Fate/-(フェイト・マイナス)   作:名無しのレイ

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第四話

 

―――キャスターのサーヴァント、メディアは自分の工房の内部でとある作業を行っていた。

キャスターのサーヴァントには陣地作成のスキルが存在する。

いかにここが地脈の流れが少ないからといっても、彼女の知識と工夫と魔力によりこの地の霊的防御力は冬木の中でも屈指といえた。

その中心である彼女自身の工房。

そこには奇妙な薬草や霊薬、鉱物や動物の干物やアルコールランプ、ガラスの試験管などが並べられており、イメージとしては実験室に近い。

その中で、彼女は薬草を念入りに調合し、乳鉢で砕いた鉱石と混ぜ合わせ、そしてそれを魔術的な炉で熱する。

さらに、彼女はとある試験管を取り出す。その内部に入っているのは、あの戦いで流されたセイバーの血液である。

通常、サーヴァントの血液や肉体というものは、本体から切り離されられるとすぐに消滅してしまうが、キャスターはすぐに回収し、魔術的な封印を施して保存しているのである。

そして、彼女はその血液に、先ほど練り上げられた薬を混ぜ、さらに魔術的な炉で熱していく。

しばらくすると、そこには紅色に輝く丸薬が存在していた。

……セイバー、アルトリア・ペンドラゴンは、最強の幻想種である竜の因子が含まれており、それにより体の内部に強力な魔力炉心である『竜の心臓』が存在している。

この強力な魔力炉心により、アルトリアであったころの彼女は息をするだけで膨大な魔力を発生させることができ、さらに魔力放出を行うことにより強力な戦闘能力を得ていたのである。

サーヴァントとなった彼女にはこの炉心は失われているが、それでもその痕跡は残っている。

 

そして、キャスターであるメディアには道具作成のスキルが存在する。

これにより、彼女は材料さえ存在していれば擬似的な不死薬すら作ることができるのだ。

そのスキルを利用し、魔術炉心が存在していたセイバーの血液を材料にすることにより、魔術師が所有する魔術回路をブーストさせる薬を作りあげたのである。

……だが、これは諸刃の剣でもある。

セイバーの竜の因子を含む魔力炉心はほんの僅かとはいえ人間の身では強力すぎる。

訓練を積んだ魔術師ならば制御することも十分可能ではあるが、何の訓練も受けていない魔術回路をもっただけの人間ならば、魔術回路がオーバーヒートして暴走してしまう。

 

「さて、と。これで準備はできたわね。

さあ、マスター。楽しい時間の始まりですよ。」

 

にやりと、キャスターは邪悪に微笑んだ。

 

……それからしばらく後、キャスターはのんびりとくつろいでいるマスターである龍之介に近づいていった。

 

「ん?何の用だ?キャスター。今俺は……。」

 

瞬間、キャスターの腕から魔力が迸り、真空の刃を作り出す。

そして、その真空刃は見事に龍之介の令呪が宿った腕を切り裂いた。

 

「……え?」

 

何が起こっているのか理解できない彼は呆然と失われた自分の腕を眺める。 そして、次の瞬間噴き出す血とともに絶叫する。

 

「あ……ああああ!?な、何……何で……っ!!」

 

のたうちまわる龍之介を眺め、彼の令呪の刻まれた腕を手に取りながら、キャスターは再び邪悪に微笑む。

 

「ああ、一つ言い忘れていたわ。マスター。

マスターにはサーヴァントを制御するための令呪……絶対命令権があるのですよ?

まあ、最も、その令呪が刻み込まれた腕を失ってはもう使う事はできませんが。

『ついうっかり』言い忘れていました。申し訳ありません。」

 

「お……俺の腕!俺の腕ぇえええっ!!」

 

「残念ながら、これを返すわけにはいきません。マスター……いいえ、リュウノスケ。

ですが、貴方に痛み止めの薬ならば与えることができます。

これをお飲みなさい。」

 

いっそのこと優しいとも言える口調でキャスターは龍之介に紅の丸薬を差し出した。

強烈な痛みに苦しむ龍之介には、キャスターの優しすぎる口調に気づきもしなかったのだが。

腕を失い、痛みに悶える龍之介はキャスターの手からそれを奪い取ると何のためらいもなくそれを飲み下す。

―――そして、変化は次の瞬間訪れた。

 

「残念ですが。私は貴方の悪趣味につきあう気はありません。

……ああ。そうですね。

そんなに悪趣味な芸術とやらが好きなのならば、貴方自身の肉体で表現したらいかがですか?」

 

「あ……ああああああアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

龍之介の肉体は崩壊→再生→膨張→崩壊という無限の繰り返しにより、もはやニンゲンとしてのカタチを保つことができない。

膨れ上がった肉塊と化した彼は強力な魔術炉そのものへと変貌しているのだ。

無意味な言葉を放つ龍之介だった肉塊を見て、キャスターは満足げに頷く。

魔力炉と変貌した彼からは、以前とは比べモノにならないほどの強力な魔力が流れ込んでいるのだ。

 

「よかったですね。リュウノスケ。貴方が愛する芸術を自分の体で表現できたのだから、貴方も幸せでしょう。

ふむ、急造のできそこないの魔術師にしてはなかなか悪くない魔力炉ですね。」

 

そう言いながら、キャスターは比較的満足な表情で頷いた。

 

「さて、次の手ですが……そうですね。狙いやすいこの子で行きましょうか。」

 

キャスターの遠見の水晶玉。

この水晶玉には、魔力感知が不可能なほど超遠距離から監視可能な特殊な使い魔の視覚と共有がされている。

そこには、家へと入るランサーとウェイバーの姿が映し出されていた。

 

 

 

その一方、ライダーは己の拠点……ケイネスの工房内部へとドアを開けて入りこんでいた。

趣味のよいインテリアにより飾り立てられているその広い部屋の内部は、まさしく貴族の部屋そのものと言えた。

そして、その部屋の中央に食い入るように水晶玉に見入る怜悧な美貌を持った赤毛の女性がいた。

ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリ。

名門、ヌァザレ家の娘である彼女はケイネスの婚約者である。

 

「……帰ってきたのね。ライダー。」

 

ここはライダーとランサーが先ほど戦闘を行った倉庫街の倉庫の地下部分。

そこは大規模な工事が施されており、高級ホテルもかくやといわんばかりの広さと内装が整えられている。

もちろん、高級バスやトイレなども全て完備されており、地下室というよりはスイートルームそのものである。

これも戦争である以上、どこでも襲撃されてしまう可能性はある。

魔術師である以上、その神秘は秘匿されなければならない。

下手な所で宿泊して襲撃などされてしまっては神秘の秘匿も何もない。

それゆえ、彼は人気のないここを大規模な改修をし、自分の根拠地としたのだ。

当然、工房である以上防衛も十分である。

地脈を利用した二十三層にも渡る強固な魔術障壁に三器もの魔力炉、そして侵入者に反応するように廊下には猟犬代わりの悪霊が存在し、

通路にも幻惑の魔術が仕掛けてある。

しかも、ここは地下で周囲に多少なりと地脈が周囲を取り囲んでおり、魔術的な探知手段では、

結界などの魔力の痕跡も探知されづさいようになっている。

その様相は、工房というよりはもはや魔術要塞と言っても過言ではない。

 

さらに念のために、隠れ家としてここと同規模の工房をもう一つ用意してある。

この念の入れようは、まさしく彼が天才と言っても過言ではない。

 

「ランサーとの戦い、見させてもらったわ。

さすがは名高い征服王。その力、実に見事なものよね。それに比べてケイネスは……」

 

その彼女の言葉はあからさまな落胆と侮蔑の響きがあった。

戦いから帰ってきたケイネスに対しても、彼女は同様に冷ややかで鼻で笑いその戦略的行動を手厳しく批判した。

ライダーの特製は基本的に強力な宝具を有するところにある。

逆にいえば、宝具に依存しているということでもある。

その宝具にダメージを受けてしまい、実力が半減してしまっては戦略的に大きなハンデを背負ってしまったことは言うまでもない。

その点を手厳しく批判されたケイネスは内心怒り狂ったが彼女相手では強く出れず、工房から出てしまっていた。

 

「ふむ、ソラウよ。貴様の言い分の方が戦術的に見れば正しい。

だが、正しさだけが全てではないし、お主のいう事はあくまで結果論だ。

ランサーの意図を見抜けなかった余の不覚でもある。

それに、男にはメンツが、プライドというものがある。

それを無視して踏みにじるような言い方では……。」

 

「別に構わないわ。私はあの人に対して何も興味がないし。」

 

そう言いながらも、彼女はライダーに背を向けながら、

潤んだ瞳を隠しもせずにソラウは水晶球に移ったランサーの横顔を愛おしげに撫でる。

彼女は使い魔の視覚を水晶球に投影することにより戦場を観察していた。

そして、あのランサーを一目見た瞬間、強烈な恋愛感情を抱いてしまったのである。

 

「ライダー。何があろうとあの槍兵、ランサーを生きたまま捕えなさい。

貴方は女性の尊厳は守るはずの英雄でしょう?

ならば、私の言うことを聞いてくれるのが道理というもの。そうでしょう?」

 

ランサー、ディルムッド・オディナには「愛の黒子」というスキルがある。

これは一種の呪いであり、この黒子を見た女性は彼に対して熱烈な恋愛感情を抱くことになる。

結果として、それが彼の身を滅ぼす事になるのだが、それはひとまず置いておこう。

 

その伝承を知っているウェイバーは、それを防ぐために蒼崎の宝具封じによって「愛の黒子」を封じ、威力をレベルダウンさせている。

これにより、対魔力のない女性でも通常の恋愛感情、魔術師ならば好感を持つ程度のレベルまでランクダウンされている。

……そう、通常ならば問題はずである。

ましてや名門の魔術師の家系であるヌァザレ家の娘、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリであれば何の問題もないレベルである。

だが、それでも、彼女はランサーを一目見た瞬間、胸の中に熱い情熱が迸るのを感じてしまった。

それはもはや愛の黒子などただのきっかけであったのかもしれない。

もしくは、なくても全く関係なかったのかもしれない。

 

ただ、確かな事実は一つだけだ。

そう、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは、あの綺麗な男性に恋をしてしまったということ―――。

 

「私はあのヒトを、あの槍兵を必ず手にいれてみせるわ。どんな手を使ってでもね。

そう、あのヒトを征服し、蹂躙し、己のモノにする。

それは貴方のやり方と同じでしょう?征服王?」

 

その狂気にも似たソラウの執着心を見て、初めてライダーの胸中に不安と絶望感がよぎった。

……どうやら、今回の余はツイていないらしい。

マスターは自分自身の才能に溺れ切っていて足元をすくわれることなど思いもよらない高慢さ。

その妻は、マスターや聖杯戦争など目もくれず、己の執着心と愛欲のまま動きかねない女性。

こんな協力態勢が全く取れていない内紛の種に満ちたマスターたちが戦争で戦いぬけるはずはない。

イスカンダルの戦略家としてのスキルはそう告げていたのだ。

……そして、その不安は恐らくは正しかった。

 

 

 

 

「……やれやれ、ようやく帰ってこれたな。」

 

あの戦いの後、ようやくウェイバーたちはマッケンジー家へと帰還していた。

念のため、追跡を撹乱するために、ウェイバーの魔力を放出しながら街中を散々歩き回った後で

魔力を打ち消す「ベオーズ」のルーンストーンを着用しながら家へと戻ってきた。

「ベオーズ」のルーンは「秘密」を象徴しているので、このルーンストーンを持つことにより、

己の魔力を打ち消す能力があるのである。

このルーンストーンにより、魔術的な感知手段でウェイバーを探索できる確率は限りなく低くなる。

また、念入りに使い魔による尾行がないか探しまわったが、探知できる限りでは監視する使い魔は存在しなかった。

残る可能性としては魔力感知射程外から超々遠距離からでもウェイバーたちを監視できる視覚に特化した使い魔の存在だが、

そんな特殊な汎用性の欠け、作るのに手間暇がかかる使い魔を作るマスターはいないだろうとウェイバーは予想していた。

しかもそんな使い魔が脅威度の低い自分を監視している可能性は低いだろうと思っていた。

(もっとも、結果としてウェイバーのその予想は外れることになるのだが。)

 

 

「おや、ティルさんにウェイバー。

こんなに夜遅くまで出歩くというのは感心できないな。」

 

と、その時丁度マッケンジーとウェイバーたちは鉢合せになってしまう。

まさかこんなに夜遅くまで彼が起きているとは予測していなかったウェイバーは思わず動揺してしまう。

 

「あ……ああ。ごめん、お爺さん。ちょっと用事があって……。」

 

「まあ、若いのだし夜遊びも結構。

だが、連絡を入れないのはよくないな。

さて、風呂は沸いているし食事もできている。好きな時に温めて食べなさい。」

 

「う、うん。そうするよ。ありがとう。」

 

ちくりと、ウェイバーの胸が痛んだ。

彼は本当に心の底からウェイバーの事を心配している。

そして、そんな彼を暗示で騙している自分自身への自己嫌悪を感じてしまっているのだ。

それと同時に、こんな夜遅くまで心配してくれていた彼に対して、温かい感情が湧いてきたのも抑えきれなかった。

そして、ただの利用するはずの相手に情が湧いてきた自分に対して、

自己嫌悪と温かい感情と自分の魔術師としての未熟さを痛感する感情が入り乱れてしまうのだ。

 

その後、風呂に入り、真夜中……というか朝方にベッドに入って、その日の夕方までたっぷりの睡眠を取る。

 

サーヴァントはマスターから供給される魔力が原動力となる。

あれだけの激戦を繰り広げれば、ランサーは基本的に魔力消費が少ないといっても、ウェイバー自身からもかなり魔力を消耗する。

さらにルーンストーンも使用すればなおさらだ。

それゆえ、たっぷりの睡眠と食事が必要になるのである。

ランサーとウェイバーは、ウェイバーの部屋で現在の戦況分析を行うことにした。

 

「よし、それじゃ戦況の分析に入るぞ、ランサー。何かお前の思いつくことがあったら言ってくれ。」

 

「はっ。了解しました。」

 

戦況分析と言っても観察眼や分析能力は非常に優れているウェイバーだが実戦経験がない彼にとっては

実戦経験が豊富で、戦闘経験による現状打破を行えるスキル、心眼(真)を所有するディルムッドは極めて頼りになるアドバイサー的存在なのである。

 

「まずはライダーとケイネスだ。

ライダーの宝具のエンジンとも言える神牛はお前のゲイ・ボウによってかなりのダメージを負っている。

これにより、奴の宝具の威力は大分落ちるはずだ。

ライダーは強力な宝具を所有するクラス。その宝具の威力が削がれれば奴にとってはきついはずだ。」

 

そのウェイバーの言葉に、ランサーは同意して頷く。

 

「その通りかと。ですが油断はなりません。

逆にいえば、彼らはゲイ・ボウによって負わされた傷を癒すために狂ったようにこちらをつけ狙うでしょう。

そして、手負いの獣ほど厄介なもの。追い詰められた敵は実力を遥かに凌駕する力を発揮することもあります。

ゆめゆめ、お忘れなきよう。」

 

「ああ、その通りだ。

くやしいが、僕とケイネスでは奴の方が圧倒的に戦闘力は上だ。

願わくば、持久戦に持ち込めて奴らが自滅するのが一番ベストだが……。

次にバーサーカーだ。お前と奴の戦いを見ていて解ったが、お前のゲイ・ジャルグはバーサーカーの宝具に対して極めて有利だ。

まともに戦えばお前の勝利は揺るぎない。しかもすでにゲイ・ボウで傷を負わせている。

マスターが見えなかったのが気になるが……奴は放置する形でいいだろう。

できれば、バーサーカーが他のサーヴァントを倒して最後にこちらが奴を倒すというのが効率的だが……。」

 

「はっ、あのバーサーカーの実力は俺の直感ですが大英雄クラスに匹敵するかと。

俺以外の相手では苦戦は免れないでしょう。

マスターの戦略は、道理に適っていると判断いたします。」

 

「うん、あとはアサシンとキャスターか……。

こいつらは情報が全くないから対策の立てようもないな。

アサシンの奇襲を警戒しながら、情報を集めていくほかないか。

さて、最後はセイバーだが……。」

 

そこまでウェイバーがいうと、ランサーはざっと部屋の床に正座し、拳を床につけて平伏の体制に入る。

 

「はっ、わが主君よ。

マスターの戦略に異論を述べるは不遜なれど、

このディルムッド、セイバーの件でたっての望みがございます。」

その言葉に、半分予想がついていたウェイバーはため息をつきながら、言葉を続ける。

 

「……まあ、大体想像できるけど言ってみろ。」

 

「はっ、俺の望みは……セイバーとの一騎討ちです。

……確かにこの聖杯戦争においては、聖杯を奪取するのが第一。

汚れ仕事だとはこのディルムッドも理解してはいます。

そして、このような一騎討ちなどこの戦いにおいては愚かの極みとも理解しています。

……だが!しかし!それでも!

俺はあのセイバーと約束をしてしまったのです!主君よ!どうぞ一度のみ!一度のみ俺の我儘を!!」

 

……待てよ、とウェイバーは思った。

聖杯戦争において最優のサーヴァントであるセイバーに一騎討ちを挑むなど愚策中の愚策。

正気とは思えない。

それゆえ、もしそのような事をしたならば、何らかの罠があると警戒するのが常識。

まさか、本当に罠も何もなく、マスターも何も攻撃を仕掛けず、正々堂々の一騎討ちを仕掛けてくるなどだれも予想しまい。

 

ならば、我らはさらに裏の裏をかく。

相手が何らかの罠があるのではないかと疑心暗鬼に陥らせ、力を発揮できない間にランサーの実力をもって正々堂々とセイバーを打倒する。

裏の裏は表だ。実に単純な話である。

特に常に策謀を持って相手と闘う人間、頭が良い人間こそ、より疑心暗鬼に陥りやすい。

そして、疑心暗鬼に陥った敵は警戒しすぎてどんなに強かろうとその力を完全に発揮できない。

下手をすれば自滅する可能性すらあるのだ。

 

「……勝機は?」

 

ぽつりと、ウェイバーは、土下座をしているランサーに問いかけた。

 

「……は?」

 

「だ・か・ら!勝機はあるかって聞いてるんだ!

まさか、『勝ち目はないけど戦いたい』なんて寝言を言ったらさすがの僕でも怒るからな……!!」

 

「は、はっ!

見たところ、セイバーの宝具であろう剣は透明になるだけではなく、真名を持って大威力を発揮する系統かと。

俺が見たところ、セイバーの剣はどうやら聖剣のカテゴリー……それも最高クラスに含まれる剣です。

だが、こちらには、宝具を無効化できる破魔の紅薔薇があります。

我が槍は宝具に頼る敵になればなるほど威力を発揮しますので、宝具を封じてしまえばこちらに有利になります。

セイバーの宝具を封じたとなれば、あとはどちらの技量が上かのみ。

そうであればこのランサー、たとえセイバーであろうとも五分の戦いを行うことができます。」

 

ランサーとてぼうっとセイバーとアーチャーとの戦いを見ていたわけではない。

アーチャーの一撃によってセイバーの黄金の剣が顕わになったさい、しっかりとその形状を頭に叩き込んでいたのである。

セイバーのあの透明な剣は、それ自体が剣を隠すための魔術なのだろう。

なるほど、確かに見えない剣は驚異だ。

だが、一度でもその剣の形状を見たランサーは、剣の形を完全に頭の中に入れてある。

もはや、セイバーのあの透明な剣に惑わされることはない。

 

それに、あの剣の凄まじいほどの輝きは恐らく聖剣……それも最強クラスの聖剣だろう。

一瞬なので銘こそ解らなかったが、それだけは一目見て理解できた。

アレと対抗できるのはそれこそ最強クラスの魔剣、太陽剣グラムや、

光の神ルーが所有する神槍、輝く五星(ブリューナグ)などそれ以上の威力を持つ宝具ぐらいだろう。

なるほど。真っ向面から戦えば、圧倒的な火力によりこちらは殲滅させられるだろう。

 

だが、こちらには宝具を無効化できる破魔の紅薔薇がある。

宝具には大きく分けて二種類ある。

一つは、武器そのものが宝具としての効果をもつ常時発動型のタイプ。

それ自体で敵を倒せるほど強力な威力はないが、戦いを有利な形へと持っていける効果があるタイプである。

だが、その効果は基本的にえげつないものが多く、これにより戦いの雌雄が決することも多い。

ランサーが所有する《破魔の紅薔薇》《必滅の黄薔薇》もこのカテゴリーである。

 

もう一つは、真名の発動と共に大威力を発揮するタイプ。

こちらは凄まじい威力を誇り、ただの一撃で数多くの敵を殲滅することも珍しくはない。

恐らくセイバーの剣はこちらのタイプなのだろう。

(あれほどの聖剣が、ただ透明になる効果だけとはさすがに考えづらい。)

恐らく最高クラスの聖剣であろうセイバーの全力の一撃はどれほどにもなろうか想像もできない。

 

だがしかし、大威力の宝具は、発動するのにほんの僅かながら隙ができてしまう。

それは一瞬にも満たない刹那の瞬間だが、その刹那の瞬間をランサーを生かすことができる。

発動の瞬間さえ逃さなければ、ランサーの《破魔の紅薔薇》はセイバーの宝具の発動を封じることができる。

そして、次の瞬間《必滅の黄薔薇》がセイバーの心臓を貫くだろう。 

その上、まさか最優のサーヴァントであるセイバーに何の策もなく正々堂々の一騎討ちを仕掛けるなど予想はつかないだろう。

策士策に溺れる。

マスターに策に秀でていればいるほど、警戒してその力を発揮できなくなるはずだ。

 

そこまでウェイバーも分析して、ランサーの分析はほぼ正しいと判断した。

セイバーの宝具が封じられた状態で、一対一の近接戦闘で凄まじい技量を誇り、心眼(真)Bを所有するランサーが遅れと取ることはそうそうあるまい。

問題はセイバーのマスターだが、それは先ほど言ったわざと相手を疑心暗鬼に陥らせることにより無効化させる。

そして、ウェイバーは徹底的に身を隠すことを優先し、状況は使い魔によって把握し、何かあったら即座にランサーに指示を出す。

現状、ランサーがセイバーに戦いを挑む時の最善の作戦だろう。

 

「よし、ただし条件が二つほどある。

僕が「撤退しろ」と命じたら必ず撤退しろ。どんな状況であろうともだ。

後は、セイバーにゲイ・ボウを当てる事ができたら撤退に入れ。

この二つは絶対に守れ。それが条件だ。」

 

「はっ!!ありがたき幸せ!!このディルムッド、騎士の誇りをかけてマスターの期待に応えてみせます!!」

 

戦略からすれば下の下であるとウェイバーも思っているが、

バーサーカー、ライダー(正確に言うとその宝具)はランサーのゲイ・ボウに傷つけられている。

ここでセイバーに突っかかっていくような無謀なマネはしまい。

キャスター、アサシンは却下だし、あのアーチャーはセイバーに対して執着心を抱いているようなので戦わせて喰い合いをさせればベストだが、

そううまくはいくまい。

戦略的に考えれば、弱っているライダー、バーサーカーを狩るべきなのだが、もしこの作戦が成功すればメリットも大きい。

もし、セイバーを倒せれば、弱っているライダー、バーサーカーを除き、強敵はアーチャーのみになる。

最悪撤退を命じればいいし、もしゲイ・ボウを当てられればそれでよし。これからの戦いが有利になることは間違いない。

非常にハイリスクだが、試してみる価値はあるだろう。

そうウェイバーは判断した。

 

一方、ディルムッドは自らの主の器の大きさに惚れ込んだといってもいい。

ディルムッドとて、この聖杯戦争が汚れ仕事であり、騎士の誇りなど欠片もないことは熟知している。

だが、それを押してなお、このディルムッドの要望を聞き入れるその度量。

そしてそれだけではなく、冷静に戦況を分析し、自分たちの戦力を把握し、なお外道の手段を使わず戦おうとする姿。

これぞ、まさしく王の器にほかならない。

このディルムッド、必ずやこの新たなる主君に聖杯を捧げてみせましょうぞ。

そう彼は固く心に誓っていた。

 

「よし、じゃあセイバー攻略はそういう形でいこう。

全く姿を現さないキャスター・アサシンについては警戒するよりほかに対処方法がないな……。

アーチャーも同様だ。あの宝具の量……奴は異常だ。今戦いを挑むべきじゃない。

基本的な戦略としてはこんなところか。あとは臨機応変だな。」

 

と、そんな戦略会議が終わったのを見越したように、下からマッケンジー老婆の声が響き渡る。

 

「ティルさん、ウェイバー。ご飯ができましたよ。

冷めないうちに早くいらっしゃい。」

 

その声に応じて、下に降りた二人が目にしたものは、

かなり張りきったとみられる豪勢な食事が食卓に並んでいた。

とりあえず、ウェイバーは席に座ってまずはパンをかじってみる。 それは、いつもの安物のパンではなく、ウェイバー好みの固めの高いパンだった。

しかも、試しに他の食事も口をつけてみると、他の食事も全てウェイバー好みにかなり近づいている。

これほどになるのは、ウェイバーの表情から好みを読み取り、何度もの料理の訓練を行ったのだろう。

しかも、これらはよく見ると、皆栄養のバランスにとれた疲れの取れるものばかりだ。

深夜に帰ってくる彼の体調を気遣ってのことに違いない。

 

……ウェイバーにはもはや家族はいない。

実の母親も彼が魔術協会に入るのを強く反対しており、結局最後まで賛成はしてくれなかった。

そのため、母親とは魔術協会に興味を示したころから喧嘩ばかりで、最後までそれは変わらなかった。

それが、今思えばウェイバーの後悔でもある。

もっときちんと母親と話せておけばよかったのかもしれないと、心のどこかで思っていた。

そして、目の前の老婆の温かい心使いと温かい料理は、家族のいないウェイバーにとっては心に沁み入るものだった。

 

「ど、どうかしら?ウェイバーちゃん。気に入ってくれたかしら?」

 

「……う、うん。おいしいよ。凄く、美味しいよ」

 

そう、母親が亡くなって、ウェイバーは他の人間にここまで心の底から心配されたりすることはなかったのだ。

そして、この老婆が作る食事はまるで彼の母親が作る食事そっくりで。

その味に、ウェイバーの胸が暖かくなって、思わず視界が歪んでしまった。

 

「おや、ウェイバー。もしかして泣いているのかね?

全く、この子は昔から泣き虫の割には強情で……。」

 

「う、うるさいっ!な、泣いてなんかない!ティ、ティル!は、早く食べるぞ!!」

 

叫びながら夢中で食事をかきこむウェイバーの姿を見て、ランサーは微笑ましいを見るように、温かく彼らを見守っていた。

 

 

―――その後、部屋に戻ったウェイバーはランサーと本格的なセイバー対策に入った。

 

「さてと、それでセイバーの見つけ方だが……やはりサーヴァントといえども道なき道を突っ切るよりも主要道路を通った方が速いからな。

主要道路に魔力感知に長けた使い魔を配置しておこう。

お前とセイバーと戦ってる間、僕は使い魔を数匹監視につけておいて遠くから監視しておく。いいな。」

 

その言葉に、ランサーは無言のまま頷いた。

 

 

 

深夜の公道。

閑散としたその道路を疾走する一台の車があった。

メルセデス・ベンツ300SLクーベ。

猛スピードで夜を引き裂いていくその車を運転するのはセイバーの代理マスターであるアイリスフィール。

そして、その助手席に座っているのはセイバーだ。

さすがの彼女も、アイリスフィールの猛スピードによる運転に危機感を抱いていたが、とっさの悪寒に即座に反応する。

瞬間、ベンツの進行方向の遥か先に、まるでベンツの進路を塞ぐように凄まじい勢いで槍が突き刺さった。

 

「アイリスフィール!止まって!」

 

セイバーは乗り出しながらハンドルを握りながら、ブレーキを踏む。

ヘッドライトに照らされるのは、以前見たランサーの魔槍に他ならない。

 

「アイリスフィール。私の傍から離れないように」

 

ようやく停止したベンツから出たセイバーとアイリスフィールの前に、道路に突き刺さった魔槍を引き抜き、切っ先をこちらに向ける軽鎧の長身の影。

間違いない。アレはランサーのサーヴァント。

 

「セイバーよ。以前の約束を守るために参上した。

騎士の誇りをもって、貴様に一騎討ちを申し込む。」

 

「……驚いたな。ランサー。まさか正々堂々の一騎討ちを挑むとは。」

 

「何を驚くセイバー。我らは人々の幻想によって形作られる存在。

例え騎士という存在が幻想だとしても……いや、それからこそ、我らは示さなければならない。

騎士道とは幻想でも甘さでもない。

それを示さんがため、俺は貴様に正々堂々の戦いを申し込む。」

 

ランサーの表情は真摯で瞳は澄み切っている。

何らかの罠か、ランサーのマスターが何らかの策略を仕掛けてくる可能性は十二分にあるが、それでもこう申し込まれて戦いを断るのは騎士王としてできはなしない。

 

「よかろう。その一騎討ち。受けてたとう。」

 

その言葉に、ランサーは嬉しそうににやりと猛禽のような笑みを浮かべると、両手の魔槍を構えて戦闘態勢に入る。

同様に、セイバーも鎧姿へと変貌し、己の剣を構える。

 

「感謝する。……行くぞ!セイバー!!」

 

「来るがいい……!ランサ――ッ!!」

 

全く同時に大地を蹴る両者。

それは神代の英雄の戦いの再現を示していた。

 

「「――推して参るッ――!!!」」

 

凄まじい勢いでぶつかり合う両者。

アスファルトは剥がれ、衝撃波で木々がなぎ倒され、木の葉が飛び散る。

勝負はまさしく互角。

猛烈な勢いで連続して叩き込まれるセイバーの剣戟。

だが、それをランサーは的確にとらえ、全てを受け止め、受け流し、回避していた。

セイバーの剣は風王結界によって隠されており、その間合いを見切るのは容易ではない。

それを紙一重で見切り、回避し、受け止める。

それはセイバーの剣の形状を完全に把握しているに他ならない。

 

「……以前のアーチャーの戦いのあの一瞬で我が剣を見切ったのか。

その技量、恐るべきはランサーか。」

 

そう、ランサーは依然のアーチャーとセイバーの戦いのとき、

アーチャーの宝具によってセイバーの風王結界が解除された瞬間、その形状を完全に記憶していたに違いない。

その程度、心眼(真)Bを所有する彼にとっては容易なことだ。

 

「フフン、かのセイバーにこれほど言われるとは。俺の技量も捨てたものではないらしい。」

 

「戯言を。あのバーサーカーの猛攻を凌ぎ、なおかつ一撃まで入れるその槍捌き。

私が知っている騎士たちですら敵うものは少ないでしょう。

……ですが、私の目とて節穴ではない。貴方の宝具の能力はすでに見切っている。」

 

そう、あのバーサーカーへの攻撃の際、セイバーははっきりとそれを目にしていた。

あの槍への攻撃を仕掛けた時、バーサーカーの重装甲の鎧がその部分だけ「掻き消えて」いたことを。

鎧自体を貫き通すのではなく、装甲自体が掻き消えてしまったという事は、恐らく魔力で構成されている鎧の魔力自体を無効化したのだろう。

いかに強靭であろうとも、魔力によって構築されている鎧が魔力が無効化されたらどうなるか言わずもがなである。

つまり、彼の一つの槍は「魔力を打ち消す能力を持つ」魔槍であるとセイバーは分析したのだ。

 

そして、もう一つの魔槍。

あの連続攻撃の時、ランサーは寸分違わない部分を貫いた。

そして、ちらりと見ただけだが魔力により肉体を再生できるサーヴァントである彼のその傷は全く再生しようとはしなかったのだ。

ならば、もう一つの魔槍とは「癒せない傷を負わせる」魔槍に他ならない。

 

つまり、セイバーにとって有利な点は先ほどのバーサーカー戦でランサーの宝具の能力がすでに判明していることだ。

《破魔の紅薔薇》《必滅の黄薔薇》

このうち、破魔の紅薔薇はあらゆる魔力を一時的に遮断する能力を秘めており、

宝具に依存している英雄にとってはまさしく天敵ともいえる宝具である。

そして、必滅の黄薔薇は、相手に決して癒せない傷を負わせることができる

対象を確実に滅ぼすことのできるかなりえげつない宝具である。

対ランサー戦で最も注意すべきは、破魔の紅薔薇から必滅の黄薔薇への連携である。

基本的にサーヴァントの防具はいかに堅固であろうとそれは魔力によって構築されている。

だが、魔力を遮断し、打ち消す効果を持つ破魔の紅薔薇の前ではそれらはすべて無効化されてしまう。

これを忘れてしまっては致命傷を負いかねないが、その点に気をつければキズを負ったところで

マスターからの回復魔術で回復させてもらえばいい。

しかし、ここに必滅の黄薔薇の連撃が入ると途端に手がおえなくなる。 

バーサーカー戦のように破魔の紅薔薇によって防御が無効化され、そこに必滅の黄薔薇の攻撃をくらえばまずいことになる。

 

それだけではない。

ランサーの《破魔の紅薔薇》はこちらの宝具発動も無効化できる。

セイバーの宝具《約束された勝利の剣》は最高クラスの聖剣であり、星が作り上げた神造兵器である。

これに匹敵する威力を秘めた剣など、最高クラスの魔剣である太陽剣グラムなど数少ない。

ましてや、それを凌駕する威力を持った宝具などほとんどないと言ってもいいだろう。

だが、それゆえ発動には極めて大量の魔力が必要となると同時に、一瞬だけ真名発動の時に隙が出来てしまう。

そして、このランサーならばその一瞬の隙に確実に破魔の紅薔薇を約束された勝利の剣へと当てることができる。

 

「なるほど、貴方のその魔槍の前ならば私の宝具は封じられたも同然でしょう。

ですが、私とて宝具頼りの英霊ではない。

セイバーの名前に恥じぬ我が剣技の冴え、お目に賭けよう。」

 

「よかろう、ならばランサーの名にかけて俺の魔槍の冴えもお目に賭けよう。」

 

そして再びぶつかり合う両者。

いわば、今のセイバーは宝具発動が封じられている状態である。

この状態は完全に拮抗状態である。

 

凄まじい二人の剣戟と魔槍との激突。

大樹がへし折られ、道路のアスファルトが吹き飛ばされる。

剣が、魔槍が縦横無尽に振られるだけで大気が引き裂かれ、衝撃波が発生する。

運が良かったのは、真夜中で全く車が通らないことだろう。

それをセイバーの代理マスターであるアイリスフィールは呆然と見ていた。

まさしく神代の英雄たちの闘争の再現。

 

ランサーは琉麗にして幻惑的な連続攻撃を繰り出し、セイバーは猛烈な凄まじい勢いの剣戟でそれを薙ぎ払い、さらに攻撃を仕掛ける。

その両者を見守るのは、セイバーの代理マスターであるアイリスフィールだけではなかった。

 

「舞弥、そちらはどうだ?ランサーのマスターは発見できたか?」

 

「……いえ、ダメです。発見できません。」

 

セイバーのマスター、衛宮切嗣。

彼はセイバーとランサーとの戦いを即座に感知し、軍用ジープを飛ばして森の木の上に陣取り、赤外線スコープでランサーのマスターを探していた。

同様に、相棒である舞弥の使い魔を動員してランサーのマスターの位置を探していたが、全く発見できなかった。

魔術師は、魔術により身を隠し、それだけですましてしまうことが多いので機械的な探索方法への対策は怠っていることが多い。

だが、この近辺に魔術師らしい反応は全くない。

恐らくランサーのマスターは完璧に隠密に徹しているのだろう。

彼にとっては、こういった油断の全くないマスターの方が戦いにくい。

これではセイバーとランサーの戦いを見守るほかない。切嗣は忌々しげに舌打ちした。

 

 

 

 

―――1方、その頃。

 

「全く……!!天才であるはずのボクが何でこんな所で……!!」

 

ランサーのマスター、ウェイバーは道路の下、通信ケーブルのマンホールに姿を隠していた。

どんなマスターでも、敵が地面の下に隠れているとはなかなか想像できないものだ。

彼が身につけているのは、ランサーの遠距離会話を可能とする「感性」と「水」を意味する「ラグズ」のルーンストーン。

そして自分の発生する魔力を打ち消す能力がある「秘密」を意味する「ベオーズ」のルーンストーン。

そして、念のためにマッケンジー家奇襲の警戒のための「領土」の意味を持つ「オシラ」のルーンストーンである。

 

「ラグズ」のルーンストーンはマスターとサーヴァントとは念話で会話できる能力を持つが、

何かあった時に念のために的確で迅速な指示が出せるようにと持たせたものである。

本来は水系統の魔術を使用できるルーンなのだが、水は感性や霊感などのシンボルにもなっているのでこういう使い方もできるのである。

 

また、「ベオーズ」のルーンは「秘密」を象徴しているので、このルーンストーンを持つことにより、

己の魔力を打ち消す能力があるのである。

このルーンストーンにより、魔術的な感知手段でウェイバーを探索できる確率は限りなく低くなる。

 

そして、「オシラ」のルーンストーンは、「領土」を意味し、これの対となるルーンストーンをマッケンジー家に置いてある。

もしマッケンジー家に強力な魔力を所有する存在が近づいたらそれを感知し、二つとも同様に砕け散る事で敵の接近を知らせる。

これの便利な点は家全体に結界を張っているのではないので、魔力感知ができない。

つまり、大規模な魔力を使用しているわけではないので、魔力的な感知手段ではマッケンジー家は探すことはできないのである。

まだマッケンジー家は敵サーヴァントや敵マスターから探し出されてはいないだろうが、念には念を入れる必要がある。

そして、マンホールに身を隠し、使い魔の視覚を共有しながらセイバーとランサーの戦いを見守っているのである。

今のところ、戦況は互角。

しかし、どんな些細なきっかけで均衡状態が崩れるか分からない。

と、そんな緊張しながら見守るウェイバーだが、腰につけていた警戒用の「オシラ」のルーンストーンがパキンといきなり粉微塵に砕け散る。

それを見て、ウェイバーは大声でランサーも所有している「ラグズ」のルーンストーンにむけて怒鳴った。

 

「ランサー!撤退だ!家が何者かに奇襲されている!!」

 

 

 

 

 

セイバーの魔力放出による猛烈なミドルキックを回避し、こちらへの攻撃に移行しようとしていたランサーに ルーンストーンからウェイバーの大声が響き渡る。

 

《ランサー!撤退だ!家が何者かに奇襲されている!!》

 

「―――っ!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、ランサーは後ろに大きくバックステップして大きく距離を取る、

本来ならば絶好の迎撃の好機であるが、先ほどの声が聞こえたセイバーはあえて迎撃せずに剣を構えたままである。

 

「……行くがいい。ランサー。

貴殿には借りがある。騎士の誇りにかけて後ろから切りかかったりはしないと約定しよう。

我らの闘争はこのような不本意な状態でつけられるべきではない。そうだろう?」

 

「全く、あの時と立場が全く逆になるとはな。

だが……感謝するぞ!セイバー!決着は、いずれまた!」

 

それだけを言うと、ランサーはまさしく疾風と化してその場から離脱した。

 

 

 

まさしく疾風と化したランサーは車すらも凌ぐ速度で道路を疾走し、主の隠れているマンホールの元に向かう。

そこには、ちょうどマンホールから這い出してくるウェイバーの姿があった。

 

「ランサー!家だ!急げ!!」

 

その言葉に応え、ランサーは速度を落とさずにまるでかっさらうように走り抜けながらウェイバーを右手で捕らえ、そのまま再度加速する。

ウェイバーも両腕でランサーに捕まると、何とかその速度に耐えるように歯を食いしばり、目を閉じる。

道路を駆け抜け、街中ではビルとビルの間を飛び越し、さらに加速していくその姿はまさしく疾風そのもの。

そして、そうして駆け抜けつつ、市街地に入ったウェイバーに、強力な魔力による結界が張りめぐされつつあるのが感じられた。

恐らく、この感覚からすると、知覚誤認と光学迷彩の能力を持った人払いの結界だろう。

これならば、どんなに市街地で戦おうと、隣の家ですら感じることはできないだろう。

しかし、これほど高度で大規模な結界を前準備なしでやすやすと張れるサーヴァントとなると、恐らく答えは一つ。

 

「ランサー!恐らくキャスターのサーヴァントだ!注意しろ!!」

 

それに一つ頷くと、ランサーは結界を破りマッケンジー家の庭に着地した。

 

「―――!!」

 

そこでウェイバーは凍りついた。

まるで家を取り囲むように、武器を持った骸骨の群が無数に存在したからである。

―――竜牙兵。

幻想種、竜の牙から生み出されてきた彼らは優秀な戦闘用ゴーレムだ。

だが、竜の牙などレアなものを使いこなすなど、やはり敵はキャスターの可能性が非常に高い。

だが……いかに竜の牙から生まれた優秀な兵士であろうと、サーヴァントの敵ではない。

ランサーのゲイ・ジャルグが横凪に一閃した瞬間、大地から得た魔力が遮断されガラガラと地面に崩れ落ちる。

だが、竜牙兵の最も恐るべきところはその数だ。

無数ともいえる竜牙兵を前に、ランサーはウェイバーを片手で抱えながら、ゲイジャルグを振りかざし、突撃していく。

大地の魔力を受けて動く竜牙兵は、魔力を一瞬だけ打ち消すゲイジャルグにとっては足止めにもなりはしない。

横凪に薙ぎ払い、刺し貫き、斬り裂きながらマッケンジー家の庭を突っ切り、そのまま家の中に突撃する。

―――その中には、気を失ったマッケンジー夫婦と、フードをかぶった女性の姿があった。

あれほどの魔力を身にまとい、しかもこれほどの結界を容易く構築できるなど、サーヴァントといえどそうそうできるものではない。

―――キャスターのサーヴァント。

あの女性はそうであるとウェイバーは判断した。

 

「ふふ、始めましてね。ランサー。そしてランサーのマスター。

私はキャスターのサーヴァント。

……ああ、下手なことはしないほうがいいわよ。」

 

そういいながら、彼女は手にした己の杖をマッケンジー夫婦へと向ける。

対魔力も全くない一般人では、キャスターの前ではまさしく赤子同然だ。

ほんの少し魔力を込めただけで、容易くあの老人たちは永久の眠りにつくだろう。

それを知っているウェイバーは思わず歯がみする。

 

「さて、いきなりだけど要件に入らせていただくわ。

ランサーのマスター。令呪を私に渡してランサーを私に譲りなさい。

そうすれば、この老人たちには何も危害は与えないわ」

 

そのキャスターの言葉に、ウェイバーはギリギリとさらに悔しさに歯がみしながら言葉を続ける。

 

「……そう言ってはいそうですか、とランサーを渡せるとでも思っているのか。」

 

そのウェイバーの答えにキャスターは口元だけで妖艶に微笑み言葉を続ける。

 

「坊や。あなたの意見は聞いていないわ。

これは命令よ。逆らうことは許さないわ。

そうね、まずはランサーのその厄介な魔槍を捨てるよう命令しなさい。

特に魔力を無効化する魔槍は私にとって天敵ともいえる武装ですからね。」

 

それを聞いて、さらに鋭くキャスターを睨みつけながら、ウェイバーはランサーに向かって重い口を開く。

 

「……ランサー。槍を捨てろ。」

 

「―――っ!!し、しかしそれでは主が……。」

 

「うるさいっ!!ボクが命令しているんだ!さっさと捨てろっ!!

目の前の身内を見捨てて……それでもなお奇跡にすがって望みを叶えて何になるっていうんだ!!

そんな考えなんてクソくらえだ!ボクは……ボクはそんなのは認めないっ!!

ボクは自分の身内を見捨てはしないぞっ!!絶対にだ!」

 

「「――――っ!!」」

 

その言葉に、呆然とするキャスターとランサーだったが、それを聞いた一瞬後にキャスターは大爆笑する。

 

「あはははは!!実にご立派ね!ランサーのマスター!!

けど、私はそういう考えは嫌いではなくてよ。

……もし、貴方が私のマスターなら……もしイアソンがそんな性格なら……。

いえ、もしもの話はよしましょう。

けど、貴方の事は気に入ったわ。ランサーのマスター。

特別に令呪を奪った後は好きにしていいわ。この老人たちの命も我が真名において保障しましょう。

……ランサー、まずはその魔槍を二本とも床に置きなさい。この老人たちと交換条件でね。」

 

その言葉に、ランサーは綺麗な顔を歪めて吐き捨てる。

 

「……ゲスめ。」

 

「ふふふ。ランサー。そこまでにしておいたほうがいいわよ?

そんなに囀ったら思わずじっくりと可愛がってあげなくなってしまうわ。

さて、その双槍をこちらに渡してもらいましょうか。

……私ね、貴方みたいな存在って大嫌いなの。

せいぜいみじめに使い潰してあげるから、今のうちに覚悟しておきなさいな。」

 

確かにキャスターはランサー……というかこういう顔のいい男は大嫌いである。

だが、戦略的な駒としては極めて優秀であるとも戦いを観察して熟知している。

ならば、せいぜい無様に思う存分使い潰すだけの事。

そうキャスターは判断しているのだ。

 

「くっ……。」

 

しぶしぶと、ランサーは自らの双槍《破魔の紅薔薇》と《必滅の黄薔薇》を床に置く。

ランサーのマスターの方は何やら妙な魔石を持っているようだが、あの程度の魔力量なら問題はあるまい。

そもそも、人間の身で英霊に適うなどよほどの例外でなければありえないのだから。

 

床に置かれたニ本の魔槍を、ガシャガシャと動く竜牙兵が回収し、キャスターのそばで待機する。

そして、彼女は約束を守り、代償として、マッケンジー夫婦二人をウェイバーの足元に運んでくる。

 

確かに、ランサーも戦士の心得として無手での格闘術を身につけてはいるが、

これだけの数の兵士、しかも魔術に長けたキャスターを相手にするには心もとない上に、人質までいる。

いかにマッケンジー夫婦がこちらに返されたとはいえ、彼女がほんの少し魔力を込めればあっさりと永久の眠りについてしまうのは変わりはない。

 

進退きわまった状態でありながら、ウェイバーは全力でこの状況の打開策を考えていた。

何か、何かないのか。

考えろ、考えろ、考えろ。

この土壇場の最悪の状況を逆転できるとっておきの秘策を―――!!

 

と、ちらりと、ウェイバーの目に一つのものが目に入った。

それは、宝具ベガルタの模造品。

ランサーを召喚するために使用した聖遺物である。

ウェイバーはマッケンジーに怪しまれないように、美術品として見せた後でそのまま居間に置いておいたのである。

……アレだ!

そろりそろりと、キャスターや竜牙兵に気づかれないように、少しづつウェイバーはそちらに近づいていく。

そして、ある程度近づいた瞬間、竜牙兵をかいくぐり、ダッシュで鞘に納められた模造ベガルタを手にとって、ランサーに向かって叫びながら放り投げる。

 

「ランサー!これを……使えぇええええっ!!」

 

「―――!?承知!!」

 

ウェイバーの意図を瞬時に悟ったランサーは放り投げられた模造ベガルタを受けとめると、即座に鞘から抜き放ち、キャスターにその切っ先を突き付ける。

まるで本当の主人の手に戻ったことを喜ぶように、剣に納められた本物のベガルタの破片が光り輝き、その光が蒼崎が刻んだルーンの刃に纏わりつく。

 

「まさかソレは……宝具!?」

 

それを見て、一瞬目を見開くキャスターだが、瞬時に余裕の笑みに変わる

 

「……いえ、その宝具としては異常なほどの魔力の弱さ。ふふ、ただの模造品じゃないの。

そんな偽物の粗悪な剣で私に立ち向かうなど……笑止ね。」

 

「感謝します。我が主よ。俺の……いえ、主の剣を俺に渡してくれるとは。

久し振りに俺の剣を見せる時が来たようだな。

さあ、来るがいい。魔女よ。貴様の愚かさ、我が剣にて示してくれる。」

 

にやり、と剣を横に構えながらランサー……いや、今や剣鬼と化したディルムッドは不敵に微笑んだ。

 

 

「くす。何を戯言を言っているのかしら?

貴方はランサー……槍兵にすぎないのでしょう?

ランサーがセイバーの真似事をするなんて滑稽ね。

ましてやそんな粗悪な模造品で私の竜牙兵に勝てるとでも?」

 

確かに常識的に考えればキャスターの思考は正しい。

どんな戦士であろうと得意の武器以外では戦闘能力が格段に落ちてしまう。

当然、戦士としてさまざまな武器を使いこなす訓練も受けているだろうが、

それでも本来の武器に比べればかなり劣ってしまう。

ましてや、彼の手にあるのはキャスターから見ればほとんど神秘のない、ただの金属の塊にすぎない。

 

……だが、彼女は知らなかったのだ。

このランサー……ディルムッド・オディナは魔槍だけではなく、

モラルタ、ベガルタと呼ばれる魔剣を使いこなし、伝承を残したほど英霊であると。

 

「侮ったな、魔女よ。俺の……剣を!!」

 

瞬間、彼は大地を蹴り、模造ベガルタを振りかざしながら竜牙兵の群に突っ込んでいく。

横凪の一撃により、数体の竜牙兵があっさりと破壊され、振り下ろされる刃により一刀両断にする。

さらに、武器を振りかざしランサーを包み込むように攻撃をしかける竜牙兵だが、

それらを回避し、頭に拳をたたき込み、剣の柄で破壊し、さらに苛烈な剣撃により竜牙兵の群を破壊していく。

だが、その苛烈にして華麗極まりない剣撃。

踊り狂うような優美にして猛烈極まりない一撃は、彼をランサーではなくセイバーと誤解させるほどのものだった。

もし、彼が本物のベガルタとモラルタを所有していたのなら、セイバーであろうと互角の勝負ができるのではないかと思えるほどだった。

 

だが、いかに本物のベガルタの破片が埋め込まれ、蒼崎のルーンが刻み込まれているとはいえ所詮模造品。

いや、模造というのもおごがましい粗悪品でしかない。

サーヴァントの剣撃は達人を遥かに凌駕する。そんな一撃を食らわせれば粗悪品であるこの剣は粉微塵に砕けるだろう。

それを知っているディルムッドはできるだけ剣に負担をかけないようにしながら攻撃を仕掛けている。

当然、剣の負担を気にしているようでは全力の一撃など出せようはずもない。

それゆえ、彼は剣にできるだけ負担をかけないようにしながらも、

苛烈な斬撃を竜牙兵に叩き込んでいく。

それはまさしく達人の剣の使い方であった。

 

「なっ……!まさか!槍兵のくせにここまで剣の実力があるなんて……っ!?」

 

さらに突っ込んでいき、力強い振り下ろしから、手首を返し、斜め上へと剣を跳ね上げる。

それだけで再び数体の竜牙兵の群が破壊される。

この模造ベガルタは、いかに本物の破片が組み込んであり、頑丈に作ってあるからといっても、サーヴァントからしてみれば脆いことこの上ない。

本気で振り下ろせば、たちまち粉微塵に砕けるだろう。

そのため、ディルムッドは剣に負担をかけずに相手を切り裂いているのだ。

それだけでも、彼の腕前がわかるだろう。

そう、己の主の手から例え一時的にでも「下賜」された剣を、己の信頼が託された剣を破壊するなど、彼の騎士道が断じて許しはしない。

 

「返してもらうぞ……。俺の槍を!キャスターッツ!!」

 

その言葉と同時に、ディルムッドは跳躍し、キャスターの傍にいる魔槍をもった竜牙兵に体重を乗せた振り下ろしを叩きこむ。

そして、もう一体に鋭い突きをたたき込み破壊し、己の2本の魔槍を取り戻す。

 

「くっ……!!圧迫(アトラス)!!」

 

だが、キャスターも高速神言を持つほどの神代の魔術師である。

彼女は瞬時に大魔術クラスの魔術を使用する。

瞬間、ランサーの体の周囲のエーテルが半固定化し、凄まじい勢いでランサーを締め付け、押しつぶそうとする。

圧迫(アトラス)の魔術。

通常のサーヴァントならば容易く押しつぶされてしまうほどの超圧力。

だが。

 

「俺を舐めるな!キャスター!!」

 

次の瞬間、半固定化された凄まじい圧力でランサーを押しつぶそうとしていたエーテルが粉微塵に砕け散る。

ランサーはセイバーに次ぐ対魔力Bを所有している。

このレベルでは、大魔術クラスでも傷つけることが難しい。

さすがに多少はダメージがあるが、あの程度でランサーは滅ぼせない。

自らの魔槍を取り戻したランサーは、何のためらいもなく、《必滅の黄薔薇》をキャスターに向かって突きをいれる。

 

「――――!!」

 

だが、その一撃は空しく空を切る。

どうやら、これまでと瞬間移動で逃げたらしい。

彼女がいた空中を睨みつけながら、ランサーは呟く。

 

「俺の主をここまで侮辱するとはな。

魔女め。その愚かさたっぷりと思い知らせてやる。」

 

彼のその呟きは、空中に消えていった。

 


 

こんにちわ。零です。

読んでいただきましてありがとうございます。

 

とりあえず今のイスカンダルの心境は「ダメだこいつら。早く何とかしないと……」という状態です。わりとマジに。

征服王のファンのみなさん、申し訳ありません。orz

でも、ここから頑張ってほしいですね。

 

模造ベガルタのシーンは始めから入れたかったシーンなんです。

「ディルムッドに模造ベガルタ握らせてぇ!」→

「でも魔槍があるのにわざわざ弱い模造ベガルタを使わないよなあ……」→

「じゃあ魔槍を振るえない状態にすればいいんじゃね?」という考えで、キャスター襲撃シーンになりました。

 

 

よろしければ感想などを送っていただけると嬉しいです。

作者が大喜びいたします。

それでは。

 

なお、これらの小説は全てフィクションであり

実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。

また登場する人物は全て18歳以上です。

 

 

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