Fate/-(フェイト・マイナス)   作:名無しのレイ

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第八話

 

 

 

 

 ―――ウェイバーたちがソラウの幻と会話をしている時、それを監視する一人の男の姿があった。

 セイバーのマスター、衛宮切嗣。

 彼もソラウの水晶球には気づいていたが、それを餌にすれば他のマスターを釣り出せるのではないか、と考えあえて放置していたのだ。

 そしてまんまと釣り上げられたウェイバーとランサーを見つけてぽつりと呟く。

 

 「やはり餌に釣られたか。見張っていたかいがあったな。」

 

 ここで遠距離攻撃を仕掛けるよりも、今まで不明だった彼らの根拠地を掴んだ後でじっくりと攻撃の作戦を練ればいい。

 そう判断した彼は、ウェイバーの帰っていくマッケンジー家を確認した後、ふっと姿を消した。

 

 

 

 そして、数日たったある日の事。

 

 ウェイバーは部屋にこもって自らの学んだ錬金術によって霊薬……というか傷薬を作成している最中である。

 錬金術の秘奥である『生命の水(アクア・ウィタエ)』など到底駆け出し魔術師である彼に出来ようはずもないが、

 錬金術の基礎として傷によく効く傷薬の調合などは彼でも可能である。

 いや、むしろ粗雑な魔力回路しか持たない彼にとっては、魔力回路を使用せずに、正確な調合を行えば完成する霊薬作りは極めて楽だといってもいい。

 だが、地味で面白みもない単純な作業だとウェイバーは考えているため、あまり行いたくないのだが、今は好き嫌い言っていられる状況ではない。

 

 何だかんだですり傷や細かい切り傷などがあちこちにできてしまったため使っているうちにいつの間にか無くなってしまっていたのである。

 

 乳鉢に乾燥させた薬草を数種類入れてゴリゴリと乳棒ですりつぶしながら混ぜ合わせる。

 さらにそれをアルコールランプで暖めたり、治癒の力をもった幻想種の血で出来た粉末をほんの少しだけ混ぜたり様々な作業を行うことにより軟膏状の傷薬を作り出す。

 こうして出来上がった軟膏を小型のプラスチックのケースに入れて、それを原料が無くなるまで何十個も繰り返し作っていく。

 これだけ作っておけばしばらくは作る必要もないだろう。

 こうして錬金術によって作られた特殊な傷薬は傷に非常によく効き、化膿を防ぎ、治りも早くなる効果を持つ。

 さらに念のため、傷口の消毒用の高濃度消毒アルコールを購入してプラスチックの瓶に入れて持ち歩けるようにしておく。

 

 治癒魔術も使用できないウェイバーが頼りになるのは、この傷薬や治癒の力を持ったルーンストーンだけだ。

 正直、聖杯戦争という戦いを生き残るのには心もとない限りであり、簡単な治癒魔術を会得していなかった自分が悔やまれる。

 一応、治癒魔術を習った際に傷口の縫い合わせや簡単な治療技術だけは習ったが、今更治癒魔術を覚えるなどとても間に合うものではない。

 何とか現状の状況でベストを尽くすしかない、と思っているウェイバーに、部屋の外からマーサ婦人の声が響き渡る。

 

 「ウェイバーちゃ~ん。」

 

 キャスターの眠りの魔術をかけられたマッケンジー夫妻だったが、キャスターを倒した事により回復し、今は通常の生活を送っている。

 彼らには、暗示をかけて、強盗に襲われてしばらく昏睡状態になったという風に記憶をごまかしてある。

 キャスターに強襲された以上、ここも安全とはいえない。

 唯一この場所を知っているであろうキャスターは倒されたため、他のマスターたちにはウェイバーの居場所は知られていないであろう。

 アサシンが知っているのではないかとも思ったが、もし知っているのならとうの昔にアサシンが攻撃を仕掛けてきているはずだ。

 ……だが、これ以上マッケンジー夫妻を戦いに巻き込むのは彼の気が引けた。

 そのため、今彼はマッケンジー家ではなく、他の根拠地候補をランサーに探してもらっている最中である。

 今の候補としては、キャスターの根城にしていたエーデルフェルトの双子館だが、あの場所はアサシンが知っているのでいまいち安心できない。

 そこで彼が考えたのは双子館のもう一つ、教会付近にある館である。

 双子館というのだからもう一つあるに違いない、というウェイバーの単純な予想ではあるが、それは見事に当たっていた。

 あそこならば遠坂邸の近くの姉の方の館とは違い、アサシンには知られてはいまい。

 そう考えながらも、ウェイバーはマッケンジー夫人の呼びかける声に答える。

 

 「何?何か用?」

 

 「ウェイバーちゃんにお電話ですよ~。」

 

 自分に電話だと?それを聞いてウェイバーの背筋に寒気が走る。

 自分がここにいる事を知る人間はもういないはずだ。

 ……だが、一方で疑問も残る。

 もし敵マスターならわざわざこちらに電話をかけてくるなどという事をするはずがない。

 問答無用で奇襲をするはずだ。電話をかけてくるなどということはありえない。

 とにかく、出てみなくては話にならない。彼は恐る恐るながら電話に出てみる。

 

 『ほう。まだ生きていたか。ベルベット。なかなか悪運は強いらしいな。』

 

 その声には、ウェイバーは聞き覚えがあった。

 ―――蒼崎橙子。

 魔術協会から封印指定を受けた魔術師であり、稀代の人形師でもある。

 それを聞いて、ウェイバーは驚きの声を上げる。

 

 「アオザキか!?ど、どうやってこの家を……!」

 

 ウェイバーは彼女に対してこの家を教えた事などない。

 そもそも、彼女と会った地点ではこの家に拠点を定める事すら決めていなかったのだ。教えられようはずもない。

 さらに、彼女に居場所を教えるという事は、(可能性は極めて低いが)彼女から自分の居場所が漏れる可能性もあるということだ。

 それを危惧して全く居場所の連絡は行っていなかったのだが、まさか彼女の方からこちらを探し出して連絡を取ってくるなど予想外もいいところだ。

 

 『何、こちらにはこういうのを調べるのが得意な奴がいてな。

 お前の居場所を探し出すことなど造作も無い。

 それでだ。そろそろそちらの手持ちのルーンストーンも底をつき始めているだろうと思ってな。

 ルーンストーンの予備を冬木駅のあるロッカーの中に入れてある。

 鍵はとある場所に隠してあるから、今からロッカーのナンバーと鍵の場所を教えてやろう。』

 

 この聖杯戦争の真っ只中に直接魔術師と魔術師が接触するなど目立つなどというレベルではない。

 それに届けるだけなのにわざわざ橙子が直接出向く必要も全くない。

 ならば、黒桐に届けさせた方がこちらも楽でいい。

 ここまで念を入れて足のつかないやり方ならば、他の魔術師からの注目を引くこともほとんどありえまいと彼女は判断したのだ。

 それに正直様々なことに使ったのでルーンストーンの残りも心もとない限りだ。彼女の申し出は非常にありがたい。

 だが、一つ疑問が残る。

 何故、彼女はここまでしてこちらに肩入れするのだろうか?

 

 「……何故だ。何故ここまでやる?

 魔術の基本は等価交換だ。僕にここまで肩入れしてもそちらに得られる物は何も無い。」

 

 『そんなことは決まっているだろう。

 お前に投資している以上、勝手にくたばられても困るからな。

 先行投資分は回収しなければならない。それだけの話だ。

 ……それに、お前は面白い。とてもな。

 実はな、私はお前がサーヴァントを制御できずに自滅すると思っていた。

 だが、サーヴァントを制御し、ここまで戦い抜いている。

 それは、お前が私の予測を超えている存在だという事だ。』

 

 そこまで言うと、彼女は一旦言葉を切る。

 カチカチという微かなライターの音からすると、恐らくはタバコを吹かして一息入れているのだろう。

 

 『人生には楽しみが必要だよ。ベルベット。

 予測された観測結果が出るだけでは面白みも何もない。

 全く予測しない結果がでるからこそ面白いというものだ。

 ま、せいぜい、どこまでやれるかやってみるがいい。

 

 ……ああ。あと面白いルーンストーンを作っておいた。

 『あの』衛宮がアインツベルンに雇われたと聞いたからな。

 特別にカスタマイズしてある魔弾迎撃用のルーンストーンだ。せいぜい上手く使うといい。』

 

 それを聞いてウェイバーは驚きの声を上げる。

 

 「……待ってくれ!という事はアインツベルンに衛宮が……いや、そもそも衛宮は魔弾を使うということか!?」

 

 アインツベルンが外野の魔術師を雇ったという事は聞いていたが、

 それが『あの』衛宮であり、しかも魔弾使いなどという話は始めて聞いた。

 いかにウェイバーといえど、悪辣な魔術師狩りを行う衛宮の事は知っている。

 『魔弾の射手』に代表されるように、魔弾の使い手は珍しいが魔術世界においていないわけではない。

 それを知っていれば、何らかの対応はできるはずだ。

 それを聞いて、彼女は呆れたような声を上げる。

 

 『……おいおい、貴様まさかそんな事も調べていないのか?

 よくそれで今まで生きてこれたものだな。まあいい。特別に教えておいてやる。

 今まで衛宮は幾多もの魔術師を狩っている。

 ……その中でも特徴的なのは、倒された魔術師の中で魔術回路が完全にオーバーフロウを起こしたものがあるという事だ。

 そして、その魔術師には必ず大口径の弾痕が残されている。

 私の予測だが、恐らくヤツは魔術回路にオーバーフロウを起こさせる何らかの魔弾を使用して魔術師を倒した可能性が高い。

 まさしく、魔術師の天敵というヤツだな。』

 

 ペラペラと、彼女が資料をめくっている音がこちらにも聞こえてくる。

 何故魔術協会と縁を切った彼女がこれほどの情報を持っているのか不思議だが、もしかしたらそういう情報収集に長けた人間がいるのかもしれない。

 そういう情報収集に長けた人間と彼女の魔術知識があればどんな魔術師であろうと自分の痕跡を完全に隠すことは難しいのだろう。

 それに確か彼女がまだ魔術協会に居た頃から衛宮の悪名は轟いていたのでその地点である程度の情報を得ていたのかもしれない。

 ウェイバーがそう考えている最中にも、彼女は言葉を続ける。

 

 『貴様は知っているかもしれんが、魔弾というのは我々魔術師にとって極めて厄介だ。

 通常の弾丸なら魔術的防御が出来るが、魔弾はその魔術的防御をあっさりと無効化する性能を持っている事が多い。

 そして、悪魔や幻想種の類と異なり、我々はあくまで人間である以上、その肉体は脆弱だ。

 魔術的防御が失われた魔術師など、文字通り丸裸当然だ。そこが魔弾の厄介な所だな。』

 

 その言葉にウェイバーの背筋に寒気が走る。

 今自分が生き残っているのがとてつもない幸運に思えてきたからだ。

 そこまで言うと、彼女はさらにタバコで一息をつき、言葉を続ける。

 

 『魔弾というのは大まかに分けて四種類ある。

 一つは単純に威力を高めているだけの魔弾。これの対応策はいくらでもあるから簡単だ。

 二つ目は誘導弾的な効果を持った魔弾。三つ目は魔術障壁をすり抜ける・無効化する能力をもった魔弾。

 そして最後がその他……それ以外の特殊能力を持った魔弾だ。

 衛宮の魔弾は、3と4の複合型だろうな。

 威力は、弾痕から推測から極めて大口径のハンドガンから発射することで補っているのだろう。

 問題は3の魔術防御の無効化と4のその他……この場合は魔術回路のオーバーフロウをもたらすという事だ。

 だが、これについてはある程度の推測ができる。

 つまり、魔弾自体に魔術回路のオーバーフロウを起こす能力がある場合だ。

 この場合、魔術によって防御した場合……例えば魔術的な何らかの物理障壁を作った場合……その魔術障壁に魔弾が着弾した時に、

 魔弾が魔術回路へとオーバーフロウを起こし、それが術者へと伝わっていく。

 これなら魔術師の倒され方にも納得がいく。』

 

 

 確かに、肉体的に強靭な幻想種や悪魔と異なり、魔術師の肉体は魔術的な防御がなければあくまで通常の人間の肉体でしかない。

 魔術的防御を無効化し、さら魔術回路にオーバーフロウを起こさせると推測される魔弾。

 そんな物を食らったら魔術師などひとたまりもない。

ウェイバーの背中に冷や汗が流れた。

 

 『そこで逆転の発想というヤツだ。

 防げないのならば迎撃して叩き落せばいい。

 ええと……迎撃ミサイルだったか?私は軍事には疎いがそういうものだと思えばいい。

 ルーンはルーン自体が独自の魔術回路といえるからな。魔力をこめるだけで起動するので、貴様や私の魔術回路とは全く繋がりはない。

 このルーンストーンに魔弾を食らった所で、貴様の魔術回路がオーバーフロウを起こす事はありえないと断言してやろう。』

 

 このルーンストーンは、防御の能力をもったエイワズのルーンと、保護を司るアルシズのルーン、

 さらには門を意味するスリサズのルーンと、情報を司るアンサズのルーンが刻まれている。

 ルーンとは、一つの文字だけでも意味を持つが、複数刻み込むことでさらなる意味を持つ。

 だが、その分複数のルーンを刻み込み、それを制御することは高度な技術が要求される。

 そこは、やはり蒼崎というべきだろう。

 

 これは、防御に保護の意味を上乗せして、さらに『門』の意味である『止まれ』という意味を重ねる事により、

 飛来した魔弾を迎撃して進行を阻止する迎撃ミサイルと同様のシステムである。

 敵の魔弾がこちらに向かって射撃されたと同時に、情報を司るアンサズのルーンにより、それが魔術的要素を持った弾丸だと認識。

 それと同時に、所有者の懐から飛び出して飛行を行い、防御と保護、そして『止まれ』という意味の門の要素を持ったルーンが発動し、

 魔弾に体当たりを仕掛けて魔弾もろとも砕け散る(最悪でも進行を逸らせて所有者を保護する)仕組みである。

 

 さらに白い薔薇の花片が一片そのルーンストーンには貼り付けられている。

 演劇の魔弾の射手では、悪魔に操られた魔弾は、隠者にもらった白い薔薇によって作られた花冠によって防がれたという。

 さらに、可能性は極めて低いが衛宮の魔弾にさらに誘導性が付属していた場合は、砕け散った魔弾迎撃用のルーストーンはウェイバーの魔力がこもっているため、

 それが魔術的なチャフとなって撹乱してくれるだろうということだ。

 

 そこまで話した彼女は、さらに真剣な口調になって言葉を続ける。

 

 『最後に一つ助言をしておいてやろう。

 ……いいか。ベルベット。

 魔術師は皆、自身が特別であろうとし、自身だけがこの老いていく世界を救うのだとそう考えている。

 私とてかつてはそうだった。だが、そんな事に意味はない。

 私たち魔術師は誰より弱いから魔術師なんていう超越者である事を選んでしまったんだ。

 それを忘れるな。』

 

 それだけを言うと、一方的に電話は切られてしまった。

 『魔術師などに意味はない』

 封印指定を受けたほどの卓越した魔術師である彼女の言葉は、ウェイバーに激しい衝撃を与えていた。

 ウェイバーなど足元にも及ばない天才の領域に存在する魔術師が「魔術師など意味はない」とそういったのだ。

 それは魔術に憧れ、母親に止められながらも魔術協会に入った彼にとっては、自分の根本を揺るがす出来事だった。

 

 「ならば……私はどうすればいいんだ……。」

 

 そんな彼の言葉は誰にも聞かれる事無く消えていった。

 

 

 

 

 

 一方、場面は冬木の教会へと移る。  そこには、言峰と時臣、そして璃正神父にアーチャーだ。

 言峰はアサシンと共に現場を探索し、ソラウの残した水晶球の回収を行っていた。

 何と呆れる事に、あのソフィアリ家の魔術師は全ての現場にこの水晶球を残していたのである。

 一般人から見ればただの石ころにしか見えないように幻覚魔術が施してあるが、

 魔術師から見れば明らかに分かるであろうこんな明確な証拠を残していくなど間抜けとしか思えない。

 もっとも、そのほとんどは役目を果たしたのか砕け散っているが、何とか一個だけ言峰は砕け散る前の小型の水晶球を回収できたのである。

 これがあれば残留魔力や魔術式から逆探知してソラウの居場所を探る事も不可能ではない。

 だが、なぜか彼はそれを時臣に報告する気にはなれなかった。それがなぜかは分からなかったが。

 

 「まさか、あのソフィアリ家の血を引く魔術師が外道に落ちるとは……。どうしたものか。」

 

 「うむ……だがソフィアリ家は魔術師の中でも名門。

 我ら遠坂とも交流がある。できるなら私自身の手で仕留め、最小限に抑えたい。

 そうすればソフィアリ家にも借りができるしな。」

 

 やはり、自らの家系から外道が出たとなればその家門の名声に傷つくのは当然。

 ましてや、それが名門の家ならなおさらである。

 故に、その家自身、あるいはその家と交流のある魔術師の家系の手で外道を狩れば、

 家門に傷がつくことは最小限に抑えられる。

 それが普通の魔術師の思考である。

 

 だが、一方で言峰はポケットに隠している水晶球をこっそり弄びながら彼らの会話とは全く逆の事を考えていた。

 マスターはともかく、あのライダーの戦闘能力は強大だ。

 恐らく単体での戦闘能力ならばサーヴァント最強の火力を誇るアーチャーにも匹敵する可能性がある。

 それほどのサーヴァントを利用せずにただ倒すだけというのではもったいないにもほどがある。

 残る敵サーヴァントは、セイバーにバーサーカーにランサー。

 いずれも一筋縄ではいかない強敵ばかりだ。

 特に言峰はセイバー……というよりはそのマスターである切嗣に拘っていたが、

 まさか真っ先に落第するであろうランサーがここまで生き延び、バーサーカー、ライダーに痛手を負わせるなど予想外にもほどがある。

 ならば、ライダーをランサーにぶつけ、排除させることがこちらの被害を最小にする今の最善ではないか、と彼は思考した。

 

 ……だが、言峰自身は気づいていなかった。

 それは単にソラウやライダーが利用できるだけというわけではなく。

 ソラウの引き起こす悲劇に彼が強く興味を引かれていたということに。

 自らの夫ですら犠牲にし、普通の一般人ですら平気に犠牲にする女。

 そんな邪悪な女に対して、言峰は自分では無意識ながら強く興味を引かれていたのだ。

 そんな言峰に対して、アーチャーのサーヴァントであるギルガメッシュはにやりと邪悪な笑みを浮かべて言峰に言葉を発する。

 

 「迷う事はないぞ言峰。

 貴様は貴様のやりたいようにすればよい。

 それだけの事だろう。」

 

 そのアーチャーの言葉に時臣と璃礼は不審そうな目つきをするが、言峰はしばらく迷ったあげく、その言葉にこくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 ―――問題のソラウの方は、夜に入り、またもやもう一人色仕掛けで篭絡して犠牲者の魔力を根こそぎ月霊髄液で搾り取っていた。

 セカンドオーナーである時臣や他のマスターから見つけられる・目をつけられる可能性がさらに高まるのにも関わらずにである。

 だが、彼女にとってそんな事などどうでもよい事だ。

 彼女の目的はランサーを己の物にするただそれのみ。

 その他の事などどうでもいい事だ。そのためにはもっともっと強力な力が必要だ。

 ライダーは彼女の所業に怒り狂い切りかからんばかりだったが、ここでソラウを切れば自らも消滅してしまう事になる。

 そのような中途半端で終わるのは彼の本意ではない。

 それを知っているからこそ、ソラウは好き勝手にやっているのだ。

 

 ―――と、彼女は魔力の反応を感じ、とっさに戦闘体勢に入る。

 

 「発動せよ!月霊髄液!!」

 

 それに答え、彼女の足元で蠢いていた水銀の塊が起動し始め、とっさに防御壁を作り出し、暗闇から飛び出してきた黒鍵の一撃を防ぐ。

 さらに、黒鍵の投擲と同時にこちらへと飛び込んできたのは黒い服を纏った男の姿。

 否、それはただの黒い服ではない。それは神父の着る黒い僧衣だった。

 

 魔術師に戦いを挑んでくる神父などただ一種類―――。

 

 「聖堂教会の……代行者!?」

 

 ソラウは叫んだ。

 だが、それも納得である。

 外道を行う魔術師を狩るのは魔術協会の魔術師だけではない。

 教会の中でも「異端狩り」に特化された巨大な部門。

 それが聖堂教会であり、その中でも異端を倒す者たちを代行者と呼ばれる。

 

 不意打ちの一撃は防がれたものの、その神父はさらに脛蹴りである斧刃脚で攻撃を仕掛ける。

 それをさらに水銀の防御壁で防御する彼女だが、当然、それをただ黙って見ているソラウではない。

 ソラウは補助魔術礼装の力を借りて月霊髄液を制御するが、それは本来の所有者であるケイネスには到底及ばない。

 それゆえ、月霊髄液の最大の攻撃であるダイヤモンドですら両断する超高圧水流カッターと同様な刃へと変化させる『鞭』を使用するのは今だ難しい。

 その代わり、水銀の質量をもち高速で相手にぶつける『触手』しか使用できない。

 だが、その単純な打撃力はチタンの防御壁ですら大きく歪ませる力がある。

 

 言峰の攻撃に対抗して、『触手』での攻撃を仕掛けるソラウ。

 だが、その恐るべき攻撃に対して言峰は恐れて距離を取るのではなく、むしろ逆に大きく踏み込んでソラウの懐に飛び込んでいく。

 

 相手に張り付き、超接近戦闘を仕掛ける事により相手の動きを封じる『粘剄』と呼ばれる戦い方である。

 上から襲い掛かる水銀の触手を、左斜めの小三才歩で水銀の触手を回避し、左手で水銀の触手を払う

 『左閃左撥手』という八極拳の回避法をとる。

 さらに、言峰の脚に襲い掛かる触手を、サッと左足を上げて回避する『提脚式』でなおも回避する。

 

 「くっ……何故こうも攻撃が回避されるの!?」

 

 それは、言峰が粘剄と聴剄の組み合わせによる攻撃を行っているからである。

 粘剄は先ほど書いたように、相手に張り付くような超接近戦を行う事により、相手の力を封じる事。

 そして、聴剄は、相手の動きや気配、視線や微妙な筋肉の動きを読み取り、相手の出方を知る事である。

 通常の人間相手ならば顔の動きや触れ合う事による筋肉の動き、敵意などの気配や気の流れによって感じられるものだが、

 言峰は、月霊髄液に流れる魔力の流れを読み取る事により、水銀の動きを読み取り、魔術的な聴剄を行っているのである。

 

 「―――ッ!!」

 

 ソラウはとっさに月霊水銀を変化させて防御壁ではなく、自らの体を覆う『鎧』へと変化させる。

 水銀中毒を警戒して、直接皮膚に水銀が当たらないように自らの補助魔術礼装の上に魔術障壁を展開させて、

 その上に水銀の鎧を構築するというソラウが独自に編み出した術式である。

 近接戦闘が全くできないソラウがもし懐に飛び込まれた時に対する対策として作り出した術で、

 最終的には女性である自らの非力さをカバーするために、

 水銀を人工筋肉化と同時に鎧化させ、水銀で構築されたパワードスーツ化を考えているが、そこまでには膨大な時間がかかるだろう。

 水銀で構築された鎧は、その柔軟性で打撃などの衝撃を全て吸収する。

 この鎧の前では八極拳の拳といえど無効化される……はずだった。

 だが、言峰が月霊髄液の水銀の鎧の表面へと手を当てると、凄まじい衝撃がソラウの体内を揺さぶった。

 

 ―――浸透剄

 相手の肉体の内面にダメージを与える八極拳の技である。

 これは、肉体の表面ではなく、筋肉や防具を通り過ぎて体内の内臓へと衝撃を伝え、

 打ち込んだ威力をそのまま体内へと伝導させる技であり、この技の前では どんな防具でも意味はない。

 例え強靭な水銀の盾であろうと、直接相手の内面へと攻撃を仕掛ける技を防ぐことはできない。

 

 「が……ふっ!!」

 

 そんな体内を直接揺さぶる衝撃に、戦闘訓練を受けていないソラウが耐えられようはずもない。

 あっさりと彼女は膝をついて無力化される。

 言峰にとっては限界ギリギリにまで威力を最小限にして手加減したのだが、それでもこの威力である。

 そして、精神集中もままならず月霊髄液も起動できない彼女に対して、言峰は言葉を放つ。

 

 「待て女。私は貴様を倒す気はない。」

 

 「ぐ……。あ、貴方は聖堂教会の代行者……魔術師狩りでしょう。

 それが外道である私を倒さないなどとは……。」

 

 「貴様の操るライダーの力は強力だ。

 私の操るアサシンとライダーが協力すれば、貴様の執着するランサーも打倒し、貴様の物にできるだろう。

 その後は好きにするといい。

 別段私は聖杯には興味がない。必ずしも貴様のライダーやランサーを倒す必要もないからな。

 どうだ?悪い条件ではないと思うが?」

 

 それを聞いて、彼女はなおも苦悶の表情を浮かべながらにやりと邪悪な笑みを浮かべた。

 

 「……ふふ。あ、貴方も私と似たような匂いがするわ。私と同じ、外道の匂いがね」

 

 ……その言葉を、何故か言峰は否定できなかった。

 

 

 

 場面は切り替わり、その同時刻の夜のマッケンジー家。

 橙子に教えられたロッカーからルーンストーンを回収したウェイバーが自分の部屋から降りていくと、マーサは玄関で一人の青年と話していた。

 ウェイバーは知らなかったが、その青年の名前は柳洞零観。

 柳洞寺の長男であり、その豪放磊落な性格はなかなか評判になっている。

 まだマッケンジーたちが冬木市に引っ越したばかりで右も左も分からない時に色々と相談に乗ってくれたのが、柳洞寺の人々であり、それ以来彼らとは懇意にしてもらっている仲である。

 どうやら、強盗に襲われたという噂を聞いて心配してきてくれたらしい。

 

 「なるほど。いやしかしご無事で何より。最近は物騒ですからな。

 何かありましたら柳洞寺にお頼りください。それでは。」

 

 それだけをいうと、彼は去っていった。

 見たことのない人間だったので不安だったが、マーサが親しげにしている以上大丈夫そうだと思ってほっとする。

 そういえば柳洞寺は冬木屈指の霊地であり、その周囲にはサーヴァントを排除する強力な結界が張られていると資料で読んだ気がする。

 もし、いざとなったらマッケンジー夫妻を柳洞寺に避難させるという手もあるか、とウェイバーは考えていた。

 

 「ああ、ウェイバーちゃん。お爺さんが屋根の上で呼んでますよ。」

 

 「屋根の上……で?」

 この家はどうやら初めから屋根の上に簡単に上がれる構造になっているらしい。

 どうもマッケンジーがそう設定して作ったらしいのだが、何故そんな風にして作ったのかウェイバーにはいまいち理解できなかった。

 屋根に出たウェイバーに対して、屋根の上から星空を眺めていたマッケンジーは笑顔で出迎える。

 

 「おお、良くきたな。ウェイバー。

 覚えておるか?お前は小さい頃はここが大のお気に入りの場所でなあ。

 たまにはこうして二人で夜空を眺めるのもいいと思ってな。」

 

 その言葉にウェイバーは呆れ果てた。

 物好きにもほどがあるというものだ。

 ランサーはさりげなく庭に出て散歩をしているふりをして周囲の警戒に当たっている。

 もし襲撃があったときにはすぐ二人の元へと駆けつけられるようにだ。

   適当にうなづきながらも、ウェイバーは彼の寂しそうな顔つきが気になっていた。

 そして、唐突に、マッケンジーはウェイバーに対して衝撃的な言葉を放つ。

 

 「ウェイバー。お前さん、この家から離れようとしているね。」

 

 「―――ッ!?」

 

 どきり、とした。

 ウェイバーが彼らを危険にさらさないようにこの家から離れる事を彼は知っているのだ。

 そして、続けて放たれた言葉に、ウェイバーはさらに打ちのめされた。

 

 「そして……お前さんは、私たちの孫ではないね。」

 

 「………!!」

 

 愕然とした。何の素養もない一般人に暗示を破られたのだ。

 その愕然とするウェイバーをなだめるように、マッケンジーは優しい口調で淡々と言葉を放つ。

 

 「本物の孫は一度たりともこの屋根に来たことは無いよ。

 ……まあ、お前さんが何者であろうがどうでもいい事さ。

 何故お前さんの事を孫と思い込んでいたのが不思議な所ではあるが……それもどうでもよいしな。」

 

 「怒って……いないんですか?」

 

 暗示で騙されたあげくに、ウェイバーのせいでキャスターや竜牙兵に襲われる形にもなってしまったのだ。

 怒り狂うのが普通の人間の反応だろう。

 だが、怒るわけでもなくあるがままを受け入れる彼の姿はウェイバーには理解不能だった。

 

 「まあ、怒ってもいい所なんだろうが……わしは本当を言えばお主たちに感謝しているじゃよ。

 お前さんたちが来てからマーサの奴、最近は本当に楽しそうに笑うようになった。

 マーサの奴、息子たちと喧嘩別れをして塞ぎこむ事も多かったし。

 お前さんもあの若者は今時にしてはありえないほど生真面目で清廉な性格じゃしなあ。

 到底悪さをできる性格でもありえん。」

 

 「お前さんがたがどう思ってるかは分からんが……わしらにとってはこの時間は宝物なんじゃよ。

 優しい孫と一緒に過ごす穏やかな時間。

 それがわしらにとってはもっとも大切なんじゃ。

 ムリにとはいわんが……よければわしらとずっと一緒に暮らしてくれると嬉しいのじゃが。」

 

 「僕は……」

 

 「僕は……!!」

 

 その瞬間、静寂を切り裂いて銃声が響き渡った。

 次の瞬間、音速を超えて飛来した弾丸は、マッケンジーの太ももを貫いたのだ。

 

 「くっ……がああっ……!!」

 

 上がる苦悶の声と傷口から噴出す血。

 それを見て、ウェイバーは本能的に叫びを上げていた。

 

 「……!!ランサーッ!!」

 

 瞬間、屋敷の庭に出て警護に当たっていたランサーは屋敷の屋根にまで一気に跳躍し、ウェイバーとマッケンジーを抱えると再び庭へと着地し、

 瞬時に、狙撃を避けるためにマッケンジー家内部へと逃げ込む。

 

 「申し訳ありません主!まさか狙撃とは……!!」

 

 「そんな事はどうでもいい!血が!血が止まらない!血が!」

 

 「ウェイバーちゃんどう……き、きゃあっ!お、お爺さんがっ!」

 

 「落ち着いてください主!とりあえず止血処置と治癒のルーンストーンを!」

 

 そのディルムッドの声に多少は冷静さを取り戻した彼はまずは血を止めるためにふとももに止血帯を作り、さらに直接圧迫止血法を行う。

 後は、30分に一度緩めて血を通わせるだけだが、ふともも内部に弾丸が残っている以上、これを取り除なければならない。

 さらに、現状では輸血ができないので、生命力を象徴するソウイルのルーンストーンをマッケンジーにもたせる。

 このルーンの力により生命力を強化させ、造血効果も向上させることができるので、一時的に輸血の代わりとなるのだ。

 これならばショック症状も和らげられるはずだ。 

 

 戦士であるディルムッドならば仲間への応急処置としてこのような事をやった事が何度もあるので、器具さえあれば乱暴ながらもめり込んだ弾丸を取り除くこともできるだろう。

 

 「……主よ。私は攻撃を防がなければなりません。

 貴方が、貴方しか、この人を助ける事はできないのです。」

 

 「僕……が?」

 

 ごくり、とウェイバーは喉を鳴らした。

 錬金術や治癒の魔術の講義などで、人体の体内の仕組みや、簡単な動物実験などはやった事はある。

 だが、人体に対する手術など行った事はない。

 ……だが、迷っている暇などないのだ。

 

 「……お婆さん!まずはお湯を沸かして!

 それとナイフとピンセットと針と糸を!それを全部お湯で消毒して!

 後、清潔なゴム手袋を用意して同じようにお湯で消毒を!!」

 

 「わ……分かったわ!!」

 

 幸いなことは重要な血管には恐らく傷はついていないという事だ。

 魔術の講義で人体の構造を習った彼にはそれが分かる。

 魔術の授業で治癒魔術の一環として人体の構造を学び、一応治癒薬を使用した傷の手当は習ったウェイバーだが、実際に行うのは初めてだ。

 そして、錬金術で調合した特殊な薬をまず傷口へとつける。

 これは治癒効果や化膿を防ぐ他に、一時的に痛みを麻痺させる効果もある局部麻酔の効果もあるので、その後で消毒用のアルコールで傷口を拭う。

 その瞬間、チュイン!と甲高い金属音が響き渡る。

 再度の狙撃をランサーが己の魔槍で叩き落したのだ。

 それに肝を冷やしながら、ウェイバーはランサーに向かって問いかける。

 

 「ラ……ランサー!次はどうすればいい!?」

 

 「それではそのピンセットを傷口に!

 血管を傷つけないようにめり込んだ弾丸を取ってください!

 くれぐれも慎重に!」

 

   熱湯で消毒したピンセットで恐る恐る傷口へと差し入れると、カチンと硬い手ごたえがする。

 震える手で何とかそのめり込んだ弾丸を取り出す。

 

 「弾丸を取り出したら次は傷口を縫ってください!

 薬をつけてルーンストーンの治療を!」

 

 さらに噴出す血をガーゼで拭いながら、

 薬を塗り、震える手で糸と針を手に取ると傷口を縫い始める。

 ガチガチと震えながらも何とか傷口を縫い終わると、消毒用のアルコールで傷口を消毒し、

 さらに錬金術で調合した薬を塗り、止血用の止血帯を取り除き、ガーゼを当てて包帯を巻き始める。

 

 さらに、傷口の近くに生命力を象徴するソウイルのルーンストーンと雄牛を象徴するウルのルーンストーンを当てて包帯で巻きつけていく。

 ソウイルのルーンは、生命力を活性化させるため、瞬時に傷を治す効果は無い代わりに、傷口の治りを早くさせ、失った血の造血も早めたりショック症状を和らげる効果がある。

 一方、雄牛を象徴するウルのルーンは、生命力や治癒と回復も象徴するため、こういった治癒に対して最適なのだ。

 ウルのルーンの力により、包帯に包まれて彼らには見えないが、少しづつ傷口が塞がっていき、

 ソウイルのルーンの力により、出血により真っ青だったマッケンジーの顔色が少しづつ元に戻っていく。

 

 その瞬間、三度目の狙撃が行われるが、それもランサーの魔槍によって再度防がれる。

 そして、ランサーは狙撃された方向を闇を見通すようにぎろりと睨み付ける。

 先ほどまでウェイバーが手術を行うのを護るために防衛戦に徹する必要に迫られていたランサーがようやく攻撃に出る時がきたのだ。

 

 すでに先ほどの狙撃で銃口から出る火花などにより敵狙撃手の狙撃ポイントは確認してある。

 ぎちり、とランサーの筋肉が引き絞られ、ランサーは魔槍の投擲体勢に入る。

 

 通常ならば、そんな離れた距離にいる相手に投槍など届くはずもない。

 

 しかし、彼はサーヴァントである。

 

 再度の狙撃が行われる瞬間、凄まじい勢いで彼の手から破魔の紅薔薇が投擲される。

 サーヴァントの力で投擲されたその魔槍は、瞬時に音速を突破し、狙撃手である切嗣の元へと迫り来る。

 

 「―――!」

 

   ランサーの行動に危険を感じた切嗣は、とっさにワルサーWA2000をそのままにしてその場から離脱する。

   次の瞬間、ワルサーWA2000が槍兵が投擲した破魔の紅薔薇によって正面から完全に打ち壊される。

 まさか、300mもの距離が離れている相手に槍を投擲し、それを確実に敵に命中させるなど予想外にすぎた。

 槍の投擲によるカウンタースナイプなど誰が予想できるだろうか。

 

 まさか借りにもマスターがあんな無防備な姿で姿を表すはずはない、という切嗣の考えは普通の考えではあったが、今回は深読みしすぎたようだ。

 それゆえ、恐らくは無防備であろうグレン・マッケンジーを狙ってその隙を狙ったのだが、まさか仮の宿である住人にあんなに執着するとは予想外にもほどがあった。

 セイバーはこのような作戦を知れば激怒して使い物にならないであろうと判断した彼は単独で攻撃に出たのだが、それが仇となった形である。

   ともかく、狙撃が失敗し、位置もばれた以上ここにいるのは危険と判断した切嗣は、固有時制御を使用してこの場を離脱する。

 

 「ランサー!ヤツを追いかけろ!僕はあの人の手当ての続きをする!

 何かあったら通信用のラグスのルーンストーンで知らせる、行け!!」

 

 「しかし……」

 

 「行けったら行け!これは命令だぞランサー!!」

 

 「……分かりました。何かあったら即座にご連絡を。」 

 

 主は頭に血が上っていて冷静な判断力が低下しているとはランサーも思っていたが、例え擬似的とはいえ自分の家族がやられれば誰だってこうなる。

 それに、ランサーもマスターや自分ならばともかく、一般人を遠距離から狙うなどいうやり方をする敵に対しては怒りを覚えていた。

 狙撃など行うという事は他のサーヴァントは存在しまい。

 サーヴァントがいるのなら、手術中にでもランサーたちに対して強襲を仕掛ければいいだけの話だ。

 他に味方もいないであろうし、敵マスター一人だけでしかも逃走中ならば追いかけても大丈夫だろう、とランサーは判断した。

 ……それが、判断ミスだという事に気づかずに。

 

 ランサーが敵を追いかけて行った後、ウェイバーは色々考え込んでいた。

 手術と治癒のルーンストーンによってマッケンジーの容態は安定したが、やはり医療機関に見てもらう必要がある。

 あまり信用はできないが、冬木の教会に連絡を取るべきか……とウェイバーが考えている中、何かが猛烈な速度でこちらに接近している事を彼は感じ取った。

 この魔力反応はあきらかに魔術師である。

 その事実に恐れを抱いたウェイバーは、令呪を使用してランサーを呼び戻そうする。

 

 「……そこまでだ。」

 

 その瞬間、暗がりからコートを身に纏い、手に巨大な銃を手にした男が姿を現す。

 とっさにルーンストーンを手にして魔力をこめたウェイバーだが、ほんの少しでも動けばその銃が火を吹くに違いない。

    そして、令呪も使用すれば同様にその銃によってウェイバーは倒されるだろう。

 その手にある巨大な単発銃を見て、ウェイバーは恐らくコイツこそが悪名高い衛宮切嗣であろうと検討をつけた。

 狙撃に失敗すれば当然逃げ出す。

 これが普通の心理だ。

 だが、切嗣はウェイバーがランサーを差し向けたのを見て、固有時制御を使用して、高速で移動して直接マスターへと攻撃を仕掛けてきたのである。

 

 「……判断ミスをしたな。ランサーのマスター。」

 

 そう、相手が狙撃を行った以上、その狙撃を防がれて、しかも居場所がばれてしまっては即座に逃げだすのが当然。

 そして、その追撃を行ったのも間違いではない。

 だが、それならばランサーと共に行くべきだったのだ。

 もしくは、追撃を完全に諦めるかどちらかにすべきだった。

 だが、切嗣も自分がらしくない事を悟っていた。  敵を補足したのなら即座に攻撃を仕掛けるのがいつもの切嗣だ。

 ……だが、傷ついた老人に怯える老夫婦、そして、それをかばうウェイバーの姿を見て、らしくもなく彼に迷いが生じていたのだ。

 

 「ここまでして……何の罪もない人たちを犠牲にしてお前は一体何を望むんだ!」

 

 「―――人類を救うためだ。仕方ない。

 僕の望みは聖杯による全人類の救済だ。この世界から聖杯の奇跡を持って戦争を排除する。

 そのためになら、多少の犠牲は当然の事だ。」

 

 ぽつりと、切嗣は呟いた。

 狩るべき敵と対話することなど、かつての戦闘機械だった彼にはありえない。

 だが、老夫婦を護るウェイバーの姿を見て、何故かイリヤとアイリを連想してしまったのだ。

 妻や娘とは全く似てもにつかない。しかも血も繋がっていない彼らに何故そんな感情を抱いてしまったのか、切嗣には分からなかった。

 それを聞いて、ウェイバーは一瞬絶句した後に、激怒して絶叫した。

 

 「ふざけるな!他人の家族を平気で犠牲にするような奴が世界を救う!?人類を救うだと!?

 笑わせるな!!寝言は寝て言え!!他人を平気で犠牲にするような奴に、人類なんか救えるものか!!

 僕は……認めない!そんな救済は断じて認めないぞ!!」

 

 老婦人をかばうウェイバーの姿。

 そしてその叫び声。それらに反応して、切嗣は反射的にコンテンダーの引き金を引いてしまっていた。

 

 「―――ッ!!」

 

 衛宮がコンデンサーの引き金を引くと同時、ウェイバーは手にしていた蒼崎特性の魔弾迎撃用のルーンストーンを投げつける。

 様々なルーンが刻まれたそのルーンストーンは、移動のルーンの力により瞬時に音速へと加速する。

 そして、同時に情報のルーンが起動し、起源弾の魔力反応を探知。

 弾道を分析し、こちらの機動を微調整して正確に起源弾と当たる機動へと変化させる。

 さらに、防御のルーンと『止まれ』の意味を持つ門のルーンが同時起動し、防御結界を構築させながら襲い掛かる起源弾を迎撃する。

 

 そして次の瞬間、スプリングフィールド弾とルーンストーンが音速で空中でぶつかり合う。

 いかに防御のルーンを起動させているとはいえ、強大な攻撃力を誇るスプリングフィールド弾をそれだけで食い止められるはずはない。

 魔弾迎撃用のルーンストーンはスプリングフィールド弾の前にあえなく砕け散る。

 だが、そのため起源弾は大きく起動をそれ、シュイン!と音を立てながらウェイバーに当たる事なく明後日の方向へと飛んでいった。

 

 「―――!!」

 

 それに驚愕したのは切嗣だ。

 まさか自分の切り札である起源弾が防がれるなど全く予想外の出来事だ。

 今まで彼はこの起源弾を使用して37人もの魔術師を倒してきた。

 だが、初めてその起源弾が破られる形になってしまったのである。

 おまけに異変を察知したランサーもこちらに向かってくる事だろう。

 そうなってしまっては万が一にも勝ち目はない。

 

 そう判断した切嗣は、とっさにフラッシュグレネードを取り出すとそのピンを引いて、床に叩き付けた。

 部屋一面を埋め尽くす閃光。

 とっさに老夫婦をかばったウェイバーだが、そのあまりの閃光に目が眩んで朦朧状態になってしまう。

 そして、ようやく目が見えるようになったとき、すでに切嗣の姿は消え去っていた。

 こうして、ウェイバーたちは今夜も予期せぬ激戦を生き延びる事ができたのである。

 

 

 


 

 こんにちわ。零です。

 ここまで読んでいただきありがとうございます。

 今回は切嗣批判的なところがありますので、切嗣ファンの人たちは申し訳ありません。orz

 でも、誰でも家族同然の人間をああされれば切れるのも当然かなあ、と。

 (実際、四巻ではマッケンジー夫妻を餌にしようかと考えている描写もありましたし。)

 あんなにされたら誰だってそーする。俺だってそーする。

 

 よろしければ感想などいただけるととても嬉しいです。

 作者が大喜びいたします。

 それでは。

 

 なお、これらの小説は全てフィクションであり

 実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。

 また登場する人物は全て18歳以上です。

 

 

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