異世界帰りな最強魔女の気まぐれ観光 ~帰ってきた日本はニチアサヒロインが戦う世界でした~ 作:龍翠
大魔女様のアドバイス
「朝だー!」
魔法で作ったログハウスから出て、私は叫んだ。朝だ! 新しい一日だ! 気持ちのいい朝だ!
「土砂降りだけどな!」
私の住む森、今日の天気は大雨だ。バケツをひっくり返したような雨とか、滝のような雨とか、そんな表現が似合いそうな雨になってる。いやあ、すごいね。遠く離れたあの日本では関係ないけど。
「まあ、私は雨が嫌いじゃないけどね」
雨は静かになるから。森全体が不思議な静けさに包まれて、森の別の側面を見れるような気がしてわりと好きだ。
もちろん雨の音はしっかりあるけど……。それもまた、いい。
屋根付きのウッドデッキに置いてある揺り椅子に座って、日本で買っておいた缶コーヒーを飲む。あ、ブラックじゃないよ。カフェオレだ。
「ブラックコーヒーとか人間が飲むものじゃないよね。苦いだけの水だと思う」
大人になったら好きになるとか言う人がいるけど、意味が分からない。結局私は好きになれなかったよ。
そんなことをつぶやきながらカフェオレを飲んでいたら、ないと思っていた返事があった。
「ん。その意見には賛成だけど、言い過ぎだと思う」
「うえええ!?」
慌てて振り返る。真後ろに小さな魔女がいた。
長い銀髪に黒いローブの魔女。外見年齢は十歳ぐらいだけど、私やお師匠よりもずっと長く生きてる魔女だ。
私よりも強いお師匠が、自分よりもはるかに強い、と断言していることが、この魔女の規格外っぷりを表してると思う。
まあ、特に何もしてこないから、実害のない魔女ではあるけど。
「びっくりしたあ……。いらっしゃいませ、大魔女様」
「ん……。ごめん。驚かせるつもりはなかった」
「いえいえ。大丈夫ですよ。いつものやつです?」
「ん」
私が日本に行くようになってから、大魔女様からはよく買い物を頼まれてる。レトルトのご飯とカレー。どこかで食べたことがあるらしくて、大好物なんだとか。
「カレーが好きって、大魔女様って見た目通りに子供っぽいですよね」
「ちっこい言うな」
「言ってませんけど!?」
いや、意味合い的には一緒だったかもしれないけどさ!
ビニール袋に入れたレトルトカレーのセットと、ついでにおまけの板チョコを渡しておく。大魔女様は板チョコに目を瞬かせた後、何も言わずに食べ始めた。口の端がちょっぴり持ち上がってる。見た目通りに甘いものが好きってことだね。
これを言ったらまた怒られそうだから言わないでおこう。
「ちっこい言うな」
「言ってませんよ!?」
「見た目通りだと言いたそうにしていた」
「なん、だと……!?」
エスパーかこの人! いや、魔女だけど!
「今回の返礼品は何がいい? ドラゴンの鱗? 不死鳥の涙?」
「以前もらったものでまだお釣りが出るぐらいなのでいいですよ」
「そう?」
「はい」
魔法の研究用にもらった世界樹の雫。とんでもない魔力を内包したあれは、最低でも百年はただ働きしてもいいと思える価値があった。
お師匠が羨ましがってたぐらいだからね! あっはっは!
思い出し笑いしそうになってにやにやしてる私を大魔女様はちょっと呆れたような視線で見た後、それなら、と言葉を続けた。
「警告……というほどではないけど、アドバイスをしてあげる」
「おお!? それはすごく嬉しいかも!」
何のアドバイスかな。今気まぐれで研究してる魔法の、かな。それはすごくありがたい……、
「偽悪的に振る舞うのもいいけど、それはいずれ後悔することになる。後悔しないように、よく考えて動くといい。その時は、きっと近いから」
「……っ!」
それは……。それは。
「あの……。私は……」
「ん……。偉そうなことを言ったけど、私は未来が見えるわけじゃない。だから、ただの老婆心から来る警告だと思っておいてほしい」
「はは……。いえ、はい。心に刻みます」
「ん」
大魔女様は満足そうに頷くと、残りの板チョコを口に放り込んで転移してしまった。あのアドバイスが板チョコのお礼、ということかな。
「あっはっは……。ちょっと、釣り合い取れてないですって……」
本当に……。世界は、宇宙は広いと実感してしまった。
そんな大魔女様とのやり取りを、私は思い出していた。それを見ながら。
「これはまた……。思い切ったなあ」
昼を少し過ぎた頃。町の上空になんと突然城が現れた。その城は私が二回ほど訪れたあの城、ディザスターたちの根城だ。
地上は当然大騒ぎ。魔法なんて知らない人の方が圧倒的に多いのだから当然の反応だ。さすがにここまでの規模になると、あのクソ虫の認識改変も役に立たないだろうから。
さっきから自衛隊……かな? 戦闘機も近くを飛んでる。何度も警告を発してるみたいだけど、勇者くんは答える気はないみたいだ。
答える気があるなら最初からこんなことはしないだろうけど。あの子だって日本のことは詳しいはずだから。
のんびりと見守っていたら、城から何か魔法が放たれて……。戦闘機を破壊した。パイロットは脱出できたみたいだけど、これは完全に敵対行為だ。
ただ、問題ないと勇者くんは判断したんだと思う。実際に科学の力で魔法を打ち破るのは難しいから。
科学は学べば誰でも使えるもので汎用性がある。もちろん進歩発展には天才が必要だろうけど、技術が確立さえすれば誰でも使えてしまうものだ。拳銃しかり、ね。
けれど魔法は、完全に才能に特化したもの。汎用性を捨てたかわりに、極めた魔法使いがいればたった一人で戦況を左右できてしまう。それが、魔法だ。
なんて言ってみたけど、私の考えであってお師匠や大魔女様が同じように考えてるかは分からない。大魔女様は科学をとても評価してるみたいだしね。
でも。この世界の人では、あの魔法を破れないということは事実だ。
避難警報が鳴って、たくさんの人が移動を始める。戦闘機が撃墜されたのは見ていたからだろう、たくさんの人が我先にと逃げていく。
私はそれを、鉄塔のてっぺんから眺めていた。
これは……そう。あれだ。
「とても……最終回っぽい!」
もしくはその数話前! まさに、これから最終決戦といった雰囲気だ! とても良い! とても! 良い!
さあ! さあさあ! 明菜ちゃんたちはどうするのかなあ!
私がとてもわくわくしていたら、ディザスターの城から大きな声が響き渡った。
「我が名はディザスター。この惑星に対する侵略者だ」
おお。侵略者。とてもそれっぽい!
「準備は、終わった。これより貴様ら人間を根絶やしにし、我らがこの星を支配する!」
おお、根絶やしときたか。大きく出たね。実際にそうするのかは知らないけど。
「だが、邪魔者がいるのも事実だ。ティアフレイム、ティアアクア! 来るがいい! 貴様らを滅ぼし、我らの支配を盤石なものとする!」
その声から少し遅れて、学校の方から、二つの光が城に向かうのが見えた。多分、明菜ちゃんと静香ちゃんだ。いや、それしか考えられないってだけだけど。
でも学校から行ったのか。多分友だちたちに見られていたと思うけど……。もう、それすらも考えてる場合じゃないと判断したんだろうね。
うん……。最終決戦だね、これは。見に行こう!
壁|w・)名前も何もよく分からない魔女ちゃんです。謎の人です。とても、謎。
なお、この後は登場しません。