異世界帰りな最強魔女の気まぐれ観光 ~帰ってきた日本はニチアサヒロインが戦う世界でした~ 作:龍翠
金は全てを解決する!
せっかくの日本。美味しいものをたくさん食べたい。そう思ったものの、私はごく当たり前の壁にぶち当たった。
日本のお金がない、ということに!
いや、分かってたよ。もちろん分かってた。でも、まあ案外どうにでもなるよね、なんて思ってたんだよ。
どうにでもなるって何だよ。なるわけないだろ、と。
手っ取り早く金塊とかを作って売り払おう、なんて考えた。でも売り払う先をどうするか、というわけで。あまり大量に作ると値崩れするだろうし、この世界の経済が大変なことになりそう。
少量なら、なんて思ったけど、そもそも得体の知れない私から誰が買ってくれるのかと。
普通に働こうかなと思ったけど、それはそれで戸籍がない以上どうしようもない。身分証も当然ないわけで。不法入国者と大差ないよね、と思った。
困った。とても困った。ので。
知り合いを頼ることにした。
「これで、とどめだー!」
ティアフレイムが炎をまとった剣を振り下ろし、どことなくファンシーな姿の怪人を真っ二つにした。怪人が消えて、その場に壊れたおもちゃが転がる。なるほど、あれを媒介にしているのか。
「くそ……! またしても……!」
「ふふん! 私たちがいる限り、ディザスターの好きにはさせないから!」
ティアフレイムが剣を突きつけてそう言う。その先にいるのは、あの黒マントの男。
うーん……。ニチアサしてるなあ!
「こうなれば……! 俺自らが相手になってやろう!」
黒マントくんはマントの中から大きなナイフを取り出した。もしかして、マントの中は武器がいっぱい、とかだったりするのかな?
「ディザスター四天王が一人、リッパー! 貴様らを切り刻んで……!」
「ぶはっ! し、四天王! 四天王とか名乗ってる! マジでいるんだ四天王!」
「さっきからうるさいぞ貴様あ!」
黒マントくん改めリッパーくんに怒鳴られてしまった。しかも、さっきから、だって。もしかしなくても声に出ていたのかな。あっはっは。
「貴様……! 我らの争いに関与しないのではなかったのか!」
「しないよ? 見学はするけど」
「見世物ではない!」
「はっはっは。見世物だよ。少なくとも、私にとってはね。だって」
子犬と子猫がケンカしていても、かわいいだけでしょ?
にっこり笑ってそう言ってあげると、リッパーくんに思いきり睨み付けられてしまった。明菜ちゃんたちもなんとも言えない表情だ。なんか失敗してしまったらしい。
「我らの邪魔をすると言うのなら! 貴様から殺して……」
「あっは」
戦うつもり? 私と? リッパーくんが? あっはっは。
「跪け」
言葉に魔力をこめて命じる。ただそれだけ。ただそれだけで。
「ぐがっ!?」
「うわあ!?」
「きゃあ!?」
その場にいる全員がうずくまった。
あー……。その。うん。ごめん。明菜ちゃんたちにはするつもりなかったんだけど……。いや本当にごめん。
「わたし……何も言ってないのに……!」
ごめんて! そんな非難がましい目で見ないで! お願いしにくくなっちゃうから!
こほん、と咳払いして、リッパーくんに言う。
「なんか変に介入しちゃったのは謝るからさ。今日は帰ってよ。この子たちに用事があるからさ」
「黙れ……! 貴様に、命じられる筋合いなどない……!」
「ええ……。このまま君のナイフを奪って首とかに突き立てればいつでも殺せるんだけど……。分かってて言ってるの?」
もちろん、今のところそれをやるつもりはないけれど。でも、やろうと思えばできるわけで。そしてあまり邪魔をされると、私もそれをしないといけないわけで。
んー……。脅しでどうにかならないかな?
「沈め」
「がっ!?」
今度はちゃんとリッパーくんだけを対象にして言葉を放つ。リッパーくんがその場に這いつくばった。
「沈め」
みしり、と地面から割れるような音が聞こえてくる。
「沈め」
リッパーくんを中心にクレーターができた。
「しず……」
「ま、まて……! わかった……!」
「め……、と」
リッパーくんの声が聞こえたので、すぐに魔法を解除。自由になった三人はゆっくり立ち上がりながら、私に対して少し恐怖がまざった目で見てきた。
その目はちょっぴり悲しいけれど……。さすがに自業自得だね! 同じことされたら私だって怖いわ!
「じゃあ、帰ってね、リッパーくん。君がおとなしく帰るなら、私は何もしないから」
「…………」
リッパーくんは何か言いたそうにしていたけど、結局何も言わずにその場から姿を消した。
それじゃあ、改めて。
「やあやあ。久しぶりだね」
「えっと……。はい」
「お久しぶりです……」
うん。すごく怯えられてるね! 当たり前だね!
「シオンさん、最近見てなかったですけど、何かしていたんですか?」
「おん? どれぐらい経ってる?」
「え……。一週間、ですけど……」
おお……。もうそんなに経ってたんだ。いや、気付かなかった。
「ちょっと自分の世界に戻って、お師匠とおしゃべりとかしていただけだよ」
一度道は繋げたからね。自分の世界にはわりと簡単に帰れるのだ。
そうして自分の世界に帰って、お師匠とお喋りしたり魔法談義したりあっちでのお客様と会ったり……。いつの間にか一週間経っていたらしい。
「帰れるんですね……」
「帰れるよー。だから私はこの世界であまりいろいろやるつもりがないんだよ。ただの観光客ってわけだね」
もう帰れない、なんてなったら、自分の衣食住のためにいろいろやったと思う。それこそ世界征服の勢いで。でも帰れるからね。わざわざこの世界に手を出す必要もない。あくまで観光ってわけです。
「お師匠さんって……強いんですか?」
「おん? 気になる? 強いよ」
「シオンさんより?」
「私より」
私はあの世界でも最強の一人に数えられてはいるけれど、それでもお師匠に勝てるイメージは湧かない。お師匠はすごいのだ。
「シオンさんよりも……強い人……」
「ついこの間、私の世界にもお師匠に会いに来たお客様がいてねー。その人はその人で規格外すぎて怖い。お師匠すら勝てないやばい魔女」
「ひぇっ……」
強くなって天狗になった私の鼻を叩き折ったのもその魔女だった。やばかった。怖かった。死ぬかと思った。あっはっは。
「はは……」
「シオンさんの笑顔に元気がない……」
「よっぽどだったんだ……」
よっぽどだったんだよ……。二度と戦わないと誓ったぐらいに。
「いや、そんな話はどうでもよくてですね。二人に頼みたいことがあるんだよ」
「え……。私たちに、ですか?」
「何もしないって言ってませんでした?」
「何もしないけど、買い物ぐらいはしたいの」
美味しいものを食べたいわけさ。特に今なら日本全国気兼ねなく遊びに行ける。転移でひとっ飛び。あとの問題はお金だけ!
というわけで。
「バイト先を紹介してください」
「…………」
「…………」
待って。そんな正気を疑う目で私を見ないで。心が! 心が痛い!
「シオンさん」
「はい」
「私、中学生なんですけど」
「はい」
「バイトの紹介なんてできると思います?」
「…………」
だめですか。だめですよね。知ってた。
「でも! それでも! 明菜ちゃんならどうにかしてくれると信じてる!」
「なにその期待!? 無理ですよ!」
「そこをどうにか! お姉さんを助けると思って!」
「うう……。シズちゃん!」
「そこでわたし!? ご、ごめんなさい無理です……!」
だめか……。やっぱりだめか。数少ないこっちでの知り合いを頼ろうと思ったけれど……。
「仕方ない……。ディザスターにバイトないか聞こう……」
「え」
私がそう言うと、明菜ちゃんたちが動きを止めた。ぎぎぎ、とまるで壊れかけのおもちゃみたいな動きで、私を真っ直ぐに見つめてくる。はて、なんだろう。
「あの……。シオンさん……。ディザスターって……直接会えるんです……?」
「私はね。だからって敵の本拠地に連れて行ってあげたりはしないよ」
「あ、はい……。あの、バイトって……。あっちに協力するってことでは……」
「いやいや。あくまで対価をもらってお仕事するだけだからね。仕事は選ぶつもりだし」
さすがにどこそこを襲え、なんて言われたら拒否するからね。まあ、なんか道具を作って買い取ってもらうとか、そんな感じになるかな。一応、魔道具とかも作れるから。
そんなことを言うと、明菜ちゃんたちは頬を引きつらせて何か相談を始めた。待った方がいいのかな?
でもわりと早く相談は終わったみたいだった。
「あの! シオンさん!」
「はいはい?」
「私の家の喫茶店……紹介します!」
「え、マジで?」
それは……いいの? いや、喫茶店ってなんだか楽しそうだから、働けるなら働きたいけど。
「はい! なので、ディザスターに行くのは待ってください……!」
「おっけ。いいよー」
私だって最終手段だからね、あっちを頼るのは。悪の組織にどっぷりはまっちゃったら、この子たちにめってされそうだし。いや、簡単に負けるつもりはないけど、なんか世界の強制力とか、そういうのが働きそうで怖い。
明菜ちゃんの先導で、私はあのケーキが美味しい喫茶店に行くことになった。
あ、履歴書とかないけど、いいかな。え? いらない? そっかあ。
壁|w・)シオンさんは地球では最強だけど、元の世界では上には上がいたりします。
でもそんな人たちは地球には来ない。興味がないから!
そんなわけで、お金稼ぎです。お買い物をするためには働かなければならぬのだ……。