Fate/-(フェイト・マイナス)   作:名無しのレイ

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第二話

 

 

 

こうして、聖杯戦争は開始された。 何の因果か、他のサーヴァントたちもほぼ同時に召喚が行われる中、

今回の聖杯戦争ではいくつかの召喚のイレギュラーが存在した。

一つは、ウェイバーがランサーを召喚したこと。

もう一つはケイネスがライダーを召喚したこと。

そして、もう二つのイレギュラーとは……。

 

―――さてここで話は全く変わる。

少し前の話、この冬木の地に一人の異端の若い女性の老古学者が戻ってきた。

冬木出身の彼女が学会の中でも最も異端とされていた理由。

それは彼女の専攻である古代ギリシャの神話全てが真実だと思い込んでいたことである。

 

その理論証明するであろう大きな証拠。

彼女が肌身離さず持っている偶然ギリシャで見つけた神聖文字が刻み込まれた僅かな光を放つ小さな木の破片。

それこそが、古代ギリシャ、数ある大英雄たちが乗り込み英雄イアソンが所有した巨大な船の一部。

コルキスの黄金の羊の毛皮を求める冒険のために建造された―――すなわちアルゴー船の破片である。

 

異端とされた彼女だが、彼女自身は自らの理論を疑っていなかった。

昔にも、神話の話でしかなかったトロイア遺跡を発掘したとある老古学者のような例もある。

自分もああいう存在になるのだ、と彼女は確信していた。

 

だが、彼女は知らなかったのだ。

神秘を明らかにしようとする者に対しては、神秘を隠匿するために魔術協会から刺客が送られてくることを。

元々、魔術師だの協会だの知らない彼女にとっては不運なことだったが。

そして、もう一つ不運な事があった。

それは、最近冬木を騒がす異常者に目をつけられたことである。

 

―――血に染まった床の中、一人の青年が不愉快な笑い顔を見せながら立っていた。

それを成したのは、冬木を恐怖の底に突き落としている連続事件を引き起こしている本人、雨生龍之介である。

彼はふと戻った実家の土蔵内部で見つけた江戸時代のオカルト本の儀式を試そうとしているのである。

彼の手には、彼女が後生大事にしてあった、ガラス瓶に入れてある僅かに輝く木片であるアルゴー船の破片が存在した。

それを手にした理由は不明だが、何となく彼女が大切にしている光る木の破片などなかなかにCOOLであると彼は感じたからである。

 

「さーてっと……。黒ミサかあ。

世間一般じゃあ、オレの事を悪魔だなんていうけど、他のヤツラなんてもってとひどいこといっぱいしてるやつらだっているのに。

それって納得いかないよなあ……。

じゃあ、本物の悪魔がいるかどうか確かめないと失礼ってやつだと思うよな、普通。」

 

そう呟きながら、彼は手にしたオカルト本の通りに儀式を始める。

……通常、サーヴァントの召喚を行う時には触媒……英霊の聖遺物が必要とされる。

もし、その聖遺物がない場合には、本人と属性に似たサーヴァントが召喚されることになる。

だが、今の龍之介には、(本人は知らないが)アルゴー船の破片という聖遺物を所有している。

しかし、このアルゴー船の破片は他の聖遺物とは特殊な側面を持つ。

 

他の英雄の聖遺物は一人の英雄に対して縁の深いモノであり、その聖遺物を使用した場合、

マスターの属性には関係なく、その聖遺物に従った英霊が召喚される。

 

アルゴー船は、知っての通りギリシアの多くの英雄たちが乗った船であり、単一の英雄が使用した聖遺物ではない。

もし、これを触媒にした場合、最も縁のあるイアソンか、そのマスターの属性に近いギリシャ各地の英雄が召喚されることになる。

そして、邪悪なマスターに対しては、当然反英霊に近い影を背負った英霊が召喚される。

 

彼が戯れに行ってみたオカルト本を基にした黒ミサ風の儀式。

そして、不運なことに、彼の家系は遥か以前に魔術師であることを捨て去った家系だったのだ。

龍之介の眠っていた魔術回路が起動を始め、この世界に英霊を呼び出すために回路が発動する。

―――眩い光が収まった後、その場にはフードを目深にかぶり、ローブを纏った妖艶な女性が存在していた。

 

「―――問うわ。貴方が私のマスターかしら?」

 

こうして、キャスター……魔女メディアはサーヴァントとしてこの地へと降臨した。

後一つのイレギュラーについてはのちほど語ることになる。

 

 

 

 

 

闇の中に欄々と輝く鋭い瞳。そして、その身を纏う闘気と両手に持つ膨大な魔力を誇る双槍。

それを見ただけで、ウェイバーは腰を抜かしそうになったが、何とか踏みとどまる。

ウェイバーの本能が告げていたのだ。

この存在は自分より遥かに強大な存在である、と。

 

それも当然。

目の前に存在しているのは、神秘が遥かに強大だった神代の戦場をくぐりぬけ、奇跡すら引き起こし、

人間というカテゴリーを超越し、昇華された《英霊》である。

そんな存在に(極希な例外を除いて)神秘の衰えた現代の魔術師が対抗できるはずはない。

下手をすれば、即座にこちらを葬りにかかるかもしれないのだ。

 

もしこれが筋肉達磨で髭を生やした威風堂々たる「でかい」男ならウェイバーも腰を抜かしていたに違いない。

まるで主の言葉を待つ忠犬のように膝をつき、頭を下げる臣下の礼を取っている彼を見て、

少なくとも、いきなり襲いかかったり破天荒なことはしてこないことにウェイバーは安堵した。

 

「よ、よし。ボク……い、いや。ワタシの名前はウェイバー・ベルベットだ。

よ、よろしく頼むぞ。」

 

それでも警戒を崩さずに慎重に問いかけるウェイバーに対して、ランサーは臣下の礼を取りながらそれに答える。

 

「は、マスターのご尊名承りました。

このディルムッド・オディナ。この身に賭けて全身全霊でマスターのために戦いましょう。」

 

先ほども聞いたが、ディルムッドの名前を聞いてウェイバーは安堵する。

何とか、自分の目当てのサーヴァントを引き当てることができたらしい。

 

フィアナ騎士団最強を謳われたディルムッド・オディナ。

神代の英雄である彼の戦闘能力は、他の英霊たちにとって決してひげを取らない。

一応、ウェイバーはマスターの能力で己のサーヴァントの能力をざっと確認する。

筋力はBと普通だが、敏捷はサーヴァント最速であろうA+、さらに莫大な戦闘経験から活路を見出す心眼(真)Bを保有している彼は、

通常戦闘能力でおいて決してセイバーや他のサーヴァントに遅れを取ることはない。

 

他に目を引く能力としては、対魔力Bと、彼の宝具である《破魔の紅薔薇》である。

破魔の紅薔薇は、対象の魔力を一時的に遮断する能力を保有している。

つまり、敵宝具を無効化したり、敵の防御結界を無効化したりできるのである。

これに大魔術であっても傷つけることが難しい対魔力Bが組み合わされば、現代の魔術師どころか、キャスターのサーヴァントであろうと対抗するのは難しい。

 

さらに、もう一つの宝具《必滅の黄薔薇》は、回復不能のキズを負わせる魔槍である。

このキズはどんな回復魔術でも回復することはできない。

つまり、これによって傷つけられたものは傷口が回復することなく、じっくりと滅びを迎えるかなりえげつない宝具だ。

これらの能力を所有するディルムッドは、やはり派手さこそないものの、堅実なサーヴァントといえるだろう。

そこまで考えて、ウェイバーは慎重に今まで考えていた言葉をランサーに向かって放つ。

 

「ランサー。始めに言っておく。

ボクは……いや、ワタシは魔術師としては天才的だが、闘争なんていうのは得意じゃない。

ましてや、英霊同士の戦いなんてのはな。

だから、サーヴァントとの戦いは基本的にお前に一任する。

ただし、いざという時のワタシの指示には従うこと。いいな。」

 

これは一つの賭けである。

自由に裁量を任せると見せかけて、もしこれでディルムッドがこちらの言う事を聞かなかったり、

マスターに不利益をもたらす勝手な行動を取り始めるようであるならば、その時は「ディルムッドは信用できない」として令呪を使用する。

 

戦いの経験が全くないウェイバーからすれば、歴戦の戦士であり、幾多の戦場を潜り抜けたディルムッドを頼るのは当然だ。

ましてや、彼には莫大な戦闘経験により、より最適な状況を導き出す心眼(真)を保有している。

そのスキルを活用しない手などない。

下手に干渉してディルムッドが敗北すれば、次にやられるのはこちらなのだから。

 

だが、戦いは基本的に一任したが、それはマスターに不利益をもたらしていいと許可したわけではない。

ましてや、こちらの指示に従わなくていいなどと言った覚えはない。

これは「ランサーが信用できるか否か」を問う試金石といってもいい。

 

「まあ、歴戦の戦士であるお前から見れば不満はあるだろうが、それでもマスターはこのボ……。」

 

「いえ、そのような事は決してありません。

自らの不得意な点を冷静に見れる客観性。

そして、サーヴァントである俺に戦いの全てを任せる事のできるその度量。感服いたしました。

どれも並大抵の主君(マスター)にできることではありません。

……ウェイバー・ベルベット様。貴方こそ、我が主君にふさわしい。

このディルムッド・オディナ。騎士の誇りとこの双槍に賭けて貴方に聖杯を捧げてみせましょう。」

 

……何というか調子が狂う。

英霊とは人間としてのカテゴリーを逸脱し、一つ上の段階に昇華された存在だ。

彼らが手にする宝具は、さらに格上の精霊であろうと滅ぼせる強大な力を秘めている。

当然、その誇り高い強力な力を秘めた英霊が格下の人間ごときの言うことを聞く義理などない。

それゆえ、絶対命令権である令呪がマスターに与えられるのだ。

 

だが、このランサーの異常なほどの忠誠心。これは英霊の中でも稀であるといえよう。

試すもクソもない。ランサーの中には「自らの利益のために裏切る」という概念が存在しないのだ。

確かにフィオナ騎士団からは抜け出したが、それは姫からのゲッシュのため。自らの意思ではない。

しかも騎士団の人間とは戦わず、外来の戦士とだけ戦った彼は、「自らの利益のために裏切る」という概念が存在しない。

 

もし、疑り深い、忠義などまるで理解しようとしないマスターならば、ランサーに疑いを持っても不思議ではない。

 

もちろん、ウェイバーも忠義だのはよく理解できない。

だが、ここでそもそもランサーを疑うようでは、強敵揃いの聖杯戦争で生き残ることはできない。

ましてや、ケイネスに一泡吹かすなど論外である。

だから―――信じてみよう。この英霊を。

 

「ま、まあ、とにかく立ってくれ。

そのままじゃ戦うこともできない。お前の役目は戦うことなんだからな。

……それとランサー。これを頬につけておけ。」

 

その言葉に立ちあがったランサーに対して、ウェイバーは顔の瞳から下半分……ちょうど左頬の部分を隠せる

プロテクターだった。

しかもそれが異様なのは、表面にびっしりとルーンが刻み込まれていることである。

 

「これは?」

 

「魔眼を封印……いや、お前の場合魔貌を封印というべきかな。

お前のスキル「愛の黒子」を封印する魔術品だ。

さすがに英霊のスキルを完全に抑えられることはできないが、

熱烈な恋愛感情から、通常の恋愛感情か好意を抱くぐらいにはランクダウンしてくれるはずだ。」

 

これも蒼崎からもらった魔術品の一つである。

魔眼を封印するの技術を流用して作り上げた頬に取り付けるプロテクター。

ランサーのスキル「愛の黒子」をランクダウンさせる魔貌封印の道具である。

これには、魔力を退ける防御の力とイチイの木を象徴する「エイワズ」のルーン(偶然にもゲイジャルグに刻まれたルーンと同じ)

と、賭博・秘密を象徴する「ベオーズ」のルーンが刻み込まれている。

頬につけることにより、頬にある愛の黒子を覆い隠し、封印し、ランクダウンさせることができるのである。

最も、いかに覆い隠したり、魔術的に封印しようとも、神秘の衰えた現代で英霊のスキルを完全に封印することはできない。

(例え封印指定の橙子といえどである)

 

だが、少なくともスキルの効果を弱め、ランクダウンさせることはできる。

通常は愛の黒子は『熱烈な恋愛感情を抱く』のだが、

それを『好意を抱くだけ、あるいは運が良ければ(運が悪ければ)普通の恋愛感情を抱かせる程度にランクダウンさせる』のがこの力である。

ディルムッドの滅びる原因となったのが、この魅惑の力である事は、彼の伝承を少し調べればすぐに解る。

ならば、それを封じるのはある意味当然の対策といえるだろう。

ウェイバーには恋人などいないが、それでも念のためにしておくに越したことはない。

さらに、これは秘密を象徴するベオーズのルーンの力により、魔力を持たない一般人には全く感知できない優れものである。

 

顔にプロテクターを付けた人間がうろうろしてしまっては、ただでさえ目立つディルムッドがさらに目立つことになってしまう。

これはそれを防ぐための措置である。

 

「このような物を俺に下賜していただけるとは……。何たる光栄。

このディルムッド・オディナ。さらなる忠誠をマスターに誓いましょう。」

 

「いや、だから……。まあ、いいや。

それと、一応これを用意しておいたからな。」

 

あらかじめ倉庫内部に用意しておいた大きめの旅行用カバンから取り出したのは、大小さまざまの男性用の服である。

この礼装の関係上、実体化することが多くなるだろうと予測して、ウェイバーが用意した服である。

「その礼装は魔術品とはいえ、通常の物質で出来ているから霊体化なんてできないんだ。

だからつけて行動するのは実体化する必要があるから、実体化する機会も多いかもしれない。」

 

その中から、ウェイバーはいろいろ試してみるが、一番大きめであるイギリスのロッカー風の衣装なら着れそうだ、と彼に渡してみる。

まあ、ロッカー風といってもあくまで「そんな感じ」であって本物ではないので、そんなに奇抜というわけでもない。

言うなれば、ロッカー気どりの一般人が着る代物だが、彼が着ると奇妙に様になっている。

実際、ディルムッドがどんな身長なのかさっぱり解らないので服屋に頼んで適当に幾種類もの服を用意していたのだが、

180cmを超えるほどの長身のディルムッドでは、着れる服がこれしかなかったというのもある。

 

 

さて、どうするか、とウェイバーは考える。

この礼装の関係上、これを装着している時にはランサーは霊体化はできないと考えていい。

(もちろん、礼装をマッケンジー家に置いてきたりウェイバーに預けるのなら何ら問題なく霊体化はできる。)

ならば、通常のサーヴァントよりも実体化する割合が多くなるのは当然である。

そうなると、マッケンジー家のみんなにも「友人」とか言って話を通しておいた方が面倒がない。

 

一般人から見ると「イギリスのロッカー風の格好をした美形の長身の青年」ということになる。

……これが昼間なら目立つというレベルじゃないが、真夜中だからマシな方だろう。

しかも、それが奇妙に様になっており、回りに女性がいたら、まちがいなくモデルか何かだと思われることは間違いない。

できるだけ人目を避けるようにしながら、彼らはマッケンジー家に辿りつく。

 

「ウェイバー。こんな夜遅くに出歩いては……。おや、そちらの人は?」

 

運悪くといおうか、こんな夜遅くにトイレにでもいこうとしていたのか、偶然にもマッケンジー老人と彼らは鉢合せになる。

ウェイバーはしどろもどろになりながら、考えていた言い訳を彼に話しだす。

 

「そ、そう。彼はボクの友人でええと……ディルム……い、いや、ティルというんだ。

向こうでできた友人でね。急遽ニホンにきたのでホテルが取れなくて、ここで少しの間……。」

 

「なるほど。これは初めまして。ティルさん。ウチのウェイバーがお世話になって……。」

 

「いえ、こちらこそ。マス……いえ、ウェイバーさんにはこちらこそお世話に……。」

 

ロッカーの格好をした青年という外見とは裏腹に、実に礼儀正しい態度を取るランサーに対して、

マッケンジーも好感をもったのか、話が弾む二人を見て、ウェイバーはようやく安堵した。

これで第一の問題はクリアーしたといっていい。

 

自分の部屋へと入り込んだウェイバーと、それに従って部屋に入るランサー。

そして、ランサーは、机の上にあるルーンが刻まれたルーンストーンを見て目を細めた。

 

 

「これは……ルーン文字ですか。懐かしい。」

 

「ああ、封印指定の魔術師からもらったものだ。

ランサーは触れるなよ。

魔力をこめなければ安全だが、神秘の塊であるお前が触れたらどうなるか分からないからな。」

 

護身用に蒼崎から刻んでもらったルーン文字が彫りこまれたルーンストーン。

それは、霊地の近くで眠る石に特殊な魔術儀式を施し、さらに魔力を込めたルーンを刻み込んだ一回限りの魔術礼装である。

 

通常は占いなどに使用されるが、これは特別製の「実戦用」である。

ルーン文字には様々な力を秘めた文字があり、その中には攻撃に転用できる文字もある。

例えば、嵐の意味合いをもつハガラズ。

彼女が刻み込んだこのルーンに魔力をこめて相手に投げつければ、激しい衝撃破を放ち、相手を殲滅する。

他にも、氷を象徴するイスの文字を刻み込まれたルーンストーンならば、凍結の力を放つことができるなどである。

まさしく、これは魔術的な手榴弾と言ってもいい。当然、一回だけの使い切りではあるが。

封印指定にして、魔法使いの卵として育てられた彼女が刻み込んだルーンは並の手榴弾の数倍の威力を誇る。

(もちろん、防御用のルーンストーンもあるが)

 

念のため、彼は蒼崎からさまざまなルーンが刻み込まれたこのルーンストーンを二十数個ほど貰い受けている。

これだけあれば、聖杯戦争中は何とかなるだろう。

このルーンストーンに魔貌を封印する礼装、そして他の物品など彼が橙子に払った等価交換の代償は莫大なものだ。

正直、今の彼では払いきれなかったので、出世払い(あるいは)ということで何とか落ち着いた。

 

彼女がここまで力を貸してくれたのは、正直気まぐれというところが大きいのだろう。

魔術師見習い程度の力しかもたないのに、封印指定の魔術師の住居を探り出すなど、到底普通ではない。

(魔術師でもないのに彼女の住居を探り出した「彼」はさらに異常だが。)

 

そして、部屋に入って落ち着いたウェイバーは、まずランサーの意見を聞くために口を開く。

 

「さて、これからだが……ランサーの意見はどうなんだ?」

 

「は、最も重要なことは、敵サーヴァントの拠点と情報かと。

ですが、残念ながら俺には他のサーヴァントを探知する索敵能力がありません。

それにマスターもサーヴァントの召喚で魔力をかなり消費していると思われますので、

現状は、マスターの魔力が回復するまで様子見が最善の選択かと。

他のサーヴァントが行動を起こした時に、それに応じてこちらも行動を起こすのがよいと思われますが。」

 

「よし、こちらはトオサカ邸やマキリ邸に監視用の使い魔を設置しておく。

念のため、ランサーはこの冬木市の地形を徹底的に頭に叩き込んでおけ。

逃げる時にも戦うときにも、地形は重要だからな。」

 

そのウェイバーの言葉に、ランサーは無言で頷いた。

「―――マスター。早速動き出したサーヴァントがいるようです。

これは明らかに誘っていますが……。」

 

確かに慎重なマスターならば、ここで様子見に徹するべきだろう。

他のマスターと比べ、ウェイバーも自分が少しばかり劣っていることは自覚している。

だが、隠れ潜むだけでは勝利をつかむことはできない。

ましてや、隠れているだけでは、この聖杯戦争に参加した意味が全くないではないか。

ランサーの性能を見るためにも、ここは乾坤一擲に攻めに出るべきだ、とウェイバーは判断した。

彼は蒼崎からもらった攻撃用のルーンストーンや時計塔で手に入れた特殊なスタングレネードなどを手早く装備するとランサーに向かって叫ぶ。

 

「―――よし!いくぞ!先に使い魔を先行させておく!」

 

「それでこそ我が主君。では、行きましょう。戦場へ。」

 

 

 

 

―――それからしばらくの後、先行させていた使い魔の情報を元に、彼らは膨大な魔力の源にたどりつく事ができた。

そこは、プレハプ倉庫が立ち並ぶ倉庫街だった。

確かにここならば人目につかず、回りの被害も気にせずに存分に戦うことができるだろう。

そして、そこに待ち受けていたのは二人の全く対極な異質な男性。

一人……恐らくサーヴァントであろうその存在は、巨人かと見間違えるほどの筋骨隆々たる巨躯を持ち、軽い鎧とマントを装備し、髭を生やしたみるからに「でかい」大男。

放たれる圧倒的な威圧感はまさしく覇王と言っても過言ではない。

 

もう一人は、神経質そうな容貌をした髪をオールバックに纏めてコートを纏った鼻もちならない高慢な態度をした恐らくは魔術師であろう男性。

見間違えるはずはない。

ヤツこそが、時計塔きっての天才魔術師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトである。

ならば、ヤツが従えるあのサーヴァントこそが、大英雄である征服王イスカンダルに違いない。

何だか、ヤツから放たれる魔力の流れが魔術師としてはかなり異様ではあるが……ある意味、復讐に燃えるウェイバーにそんな瑣末事を気にしている余裕はない。

だが、その征服王は、ウェイバーとランサーが来るのを油断なく見ながら、傍らのケイネスを横目で眺めてフンと鼻を鳴らす。

 

「ふん、余もつまらんマスターに召喚されたものよな。

全く窮屈でたまらんわい。余と共に前線で戦うことだけは評価するが、それも女の目を気にしてのことではな……。」

 

「黙れっ!ライダー!貴様は私に従っていればいいのだ!

私に逆らえば、貴様に重圧がかかることを忘れたか!!」

 

あまりにも豪快で自由奔放でマスターをマスターと思わないライダーに怒り狂ったケイネスはすでにライダーに「私の命令に従え」という令呪を使用している。

通常、令呪の命令は、長期間に渡るほど効果が薄まっていく。

「命令に従え」などという曖昧で長期間に渡っては、通常は、効果はかなり薄まり、

せいぜい「マスターの意向を考慮してやろう」程度の効果しかない。

だが、ケイネスの天才的といえる魔術師の才能は、その効果を「命令に逆らうとサーヴァントに重圧がかかる」という効果へと変貌させていた。

つまり、Fate本編のアーチャーそのままの状態ということである。

確かにカタログスペック的には、時計塔の天才魔術師と世界を征服しかけたイスカンダルとが力を合わせれば聖杯戦争を制することもたやすいだろう。

しかし、全てが自分の思うままが当然と考えるケイネスと自由奔放で豪快なイスカンダルとでは性格的な相性が最悪である。

 

「……まあ、よかろう。

ふむ、初戦が三騎士のひとりとは願ってもないな。上々だ。

やはり敵が強敵であればあるほど心躍るというものよ。

さて、貴様らに言っておこう。余は―――。」

 

「征服王イスカンダル。それがお前の名前だろう。」

 

通常のサーヴァントは己の真名を隠すものだ。

サーヴァントとは過去の英雄たち。

真名が知れれば、そこから必然的に弱点も知ることができるからである。

だが、己の真名をばらされても、ライダーは楽しそうな不敵な笑みを浮かべた。

 

「ほう……。一目で余の真名を見切るとは。なかなか見る目があるな。小僧。」

 

まあ、実際は見切るも何も、ケイネスが征服王の触媒を探していることは時計台で知れ渡っていたからなのだが。

まあ、そこまで突っ込んでやる気は毛頭ない。

そして、そんなライダーをよそに、ケイネスは凄まじい憎悪と怒気を放ち、ウェイバーに向かって言葉を放つ。

 

「ほう……これはこれはウェイバーくんではないかね。

全く、君のような凡才が私の聖遺物を盗んで聖杯戦争に参加するなど……。

身の程知らずもいいところだな。

仕方ないなあ。それでは特別に私が課外授業を行うことにしよう。

魔術師同士の闘争というのものね。」

 

 

ただ、奇妙なのは、先ほどからケイネスは全く身動きを取らず、しかも唇を動かさないままどこからか声が聞こえてくることである。

しかも、その凄まじい憎悪の念も、目の前のケイネスではなく、どこか他の所から放たれているような気もする。

もし、ウェイバーがもう少し冷静ならば、その点に気づいたかもしれないが、今のケイネスの怒気に震えている彼では無理というものだろう。

その純粋な憎悪に、戦場に立ったことのないウェイバーが耐えられるはずもない。

 

「あ……う。」

 

ふら、とその怒気に当てられてふらつくウェイバーの肩をランサーはしっかりと支える。

え?と驚いた顔をしたウェイバーに向かって、彼は、安心させるように強く頷く。

そして、ウェイバーを庇うように前に出ると、ケイネスに向かって片手の《破魔の紅薔薇》の切っ先を突き付ける。

 

「そこまでにしておいてもらおうか。ライダーのマスターよ。

俺の主君を侮った罪、貴様の命で償ってもらうことになるぞ。」

 

口元に笑みこそ浮かべ、飄々とした口調であったが、

彼の瞳は真剣な怒りに満ちていた。

騎士として、己の主が侮辱されては黙っていられない。

それを見て、ライダーは面白そうに口元に不敵な笑みを浮かべる。

 

「ほう……。今回の槍兵はなかなか忠義に厚い英霊と見える。

そんな小僧にそこまで忠義立てするとはな。

おい、小僧。余からも聞きたい事がある。貴様の聖杯にかける望みとは何だ?」

 

「フ……フン。決まっているだろう。

ボ……ワタシが望むのは正当な評価だけだ。

ワタシの才能を認めなかった時計塔の奴らに……。」

 

その瞬間、ライダーの大音量の怒号が響き渡った。

 

「小さいわッ!全く現代の魔術師というどいつもこいつも奴らは皆こうなのか!

狭い!小さい!アホらしい!!

全く、現代になって魔術師の力量どころか器まで小さくなったようだな!?うん!?」

 

その自らのマスターへの侮辱ともとれる発言に対して、表情こそ変えないが、ケイネスも激怒しているのがどこからともなく伝わってくる。

だが、さすがに仲間割れしているときではない、と判断しているのかとりあえずはサーヴァントを怒鳴りつけることなく見守るだけである。

それを見て、ランサーは飄々とした口調で言葉を放つ。

 

「ふん、一つ言わしてもらおう。ライダー。

大きければ何事もいいという訳ではない。

己の器以上をしようとするものは、大抵自滅が待ち受けているものだ。

それに――――。」

 

そこで、瞬時に冷徹な表情になり、周囲全てを凍りつかせる本気の闘気をディルムッドは解き放つ。

 

「貴様は俺の主の望みを侮辱した。

誰とて己の存在を他者に受け入れてもらいたい物。

貴様のその高慢さ、許し難い。

その罪、この双槍で償ってもらうぞ。征服王。」

 

その本気の怒りを滲ませて、闘気を放つランサーを見て、ライダーは困ったように自分のこめかみを拳でごりごりと押しつけた。

 

「ふうむ。こりゃ失策だったかのう。

あわよくば余の配下にしようと思ったのだが……ここまで怒らせては仕方ないか……。

ふむ、ならば是非もない。異なる時代の英雄豪傑の手並み……見せてもらうぞ!

征服王イスカンダルがこの一斬にて覇権を問う!」

 

その次の瞬間、ライダーはすらりと剣を抜くと、その剣で空間を一閃する。

ランサーが警戒する目の前で、斬り裂かれた空間が口を開け、そこから膨大な威力と魔力を秘めた「戦車」が姿を表す。

見た目は、ニ頭の美しい牝牛が牽引する古風なニ頭立ての戦車だが、蹄と車輪が天空を蹴るたびに凄まじい雷撃が轟き渡る。

これぞ、ライダーが宝具《神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)》

かつてイスカンダルがゼウス神殿に祭られた戦車に結び付けられ、

これを解く者はアジアを制するであろうと言われた「ゴルディアスの結び目」を剣で一刀両断にして手にいれた戦車である。

それゆえ、この戦車はゼウスの力……極めて強力な雷撃を放つ力を秘めているのである。

 

「ではゆくぞ!槍兵!!異なる時代の英雄の力……存分に見せてもらおう!!」

 

「ふふん、来るがいい、ライダー。貴様の大言壮語、その身で代償を払ってもらうぞ!!」

 

ひらりと、ライダーが戦車に飛び乗った瞬間、強烈な雷撃を放ちながら凄まじい速度で

こちらに突っ込んでくるゴルディアスホイールを、ランサーは即座に横に跳んで回避する。

 

確かにゴルディアスホイールの速度は凄まじい。

だが、こちらとてサーヴァント最速である敏捷A+を誇るランサーである。

しかも、彼には膨大な戦闘経験から適切な活路を導き出せるスキル、心眼(真)を所有している。

そのスキルによって、次にライダーが突っ込んでくる場所さえわかれば、敏捷A+を持つランサーならば回避することは十分に可能である。

いかに強力な攻撃でも当たらなければどうしようもない。

ランサーはその敏捷性を生かしてアクロバディックな華麗な舞いのような動きでゴルディアスホイールの突撃を回避していく。

 

「さて、サーヴァントはサーヴァント同士戦わせてみてどちらが上か試してみようではないか。

こちらは魔術師同士の戦いというものを実地訓練で教えてあげよう。くるがいい。ウェイバーくん。」

 

はた目から見ればケイネスはただ突っ立ってるようにしか見えない。

いや、魔術師の目から見ても、何らかの魔力は帯びているようだが、本気で魔術による攻撃を仕掛けようとはしてこない。

アレは完全にこちらを舐めてかかっている。

ウェイバーごときに本気の魔術を放っても仕方ないといわんばかりだ。

サーヴァント同士の戦いでも、魔術師としても完全にこちらを敗北させてどん底の所で最後を迎えさせたいらしい。

だが、ここまで舐められてただ黙っているウェイバーではない。

 

 

「く……っ!!」

 

彼は懐から蒼崎の作ったルーンストーンを出して握りしめる。 本人は決して認めようとはしないが、

ベルベット家はまだ三代しか神秘を積み重ねてはいない。

しかも初代は魔術師の愛人として初歩的な魔術を習った程度。

二代目は「母親の思い出を大切にしよう」程度の覚悟で神秘を受け継いだだけ。

魔術回路もお粗末極まりない。

到底、大規模な自然干渉などの攻撃魔術など使用できるはずもない。

(本人は攻撃魔術など下品な魔術など使えるか、と覚えようとしなかったのだが)

 

それをカバーするために蒼崎から貰い受けたのがこのルーン文字が刻み込まれたルーンストーンである。

このルーンストーンにはハガラズという嵐や雹・災害などを象徴するルーン文字が刻み込まれている。

つまりは、大自然の破壊の力・状況の終焉と崩壊を象徴している文字である。

その文字が刻み込まれた呪文石は、魔力を注ぎこんで五秒経過すると、周囲に凄まじい衝撃破を放ち、全てを粉砕する力を持つ。

それに封印指定……魔法使いの卵として育てられた彼女が刻み込んだルーンは並みの魔術師とは比べモノにならない。

元々、蒼崎家の属性は風であるとされている。

ならば、嵐を象徴するこのルーンとは極めて相性がいいといえるだろう。

 

 

「この……くらえ―――っ!!」

 

ウェイバーは魔力回路を起動させ、そのルーンストーンに魔力を注ぎこむと、三秒数えてケイネスに放り投げる。

次の瞬間、ルーンストーンから凄まじい衝撃破が周囲に放たれ、ケイネスを四散させる。

 

「――――!?」

 

だがおかしい。

いくら封印指定の魔術師が刻んだルーンといえど、ここまでの威力はないはずだ。

次の瞬間、四散したはずのケイネスの肉体がキラキラと鈍く輝く水銀へと変化していく。

 

「な……っ!?幻影!?」

 

ウェイバーの見立ては真実の一端ではあるが、全てではない。

彼の攻撃したのは、ケイネスの魔術礼装である月霊髄液の一部が擬態したケイネスの形をしたデコイである。

月霊髄液は魔力を充填した水銀に多種多様な行動パターンを記憶させ、

状況に応じた最善の反応を取るよう設定したケイネスが作り上げた戦闘用の魔術礼装である。

水銀製の戦闘用ゴーレムの一種と例えれば分かりやすいだろう。

これは自動的に攻撃・防御・索敵まで行うことができるほどの優れた性能を持つが、所詮は自律機械であり、そのパターンは限られている。

 

恐らくは、月霊髄液の一部をケイネスの形に擬態させ、その上を幻影で覆ってケイネスのデコイを作り上げたのだろう。

と、同時に、幻覚で隠れているであろうケイネスの姿がどこからともなく聞こえてくる。

 

「ふむ、やはりその程度か。デコイを見切ることもできんとは。

魔術回路の動きや魔力の働きを調べれば一目で解ったろうに。

だが、解せんな……。アレほどの威力のあるルーンをどこから……。いや、まあいい。

では……これが最後の授業だよ。ウェイバーくん。私直々に手を下してあげよう。」

 

それと共に、何もないように見える空中からいきなり水銀の鞭が超高速でウェイバーに襲いかかる。

その超高速の速度と超高速水流カッターにも匹敵する切れ味をもつ一撃に、ウェイバーが耐えられるはずもない。

 

「主よ!お下がりください!!

《破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)》!!」

 

だが、その一撃は、ライダーの攻撃を回避し続けながらも、こちらの方に注意していたランサーの一本の槍の投擲によって阻まれた。

ランサーの放った槍の投擲は、精密極まりない正確さでケイネスの月霊髄液の鞭を貫く。

次の瞬間、ケイネスの魔術礼装である月霊髄液は、一瞬、魔力の供給が断たれ、バシャとただの水銀になって地面に落ちる。

ランサーの宝具《破魔の紅薔薇》

あらゆる魔力を遮断する宝具の天敵とも呼べるその魔槍は、魔術礼装であろうと例外なくその威力を発揮する。

 

それと同時にケイネスの姿が出現する。

彼は、月霊髄液の一部をデコイへと変化させ、残りの月霊髄液を自分の回りを球体にして覆い、

その上を高度な幻覚による光学迷彩によって姿を隠していたのだ。

それゆえ、ランサーの魔槍によって一瞬だけ月霊髄液がただの水銀になり、幻覚も解除されて姿を見せたのである。

とっさに魔術で壁を張り、落ちてくる水銀を受けとめながら、ケイネスが忌々しい表情を浮かべる。

 

ランサーはさらにライダーの攻撃を宙返りで回避し、ケイネスとウェイバーの中間にひらりと着陸し、破魔の紅薔薇を抜いてケイネスに突き付ける。

ランサー……ディルムッドはセイバーに次ぐ強力な対魔力:Bの能力を保有している。

これにより、大魔術・儀礼呪法であっても彼を傷つけるのは難しい。

しかも、彼の手には魔力を無効化する《破魔の紅薔薇》がある。

これでは、例えキャスターのサーヴァントであろうと彼を傷つけるのは難しい。

ましてや天才とはいえ現代の魔術師では言わずもがなである。

 

言うなれば、彼はあらゆる魔術師に対する天敵と言っても過言ではない。

その彼がウェイバーの盾となって存在しているのだ。

これではケイネスでは対抗することは難しい。

例え、月霊髄液でもその速度によって回避されてしまうだろう。

 

「ふむ……。なるほど。ランサーめ。その魔槍と高い対魔力。まさしく魔術師の天敵と言っても過言ではないな。

ならば、サーヴァントの相手はサーヴァントがするべきだろう。

やれ、ライダー。」

 

「言われんでも解っておるわ。駆けろ!《神威の車輪》!!」

 

さらにライダーは激烈な突撃をランサーに対して仕掛ける。

そして、まるで闘牛士のように、その突撃をひらりひらりと回避していくランサー。

回避しながらも、ランサーはライダーに魔槍の一撃を食らわそうとしているのだが、さすがになかなか隙がない。

 

これで、ウェイバーの方にケイネスが攻撃を仕掛ければ勝負はウェイバーの敗北だったろうが、

ケイネスはニヤニヤと嫌らしく笑うばかりで視線はライダーとランサーの方をむけている。

 

恐らくは、ウェイバーのサーヴァントを完全に敗北させて、徹底的に屈辱と敗北感を与えた上でウェイバーを葬る気だろう。

だが、世間ではそれを油断、高慢と呼ぶのだということを、ケイネスは知らない。

いつでも魔力を込めれるようにルーンストーンを持ち、じりじりと間合いを遠ざけながら、ウェイバーはランサーに向かって叫ぶ。

 

「バカ!ライダー本人を狙うんじゃない!『槍』でライダーの『牛』を狙うんだ!」

 

「―――!承知!!」

 

そのウェイバーの考えを読み取ったのか、ランサーは再度のライダーの突撃を空中に飛んで回避し、

そのままライダーの戦車が通る上で、頭を大地の方へ脚を空中へと向けるいうなれば空中で逆立ちの状態になりながら、

ライダーの「戦車」に向けて魔槍を突き出す。

 

「行くぞ、ライダー!!

《破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)!!》」

 

ランサーの魔槍は、ライダーの戦車の防護フィールドを容易く打ち破り、戦車の中央部分に突き刺さる。

そして、魔力の供給を遮断された神威の車輪は、その力を失う。

慣性で走っているものの、一瞬だけ雷撃も速度による突撃も封じられた格好だ。

 

「―――ぬ!?」

 

そして、その隙を見逃すランサーではない。

彼の双槍のもう片方の真の力がついに発揮される。

 

「喰らえ!!《必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)―――!!》」

 

ランサーのもう一つの魔槍《必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)》

それは、貫かれた対象に決して癒えない傷を与える宝具である。

これを治癒するには、魔槍を破壊するか、ディルムッドを倒す以外ない。

 

だが、ランサーの必滅の黄薔薇の向う先はライダー本人ではない。

彼は、戦車を足場に再び跳躍し、神牛の背中に乗ると、そのまま必滅の黄薔薇を深々と神牛の背中に突き立てる。

吹きあがる血潮と神牛の悲鳴。

いかに神牛であろうと、宝具の一撃を食らっては無事ではすまない。

 

さらにランサーは神牛の背中を足場にすると、戦車の前方へと着地し、

突進を回避すると同時に、二頭目の神牛の脇腹を狙い、必滅の黄薔薇を突き出す。

 

ゲイ・ボウの切っ先は、ライダーのゴルディアスホイールを牽引する神の牛(ゴッド・ブル)の横腹に深々と突き刺さり、

一頭の神牛の横腹を横一文字に切り裂く。

自らの突進の強さがかえってあだになってしまった格好だ。

 

その激痛に怒り狂ったゴッド・ブルはランサーへと突撃しようとするが、

放たれる雷撃の威力・突撃の速度や威力は先ほどより明らかに劣っている。

それは速度も同様だ。

今の神威の車輪の威力はA+からA……下手をすればB程度にまで落ちている。

 

いかに神威の車輪が強力とはいえ、それを牽引するのはあくまで神牛である。

つまり、神威の車輪のエンジンは神牛であると言ってもいい。

それが傷つけられれば、当然速度はかなり落ちるし、神牛が出す雷撃も弱くなる。

(車輪が出す雷撃もあるのだが、やはり神威の車輪全体の威力が落ちることには変わりない。)

車でいえば、エンジン部分に何らかの破損が起きたのと同様である。

 

深手を負ってなお全力攻撃を出し続けられる存在などない。

これで、ライダーの力は半減したことになるが、彼は逆に楽しそうに爆笑する。

 

「ほう……!!なるほどなるほど!実に理に適っておるわ!

余の神威の車輪(ゴルディアスホイール)の威力と速度を削ぎ落とす作戦か!!

小僧……ウェイバーとかいったな。貴様、なかなか戦術の才能があるぞ。」

 

だが、その本人であるウェイバーはライダーの言葉など聞いてはいない。

ライダーの戦力を削ぎ落とした以上、速やかに撤退するのが最善だろう。

 

「よし!ランサー、逃げるぞ!!」

 

「承知!!失礼します!」

 

そのウェイバーの言葉に、ランサーはウェイバーを片手で抱きかかえると、即座にこの場から離脱するために疾走する。

敏捷A+を誇るランサーの速度など下手をすれば、体を傷めかねないが、ウェイバーは体に魔力を循環させ、何とか耐える。

 

「ランサー、振り向くなよ!くらえ!!」

 

ランサーに抱えられながら、ウェイバーは懐から取り出した二つの小型の円筒状の物体のピンを抜いて、ライダーへと投げつける。

その円筒状の物体がライダーの目の前の地面に落ちた瞬間、凄まじい爆発音と眩い閃光を放つ。

 

―――スタングレネード。

閃光や爆裂音により相手を無効化する兵器の一種である。

おまけに、これは魔術師による特別製であり、魔力を撹乱する特殊なチャフも内蔵されている。

魔術師や強大な神秘である英霊は当然周囲に魔力を放出している。

猟犬のように優れた感覚を持つ怪物の類なら、その残存魔力を嗅ぎつけ、追撃をかけることも可能だろう。

それでは撤退の意味がない。

そのため、強力な閃光と爆音で相手の知覚を惑わし、さらに残存魔力による追跡を防ぐために

実戦派の魔術師は、このような特殊なスタングレネードを持ち歩くことがある。

ウェイバーも、時計塔で聖杯戦争に備え、これを入手したのである。

そして、二人の視力が回復したとき、最早彼らの姿はそこにはなかっ た。

その見事な手際に、かのライダーも唸り声を上げる。

 

「ふうむ、なるほど。引き際もなかなかいい……。

あの小僧、もしかしたら『化ける』かもしれんな。」

 

「な、何をしている!ライダー!この愚か者が!追え!!」

 

火がついたようにヒステリックにわめくケイネスに対して、ライダーはふん、と鼻を鳴らすと、ガン!と凄まじい音をたてて、地面を踏みならした。

 

「黙るがいい。余に猟犬の真似ごとをさせるのなら、その令呪を使うことだな。

あれだけ見事な撤退ならば追うだけ無駄というものだ。」

 

「……ぐ……。」

 

悔しそうな顔をするケイネスだが、ライダーはそんなことを歯牙にもかけず、彼らの逃げ去った方面を楽しそうに見ていた。

……これこそが聖杯戦争の本格的な開戦の幕上げに他ならなかった。

 


 

こんにちわ、読んでいただいてありがとうございます。

相変わらずオリジナル要素が多くてすみません。

まあ、原作と全く同じだと面白くないですしねえ……。

キャスターをメディアにしたのは、ジルだと原作通りの動きしかしてくれないので、それじゃ面白くないだろうと。

後、切嗣の活躍もカットする予定なのでご了承ください。

 

前回、ウェイバーと橙子さんと会わせたのは魔貌封印の礼装とルーンストーンを入手させたかったからなんですよね。

神域の直死の魔眼を抑えるほどのメガネを作れるのなら、これくらいできても不思議じゃないだろうと。

ケイネスもディルムッドの伝承をしっているのなら、何で対策を取らないのか不思議でしょうがなかったんですよね。

 

よろしければ感想などを送っていただけると嬉しいです。

作者が大喜びいたします。

それでは。

 

なお、これらの小説は全てフィクションであり

実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。

また登場する人物は全て18歳以上です。

 

*[一部修正]アサシンがギルガメッシュに葬られたシーンはこちらのミスなので修正しました。

申し訳ありません。orz

 

 

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