得れば全てが解決するのか?

聖杯など眼中になし、己の成すべき事を行い、満足して最後を迎えたディルムッド。

それに比べて、今の自分は何だ?

例え救うためとはいっても、ただ聖杯の奪取だけに執着するのが正しい在り方なのか?

それが己の信じる騎士道の在り方なのか?

―――聖杯を手に入れるよりも、もっと別の答えがあるのではないだろうか?

 

狂おしいまでの執念によって黄鉛色に濁り始めていたセイバーの瞳は、

忠誠を尽くしたディルムッドの姿を思い出した瞬間、

少しづつ元の緑翠色の瞳へと戻っていった。

 

それを見て、大きく舌打ちしながら姿を表したのは、かの黄金のサーヴァント、アーチャーである。

 

「……ふん、まだ妄執に堕ちきらんとはな。

あの忠犬の影響か。全く忠犬め余計な事を。

セイバーの心に騎士道などという下らぬ楔を打ち込んでいくとはな。」

 

「アーチャー……!

貴様、まさかランサーを……!!」

 

「ああ、我の手で誅伐してやった。

全く、ああいう狗ほど厄介でしぶといものだな。

しかもセイバーの心を今だつなぎ止めるとは……狗ごときが。

まあよい、どの道、貴様が我の物になる事に変更はない。我の妻になるがよいセイバーよ。

これは王である我の決定だ。」

 

「戯言を……ッ!!」

 

その言葉に、セイバーを剣を振るいながらアーチャーへと襲いかかる。

だが、アーチャーのゲートオブバビロンから射出された宝具は容易くセイバーを弾き飛ばす。

ランスロットから与えられたダメージもかなりのものだ。

このまま行けば敗北は免れえない。

 

そこに、切嗣から令呪による命令が放たれる。

それを聞いて、セイバーは絶句した。

彼女のエクスカリバーで、聖杯を破壊すること。

彼女はそれに抗おうとするが、続けて放たれた令呪の力に逆らえるはずもない。

聖杯の泥を受けて、聖杯の真実を知った切嗣は、これをなんとしても葬らければならないと判断したのだが、それをセイバーが知る由もない。

セイバーは絶叫するが、二つの令呪の力には逆らえない。

 

「私は、まだ、答えを―――!!」

 

セイバーのエクスカリバーによって両断される聖杯の器。

全開で放たれたエクスカリバーにより、セイバーは肉体を構築する魔力を根こそぎ失い、肉体は塵へと帰っていく。

そんな中、彼女はふと思う。

 

―――もし、もしも自分もディルムッドとあのマスターのように

堅い信頼関係が築けていたのなら、何かが変わっていたのだろうか?

願わくば、もし次の聖杯戦争に召喚されるのならば。

そんなマスターであらん事を―――。

 

その思考を最後に、彼女の肉体は完全に消え去っていった。

 

 

 

 

 

 

―――それから長い時間は流れ。

イギリス、魔術師の魔術協会の本部が置かれている『時計塔』

その中で二人の男が話し合っていた。

いや、正確にいうなれば、一人の男性に一人の青年がすがりついていた。

 

「ま、待ってください!先生!

俺、どうしてもアメリカで開催されるという聖杯戦争に参加したいんですよ!

英霊を召喚するのって触媒が必要なんですよね!

それどうやったら手に入るんですか!?」

 

「ファック!こんな所でそんな事を大声で話すな!」

 

一人は、魔術師の最高学部の幹部であり、時計塔の中でもっと優秀な教師と言われるロード・エルメロイ二世。

彼の指導を受けて巣立っていった生徒たちは、いずれも極めて優秀な魔術師として成長していった。

それゆえ、彼は魔術師の中でも尊敬の念を集め、様々な二つ名で呼ばれている。

 

そして、もう一人の青年は、フラット・エスカルドス。

ロード・エルメロイ二世の中でも最古の弟子であり、底知れぬ魔術の才能と優秀な魔術回路を持った優れた人間ではあるが、

いかんぜん魔術師とは思えぬそののほほんとした気性の緩さによっていまだ時計塔を卒業できないでいる青年である。

 

彼らが話しているのは、アメリカで開催されるという偽物の聖杯戦争の話である。

冬木の聖杯はすでにロード・エルメロイ二世が解体しているため、聖杯戦争が起こる事はありえない。

ところが、どうやって聖杯戦争のシステムを再現したかは知らないが、アメリカで再び聖杯戦争が再開されるという噂が広まったのである。

有名な人形師であるランガルが探ってきた情報によりそれが確実視された事により、

聖杯戦争に縁のあるロード・エルメロイが動き出そうとしたのだが……それを結界をハッキングして盗み聴きしていたフラットが嗅ぎつけたのである。

何重にも張ってあった結界を誰にも気づかれずにいともあっさりとハッキングするなど、並みの魔術師に出来る芸当ではない。

それを見ても彼が魔術師の才能としては天才的である事を示している……のだが、

その緩い気性は今だに彼が時計塔から卒業できない大きな要因である。

 

「大体、君はあれだ……。何故聖杯戦争に参加しようとする?

君が根源を目指すとも思えんし……まさか私に一泡吹かせたいというわけでもあるまい?」

 

そのエルメロイ二世の言葉に、フラットは喜々としながら言葉を返す。

 

「だって、超カッコいいじゃないですか!英霊なんて!!

そんなカッコイイ英雄が七騎もいるんですよ!

観たいに決まってるじゃないですか!

一度でいいからそんなカッコいい英雄を『従えて』みたいじゃないですか!!

七騎も英霊を従えたら、俺王様になれますかね!?」

 

そこで、フラットははっとして口を閉じる。

調子に乗ってつい言い過ぎてしまったらしい。

思わず怒られると恐る恐るエルメロイ二世の顔をのぞき込むフラットだったが、

意外にも、エルメロイ二世は真剣な表情で何かを考え込んでいるようだった。

 

「……いいだろう。少し待っていろ。

お前好みの英霊を召喚できる触媒の当てはある。」

 

「ええっ!?じ、じゃあ……!!」

 

「ああ、私が持っている聖遺物を持ってきてやる。

お前向けの英霊というならば、クーフーリンかベーオウルフが召喚できればいいのだが……。

まあ、『アイツ』ならお前とは相性がいいだろう。」

 

「やった!さすがグレートビックベン☆ロンドンスター!

そこに痺れる!憧れるゥ!!」

 

「よりにもよってその二つ名を本人の前で呼ぶか普通!?

あれか!?キミは触媒が欲しくないのか!?」

 

そんなドタバタがありながらも、エルメロイ二世は自らの自室に戻ると、

魔術的・物理的な鍵がかけられた戸棚を解除すると、そこから鞘に収められたひと振りの剣を取り出す。

 

鞘に入れられ、魔術的な封印が施されたその剣は、

かつて彼がとある英雄を召喚するために作られ、

蒼崎橙子によってルーン文字を刻まれた物である。

この剣の柄には、魔剣『ベガルタ』の破片が封印されている。

かつて彼がディルムッド・オディナを呼び出したこの剣ならば、確実に再びディルムッドを召喚することができるだろう。

彼はそのままフラットの元に戻ると、それを彼に手渡す。

 

「私の保管しているとっておきの『触媒』だ。

そいつにはある聖遺物の破片が埋め込まれている。

それを使用するのなら……とびっきりの英霊が召喚できるはずだ。」

 

鞘に入れられた剣をじっと見ながらふるふると震え出すフラット。

そして、彼は震えながら言葉を絞り出す。

 

「カ……。」

 

「か?」

 

「カッコいいじゃないですか!教授!!

こんなにカッコいい聖遺物を隠してるなんて……人が悪いですよ!」

 

大はしゃぎする彼に対して、エルメロイ二世はやや引きながらも何とか言葉を返す。

 

「い、いや。これはあくまで宝具の断片が入っているだけのレプリカであってだな……。」

 

「そんなことはどうでもいいんです!

カッコよさは正義ですよ!それじゃ、これもらっていきますね!!」

 

そのまま彼は猛ダッシュでその場から走り出す。

恐らくあのままアメリカへ渡る気なのだろう。

剣は美術品として輸送する気に違いない。

のほほんと抜けた部分はあるが、そういう事には頭の回る人間だからだ。

 

「……やれやれ。騒がしい奴だ……。」

 

呆れたように大騒ぎしながら走り出す彼の背中を見つめながら、エルメロイ二世はぽつりと祈るように呟く。

 

「……頼むぞ、ディルムッド。

願わくば、僕の時のようにアイツを支えてやってくれ。」

 

―――その戦いの結末は、神ですら知る由はなかった。

だが、それはまた別の話である。

 

 

 

こんにちわ。零です。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

フェイト・マイナスようやく最終回です。

楽しんでいただけたのなら幸いです。

最後はストレンジフェイクの設定も入れてみました。

 

後は、この後日談の嘘予告を一つ考えていますので、

時間があったら書いてみたいと思っています。

 

感想などいただけたらとても嬉しいです。

 

なお、これらの小説は全てフィクションであり

実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。

また登場する人物は全て18歳以上です。

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