Fate/-(フェイト・マイナス)   作:名無しのレイ

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第六話

 

 ―――ちょうど、ランサーたちとキャスターが交戦状態に入ったその頃。

 冬木市の上空、未遠川の上を巨大な黄金の物体が飛行していた。

 それは太古の昔、インドの空を駆けまわったとされる飛行宝具ヴィマーナである。

 20mほどの巨大な黄金とエメラルドで出来た船は、王座にギルガメッシュを乗せながら、ゆっくりと上空を旋回していた。

 ヴィマーナには周囲に溶け込む光学迷彩のフィールドが存在し、普通の人間には見えないようになっている。

 そうでなくては、こんな巨大な黄金の船が浮かんでいるのに大騒ぎにならないはずはない。

 魔術の隠蔽の件から考えても、何とか時臣が説得して不可視フィールドを張らせて飛行しているのである。

 それゆえ、これほど大きな物体が飛行していても街の人間は気づかない。

 

 「フン、セイバーめ。穴熊を決め込むほど大人しい女でもあるまい。

 さて、どう出るかな。」

 

 ヴィマーナの王座に腰をかけているギルガメッシュは、時臣に聞こえぬようにぽつりと呟いた。

 ギルガメッシュの目的は、あくまでセイバーを捜し出す事。

 恐らくは、他のサーヴァントを求めて、今日もあのセイバーは街中を駆けずり回っているに違いない。

 以前のセイバーとの戦いで、ギルガメッシュは彼女の他のサーヴァントにはない輝きを気に入っていた。

 アインツベルンの城に籠り穴熊になるほど、あの女が大人しくなるはずはない。

 そして、そんな大人しい女性に好意を抱くギルガメッシュではありえない。

 だが、そんなギルガメッシュに対して、彼のマスターでありながら彼に敬意を取る形の遠坂時臣が意見する。

 

 「ですが、王よ。いくら他のサーヴァントへの挑発にしてもこれは少しやり過ぎでは……。」

 

 「ふん、時臣よ。我に大人しくしておけとでも諫言する気か?

 王たるもの、常に威風堂々とせねばならぬ。

 ……だが、王たるものがそう易々と民の前に姿を現わしてはならぬのも事実。

 他のサーヴァントどもを一掃し、聖杯を手にした暁には威風堂々たる王の凱旋で雑種どもを統べてやろう。」

 

 ギルガメッシュがヴィマーナを発動させたのは単にセイバーを探すだけではない。

 これは他のサーヴァントやマスターに対する挑発である。

 正面切っての戦いならば、英雄王たるギルガメッシュに勝てるサーヴァントは存在しない。

 だが、穴熊を決め込み、影でこそこそと動き回るような輩は叩きつぶすのに時間がかかる。

 (いかに情報収集用に言峰のアサシンがいるとしても、彼女は本来正式なアサシンではないし、

 情報収集用のスキルがない彼女では完璧に敵マスターを調べることは難しい)

 ならば、手っとり早く穴熊を決め込む輩に対して餌をぶら下げればのこのこと姿を現すはずである。

 

 凄まじい速度でヴィマーナはさらに冬木市上空を旋回する。

 だが、ここでギルガメッシュの慢心が発動していた。

 確かに光学迷彩によってその姿は市民からは隠されているが、軍事用の防空網のレーダーまでは隠し切れていなかったのである。

 まあ、いくら世界から知識を与えられているとは言っても、近代の航空戦や防衛網、レーダーシステムまで詳しく教えてくれるはずはない。

 そして、時臣も魔術師としては超一流だが、機械などにとんと疎い彼がレーダーや防空網など知るよしもない。

 いきなりレーダーに現れた巨大な不明機により、近くの軍事基地はパニックになり、スクランブルがかかったF-15が緊急発進しているのだが、

 そんな事を二人が知るよしもなかった。

 

 

 そして、その光輝たる船を地上で憎悪と憤怒に満ちた目で睨みつける一人の異様な男の姿があった。

 魔術的な光学迷彩を施したヴィマーナを見れるなど、通常の人間ではありえない。

 フードを被って顔を隠しているが、その顔は、体内に存在する刻印蟲の影響により変形していた。

 間桐雁夜。

 バーサーカーのマスターである彼は、体内に魔術回路を補う刻印蟲を埋め込み、その肉体はすでに崩壊しつつある。

 だが、それでも構わない。

 彼は―――を救えさえすればそれでいいのだ。

 

 「う……うう……時臣……時臣……。」

 

 ずずず、と彼の背後から霊体化していたバーサーカーが姿を現す。

 ランサーの必滅の黄薔薇によって肩の傷は当然癒えないままではあるが、それでもその戦闘能力は今だ凄まじいものがある。

 漆黒の禍々しい鎧に包まれたその姿。そして、その兜のスリットはさらに禍々しい赤い光が放たれていた。

 時臣がアーチャーと共に現れたのなら、こちらがやるべき事は一つだけである。

 憎悪と憤怒に身を焦がし、刻印蟲により肉体を崩壊させながら、彼はバーサーカーに命令を下した。

 

 

 

 

 一方その時、スクランブル発進を受けて発進したF-15二機、

コールサイン、ディアボロ1とディアボロ2は音速で飛行しながら冬木市上空で困惑していた。

 スクランブルを受けて発進したのはいいが国際不明機は影も形も見当たらない。

 恐らくレーダーの異常か故障ではないか、と彼らは思い始めていた。

 

 『可笑しいな……確かにレーダーではここらへんに巨大な飛行物体が観測されているんだが……』

 

 二機のF-15は二機編成のエレメントで息の合った華麗な飛行を行いながらも、この一帯の区域を探索する。

 だが、光学迷彩を行っているヴィマーナを発見できるはずもない。

 アーチャーの方もたかが番犬ごときが傍を通り過ぎただけでむきになったりはしない。

 (こちらに牙をむくような番犬ならば別だが)

 

 『それこそ未確認飛行物体じゃないのか?まあ、レーダーの不調が正解だろうさ。

 ディアボロ1よりHQ。飛行物体は確認できず。繰り返す、飛行物体は確認できず。これより帰投する』

 

 冬木センタービル。

 高層ビルの上、黒い禍々しい甲冑で全身を覆った狂戦士……バーサーカーの姿があった。

 彼の手にはとてつもなく長い鉄で出来た鎖が存在した。

 これは、雁夜が臓硯から受け取った特注の鎖である。

 その鎖は、バーサーカーの手から放たれる禍々しい光が巻き付き、まるで生き物のようにじゃらりと蠢く。

 バーサーカーの宝具『ナイト・オブ・オーナー』の力により、

疑似的な宝具へと変貌しているのだ。

 

 今や、鎖としての属性を強化され、疑似的な宝具となったこの鎖は

 『自動的に獲物を捕え、束縛する』という能力が宿っているのだ。

 

 バーサーカーは、ひゅんひゅんと鎖を回転させると、F-15がビルにできるだけ近づいてくるのをじっとひたすら待つ。

 そして、ぎりぎりまでF-15が近付いた瞬間、鎖を投げつける。

 疑似的な宝具へと変貌している鎖は、音速を超えて自在に飛行するF-15へとまるで蛇のようにジグザグに自在に空中を高速で舞い、

 F-15の胴体へと突き刺さる。

 

 『―――ッ!?ディアボロ1より何者かの攻撃を受けた模様!!

 地対空ミサイル!?対空火器!?いや、ここは日本だぞ!?そんなものはないはずだ!!』

 

 F-15のチタン合金で出来た胴体に食い込んだ鎖は、音速で飛行するF-15に引っ張られ、

 あっという間にピン、と完全に引き伸ばされる。

 バーサーカーはそのまま、その鎖を自分の腕に巻きつけると、凄まじい勢いで引きずられ、あっというまに空中へと投げ出される。

 空中を飛翔するF-15と、それに空中で鎖で吊り下げられる形のバーサーカー。

 禍々しい漆黒の光が纏わりついた鎖はまるでウィンチアンカーのようにじゃらじゃらとバーサーカーの腕に巻きあげられ、

 瞬時に、バーサーカーは吊り下げられる体勢から、鎖が巻きあげられF-15に肉薄する。

 そして、次の瞬間、片手に鎖を巻きつかせながら、テニスコートと揶揄されるほどに広いF-15の胴体上部に着地する。

 黒い甲冑を纏った手がF-15に触れた瞬間、その手から放たれる禍々しい黒い光が今度はF-15をじわじわと覆い尽くす。

 

 『――――!!』

 

 科学の力で作られた鋼鉄の翼は、瞬時に異型の漆黒の翼へと変貌していった。

 今のF-15Jは完全にバーサーカーの支配下へと置かれ、彼の『宝具』へと変貌しているのだ。

 コクピットの内部にいるディアボロ1は声にならない悲鳴をあげながら何とか振り落とそうと操縦棹を動かしながら、確認しようと後ろを振り返る。

 最後に見えたのはこちらに向かって鎖を握りしめながら拳を振り上げて突進してくる黒い鎧姿。

 ……それが彼の見た最後の映像だった。

 ―――やがて、F-15は完全に漆黒に塗りつぶされ、完全にバーサーカーの支配下へと入った。

 

 「やれ!バーサーカー!!ヤツを……時臣を倒せ!ヤツのサーヴァントも倒せ!やれぇえええっ!!」

 

 F-15を完全に支配下に置いたバーサーカーは、超音速で同様に超音速で空を舞う光舟へと猛獣のように襲いかかる。

 アフターバーナーをオンにして、猛烈な勢いで迫りくるF-15を見て、ヴィマーナの王座に腰をかけるギルガメッシュはせせら笑う。

 

 「フン、地を這いずり回る狂犬の分際で、王が支配する空を汚そうとは……。

 度し難いな!狂犬!!」

 

 当然のことながら、サーヴァントであるバーサーカーにはヴィマーナの光学迷彩は通用しない。

 さらに、戦闘の邪魔になるので、ギルガメッシュはヴィマーナの光学迷彩を解除し、出力を戦闘出力へと移行する。

 ヴィマーナの周囲の空間が歪み、そこからミサイルに劣らぬ猛烈な勢いで射出される宝具を、

 バーサーカーのF-15は華麗に回避し、一旦距離を置く。

 だが、再び猛烈で強引な加速により空中で宙返りを行い、ヴィマーナに呪装化ミサイルと化したサイドワインダーを二発連続で放つ。

 ギルガメッシュは優美な機動で一発目を回避し、もう一発を展開した盾で防御する。

 

 「ほう……なかなか楽しませてくれるではないか!狂犬!!

 このような戯れ合いを思いつくとは随分と興じさせてくれる!!」

 

 「王よ。それでは、私はあの狂犬のマスターを倒しに行ってまいります。

 どうぞご存分にお楽しみください」

 

 そう言いながら、時臣は何のためらいもなくヴィマーナから飛び降りた。

 質量操作と気流制御の二重呪法。

 熟練の魔術師であればこの程度どうということはない。

 そして、ヴィマーナとF-15の二体のさらに凄まじい空中戦は再開された。

 

 

 

 『な……なんだ!何がどうなっているんだ!!』

 

 一方、錯乱していたのはもう一方のエレメントのウィングマンであるF-15のパイロット、ディアボロ2だった。

 ディアボロ1はあの妙な鎧に取りつかれ、機体の色や機動自体が全く変わっている。

 あんな機動はいくらベテランでもできないはずだ。

 

 さらに、目の前には巨大な光り輝く舟?としか表現しようのない物体がいきなり出現し、高速で戦闘を始めている。

 (戦闘に突入したことで、ギルガメッシュはヴィマーナの光学迷彩を切ったのである)

 これで錯乱しない方がどうかしている。

 おまけに漆黒のF-15と輝く舟は空中戦を始めてしまっている。

 恐らく、キャノピーが完全に破壊されている事からディアボロ1はもう絶望的だろう。それをなしたのは、あの鎧姿のヤツに違いない。

 その瞬間、ディアボロ2の闘争心が燃え上がった。

 

 『行くぞ!ディアボロ2―――エンゲージ(交戦開始)!!』

 

 ヴィマーナに襲いかかる事に気を取られているバーサーカーのF-15に向けて、彼はM61バルカン砲の機関銃を放つ。

 バーサーカーは動物的な感でそれを宙返りで回避するが、その隙を狙って、ディアボロ2はバーサーカーのF-15の真後ろにぴったりと張り付く。

 

 『ディアボロ2、フォックス2!!』

 

 レーダーロックされた漆黒のF-15に向けて、ディアブロ2のF-15のサイドワインダーが発射される。

 発射されたサイドワインダーは凄まじい勢いで飛行するバーサーカーのF-15の追跡を行う。

 だが、バーサーカーはF-15は機体からフレアがさらに強化された火球を放出し、さらに物理法則を無視したUFOのようなジグザグな飛行を行う。

 さすがに、サイドワインダーもこれを追尾しきれず、目標をロストする。

 だが、ここでディアブロ2への悲劇が起った。

 バーサーカーのF-15をロストしたサイドワインダーが偶然にもギルガメッシュのヴィマーナへと突っ込んでいったのだ。

 ギルガメッシュは、ゲードオブバビロンでそれを容易く迎撃するが、彼の赤い瞳がぎろり、と不愉快そうにディアボロ2のF-15を睨みつける。

 

 「ほう……。番犬の分際で我に楯突くとは……。

 この非礼、到底許せるものではないぞ!雑種が!!」

 

 次の瞬間、凄まじい勢いで、ヴィマーナからディアボロ2に向けてゲードオブバビロンからの宝具が射出される。

 ミサイルに勝るとも劣らぬ速度と威力。

 おまけにチャフやフレアもきかない。

 宝具のことなどまるで知らない彼であったが、あんなものを食らって戦闘機が無事でいられるはずはない。

 彼は反射的に回避行動を取り、一気に機体を急降下させるが、それでも追尾機能のある宝具や、その的確な射撃を行うギルガメッシュの宝具からは逃れられない。

 ここまでか、とディアボロ2は覚悟し、ベイルアウトのためイジェクションレバーに手を伸ばす。

 

 「風王鉄鎚(ストライク・エア)ッ!!」

 

 その瞬間、超音速の中、聞こえるはずもない凛とした声が響き渡った気がした。

 次の瞬間、地上から凄まじい轟風がまるで対空砲火のように迸り、

 その轟風の破城鎚は、F-15を狙っていたギルガメッシュの宝具を悉く明後日の方向へとそらす。

 宝具『風王結界』の変則技、風王鉄槌。

 セイバーのエクスカリバーを覆う風王結界を解き放つ事により、閉じ込められていた超高圧の風が解き放たれ、

 全ての存在を吹き飛ばす強力極まりない疾風の破城鎚へと変貌するのだ。

 これだけの猛烈な疾風ならば、ギルガメッシュの宝具の攻撃をそらせる事も容易い。

 ―――そして、それを成せるのは一人しか存在しない。

 

 急降下している、ディアボロ2は自然に地上を確認して奇妙な人影を見つけた。

 それは時代遅れ極まりない鎧を身に纏い、輝くような金髪をし、ここからでも見えるほどの凄まじい光を放つ西洋剣を持つ少女。

 ―――セイバーのサーヴァント。

 アーチャーやバーサーカーの戦闘を探知した彼女は何のためらいもなくこの戦場へと飛び込んできた。

 恐らくは、マスターである切嗣もこの戦場にいるはずだが、連絡の取れないセイバーではよくわからない。

 当然、ディアボロ2がセイバーの事など知るはずもない。

 だが、どうやったかは知らないが、どうやら彼女が助けてくれたらしい、とディアボロ2は本能的に察知した。

 

 「―――退け!この地の守護者よ!貴方はここで倒れるべきではない!!」

 

 セイバーは大声で天空を駆けるF-15に叫ぶが、その声がディアボロ2に聞こえるはずもない。

 ……だが、イーグルドライバーである彼は、現状では戦況は極めてこちらに不利であると判断していた。

 あんな良く分からない凄まじい戦闘能力を秘めた未確認飛行体に単騎で挑むなど無謀極まりない。

 

 『ディアボロ2、これより戦域から離脱する。アフターバーナーオン!!』

 

 彼はF-15の機体を立て直すと、即座にその空域から離脱に入った。

 ……離脱する中、地上にいる鎧姿の彼女の金髪と光り輝く剣が、いつまでも彼の脳裏に残っていた。

 

 

 

 

 超音速で離脱していくF-15を見て、セイバーは遠い目をした。

 かつて古の時代、様々な異民族がブリテンへの侵攻を開始した時代。

 セイバーを筆頭する円卓の騎士は、キャメロットを主城とし、ローマ時代に造られたハドリアヌスの壁を防壁にして異民族からの侵攻を防いだ。

 ブリテンを守護し、安泰と平和を齎すために戦ったあの時。

 日本のために戦うF-15を見て、セイバーが親近感を感じても全く不思議ではあるまい。

 彼女は、目を閉じると静かに呟いた。

 

 「……守護者よ。貴方の悔しい気持ちはよく解る。

 私の故郷、ブリテンも他国の侵攻にさらされていたのだから。」

 

 そう、度重なる戦乱、あらゆる悲劇と憎悪、そして理不尽にさらされる無辜の民。

 それらを見過ごせずに、彼女は剣を手にとったのだ。

 例え、その先に破滅が待ち受けようとも。

 

 「それゆえ、貴方の気持ちをこの剣に託そう。

 ええ、サーヴァントを討つのは、サーヴァントの役目ですから。」

 

 き、と目を見開くと、セイバーは露わになったエクスカリバーを大きく振りかぶり、

 構えを取って天空を飛行するバーサーカーとアーチャーに向かって叫ぶ。

 

 「―――来るがいい!!アーチャー!そしてバーサーカー!!

 貴様らがいかに空を駆けようと―――守護者に代わってこの剣が貴様らを葬る!!」

 

 

 

 

 未遠川のほとり、ケイネスが拠点としている倉庫街とはまたべつの倉庫街。

 そんな彼らを見つめる二つの影があった。

 ケイネス・アーチボルトとライダーの二人である。

 天空を飛び交うヴィマーナとバーサーカーのF-15を見て、ケイネスは顔を歪める。

 

 「……フン、アーチャーにバーサーカーめ。随分と派手にやっているな。

 さらにセイバーまで出て来るとはな。」

 

 だが、これはある意味ケイネスの思い通りである。

 こうなれば恐らくは、バーサーカー、アーチャー、セイバーのマスターも近くにいるに違いない。

 アーチャーのマスターが『あの』トオサカである事はケイネスの調査の結果解った事だ。

 五人しか存在しない根源に辿り着いた『魔法使い』

 その一人『宝石のゼルレッチ』に教えを受けて生き延びた魔法使いの弟子である。

 魔法使いの弟子を倒したとなれば、天才の誉れ高いケイネスの名前も、アーチボルト家の名前もさらに上がることは間違いない。

 セイバーの方はあの聖杯の器を作り出す千年の年月を積み重ねたアインツベルンだ。

 今回投入されているのは戦闘に長けた雇われ魔術師だと聞いているが、それでもかの御三家のうちの一つを倒したとなれば、大手柄だ。

 さらにマスターを倒せばセイバーも自然消滅する。サーヴァント最優のセイバーがいなくなればこちらにだいぶ有利に進む。

 そうなればソラウのこちらを見る目も大分変わるだろう、とケイネスは密やかにほくそ笑んだ。

 

 そして、もう一体のバーサーカーのマスターは恐らく御三家のマキリの魔術師である可能性が高いとケイネスは推測していた。

 セイバーはアインツベルン、アーチャーはトオサカ、ランサーはウェイバー、ライダーは自分となれば、

 残る可能性は、バーサーカー、アサシン、キャスターである。

 アサシンやキャスターの可能性も高かったが、以前のセイバーやアーチャー、バーサーカーとの激突の時に、

 ケイネスの使い魔は、戦場を監視している蟲の存在を的確に捕えていた。

 となれば、マキリの家系の魔術師がバーサーカーのマスターである可能性は高い。

 だが、いかに御三家の一つであり、サーヴァントシステムの構築者だとしても、零落したマキリの家系の魔術師など倒してもソラウは褒めはしまい。

 しかし、今のバーサーカーはランサーの魔槍の攻撃を受けており弱体化している。

 弱体化したバーサーカーを倒せば確実に聖杯戦争で有利になれることは明白だ。

 戦況を有利に進めるための次の手を打っておくことも必要なのである。

 

 「よし、ライダー。

 優先順位はアーチャーを第一目標とする。それがだめなら、バーサーカーでも構わん。

 セイバーにはできるなら手を出すなよ。

 貴様の宝具の一つ『ゴルディアス・ホイール』はランサーの攻撃によって威力が落ちているのだからな。」

 

 「……了解した。だが、戦場では不確定要素も多くある。

 いざとなったらこちらの独断で動かせてもらうぞ。」

 

 そういうと、ライダーは自分の宝具であるゴルディアスホイールを召喚すると、ひらりと御者台へと飛び乗るとケイネスに向かって声をかける。

 

 「気をつけるがいいマスターよ。

 この乱戦状態では、貴様を狙う敵マスターもいる可能性は十分にあるからな。」

 

 このケイネスを襲うような愚かなマスターなどたちまち打ち倒してくれる、と

 その忠告を鼻でせせら笑うケイネスは、ライダーがゴルディアスホイールが空を疾走するのを見届けると、手にした巨大な壺を地面に下ろす。

 軽量化の魔術をかけてあるが、本来凄まじい重量を誇るその壺は、ズン、とアスファルトにめり込む。

 そして、その壺の中からズルズルと水銀が這い出してくる。

 これこそケイネスの切り札である『月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』である。

 自身の魔力が込められた強力な魔術礼装であるこの武装ならば、例えトオサカであろうとも互角以上に渡り合える。

 その他のマキリやアインツベルンの雇われ魔術師など論外であると彼は考えていた。

 と、次の瞬間、ケイネスの頭部を狙って音速を超えて弾丸が襲いかかってきた。

 瞬間、月霊髄液が自動的に防御態勢に入り、弾丸を防御する。

 

 例え音速で迫りくる弾丸といえど、ケイネスのこの魔術礼装は容易く防御できるのだ。

 それを見て、ケイネスはせせら笑いを浮かべる。

 

 「ふん、魔術ではなく、こんな姑息で野蛮な武器を使うとなれば魔法使いの弟子たるトオサカではあるまい。

 ……アインツベルンの雇われ魔術師か。」

 

 「ならば、この私の恐ろしさを知らしめてやろう。

 ロード・エルメロイの恐ろしさをな。」

 

 ケイネスは、月霊髄液にめり込まれた弾丸を指で取り出すと、それを懐から取り出した粘土で出来たヒトガタに埋め込む。

 これは実際には粘土ではなく、第五架空要素(エーテル)で作られたヒトガタである。

 そして、彼は、さらに懐から魔術礼装である魔術文字が刻まれた禍々しいナイフを取り出し、呪文を唱えると、

 そのナイフを一気にヒトガタへと突き立てる。

 次の瞬間、ヒトガタが弾丸と共に砕け散ると同時に、遠くでワルサーWA2000を構えていた切嗣の肩に、何かが突き立てられたように刺し傷が現 れ、血が噴き出す。

 ―――感染魔術。

 最も根本的な魔術のカタチであり、一度でも本人が使用した物質には本人との霊的な繋がりが存在するため、

 それを利用し、逆用して攻撃を仕掛けるまさしく「呪い」そのものである。

 幻影戦や呪術戦に特化した礼装を数多く所有しているケイネスにとっては、この程度は造作もないことである。

 

 だが、本人の肉体の一部ではなく、少し触れただけの弾丸であるということ。

 なおかつ魔術師は自らの肉体に直接魔力を循環させており、間接的な魔術干渉はききにくい事。

 そして、切嗣の肉体に刻まれた衛宮家の魔術刻印。

 これだけの要素が揃えば、いかに呪術戦に特化されたケイネスといえど、切嗣を傷つけるだけで到底倒すことはできない。

 

 魔術的な攻撃を受けたと判断した軽く舌打ちした切嗣は、応急手当もそこそこにすぐにその場から離れる。

 見た目は派手に出血しているが、この程度では戦闘に支障はでない、と彼の冷静極まりない戦闘者としての経験は告げていた。

 この倉庫街にはすでに切嗣と舞弥の手によって幾多のトラップが仕掛けられているが、

 それでもあの凄腕の魔術師を倒せるか、と彼に僅かな不安がよぎった。

 

 「聞こえるか!?アインツベルンの雇われ魔術師!

 アーチボルト家九代目、ケイネス・エルメロイが貴様に決闘を挑む!

 所詮、闇討ちしか能がないネズミの貴様に正々堂々たる闘争はできまい。

 これは狩りだ。せいぜいこそこそと隠れて怯えて待つがいい!!」

 

 そう言って、ケイネスは自信満々に倉庫街へと歩みを進めた。

 と、次の瞬間、ケイネスの両方の壁が轟音と共に破裂した。

 舞弥があらかじめ仕掛けておいたクレイモアのトラップである。

 大量の鋼鉄球を扇状に放つこのクレイモアの前では人間の肉体などまさに紙同然に引き裂かれるしかない。

 

 だが、ケイネスの月霊髄液は瞬時にそれに反応し、超剛性の水銀の防御壁となりクレイモアを完全に防御する。

 それをCCDカメラで見て、切嗣はさらに舌打ちする。

 クレイモアを防ぐなど、これではまともな銃器が通用しはしまい。

彼はさらに駆けだしながら、戦略を練り始める。

 

 ケイネスのコートの内部は、魔術的に空間が歪められており、

 ここはケイネスの本拠地である倉庫街の地下の魔術要塞の工房に繋がっておりここから様々な魔術礼装を取り出すことができる。

 そこから彼が取り出したのは一つの霊器盤と呼ばれるものだった。

 通常の霊器盤は、聖杯戦争の監視役に与えられるサーヴァントの属性を提示するアイテムだが、

 この霊器盤は、魔術師の魔術や魔力の痕跡を探るアイテムである。

 

 たしかに、このトラップには一切の魔術は使用されていない。

 だが、どんなに隠そうとも、魔術師である以上、魔力の放出を隠すアイテムでもない限り、何らかの痕跡が残っているものである。

 

 と、そこで霊器盤が反応を示したので、ケイネスはそちらに向かい、丁寧にその部分を調べる。

 そこに存在したのは、一本の黒い長い髪の毛。

 この長さからすると、どこからどう見ても女性のものだ。

 だが、アインツベルンの雇われ魔術師は男だと聞いている。

 ならば、この髪の毛の持ち主はその雇われ魔術師の手下に違いない。

 

 ケイネスが呪文を唱えた瞬間、半透明の禍々しく、あちこちの体が不自然にねじれ曲がった鋭い牙と爪を持つ、

凶暴な猟犬に似た怪物が数体姿を現す。

 これは、エーテルで構築された肉体に、悪霊を憑依させた人工妖精の一種である。

 ケイネスは、自らの倉庫街の地下の魔術要塞に悪霊や魑魅魍魎を猟犬代わりに放ち、要塞を護っている。

 その悪霊たちにエーテルで構築された仮初の肉体を与えたのが、この存在である。

 彼らは、その髪の毛の魔力痕跡を覚えると、凄まじい勢いでまさしく猟犬のごとく宙を飛び去った。

 これで、雇われ魔術師の手下はこちらに手出ししてくる余裕はなくなるだろう。

 そう判断したケイネスは、月霊髄液を従えながら、ゆっくりとさらに倉庫街へと足を進めた。

 同時に、月霊髄液の自立探索モードをオンにし、水銀による探知網を周囲に張り巡させる。

 これは、周囲の温度変化を捕え熱源を探知し、鼠を捕らえることのできるシステムである。

 と、次の瞬間、熱源を探知したケイネスは瞬時に攻撃に移る。

 

 「―――斬!!」

 

 ケイネスの月霊髄液の水銀の刃は、超高圧水流カッターと同様の原理であり、

 ダイヤモンドに至るまであらゆる物質を両断する。

 いまだに鼠の居場所は突き止められてはいないが、

 

 月霊髄液の水銀の刃は、文字通り倉庫街の倉庫を一刀両断にし、そこに隠れていた切嗣に向かって襲いかかる。

 超高圧水流カッターと同様の原理であるこの水銀の刃は、例えダイヤモンドであろうと容易く両断する。

 その威力は到底人間の防げるものではありえない。

 

 「固有時制御―――二倍速!!」

 

 その瞬間、切嗣は、彼の魔術である固有時制御を使用し、水銀の刃の攻撃を回避する。

 固有時制御は、自らの肉体内部の時間を自在に操作し、体内時間を加速させたり減速させたりすることができる魔術である。

 衛宮家では、代々時間流を操る魔術に長けており、外界から時間軸を切り離し、自在にする『時間操作』の魔術探求を受け継いできた。

 それを切嗣は自分流にアレンジを施し、自分の肉体という最も世界からの干渉を受けにくい最小規模の結界を使用して、

 自分の体内時間を制御するのに長けているのである。

 だが、その代償は大きい。

 この魔術の欠点は、肉体にかかる極度の負担であるが、

 さらにそれに加え、体内時間を加速させることにより、傷口からの出血がさらに激しさを増す。

 これでは固有時制御を多用することはできまい。

 

 さらにインカムからは舞弥が、霊的な使い魔と戦闘してくるのが伝わってくる。

 傷を負い、舞弥も使えないこの状況では傍目から見ればこちらが圧倒的に不利だろう。

 ……だが、それはこちらも覚悟の上だ。

 狩りを行うならばこちらも無傷ではありえない。

 例え不利だろうと傷を負おうと最後にこちらが勝利すればよいのだ。

 そう決断した切嗣は戦況を有利にすべく再び駆けだした。

 

 

 

 

 

 一方、場面は切り替わり未遠川のほとり。

 バーサーカーのF-15とドッグファイトを行っていたギルガメッシュは、地上に存在する黄金の輝きと美しい女性の姿を見て、

 邪悪な微笑みを浮かべた。

 

 「ほう、やはり出てきたかセイバー。

 これで穴熊を決め込むようならば随分と興覚めだったが。」

 

 だが、次の瞬間、真っ先に反応したのはF-15を操るバーサーカーだった。

 

 「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 彼女が手にする黄金の剣の輝きと彼女自身を見た瞬間、凄まじい咆哮を上げ、

 今まで襲いかかっていたアーチャーのヴィマーナを無視し、セイバーへと襲いかかる。

 当然、それを見過ごすアーチャーではない。

 こちらに向けて背を向ける格好になったF-15に対してゲートオブバビロンから射出された宝具が襲いかかる。

 何とか猛烈なバレルロールによって本能的に回避するバーサーカーだが、完全には回避はしきれない。

 さらに、ランサーに負わされた肩の傷により、僅かながら操縦ミスをしたのも災いした。

 射出された剣により水平尾翼がもぎ取られ、さらに斧により右肩翼がほとんど切り裂かれる。

 だが、F-15は例え片翼を失おうとも飛行を続けられるほどの優れた戦闘機である。

 セイバーへと突撃するように急降下して、M61機関砲を乱射してセイバーへと襲いかかろうとしたバーサーカーだが、

 その前を凄まじい雷撃を放ちながら高速で横切る戦車により、バーサーカーは一旦急上昇する。

 それは、ライダーが操る宝具『ゴルディアスホイール』である。

 

 「ふん、狂戦士めが。

 貴様ごときがセイバーを倒そうなどとは百年早いわ。

 あやつめは屈服させた上で余の配下にする予定なのでな。

 貴様の相手は余だ!狂犬!たっぷりと付き合ってもらうぞ!!」

 

 

 「RAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 セイバーへの攻撃を邪魔されたバーサーカーは怒り狂ったように

 邪魔者であるライダーへと襲いかかる。

 ゴルディアスホイールは攻撃力こそ凄まじいものがあるが、やはり速力・機動性では戦闘機に一歩劣ってしまう。

 それに加えて、ランサーの魔槍によりエンジンともいえる神牛が傷つけられ、雷撃の攻撃力も速力も落ちている状態だ。

 だが、バーサーカーのF-15もかなりのダメージを受けている。

 アーチャーの攻撃により片翼がほとんど失われている状態では、流石に戦闘能力が落ちているのが当然だろう。

 おまけに、バーサーカーにとって厄介な点がもう一つあった。

 

 F-15のサイドワインダーがライダーへのゴルディアスホイールに向かって襲いかかる。

 だが、ゴルディアスホイールの放つ極めて強力な雷撃は、EMP……強力な電磁パルスを放つのだ。

 ミサイルも精密機器の塊である以上、強力な電磁パルスを食らえば電子機器がショートしてしまう。

 バーサーカーの呪装ミサイルは明後日の方向へと飛んでいったり、その場で炸裂したり全く役に立たない。

 

 おまけに、ライダーが傍を飛行するだけでその強力な雷撃による電磁パルスにより

 F-15が不調になってしまうのだ。

 いかにバーサーカーの宝具『ナイト・オブ・オーナー』により疑似的な宝具になっているとはいえ、

 F-15は本来は兵器であり精密機器である。

 いくら電磁パルス対策を取っているとはいえ、あまりに強力な電磁パルスは防ぎようがない。

 バーサーカーは意のままにならない機体に苛立つように、M61機関砲を乱射し、追尾性の兵器と化したフレアの火球を吐き出してライダーを迎撃する。

 だが、バーサーカーの機関砲をライダーは華麗に回避し、フレアの火球もゴルディアスホイールの雷撃によってかき消されてしまう。

 

 さらに苛立ったバーサーカーはシャンデルの機動を取り、いったん離れて体勢を立て直そうとする。

 

 「そうはさせんぞ!狂戦士めが!」

 

 その機動を読み切ったように水平飛行から45度バンクする瞬間、空を駆けるゴルディアスホイールがぎりぎりまで近付き、お互いにすれ違う。

 その瞬間に、ゴルディアスホイールの車輪の横にある巨大なブレードにより、F-15の腹部が大きく引き裂かれる。

 同時に、ゴルディアスホイールの強力な雷撃が、ブレードを伝わってF-15の内部に直接叩きこまれる。

 精密機器が完全にショートし、ただの鉄屑と化したF-15は、装甲と部品を撒き散らしながら、

 バーサーカーの怒りの咆哮と共に未遠川の水面へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 ここで場面は切り替わる。

 ヴィマーナから飛び降りた時臣は、敵マスターであるバーサーカーのマスターと交戦していた。

 それがマキリから脱落し、魔術師という責務から逃げ出した雁夜だという事に、時臣は少し驚いたが、

 所詮、にわか仕立ての魔術師である雁夜が彼に敵うはずもない。

 しかも何をいうかと思えば、時臣にすれば実に取るに足らない、魔術師としては基本的な事に怒り狂い襲いかかってくる始末だ。

 

 「お……おおおおっ!

 喰らえ!虫ども!ヤツを食らいつくせっ!!」

 

 雁夜は自分の体内の刻印虫を励起させる。

 凄まじい激痛と共に、周囲の虫たちが脱皮し、鋭い牙と翼をもった翅刃虫が牙を剥いて時臣に襲いかかる。

 

 「やれやれ。この程度とは……。やはり魔道から、血の責任から逃げ出した半端者では所詮この程度か。

 だが、魔術師として、魔道の恥である君には誅を下すしかあるまい。」

 

 だが、悲しいかな。所詮はにわか仕立ての虫使い。

 神秘はより強い神秘によって敗れ去るのが道理。

 この程度では、魔法使いの弟子たる遠坂は敗れはしない。

 時臣は、礼装であるルビーがはめ込まれた杖を発動させると、炎の攻性防御結界を張り巡させる。

 この轟炎に、たかが虫ごときが耐えられるはずもない。

 

 だが、そこで雁夜は予想外の行動を取った。

 何と、彼は炎の攻性防壁を張り巡らせた時臣へと突っ込んだのである。

 

 「おおおおおおおおおおおお!!」

 

 時臣に向かって疾走する雁夜の右腕がめきり、と異様な変化を行い、

 堅固な外骨格へと変化し、さらに鋭いブレードへと変化する。

 これが雁夜の切り札である「甲刃虫」である。

 この虫は、術者の腕や足などに寄生する事により、その部分を極めて鋭利な武器へと変化させる。

 

 翅刃虫を囮にして、時臣の作り出した炎の攻性防御結界を突破し、甲刃虫で攻撃を行う。

 これが雁夜の奥の手である。

 

 「が……がぁあああああっ!!」

 雁夜は左手の甲刃虫のブレードを盾にして時臣の作り出した火炎の攻勢防御結界に突っ込む。

 チタンすら両断する甲刃虫のブレードは同時に極めて強力な防御壁になるのだ。

 だが、さすがに全身を防御はできはしない。

 彼は、全身を焼かれ大やけどを負いながら、無理矢理火炎の結界を突破し、夢中でブレードを振るう。

 

 だが、時臣は、手にしたルビーのはめ込まれた己の魔術礼装である杖を手に取る。

 シャキン、と音がすると同時に、杖の一部が抜き放たれ、そこから魔術文字が刻まれた刃が露わになる。

 内部に剣が仕込まれた仕込み杖。

 イギリスの紳士がよく護身用に使用したステッキである。

 遠坂家は本来武術を極める事によって根源に到達しようとしていた家系。

 当然のように、時臣もステッキでの攻撃術や剣術もかなりのレベルまで到達している。

 

 それに比べ、雁夜はまさしく素人そのものだ。

 大振りの甲刃虫のブレードを容易く回避し、呪文を唱えると同時に、時臣の手にした仕込み杖の魔術文字が刻まれた刃から猛烈な業火が噴き出す。

 その炎に包まれた刃は、容易く雁夜の甲刃虫のブレードを切り裂き、返す刃で雁夜の腕を斬り落とす。

 そして、腕を落とされた雁夜は悲鳴を上げながらビルから落下していった。

 

 

 

 

 一方のセイバーは、ヴィマーナに乗ったアーチャーの猛攻へとさらされていた。

 高速で飛行するヴィマーナから射出されるゲートオブバビロンの宝具は飛行手段を持たないセイバーにとっては脅威極まりない。

 おまけに周囲の被害を恐れたセイバーは未遠川へと飛び込み、

水面をジェット戦闘機並みの速度で疾走していたが、これはセイバーの判断ミスだった。

 一切の遮蔽物がない広大な川は、アーチャーにとって絶好の狩猟場でしかない。

 だが、セイバーにも考えがある。

 この川ならば、セイバーの宝具を使用しても周囲に被害がでることはない。

 

 『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』

 

 星に造られた神造兵器であり、サーヴァントたちが保有する宝具の中でも屈指の攻撃力を誇る対城宝具であるこの聖剣ならば、

 いかに超古代の戦闘機といえど、容易く撃破することができるだろう。

 風王鉄槌があればまた戦術の幅が広がったのだが、無いものねだりをしても仕方ない。

 だが、この対城宝具も、天空を自在に舞うヴィマーナならばまた話は別だ。

 

 通常、セイバーはエクスカリバーを放つ際、上から下へと振り抜く形で放つ。

 通常の地上の敵ならばそれで特に問題はないが、敵は空を自在に超音速で駆けるヴィマーナだ。

 そんな直線的な攻撃など容易く回避されてしまうだろう。

 そして、攻撃を放って無防備になった瞬間ヴィマーナの攻撃を受ければ間違いなくセイバーは敗れる。

 

 ならば『真横にエクスカリバーを振り抜けばいいのではないか?』

 そうすれば、エクスカリバーの光の刃が真横の一文字の形で空を切り裂くことになる。

 これならば、単純な直線よりも回避は間違いなくしにくいはずである。

 だが、これにも欠点はある。

 真横の一文字の大規模な光の刃ならば、先ほどとは逆に上や下に機動を変えれば避けられやすいという欠点がある。

  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

 上や下に逃げられない状況。

 そんな状況などできるはずが……いや、ある!!

 セイバーは、未遠川から海へと飛び出すと、何を思ったか、その場でぴたりと足を止める。

 そして、ガシャリとエクスカリバーを腰ために構えると、じっと高速でこちらへと飛行するヴィマーナを待ち構える体勢を取る。

 そう、セイバーは己を餌にしてぎりぎりまでヴィマーナを引きつける作戦に出たのだ。

 ギリギリまで引き付けて、回避行動が取れない状態でエクスカリバーを放てば、さすがのヴィマーナでもひとたまりもあるまい。

 だが、これにも問題はある。

 もしもヴィマーナがセイバーに近寄らずに、セイバーの上空を旋回しながらゲートオブバビロンを降り注げば、こちらは敗北するだろう。

 じわり、とセイバーの手が冷や汗で濡れる。

 だが、ヴィマーナの王座に腰掛けるギルガメッシュは、セイバーの思惑を知りながら不敵に微笑む。

 

 「フン、セイバーめ。こちらを挑発しておるか。

 よかろう。ただ踏みつぶすのではなく、時には戯れるのも王の余裕よ。

 貴様の挑発に乗ってやろうではないか。」

 

 

 音速で飛行するヴィマーナはさらに急降下し、機動を下に下げ、未遠川の水面ギリギリを超音速でヴィマーナが駆け抜ける。

 当然、アーチャーもセイバーの手の届かない上空から悠々とゲートオブバビロンの攻撃を行えば楽勝であると知っている。

 だが、それでは全く持って面白みがない。

 セイバーの思惑に乗ってやったふりをして、その上で相手で徹底的に殲滅する。

 それでこそ王たる勝利にふさわしい、と彼は考えているのだ。

 

 水面ギリギリを超音速で飛行するヴィマーナ。

 そのため、後方から凄まじい水柱を上げながら、輝く舟はゲートオブバビロンの宝具を射出させながらセイバーへと突撃してくる。

 その姿は、まるで昔の戦場を駆ける騎兵を連想させた。

 

 「こい……!アーチャ―――!!」

 

 セイバーはエクスカリバーを真横に振り抜くために腰だめに構える。

 アーチャーの無数の宝具がまるでミサイルのようにセイバーの近くの水面に炸裂し、無数の水柱を上げるがセイバーはぴくりとも動かない。

 そして、一振りの剣がセイバーの左肩を深々と切り裂き、彼女の血が迸る が、セイバーはそれにも構わず、じっと魔力を充填する。

 凄まじい水柱を上げながら音速でこちらに襲いかかるヴィマーナをセイバーは微動だにせず、じっとタイミングを見計らう。

 もう少し……もう少し……。……今だ!!

 セイバーは持ち前の直感で最適なタイミングを読み取り、瞬時に聖剣の真名を解放する。

 そう、それこそ星の内部で作られた神造兵装。人々の願いと祈りが結晶された栄光に満ちた聖剣。

 その名前は―――!

 

    エ ク ス カ リ バ ー

 《約 束 さ れ た 勝 利 の 剣―――!!》

 

 収束・加速された膨大な光の剣は、神霊レベルの魔術行使にも匹敵する。

 その威力は、例え超古代の戦闘機であるヴィマーナといえど耐えうるものではない。

 超音速で突撃してくるヴィマーナに対して真横の膨大な光の刃が迫りくる。

 

 水面ギリギリを飛行をしているため、この状態では下に逃げたら水面に激突してしまう。

 そして左右に逃げてもエクスカリバーの真横の光の刃に切り裂かれてしまう。

 ならば、上空へと退避するしかない。

 

 上昇しようとして、ヴィマーナの機首を上げ、もっともヴィマーナの弱い部分である機体の腹部を曝け出した瞬間。

 そのヴィマーナの機体の腹部に、エクスカリバーの膨大な光の刃が命中した。

 いかに、神代の戦闘機の装甲といえど、神霊レベルの魔術の威力を誇るエクスカリバーの威力の前では、紙同然である。

 光の刃は容易くウィマーナの胴体を両断する。

 その瞬間、射出座席のようにギルガメッシュが腰掛ける王座が空へと射出され脱出する。

 ギルガメッシュを失い、両断されたヴィマーナは空中で紅蓮の炎を撒き散らしながら、川へと墜落する。

 だが、己の宝具を壊されたギルガメッシュは高らかに本当に楽しそうに哄笑する。

 

 「はははははは!!よいぞ!セイバー!

 その星の煌めき!そして貴様自身の眩い輝き!実によい!

 我の宝具を壊した事も、王の慈悲によって許そう!!

 貴様のその輝き、この我が必ず手に入れて見せよう!ははははははは!!」

 

 ギルガメッシュの哄笑が、いつまでも夜空に響き渡っていた。

 

 

 

 

 「はあ……はあ……」

 

 アーチャーのヴィマーナを撃破したセイバーだったが、

 さすがにジェット戦闘機並みの猛速度で疾走し、アーチャーの宝具で肩を切り裂かれ、

さらにエクスカリバーの使用はかなりの魔力消耗を彼女に齎していた。

 何とか息を切らしながら未遠川の水面から、近くの川辺の公園へと足を運んだセイバーだが、

そこで空を駆ける雷鳴の轟音に剣を構え直す。

 それは、ライダーの操る宝具『ゴルディアスホイール』だ。

 バーサーカーのF-15を倒し、あれほどの雷撃を放つ宝具を所有する英霊。油断などできようはずがない。

 ライダーのゴルディアスホイールは公園に着地すると、ひらりとライダーに地面に降り立つ。

 

 「ふふん。顔を合わせるのは初めてになるな。セイバーのサーヴァントよ。

 我が名は征服王イスカンダル。今回はライダーのクラスにて現界した。」

 

 「な―――っ!?」

 

 そのライダーの言葉に、セイバーは絶句する。

 聖杯戦争において真名は秘められるべきもの。

 英雄とは基本的に過去の存在であり、真名が解ればそこから自然と弱点も知られる事になるのだ。

 その正体を自ら明かすなど、明らかに戦いのセオリーから反している。

 さらに、ライダーは、自分のひげを撫でながらにやりと不敵な笑みを浮かべる。

 

 「ふむ、セイバーよ。貴様の戦い見せてもらった。

 その宝具といい、貴様自身の輝きといい実に得難い存在だ。

 どうだ?ここは一つ余の軍門に下り、余と共に、世界を征服する愉悦を味わわんか?」

 

 「―――断る。」

 

 ギリ、と剣を握る手に力を込め、油断なく剣を構えながらセイバーはその言葉を一刀両断にする。

 

 「私とてブリテンの王たる存在だ。

 王が王に何の理由なく屈するなど、そんな事はあってはならない。

 父たるウーゼルから受け継いだ私のペンドラゴンの名前に賭けて、私は貴方に屈するわけにはいかない。

 王が屈する時はただ一つ、戦いに敗れた時のみだ。」

 

 その言葉にライダーは大きく頷く。

 

 「ふむ、なるほど道理だ。

 王道とは全て唯一無二。王たる余と王である貴様では相容れぬのが道理。

 ……ならば、力で証明するしかあるまい。

 一度鼻柱をへし折ってやれば、貴様も余の軍門に下ることも考えよう。」

 

 ライダーはそう言うと、自らの神威の車輪に再び飛び乗ると、セイバーに向けて突撃する。

 ランサーの魔槍によって傷つけられ、威力や速度は落ちているとはいえその威力は侮りがたい。

 神牛が疾走するたびに、凄まじい雷鳴が轟き、雷撃が周囲に放たれる。

 それをまともに食らえば通常のサーヴァントならば一撃で倒されるだけだ。

 セイバーは、雷撃を纏いながら猛スピードで突っ込んでくるゴルディアスホイールを横っ跳びで回避し、すれ違う瞬間に、

 エクスカリバーでゴルディアスホイールを斬り付ける。

 狙うは、車輪部分。いかに神威の車輪といえど、その車輪自体が壊されてしまってはもはや動くことはできまい。

 的確なセイバーの判断に、それを擦れ違い様に行うセイバーの剣技も凄まじいが、

 そのセイバーの刃は神威の車輪の横に存在する巨大なブレードに阻まれ、エクスカリバーは車輪の横のブレードに当たる。

 凄まじい火花が飛び散り、エクスカリバーの一撃を受けた神威の車輪のブレードは大きく欠けていた。

 並みのサーヴァントならば回避すら難しい神威の車輪の一撃を回避し、なおかつ攻撃まで仕掛けるその手並みに、ライダーは感心する。

 

 「ほほう。さすがにセイバーのサーヴァントか。

 ……一つ戯れに聞いておこうか。セイバーよ。貴様は聖杯に何を願う?」

 

 油断なく、エクスカリバーを構え直しながらセイバーはその問いに堂々と答えを返す。

 

 「私の願いは、自らの故郷の救済だ。

 万能の聖杯を使用し、滅びかけたブリテンを救う。それが願いだ。」

 

 それを聞いて、ライダーは一瞬呆然とすると、呆れたように言葉を返す。

 

 「……セイバーよ。貴様正気か?  貴様は自らのやったことを、自らの業績を、貴様の仲間と共に作り上げた業績を否定する気か?」

 

 「滅びを美化できるのは武人だけだ。

 民はそんなものは望まない。民が望むのはただ救済だけだ。」

 

 その言葉にライダーは冷笑で返す。

 

 「フン、笑わせるな。

 ただ正しさを述べるだけでは人はついてこん。

 王とは、清濁併せて飲み込み、臣下と共に笑い、極限の栄華を現してこそ王だ!

 確かに貴様は清廉潔白で聖者だろうよ。だが、聖者についてくるものはおらぬ。

 聖者では王になることはできぬのだ。

 貴様のような聖者を気取るだけの者は王ではない!!

 貴様はただの夢見る小娘にすぎぬわ!!」

 

 「くっ……。だ、黙れっ!!

 それでも……私はブリテンの王だ!

 例え一人であろうとも貴様に屈するわけにはいかないっ!!」

 

 「ダメだな!全く貴様は解っておらん!

 王とは孤独な存在ではない!今、余が貴様にそれを知らしめてくれよう!!」

 

 瞬間、空気が変貌した。

 冷え切った夜風ではなく、吹きつけてくる風は熱風。

 いや、それは風だけではない。【世界自体】がゆっくりと浸食され、現実を侵しているのだ。

 

 「―――!!」

 

 次の瞬間、ただの公園だったその場所は全く別の世界へと変貌した。

 照りつける灼熱の太陽。地平線に至るまでさえぎるものは何もない荒涼たる砂漠。

 そして、ライダーの周囲には、無数の人影はうっすらと姿を現し、それらはやがて具現化される。

 それらは勇壮にして豪奢な騎兵たち。

 それら歴戦の兵士たちは、無言のまま、ライダーの周囲を取り囲み、陣形を作り出す。

 征服王の夢に賭け、共に戦場をかけた戦友たち。

 その永遠の忠義を形にした破格の宝具こそが―――。

 

 「見よ!肉体を失い、魂は英霊となりても余に従う永遠の友人たち!

 彼らとの絆こそが余の最強の武器!

 これぞイスカンダルたる余の最強の宝具『王の軍勢』なり!!」

 

 固有結界「王の軍勢」

 ランクEX、独立サーヴァントの連続召喚。

 魔術師でもない彼が固有結界を使用できるのは、ライダー一人の心像風景ではなく、彼ら全ての共通のものだからだ。

 それを見て、セイバーは衝撃を受けていた。

 英霊となってなお、イスカンダルに従う絶対たる忠義の軍団。

 ……それは、セイバーにはもちえないものだったからだ。

 彼らは、手に手に槍や剣や盾を構えると、イスカンダルの代名詞たるファランクス陣形を組んで、イスカンダルからの指示をじっと待ちかまえる。

 

 「さて、では行くぞセイバー。我らの絆の力、存分に思い知るがいい。

 ……蹂躙せよ!!」

 

 

 ―――だが、その激戦区に彼ら以外のマスターとサーヴァントがいるなど、

 戦いに夢中な彼らは気づかなかったのだ。

 

 

 

 「……まずいな。まさかこんな現場に出くわすとは。」

 

 ライダーの固有結界の外、公園の草むらに隠れ、セイバーとライダーの戦いを見守っているのは、

 アサシンとの戦いを終えて家へと帰る途中のランサーとウェイバーだった。

 連戦で魔力を消耗して帰る彼らの前に、運悪くセイバーとライダーの戦場に出くわしてしまったのだ。

 正確に言うと、ライダーやアーチャー、バーサーカーがいきなり派手な空中戦を始めてしまったため、

 とっさに近場へと隠れて戦場を観察していたのである。

 いかに彼らであろうとも、キャスター、アサシンとの連戦を行い、戦力を消耗している所に

 さらにライダーやアーチャー、バーサーカーやセイバーたちの乱戦に首を突っ込むつもりはない。

 ウェイバーもルーンストーンを使用し、できるだけ魔力放出を抑える事により、

 周囲のマスターやサーヴァントの魔力探知から少しでも逃れるように努力はしている。

 しかも、あんなド派手な空中戦や激戦を行っている最中に、正確で的確なサーヴァントの感知や魔力探知ができようはずもない。

 そこが、彼らにとっての幸運だった。

 

 「………。」

 

 一方のランサーは、ライダーが王の軍勢を使用し、セイバーがピンチになってから怒りをこらえるように、

 ギリと魔槍を握りしめ、口元を噛みしめている。

 他人には理解できないだろうが、ウェイバーには何となく理解できる。

 

 通常ならば、こちらも消耗しているのにあんな戦いに首を突っ込むなどどうかしている。

 ましてやライダーは真の宝具とも言える『王の軍勢』を発動させ、軍勢でセイバーを追い詰めている。

 ここは黙って見ているのが戦争の常識だ。うまくすればライダーがセイバーを倒し、弱ったライダーに奇襲をかければ漁夫の利が得られるかもしれない。

 ―――だが。

 ギリ、とランサーが歯噛みし、双槍をぎりと握りしめる。

 ランサーは彼女と再戦の誓いを立てている。

 その彼女が目の前で危機に陥っている。

 それが、彼にとっては許せないのだ。

 

 「……主君よ。俺は。」

 

 ぽつり、とランサーが言葉を放ったのを見て、

 ウェイバーは困り切ってくしゃくしゃと頭を掻き毟る。

 まあ、ランサーの性格からすれば戦略の有利不利など関わりなくそう言いだすと思っていた。

 そんなことは聖杯戦争のセオリーから反している。

 なぜわざわざ相手が不利になっているのに助けてやらなくてはならないのだ。

 だが、逆にこう考えればよいのではないか?

 『これはセイバーと協力してライダーを倒すのにいい機会』だと。

 今のライダーの使用している王の軍勢は強力無比だ。ランサー一人では対抗できようはずもない。

 だが、セイバーと協力すれば、ライダーを倒せる可能性も出て来る。

 分の悪い賭けだが、ランサーの士気の影響なども考えればやってみる価値はある。

 そう考えたウェイバーは、ランサーに向かって小声で喚き立てる。

 

 「ああもうくそっ!!

 ……ランサー!やっちまえ!セイバーと協力してライダーを倒せ!!

 これは命令だ!いいな!!」

 

 「承知!!」

 

 その言葉と同時に、ランサーは姿を消した。

 ……頼むぞ。僕を道化にさせないでくれ、とウェイバーは願っていた。

 

 

 

 

 「がっ……はあ、はあ……!!」

 

 一方その頃。

 王の軍勢を発動させたライダーによってセイバーは追い詰められていた。

 戦いは物量だ。いかにセイバーであろうと、サーヴァントの軍勢に対抗するのは難しい。

 ファランクス陣形を組んで突っ込んでくるライダーたちに対して、

 セイバーは真っ正面から当たらずに、大きく跳躍して敵陣の真っただ中に飛び込み、当たるを幸いにエクスカリバーを振り回す。

 さすがにセイバーといえど、ファランクスの楔形陣形の突撃をまともに食らえば無事ではすまないからだ。

 だが、敵もさるもの。

 たちまちライダーの指示により的確な行動を開始し、セイバーを取り囲みながら攻撃を行う。

 重装歩兵たちの長槍や軽装歩兵たちの剣が次々とセイバーへと迫りくる。

 セイバーは、魔力の多くを護りに転用しており、いかに王の軍勢であろうと、一騎一騎では英霊としての格では到底セイバーに及ばない。

 つまり、一人だけの攻撃ではセイバーを傷つけるのは難しい。

 だが、塵も積もれば山になる。

 彼らの攻撃は、少しづつだが、セイバーに無数の傷をつけていた。

 だが、それ以上にセイバーの内心は衝撃を受けていた。

 英霊となってなお、征服王イスカンダルにつき従う英霊の軍団。その凄まじいばかりの信頼と繋がり。

 ……それは残念ながら円卓の騎士たちとセイバーの間には作れなかったものだ。

 

 私は一人きりなのか?

 ただ一人で聖人気取りの愚か者だったのか?

 国を救うなどとたった一人で息まいて、たった一人で戦って。

 所詮私は、何も――成しえないのか?

 

 セイバーがそんな風に絶望しかけ、がくりと地面に膝をついた時、飄々とした涼やかな声が戦場に響き渡った。

 

 「……いいや。セイバー。

 貴様は一人きりではないぞ。」

 

 瞬間、凄まじい勢いで投擲された魔槍が、セイバーを後ろから攻撃しようとした重装騎兵の胸を貫き、消滅させる。

 いきなりの不意の攻撃に、無数の軍勢が静まり返る。

 静まり返ったライダーの固有結界の中、たった一人で地面を歩む音が響き渡る。

 

 ……主は俺に全てを任せてくれた。

 ならば、ここは『俺好み』でやらせてもらおう。

 

 「……確かこの戦いでは自分の真名を名乗る事はタブーだったな。」

 

 灼熱の太陽が輝き、軍隊が支配する荒野に、不釣り合いな涼やかな声が響き渡った。

 その声に反応し、地面に膝をついていたセイバーは驚いたように顔をあげる。

 

 「バ、バカな。あ、貴方は……!」

 

 さらに、地面を歩む音が響き渡り、ゆっくりとさらにこちらへとまるで散歩のように歩いてくる影を見て、

王の軍勢は、警戒するように一斉にがしゃりと武器や防具を身構える。

 

 「だが、あえて俺はこう名乗らせてもらおう。」

 

 そして、その声にライダーは獰猛で喜びに満ちた笑みを浮かべる。

 そう、己の戦車を傷つけた相手を彼が忘れようはずはない。

 

 「貴様は―――!!」

 

 ライダーの言葉ににやり、と端整な顔に不敵な笑みを口元に浮かべながら槍を持ったその軽鎧の人影は言葉を放った。

 

 「―――ランサーのサーヴァント。

 フィアナ騎士団、ディルムッド・オディナ、見参。

 ライダーよ。悪いがセイバーとの決着をつけるのは俺の方が『先約』だ。

 それを譲るわけにはいかんな。」

 

 それだけを言うと、ランサーは大きく跳躍すると、セイバーの真後ろに見事に着地し、

 先ほど投擲し地面に突き刺さっている必滅の黄薔薇を引き抜き、身構える。

 

 「勘違いするなよセイバー。

 貴様を倒すのは俺だ。貴様と戦う約束したのも俺だ。

 その約束を、こんな奴らに破らせるものか。

 どうした?いつまでお前は膝をついているつもりだ?

 俺が再戦を誓った英霊は、そんな柔な女ではないはずだが?」

 

 にやり、と不敵な笑みを浮かべながらそういうランサーに対して、セイバーは獰猛な笑みで返す。

 

 「くっ……言って……くれるな!ランサー!」

 

 セイバーはそう言うと、エクスカリバーを地面に突き立てて、それを杖代わりにして再び立ち上がり、剣を構える。

 

 「……敵は多いな。ランサー。」

 

 「ああ、だが俺と貴様なら何の問題もあるまい。

 そうだろう?セイバー?」

 

 にやり、と二人はお互いの背中合わせに不敵に微笑むと武器を構え直す。

 そんなセイバーの内心で懐かしい気持ちが甦った。

 そう、かつて円卓の騎士たちとブリテン守護のために共に戦ったあの時。

 確かに「王には人の心がわからない」と言われたこともある。

 ……だが、それでもブリテン守護のために立ち上がった彼ら、共に戦場を駆け抜けたあの時は、セイバーの心は孤独ではなかった。

 その古い、だが、とても大切な事をランサーは思い出させてくれたのだ。

 宝具を構え、背中合わせに不敵に微笑む二人の姿を見て、ライダーは爆笑する。

 

 「く……くははは!

 面白い!面白いぞランサー!!」

 面白味のない男かと思ったがまさかここまでやってくれるとはな!

 よかろう。貴様二人を叩き伏せて余の軍門に入れてくれる!!」

 

 ライダーの指示に従い、王の軍勢は一度二人から離れ、再びファランクス陣形を整え直す。

 いかにランサーとセイバーといえど、ファランクスの楔形陣形の一撃を食らえば数で押しつぶされるのがオチだ。

 それでも、ランサーは不敵に微笑みながらセイバーへと呟く。

 

 「……セイバーよ。お前は一人だといったな。

 だが、お前は一人ではない。

 何故ならば、今、ここに『俺』がいるからだ。

 だから示してみろ。あの征服王に、お前の誇りのカタチをな。」

 

 ……そうだ。私は何をやっていたのだ。

 相手がどうであろうと関係ない。私には私の戦い方がある。

 そう、カムランの戦い以前、円卓の騎士たちと共に駆け抜けた戦場。

 それは……決して孤独ではない!

 確かにライダーの王の軍の攻撃力は無敵である。

 戦いは数だ。

 基本的に単体で戦うサーヴァントが同様のサーヴァントの軍隊にかなうはずはない。

 ……だが、サーヴァントにはそれを覆す切り札を所有している。

 それが『宝具』である。

 そして、セイバーの宝具は軍隊用の対軍宝具ではなく、それ以上の威力を誇る対城宝具である。

 セイバーの体内の魔力が迸り、再びエクスカリバーに眩いほどの光を放ち始める。

 

 「……確かに私はただの小娘かもしれない。

 国を滅ぼした無能な王かもしれない。」

 

 さらに魔力が迸り、エクスカリバーがまるで太陽のように光り輝く。

 それは、固有結界内に二つ目の太陽が出現したようだ。

 神秘はより強い神秘によって打ち消される。

 いかに固有結界といえど、神造兵器たるエクスカリバーの威力に対抗できるほどの神秘は存在しない。

 そう、これぞベイドン山および11の大戦で幾多の侵略者を葬ったブリテン守護の光。

 侵略者に怯えるブリテンの人々にほんの一筋の希望を与えた神造兵装。

 その威力に耐えられる存在は、世界広しといえどそうはいまい。

 

 「だが―――それでも私は王だ!!

 仲間と共に戦場をかけた日々を。弱者を護ろうという誓いを。

 彼らの友情と想いを裏切るわけにはいかない!!

 征服王よ。その眼にしかと焼きつけるがいい。これが―――私の誇りのカタチだ!!」

 

    エ ク ス カ リ バ ー

 《約 束 さ れ た 勝 利 の 剣―――!!》

 

 再び、黄金の輝きがエクスカリバーから放たれる。

 究極の斬撃とも言える一直線の猛烈な光の刃は、ライダーの王の軍勢を一直線に切り裂き、

光に巻き込まれた王の軍勢の兵士たちを悉く消滅させる。

 その威力は、ライダーの固有結界をも切り裂かんほどの勢いだ。

 いかに王の軍勢が強力であろうと、それは数の力。

 凄まじい威力を誇る宝具を防げるほどの防御力は持ち合わせていない。

 膨大な光の刃は無数の軍勢を一直線に文字通り『切り開く』

 それはまるでモーゼの前の大海が切り開かれるようだった。

 

 ―――道が開いた。

 ライダーまでの一直線の道が。

 だが、セイバーとランサーのとった行動は予想外のものだった。

 

 「セイバー!お前は右翼のヘタイロイ騎兵を叩け!!

 俺は左翼のテッサリア騎兵を叩く!!」

 

 「承知!!」

 

 彼らは左右に分かれ、左翼と右翼の敵に突っ込んでいったのだ。

 通常ならば、ここでライダーに突っ込んでいくのが定石だ。

 だが、そうなれば、未だ無傷の左翼のテッサリア騎兵と右翼のヘロイタイ 騎兵が黙ってはいまい。

 餌であるライダーに突っ込んでいく間に左右から押しつぶされるのがオチだ。

 さすがにセイバーといえど一日に三度目のエクスカリバーの連射は難しい。

 そうなれば文字通り、左右の数に押し潰されることになるだろう。

 

 完全に混戦、乱戦状態に持ち込む。

 これが単騎のセイバーとランサーの思惑だった。

 

 左翼で防御しながら右翼で攻撃を仕掛けるマケドニア式のファランクスは通常の側面に弱いとされるファランクスの弱点をカバーするものである。

 つまりは、左翼のテッサリア騎兵は防御力に優れ、右翼のヘロイタイ騎兵は攻撃力に優れている。

 だが、いかに防御力が優れていようと、魔力を遮断するランサーの破魔の紅薔薇の前では何の意味も持たない。

 そして、いかに攻撃力を誇るヘロイタイ騎兵といえど、セイバーの攻撃力に敵うはずはない。

 さらに、セイバーの魔力をほとんど費やして構築されてある鎧の防御力はかなり高く、

 ランサーのように魔力を打ち消す類の武具か、高い攻撃力を誇る宝具でない限り貫く事は出来ない。

 数で押しつぶされるのならともかく、いかに重武装であろうと一騎のヘロイタイ騎兵の攻撃力ではセイバーの鎧は貫けないのだ。

 

 「「おおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」

 

 だからこそ、ヘロイタイ騎兵は数を頼みにセイバーを集団で串刺しにしようとしているのだが、

 セイバーは騎兵たちの間をすり抜けるように猛スピードで疾走し、走り抜けながら馬の脚を切り裂き、

 脇腹を刺し貫いていく。

 

 エクスカリバーによりファランクス陣形のド真ん中に大きな穴を空けられ、

 さらに右翼左翼共に、セイバーとランサーに無茶苦茶に引っかき回されたこの状態ではもはや陣形も何もない。

 完全に乱戦状態である。

 そして、乱戦になってしまえば、もう戦略も戦術も意味がない。

 

 「なるほど。確かに堅そうだな。だが……俺には意味がない!!」

 

 一方、テッサリア騎兵に突撃したランサーは、こちらも戦いを有利に進めていた。

 テッサリア騎兵は防御力に優れているのは以前書いたが、だがサーヴァントという性質である以上、全て魔力によって構築されている。

 そして、魔力によって構築された防具など、魔力を打ち消すランサーの破魔の紅薔薇にとっては全く意味をなさないのである。

 ランサーは騎兵に勝るとも劣らぬ機動性を生かしながら次々とテッサリア騎兵を刺し貫いていく。

 

 そして奇しくも、ランサーとセイバーの取った手段は、王の軍勢にとっては最善の作戦だった。

 王の軍勢はその性質上、ライダー一人では無理であり、独立サーヴァントたちの協力が必要となる。

 つまり、逆にいえば、軍勢が減れば王の軍勢を維持できないということでもある。

 その点からみれば、対城宝具を叩き込み、さらに兵士の数を減らして乱戦に持ち込むという彼らの手段は最良だったのだ。

 

 「くっ……おのれ!!」

 

 歯噛みをしたライダーは指示を出し、何とか陣形を立て直そうとするが、何かの異常を感じ取ったかのように、瞬時に王の軍勢を解除する。

 そして、戦車へと飛び乗ると、彼らに向かって叫ぶ。

 

 「貴様らの戦い見事なり!

 さすがは三騎士に選ばれるサーヴァントよ。

 いつの日にか必ずや我が軍門に入れてくれよう!!」

 

 その言葉だけを残して、ライダーは戦車で猛烈な速度で戦場を離脱していった。

 

 

 時間は少し戻る。

 倉庫街での戦いは、一見はケイネスの圧倒的有利に進んでいた。

 ケイネスは倉庫全てを両断せん勢いで切嗣の居そうな場所に月霊髄液の刃を叩き込んでいく。

 切嗣は、月霊髄液の探知の性質を見抜き、固有時制御により自らの体内時間を減速させたりしてその探知から逃れていたが、

 さすがに、全ての倉庫を切り裂いて隠れ場所を無くさんばかりの飽和攻撃には手が出せずにいた。 

 ……だが、それがケイネスを油断させるための罠であると、ケイネス自身は気づいていなかったのである。

 

 「ふふん。ただ狩るだけでは面白くないか。

 そうだ。狩りにはやはり猟犬が必要だろう。」

 

 だが、次の瞬間、ケイネスの隣にすうっとまるでキマイラのような様々な獣が融合されたような使い魔が現れる。

 それはまるで伝説上のキマイラそのものだ。

 

 だが、注意深く見ればリアリティはあるのだが、どうも現実感というか質量が今一つないような感じをうける。

 例えていうなれば、精密な立体映像に近い。

 そのキマイラもどきは、獲物を探すために、空に地面に駆けだした。

 

 そして、それに真っ先に気付いたのは敵である切嗣だった。

 蛇の頭にライオンの胴体を持ったような奇怪な生き物が切嗣に向かって襲いかかる。

 だが、魔術師である切嗣は直感した。

 あれは幻影魔術だ。いかにリアリティがあろうとあれは幻影でしかない。

 そう強く切嗣が集中すると同時に、使い魔は牙を剥いて攻撃してくるが、その攻撃はやはりすう、と切嗣をすり抜けていき、消滅していく。

 極めてリアリティのある幻覚によって攻撃されると、その攻撃によって傷つく事が報告されている。

 だが、幻影と知っており、「幻覚ではない」と強く思いこめばその攻撃は通用しない。

 自らの作り出した幻覚が破られたのを探知して、ケイネスはほう、と感心したような声を出す。

 

 「ほう、あれを幻覚と見破ったのは大したものだ。

 よいかな?貴様のような雇われの半端な魔術師に一つ、ロード・エルメロイが直々に講義をしてやろう。」

 

 どこにいるとも分からない切嗣に対して、ケイネスはまるで講義を受けている学生へと話しかける口調で言葉を放つ。

 狩りは優美に余裕をもって楽しまなければならない。

 それが貴族の狩りというものだ。

 それが、油断という最大の魔物だということも知らずに。

 

 「幻覚魔術というものは奥が深い。

 単純な視覚だけを騙すだげではなく、より高度になれば味覚、触覚なども騙せるようになる。

 そして、人間の精神というのは不思議なものでな。

 高度な幻覚になれば、幻覚に攻撃されただけで傷つけられるようになるのだ。」

 

 そんなケイネスの講義の中、倉庫街を疾走する切嗣に向かって今度は、サメの頭にクマの胴体、そしてくらげの棘のある触手を胴体に生やした奇怪なキマイラが襲いかかる。

 これも幻覚か、と意識を集中する切嗣だったが、彼の戦いの本能が幻覚とはまた違うと判断し、

 とっさに回避するが、回避しきれず、胴体のクマの爪によって太股が切り裂かれてしまう。

 反射的に、切嗣は、手にしたキャレコM950をキマイラに向けて乱射する。

 その弾丸によってキマイラは四散するが、飛び散ったのは血と肉ではなく、光輝く水銀だった。

 自らの月霊髄液で作り出したデコイが破壊されたが、相手に傷を負わせたのを知って、さらにケイネスは得意そうに語りだす。

 

 「残念だったな。これら全てが幻覚だけだとでも思ったか?

 この獣の中には私の月霊髄液で構築した獣も含まれている。

 もちろん、表面は幻影魔術で覆ってあるがな。表面上の区別はつかんよ。

視覚的にも、魔術的にもな。

 さて、幻の獣と月霊髄液の獣、正解当てクイズと行こうではないか。」

 さらに、切嗣を探すために、幻の獣や月霊髄液のデコイの獣、そして月霊髄液の攻撃が無差別に行われるが、ケイネス自身は、自らが誘導されている事など気づいていなかった。

 と、ケイネスがある地点に脚を運んだ瞬間、今度は上のクレーンに仕掛けられたクレイモアが発動し、同時にさらに、左右の壁に仕掛けられていたクレイモアも同時に発動する。

 

 「ふん!この程度!!」

 

 まさに鉄球の雨霰を、ケイネスはさらに水銀の防御壁を強化して防ぎきる。

 そして、瞬時に隠れていた切嗣は、最後の奥の手であるトンプソン・コンデンターを構えると、ケイネスに向かって魔弾を発射する。

 この魔弾はただの弾丸ではない。

 切嗣の己の起源である切断と結合の二重特性を生かすために、己の肋骨から作り出した魔弾『起源弾』を作り上げた。

 この起源弾は、その特性により、対象の魔術回路を完全にショートさせてしまう威力を持っている。

 それはいかなる魔術師であろうと例外ではない。

 起源弾が水銀の防御壁に命中した瞬間、ケイネスの魔術回路は完全にショートし使い物にならなくなる。

 ケイネスは激痛に全身から血を放ち、地面に倒れ伏す。

 

 そして、完全に止めを刺そうとゆっくりとケイネスへと近づいた瞬間、空から轟音が響き渡り、その脚がぴたりと止まる。

 凄まじい勢いでライダーのゴルディアスホイールが天を駆けながら地面へと突っ込んでくる。

 とっさに回避する切嗣をしり目に、ライダーはケイネスの体をかっさらうとそのまま猛スピードで再び天へと舞い上がり逃走した。

 

 ……だが、あの状態ではもう戦力になるまい、と切嗣は冷徹な判断を下していた。

 

 

 ライダーがケイネスを救い、地下の魔術要塞へと逃げ帰った後。

 ライダーを待ち受けていたのは、気づいたケイネスのヒステリックな怒号だった。

 ケイネスの魔術回路と神経はもう二度と使い物にならない。

 つまり魔術師としての再起はむろん、通常の生活を送る事も難しい。

 そのあまりの理不尽さを天才であるケイネスは受け入れることはできなかった。

 世界はケイネスを中心にして動いているはずなのに。

 そのどうしようもない理不尽さへの激怒と恐怖と絶望はライダーへと向けられることになった。

 

 「ライダー!!

 何をやっているんだ!この間抜け!!

 主である私を放置して戦いに夢中になるとは征服王の名前も下らぬものだな!!」

 

 「……ケイネスよ。

 戦いである以上、傷つくのは当然。

 ましてやそれが強者との激戦であればなおのことだ。

 無傷で強者との戦いに勝ち残れるほど戦いは甘くない。命があっただけでも儲けものだ。

 お主はその程度の覚悟もなかったのか?」

 

 「黙れ!黙れ黙れ黙れ!!

 己の無能を棚に上げて私を非難とは!!

 何が征服王だ!何が稀代の戦略家だ!この間抜け!無能!

 貴様に従ったという奴らも、よほど見る目がなかったのだろうな!!」

 

 この瞬間、ライダーは完全にケイネスを見切った。

 頭もいい、有り余る魔力も魔術の腕もある。

 だが、ここまで戦術的に無能とあってはもはや救いようがない。

 彼は戦いになど出てこず、象牙の塔で学者として研究を行っているのが誰のためにも良かったのだ。

 こんな無能に付き合う義理などもはやない。

 世界を征服しかけた偉大なるイスカンダルにとっては、このような男に従う事などもはや屈辱に等しかった。

 

 「それくらいにしておいたらどう?ケイネス。

 このままではお互いのためによくないでしょう?

 ……ライダー。申し訳ないのだけど、戦車で周囲を警戒してくれる?

 この時とばかりに敵が来たら苦戦は免れないものね。」

 

 そのソラウの言葉に、ライダーはこくりと無言で頷き、外へと出ていった。

 二人きりになったソラウは、いっそのこと優しいともいえる口調でケイネスに話しかける。

 

 「さて、ケイネス。

 貴方の魔術回路は完全に破壊されているわ。

 でもね。あらゆる望みを叶える聖杯の力なら、それも治せるはず。

 ……と、普通ならば言うのですけれどね。」

 

 「……ソラ、ウ?」

 

 その言葉にケイネスはとてつもない不安と悪寒を覚える。

 ……そう、いまだかつて、彼女がケイネスに向かってこんな優しい言葉を言ったことがない。

 それが悪寒の原因だった。

 

 「貴方なら知ってるわよね。ケイネス。

 魔術師は魔力を体内で循環させることにより身体能力の向上ができる。

 ……そう。私の細腕でも■を容易く砕くことぐらいはね。」

 

 彼女はそう言いながら、ゆっくりとケイネスの首に触れる。

 

 「な、何を……!!

 やめろ!やめてくれ!!ソラウ!!何故だ!何故私を!!」

 

 くっ、と、彼女はケイネスの首にこめる力を増した。

 

 「それでは、さようなら。ケイネス。

 最後に言っておくけど、私は貴方の事は何とも想っていなかったわ。

 そう、私にとって、貴方はその辺の石ころと同じ程度の価値しかないもの。」

 

 「――――!!!」

 

 暗闇の中、無言の絶叫が響き渡った。

 

 

 

今夜は俺とお前でダブルサーヴァントだからな。(挨拶)こんにちわ。零です。

読んでいただきどうもありがとうございます。

今回はセイバー大活躍の回です。

セイバーもランサーも頑張ってカッコよくしてみたのですが、どうだったでしょうか。

後、王の軍勢にエクスカリバーを叩き込むシーンは書きたかったので満足しました(ヴィマーナも同様)

そしてソラウがヤンデレ化。どうしてこうなった!

後、征服王のファンの方々すみません。orz

 

よろしければ感想などを送っていただけると嬉しいです。

作者が大喜びいたします。

それでは。

 

なお、これらの小説は全てフィクションであり

実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。

また登場する人物は全て18歳以上です。

 

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