異世界帰りな最強魔女の気まぐれ観光 ~帰ってきた日本はニチアサヒロインが戦う世界でした~ 作:龍翠
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ディザスター以外誰もいなくなった部屋。その部屋で、ディザスターは、彼はぼんやりと先ほどまでシオンと名乗った魔女がいた場所を見つめていた。
初めて見た時からまさかという思いがあった。名前を聞いて確信して、そして変わらないなと懐かしくなった。
「まさか、こんな場所で再会するとは思わなかったよ……」
自嘲して、ため息をつく。こんなことがあるなら、もうちょっと体裁を繕えばよかったな、と。
彼はシオンを知っている。ただ、彼が知っているシオンは、あれほど強い力を持っていなかった。間違いなくただの一般人の女子高生。そのはずだったのだ。
それが、今ではあれほどの力を持つ魔女となっている。自分に匹敵するほどの力を持つ魔女に。もしも全力で戦えば……。勝つのは自分だろうが、ただでは済まないだろう。
「いろいろ、あったんだろうなあ……」
彼が最後にシオンを見たのは、彼自身もまだ何も知らなかった時だ。まだ何も知らず、ただ流れに身を任せていた時。
彼が異世界に召喚された時に、ただ側にいたという理由だけで巻き込まれて一緒に召喚されてしまったのが、シオンだった。
一週間ほどは同室に閉じ込められ、同郷として様々な話をした。その時からあの快活な性格で、元気づけられたものだ。
そして。シオンが望まれた者ではないと分かって、いずこかへと追放されてしまった。
危険な場所に追放されたと聞いて、もう生存は望めないだろうと言われた。それでも諦めきれず、力をつけてその森に向かって……。ああ、これはだめだと理解した。あまりにも、あまりにも危険な森だったから。
単体で国を滅ぼせるような魔獣が跋扈する森。そんな場所に置き去りにされて、生き残れるはずがない。
そう、思っていたのだが。
「大変、だったんだろうなあ……」
生き残って、力をつけた。もしかしたら彼女に魔法を教えた誰かがいるのかもしれない。自分といた時は、魔法なんて当然使えなかったのだから。
「苦労、したんだろうなあ……」
自分は、望まれた人だった。だから多くの人に歓迎された。厳しい訓練もあったが、寝食に困ることはなかったのだ。
でもあの人は違う。見知らぬ世界で追放されて、きっと心細かっただろう。自分には、あの人がどうやって生き残って、どのように生活をしていたのか、想像すらできない。
あの頃は語り合うことができたのに……。それが、少しだけ寂しい。
過去の、それこそ一つ前の生を思い返していると、隣に誰かが立ったことに気が付いた。
「キャスティアか」
「はい」
黒いローブに身を包んだ女性だ。整った顔立ちに、長い金の髪を揺らしている。自分が心から信頼している唯一の相手だ。
「マスター。先の方はお知り合いですか?」
「いや。ただ、強い力を持っているなと思っただけだ」
知っている相手だ、とは言えなかった。知っているはずがない相手だから。
「とても強い力を持った人でしたね。驚きました」
キャスティアは会話はしていないが、隣の部屋で待機してもらっていた。何かあれば、いつでも対処できるように。いざという時は二人がかりであの魔女を殺すことになっていただろう。
そう、二人がかりで、だ。
「やはりお前一人では難しいか」
「そうですね……。私一人では、勝ち目がありません。時間稼ぎぐらいならできるでしょうけど……」
「そうか」
そうだろうな、とは思う。キャスティアは自分に次ぐ実力の持ち主ではあるが、それでも自分には及ばないのだ。自分と同等だろうあの魔女と一対一なら、勝ち目はないだろうと思う。
「どうされますか? 暗殺を狙いますか?」
「いや、手は出さない。幸い、やつはどちらの陣営にも与することはないようだ」
「信じられますか?」
「さて、な。だが、わざわざ虎の尾を踏む必要はあるまい」
予想ではあるが、こちらが手を出さなければあちらも何もしないだろうと思っている。
もしも。もしもこの世界が、あの魔女が生まれた世界だったのなら、また話は違ったのだろう。けれど彼女は察しているはずだ。ここはあの、自分たちが生まれた世界とは似て非なる世界だと。
だから、あの魔女は関与しない。短い会話だったが、なんとなくスタンスは感じ取れた。自分と関わり合いのない相手はどうでもいい、と思っていそうだ。
少しだけ。本当に少しだけ、悲しくなる。自分を励まそうとがんばってくれたあの少女は、もう変わってしまったのだ。
あの世界で、いつ死ぬともしれない世界で生き続けて、変わってしまったのだろうと思う。あの世界は、やはりクソみたいな世界だ。
ふと、キャスティアが難しい顔をしていることに気が付いた。何かを思い出そうとしているような顔だ。
「キャスティア。どうした?」
聞いてみると、キャスティアは少し考えて、首を振った。
「いえ……。昔の知り合いに似ていた気がしただけです。ですが、他人のそら似でしょう」
「ああ、そうだな。そうだろう。なにせあいつは、異世界から来たようなのだからな」
「はい」
とりあえずは……。今は考える必要のない相手だ。今はそれよりも、ティアストーンを手に入れる方法を考えよう。もうあの異世界とは、自分は関係ないのだから。
「では、私は次の作戦を考えてきます」
「ああ、頼む」
一礼して部屋を出て行くキャスティア。その姿を見送って、また一人になってから、ディザスターは椅子に深く座った。ゆっくりと、息を吐く。昔を懐かしむように目を細めて。
もしも。もしも許されるなら。今すぐでなくてもいい。いずれ、もう一度、あの頃のように話がしたい。そう、思ってしまった。
もっとも、それは叶わない。魔女は自分に気が付かなかったのだから。
「ああ、そうか……」
そこまで考えて、ディザスターは苦笑した。
どうやら自分は、気付いてもらえなかったことが一番ショックだったらしい、と。顔も何もかもが変わっているのだから、気付いてもらえるはずがないと分かっていながら。
ただ、小さく、自嘲のため息をついた。
そうして、悪の組織のボスが一人黄昏れていた頃。
夜のビルの上で、のんびりと町を見下ろしていた異世界の魔女は、くしゅんと小さくくしゃみをして。
「それにしても、驚いたなあ」
悪の組織のボス、ディザスターを思い出しながら言うのだ。
「まさか、あの世界に一緒に召喚された勇者くんが悪の組織のボスだなんて。人って変わるものだね。びっくりだよ」
古い同郷の相手。ちょっとだけ懐かしく思う。
顔が変わっていようと、魔力が変わっていようと、気付かないはずがない。
魂魄の魔女シオンとは、そういう存在なのだから。
「まあ……。今更関係ないけどね」
そう言って、シオンはくつくつと愉しげに嗤った。
壁|w・)ここまでが第一話となります。
よければ今後もお付き合いくだされば嬉しいです。
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