Fate/if(フェイト・イフ)   作:名無しのレイ

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-外伝-

 

 

―――これは、本編より少し前の物語。

 

―――四年前の夕暮れの中、私――遠坂凛は一人の少年と出会った。

いや、出会ったというのは正しくない。

真っ赤な夕暮れの中、とても飛べないであろう高さの高飛びを何度も繰り返す少年。

諦める事など知らない、とでも言うように、何度も何度も彼は挑戦する。

決して飛べない事は解っているであろうに。

何故か、私はその少年をバカみたいにずっと見守っていた―――。

 

「―――セイバー・ペンドラゴンです。本日よりこちらの学園に転校してきました。皆さんよろしくお願いいたします。」

 

水をうったような静けさの中、セイバーの声が凛と教室中に響き渡る。

エメラルドのような聖翠の瞳。纏められた金髪。

清楚な雰囲気を持つ神秘的な美少女。その体を包むのは、穂群原学園のブレザーである。

彼女こそ遠坂凛のサーヴァント、セイバーだ。

 

あらゆる願いを叶えるとされる聖杯、それを手中に収めんと英霊――サーヴァントを召喚してお互いに殺し合う『聖杯戦争』

彼女はその戦いのために呼ばれたサーヴァントである。

今だサーヴァントが全て揃っておらず、戦いも開始されていない状態ではあるが、

いつ他のマスターがセイバーのマスターである凛に襲い掛かってくるかは解らない。

霊体化できない彼女は常に凛の傍に寄り添っている事はできない。

そのための苦肉の策として考えられたのが、こうして転校生として学園にもぐりこむ事である。

だが、転校してきたとはいえ、流石にどこの教室に入るという事まで操作できる訳ではない。

それゆえに、凛の教室とは違う教室に配置されてしまったのだが、まあ、それは仕方のない事である。

しかし、この学園の制服を纏う彼女は、サーヴァントとはいえ、どこからどう見ても紛れもなく人間……しかも絶世の美少女である。

そのセイバーが言葉を放った瞬間、教室中がざわめきに包まれる。

それはそうだ。こんな美人の転校生がいきなり来るなど騒ぎが起きない方がおかしい。

そんな生徒達を、教師である藤村大河が嗜めに入る。

 

「あー、こらこら。皆静かにねー。んー。それじゃ席は何処にしようかなあ……。

士郎……衛宮くんの隣の席が空いてるからそこにしましょう。」

 

教室中のざわめきと注目の中、平然とセイバーは教室を横切り、士郎の前で立ち止まる。

 

「それでは、これからもよろしくお願いします。」

 

柔らかく微笑みながらも隣の席にいる士郎に話しかけるセイバー。

こんな今時ゲームでも流行らない「転校生の美少女」に動揺しない方がおかしい。

 

「あ、ああ。よろしくな。えっと……セイバー。」

 

セイバーに話しかけられた士郎はドキマギして顔を赤くしながらも何とか返事を返す。

何せ、彼は桜といういつも家に来てくれる少女はいるとは言え、基本的に女性に対して免疫はないのだ。

しかも、こんなとてつもない美少女相手では見惚れるのも仕方が無い。

 

「私の事はセイバー、と。貴方は……シロウでよろしいでしょうか?」

 

「あ、ああ。別に構わない。」

 

「ええ。それではシロウと。これからもよろしくお願いいたします。」

 

―――本来の彼女は人間ではない。

サーヴァント。偉大な功績を上げ、輪廻から切り離されて『座』に登録された彼らは、人間以上の存在と化した英雄達なのだ。

だが、学校のブレザーに身を包んだ彼女はとてもそうには見えない。

何処からどうみても、完璧とも言える美貌と清廉な雰囲気を持った美少女だ。

こんな美人が転校してくれば、それは評判にもなろうという物だ。気にしないほうがどうかしている。

当然、隣の席にいる衛宮士郎も、彼女の事を気にしているうちの一人だった。

この後、彼らは数奇な戦いへと身を投じるのだが、今の彼らはそれを知るよしもない。

 

次の時間の休み時間。

当然の事ながら、セイバーの周りには男女問わず人垣が出来て質問攻めにされている。

「何処から来たのー?」とか「部活は何処に入るの?何ならぜひ野球部のマネージャーに!」とか

質問やら部活の勧誘やらさりげない告白やらもう大混乱だ。

最初は面食らった彼女だったが、次第に落ち着いてきたのか、クールに彼らに対して返答を返している。

しかし、それもやんわりと断っている。

それも当然だ。彼女は本物の転校生としてこの学校にやって来た訳ではない。

あくまで目的のために一時的にやってきただけだからだ。

 

「セイバー。何とかやってる?」

 

その声が聞こえた瞬間、ざざ、と人垣が真っ二つに分かれる。

その先にいるのは学園のアイドル、セイバーの親戚となっている遠坂凛。

凛に対して、セイバーはみんなに見せた事のない微笑みで言葉を返す。

 

「リン、ええ。大事はありません。」

 

さらに教室中のざわめきが大きくなる。

それはそうだ。学園のアイドル、完全無欠のお嬢様、遠坂凛と、イギリスから留学してきたという金髪の美少女、セイバーが並んでいるのだ。

これでざわめきが起きない方がどうにかしている。

士郎のクラスのみらず、凛のクラスや他のクラスからも見学者がぞくぞくと来ている。

ここに慎二がいないのが幸いだ。もしいたら確実に口説きにかかっているだろう。

ここまで人が多くなってくると、まるで見世物のように感じられても可笑しくは無いのだが、

好奇の視線にさらされながらも、威風堂々としたその姿には威厳すら感じられる。

 

それはそうだ。彼女は元は『王』なのだから。

アーサー王。5世紀か6世紀ごろのイングランドの伝説の王。

伝説の円卓の騎士を従えて戦乱のイギリス……ブリテンに平穏を齎すために戦い続けた騎士王。

湖の妖精から与えられた星に鍛えられた神造兵器、『約束された勝利の剣』を駆り戦い抜いた王。

それこそが彼女、アルトリア・ペンドラゴンの正体だ。

 

彼女は女性である事を生涯鉄で封じ、『男性』として戦い抜く事を決意した。

選定の聖剣カリバーンを抜いた瞬間からアルトリアの容貌は変化せず、少年のような凛々しい外見のまま彼女は戦い抜き。

……そして、カムランでの悲劇でその幕は下りる。

その瞬間、彼女は『願いを叶える杯』聖杯を望み、世界と契約を結び、現世の聖杯戦争へと身を投じる。

そして、現在はこうして凛のサーヴァントとして存在しているわけである。

彼女たちを取り囲む人垣の中の一人、凛の親友兼ライバルであり、弓道部の部長である美綴綾子が凛に話しかける。

 

「遠坂、あんな美人と親戚なんだ。」

 

「ええ、美綴さん。言わなかったけれど、私ってクォーターなのよ。

外国に親戚がいてもおかしくないでしょう?」

 

にこやかに優等生の皮をかぶってぬけぬけと返事をする凛。

確かに彼女がクォーターである事は事実だが、外国に親戚は存在しない。

セイバーだってイギリスからの留学生となっているが、元々彼女の生きていたブリテンは遥か昔だ。

細かい所をつつけば矛盾点は出てくる。

しかし、それは凛の普段の行いと、セイバーの華やかさによって完全に覆われていた。

 

「しかし、《ペンドラゴン》か。随分と厳つい名だな。」

 

ぽつり、と見学に来ていた三人娘のうち、氷室鐘が呟く。

彼女は眼鏡をかけたクールな女性だ。

 

「んー。どうしたのさ鐘っちー。転校生が気になるのかー」

 

その彼女に答えるのは同じく三人娘の一人、凛の友人を自称する蒔寺楓だ。

楓の疑問に、氷室は首を左右に振って答える。

 

「いや何。彼女の名が気になっただけだ。

ペンドラゴンはウェールズ語で「竜の頭」の意で、王や偉大な人物のためによく用いられる敬称だ。

昔読んだ騎士譚の中にそんな名前を冠する騎士の王もいた気がするが……はて。」

 

氷室、当てずっぽうのくせに多分正解。

ペンドラゴンとはセイバー……もといアーサー王の名である。

氷室の言う通り、「ペンドラゴン」は彼女の父、ウーサーから受け継がれた称号。

王の称号とも言える名である。

例え真名を隠すための仮の名とはいえ、その名前は真名と繋がっていなくてはいけない。

そのため、凛はセイバーの名に「ペンドラゴン」をつけたのである。

……さりげに真名をばらしているような気がするのはきっと気のせいである。

 

「でも本当に美人さんだねー、セイバーさんは……。」

 

ほう、と溜息を漏らしながら三人娘のうちの一人、子犬系であり癒し系である三枝由紀香を呟く。

 

「おや、由紀香。彼女に好意を抱いたのかね?」

 

それに対するは、眼鏡をかけたクールな女性、氷室鐘である。

彼女は表情を出す事無く、さらに言葉を続ける。

 

「まあ、確かに。彼女は清廉で澄んだ雰囲気を持った女性だ。由紀香が好きになるのもムリはない。

彼女と遠坂嬢が二人で並んでいるのはさぞかし華やかで絵になるだろうな。」

 

「ちぇー。遠坂のヤツ、転校生にかかりっきりでさー。

何か忙しいらしくてこっちと遊べないときたもんだ。」

 

「ふむ、だが、確かにかかりきりというのは正確だな。

私から見れば、少々過保護に見えるが。」

 

確かに凛は、休み時間ごとにこちらの教室にやってきては、「大丈夫?」だの「授業は理解できたの?」とか聞いている。

知らない人から見れば、まだ学校に慣れないセイバーに対して気をつかっているように見えるだろう。

だが、それは半分正解で半分間違っている。

彼女はセイバーの正体がバレないように気をつかっているのだ。

一応、聖杯から現代社会についての基本的な知識は与えられるが、それもあくまで基本的な事でしかない。

セイバーは十年前にもサーヴァントとして呼び出されているが、それでもどこからボロが出るか解らない。凛はそれを畏れているのだ。

 

だが、そんな凛の心配も他所に日常はゆっくりと流れていった。

セイバーも少しづつ皆と慣れ初めてきた。しかし、そんな日常は長くは続かなかった。

 

 

「ん……?」

 

今日も士郎は遅くまで残っていた。

生徒会長である一成の頼みの仕事が意外と長くかかってしまったのだ。

彼は機械の修理などの腕前はちょっとした物で、学校の皆からも便利屋として人気がある。

その腕前を見込んで様々な修理を頼まれるのだが、お人よしな彼は頼まれると喜んで修理してしまう。

……ただ、これだけ繰り返しても理解できない。

人助けと人を救う事とは違う。

ただ人助けをするだけでは、彼の目指す『正義の味方』にはなれない、と。

そんな風に考え込んでいた彼の耳に異質な音が聞こえてくる。

 

「……何だ?」

 

何か屋上の方から音がする。

金属と金属がぶつかり合う音。コンクリートが削られ、穿たれる硬質な音。

明らかに異常だ。そして、何より一番異常なのが―――。

 

「魔力の―――気配?」

 

士郎が屋上のドアの取ってに手を当て、ドアを開けた瞬間。

凄まじい爆音と閃光が士郎の網膜を白く染めた。

 

「なっ……!!」

 

目の前にある光景は予想もつかない光景だった。

白銀の鎧を纏い、何か見えない物を手に持っている噂の転校生の美少女、セイバー。

その彼女は傷つきながらも地面に倒れ伏している。

その傍らには士郎が慕う遠坂凛。そして、彼女達を狙うようにして弓を向ける赤い外套の男性。

どこからどう見ても、これは戦いだ。

こんな闘争が日常の学校の屋上に行われているなど想像もできない。

 

―――その後の事はあまり思い出したくない。

あの赤い弓兵。そして、胸を貫かれる冷たい感覚。

そう、衛宮士郎は確かに一度■んだ。

だが、誰かの手によって心臓を再生されて蘇生したのだ。

その後のランサー召喚。

彼は、ランサーという最強の槍を手にして聖杯戦争に参加する。

そして、彼らと遠坂は「バーサーカーを倒すまで」という条件で同盟を結び戦う事になる。

 

 

―――そして、新たなる事実も発覚する。

学校に張られた結界。

それは、学園内にいる人間達を全て融解し、その魂を己の力へと返還する外道の術だ。

それを防ぐためには、敵マスターとサーヴァントを見つけ出さなくてはならない。

その他にも行うべき事はある。

結界内には『呪刻』と呼ばれる結界を構築する要素が存在する。

結界自体の破壊は出来ないが、呪刻を破壊する事により、結界の構築を緩める事はできる。

そのため、士郎と凛は協力して呪刻破壊に奔走しているのだが―――。

 

「……ふう。とりあえず午前中はこんな所ね。」

 

遠坂凛と士郎、そしてセイバーは、三人で並んで学校の廊下を歩いていた。

ちなみに、ランサーも霊体化して士郎の後ろへと付いている。

午前中の授業の合間の休み時間、そして昼休みにも休み事なく、彼らは呪刻破壊に専念していた。

士郎の特技は、構造物の内部を把握する解析能力である。

彼には魔力感知は出来ないが、場所の異常には敏感だ。

その特技を生かし、士郎が呪刻を見つけ、凛がそれを破壊する。

その作業の繰り返しである。だが、それも所詮時間稼ぎにしかすぎない。

結界を張った本人を見つけ出し、倒さない事には根本的な解決にはならないのである。

 

「士郎ってば魔力探知はからっきしなのに、場所の異常には敏感なのね。

こんなに早く呪刻を潰せるなんて思わなかったわ。」

 

そんな風に比較的上機嫌な遠坂に対して、セイバーは軽く眉を潜めながらも呟く。

 

「しかし、リン。結界の魔力が溜まるまで後数日。

呪刻を潰しても結界を消し去る事はできないのですが。」

 

「そうね。でも、こうまで邪魔をしてやれば、焦れて何らかのリアクションを取る可能性が高いわ。

私達が戦うとなればその時でしょうね。」

 

そう言いながらも、凛はちらりちらりと士郎の顔を横目で見る。

言いたいのは今の言葉ではなく別の何かだと言いたげだ。

しかし、朴念仁の士郎はそれには気づかない風に平然と言葉を続ける。

 

「そうだな。その時までは今のまま、呪刻を潰しながら相手のマスターを探すしかないだろう。

……って遠坂。何でまだ一緒なんだ?もうじき昼ごはんを食べないと授業に間に合わなくなるぞ。」

 

そんな士郎の言葉に少し迷ったように目を逸らした凛は何処となく歯切れの悪い口調で言葉を続ける。

 

「ん……。士郎、お昼ご飯なんでしょ。

それだったら付いてくる?そこで見えたいモノもあるし。

セイバーもそれでいいわね。」

 

こくり、と頷くセイバー。という事は、何らかの作戦会議でもあるのだろう。

そんな風に納得した士郎は黙ったまま、凛やセイバーの後へとついていく。

凛は彼女達を屋上へと案内する。

 

「―――何だ。これ。」

 

屋上に脚を踏み入れた瞬間、士郎は凍りついた。

まるで腐臭のような甘ったるい匂い。空気自体が甘いのではない。

士郎の魔術師としての感覚がそう告げているのだ。

―――結界。

この屋上には何らかの魔術によって結界が構築されているのだ。

並みの人間なら何も感じられないだろう。

だが、三流とは言え、魔術師の士郎には理解できる。この結界はケタ外れのモノだ。

これほどの結界、神秘の衰えた現代の魔術ではそうそうお目にはかかれない。

ましてや、解除など到底ムリだ。

 

「これがこの学校に張られている結界の基点よ。恐らくはサーヴァントが張ったものね。」

 

魔術師の感覚で士郎は屋上を眺める。

そこに浮かび上がるのは血のような赤い線で複雑怪奇な文様を描く魔法陣。

その文字は凛ですらも聞いた事も見たこともない文字で描かれていた。

 

「結界には色々な効力があるけれど、その中でもこれはとびきりタチの悪いモノね。

一度発動したら、学園内の人間を全て融解し魂を喰らう『血の要塞(ブラットフォート)』それこそがこの正体よ。」

 

ぶるぶる、と凛の話を聞きながら士郎の拳が強く震える。

彼の握り締められた拳は、爪が掌に食い込んで血が流れ出そうなほど強く握り締められている。

 

「……ふざけるな。こんなモノを張るなんて、何を考えているんだ。」

 

「さあね。ここまでやるなんてよっぽどの大物か、ただのバカね。

でも、結界のレベルは私達程度では歯が立たないほど堅固なモノである事も事実だわ。

多分サーヴァントが張ったモノだと思うけれど……これほどの魔術を使役するとなると、可能性として高いのはキャスターかしら……?

一応聞いておくけれどランサー。貴方はコレをどうにかできない?」

 

それを聞いたランサーは霊体化したまま軽く肩を竦める。

幸い、屋上には人影はなく彼らだけなので、別段声ぐらい出した所でどうという事もない。

 

「はっ、無茶言うな。お嬢ちゃん。確かに多少魔術は使えるが、これは俺がどうこう出来る品物じゃねえ。

多分、サーヴァントの宝具絡みだろうな。例えキャスターであろうとも、解除するのは困難だろうよ。」

 

空中から飄々とした彼の声が聞こえてくる。凛とて期待していたわけではない。

彼の役割はあくまで槍兵。そんな魔術に長けている槍兵などいるはずもない。

それが、凛の主観だった。……まあ、本当はそんな事もないのだが。

ランサー、クーフーリンは槍の使い手だけでなく、スカサハから教えられたルーン魔術にも長けている。

それは神秘の衰えた現代では再現できないほどだ。

いかにランサーと言えども、手の内全てをいつ敵になる相手に知らせる事はできない。

だが、実際にランサーのルーン魔術といえどもこの結界の前では歯が立たない事も事実である。

そうなると最も魔術に長けているとなるのは凛だが、その彼女といえども、これほどの結界を消し去る術は知らない。

 

「そうなるとこちらでは手のうちようが無いわね……。

まあ、仕方ないか。私達が出来る事をやるしかないわね。

そんな訳で、まあ頑張りましょ、士郎。」

 

そんな風に言いながら、凛は握り拳で軽く士郎の胸をとん、と叩く。

そこで、士郎はふと自分の現状に気がつく。

彼の目の前には飛び切りと言っていいほどの美少女が二人。

ランサーが彼の背後にいるとは言っても、霊体化している以上、どうしても思考はセイバーと凛に行ってしまう。

一方は転校してきたばかりの凛とした容貌の美少女セイバー。

もう一方は成績優秀、容姿端麗の士郎の憧れの女性、遠坂凛である。

だが、この状況はいかに朴念仁の士郎でも胸が高鳴ってしまう。

ちなみに、ランサーはニヤニヤと笑っているのがレイラインを通して士郎に感じられる。

コイツ、絶対に楽しんでいるに違いない。

 

「ん?どうしたの?士郎?……ははあん。」

 

にやにやと、凛はまるで獲物を目の前にした猫のような悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「な、何だよ。遠坂。何か言いたいのか?」

 

「べっつにー。そりゃそうよね。セイバーみたいな綺麗な子が傍にいればそりゃ目を奪われるってものよねー。」

 

「な、そ、そんな事はないぞ。」

 

その凛の言葉に、思わず本気で反論してしまう士郎。

そんなあたふたと焦っている士郎を面白そうに眺めながら、さらに凛は言葉を続ける。

 

「ふふん、でも当然よね。『私の』セイバーだもの。綺麗で礼儀正しいのは当たり前よ。

衛宮くんもあんなむさ苦しいサーヴァントじゃなくて、セイバーみたいに綺麗なサーヴァントだったらよかったのにねー。」

 

にやにやと笑いながら凛はそんな風に士郎をからかう。

もちろんこれは冗談だが、さすがにランサーも霊体化したまま面白くもなさそうな表情をする。

まあ、本人はどうでもよさそうだが、士郎の方はさすがに少しかちんと来て、反論に移る。

 

「む、そんな事はないぞ遠坂。ランサーは頼りになる相棒だ。

不満なんてない。まあ、セイバーが美人で可愛いのは認めるが。」

 

そんな士郎と凛に対して、セイバーは見るからに不機嫌そうに言葉を放つ。

 

「シロウ、リン。騎士である私を侮辱しているのですか。

私は騎士だ。外見など問題ではない。」

 

「あるわよ。だって私が楽しいもの。

綺麗なサーヴァントをつれているのって悪くないわ。」

 

「……そうだな。セイバーは本当に美人だ。凄く似合ってる。」

 

確かにセイバーが美人である事は事実だ。

思わず士郎も素直に頷いてしまう。

そんな彼らに対して、セイバーの方は珍しく感情を露にしながらあたわたとしている。

 

「シ、シロウまで……!私達サーヴァントは戦うために存在する。外見の美しさなど問題ではありません……!」

 

そういいながらもセイバーの頬は赤みを帯びている。

どこからどう見ても照れているのは明白だ。

何せ彼女は男として王として生涯を過ごしてきたのだ。

このように容貌を面と向かって褒められるなど全く慣れてはいない。

だが、そんなセイバーをベタ褒めしている士郎を見て、凛は先ほどと一変して、何処となく面白くなさそうな顔をして、

拗ねたような素振りでぽつりと呟く。

 

「……ふん、士郎ってばセイバーばかりベタ褒めしちゃってさ。

ええ、どうせ私は女の子らしくないですよーだ。」

 

「そ、そんな事ないぞ……!遠坂は綺麗だし凛としているし学園のアイドルでお嬢様であかいあくまだし……。

ああもう、何を言ってるんだ俺は。

と、とにかく遠坂が女の子らしくないなんてありえないって事だ!」

 

そんな凛の呟きに過剰に反応してしまう士郎。

思わず何も考えずに思いついた事をそのまま口にしてしまう。

そう、正直にいうと、士郎は彼女に憧れている。

美人で成績優秀、運動神経も抜群。

性格は理知的で礼儀正しく、美人という事を鼻にかけない男の理想のような女性。

まさしくこの学園のアイドル的存在。高値の花である。

……まあ、実際には意地悪で人をからかうあかいあくまなのだが、それでも好きという感情は衰えない。

 

「う……あ、ありがと……。ま、まあ、何事も余裕をもって優雅たれ、が我が家の家訓だしね。

それくらいは当然よ。」

 

心なしか、凛の顔は少し赤みを帯びているように感じられる。

しばらくうろたえていたような素振りを見せた彼女だったが、ごほん、と咳払いをして自分自身を落ち着かせる。

 

「そろそろ話を元に戻しましょうか。

それで、この結界を張ったヤツへの対処法として、セイバーにはマスターをおびき寄せる餌になってもらうわ。」

 

その言葉に、自然とその場にいる皆の顔も引き締まる。

そんな皆を見つめながら、凛はさらに真剣な表情で言葉を続ける。

 

「多分、この結界を張ったのはこの学校の関係者よ。

わざわざ「セイバー」なんてサーヴァント名そのままなのもそのためよ。

相手もマスターなら「セイバー」なんて怪しすぎる名前に食らいついてこないはずがない。」

 

「少し調べてみたけれど、ここ最近不穏な魔術……姿隠しとか認知を誤らせるとかそういう魔術が使われた痕跡はないわ。

いくらなんでも学生以外の不審な人間が魔術も使わずに学校に入り込んだら噂にならないはずがないもの。

となると、この結界を張ったのは学生か先生、つまりは学校内の人物である可能性が高いわ。」

 

人差し指をぴん、と立てて言う凛。

その言葉に士郎も納得がいったように頷く。

 

「なるほど。そこにこの時期に転校生、しかも「セイバー」なんて名前じゃ気にしないほうがおかしい。

この学校に潜むマスターも何らかのリアクションを起こす……ってわけか。」

 

確かに、一般的な考えからすればそうなる。

マスターとは魔術師がなる物。そして、魔術師とは魔力を帯びている存在だ。

よほど強力な魔力殺しでも所有しない限り、その魔力はどうしても漏れ出てしまう。

そこから探り出せば、マスターを探り当てる事も出来るはずなのだが……。

 

「あ、一応、士郎にはこれを渡しておくわ。

仮にも魔術師である以上、護身のための武器は必要不可欠なんだから。

全く、その能天気ぷりを見ると腹が立ってくるわ。」

 

そういいながら、凛はごそごそと大きなバッグの中から取り出したのは、鞘に収められた一振りの短剣。

それは、グラディウスと呼ばれるショートソードと短剣の中間程度、全長にして60cmほどの軽い剣である。

肉厚で、幅の広い両刃の刀身であり、先端は鋭角に尖っている。形状としては、一般的な剣の形をしている。

この剣は凛の魔力が込められており、単純な斬撃の威力を増すだけでなく、霊体に対してもある程度の攻撃力がある。

携帯に便利である程度の攻撃力を持った武器。その条件を満たす剣を凛は選んだのである。

 

「それなら長剣とかと違ってまだ目立たないでしょう。大きめのカバンの中にも入れておけるだろうし。

けど、お巡りさんとかに職務質問されそうになったらさりげなく逃げるのよ。

こんなの持っていたら言い訳なんか出来ないんだから。

ある程度魔力も込めておいたから、霊体に対しても攻撃力はあるけど、サーヴァントと戦うなんて無謀なマネ絶対にしない事。

いいわね。」

 

その真剣な凛の忠告に、思わず士郎は口元に笑みを浮かべながら答える。

 

「ん、心配してくれてありがとう遠坂。感謝する。」

 

その言葉に、何故か頬を赤くしながら凛は必死で反論する。

 

「ち、違うわよ……!士郎とは協力関係になったんだから、それなりの力を持って殺させないようにしないと困るじゃない!

この借りは、必ず返してもらうんだからね!」

 

ふん、と彼女は軽くそっぽを向く。

それは何処からどう見ても照れ隠し以外の何物でもない。

 

「で、重要な話というのは、この学校に張られた結界の事よ。

これは、学校内部にいる人間を全て溶解させて己の力にするという最悪な結界ね。

恐らくはサーヴァントの張ったモノだと思うんだけれど……。」

 

「すでに結界は張られているわ。

一度発動したら、この敷地にいる人間は全て衰弱してじわじわと亡くなっていくでしょうね。

さっきの呪刻潰しの時には人目につかない場所ばかりだったから良かったものの、

学校の屋上じゃ、いつ人が来てもおかしくないわ。

だから、夜もう一度学校に忍び込んで、無駄だと思うけれど結界破壊の呪文をやってみるわ。それでどう?」

 

こくり、とその場にいる皆が揃って頷いた。

 

―――深夜、凛や士郎達は夜の学校の中を歩いていた。

学校のセキュリティはそれほど高くない。

特に夜人がいない時はなおさらだ。侵入する事自体は難しくない。

かつん、かつんという足音が誰もいない校舎へ響き渡る。

 

「……夜の学校ってけっこう不気味なもんだな。」

 

確かに、誰も存在しない校舎はまるで無人の廃墟を連想させる。

何かロクでもないモノでも出てきそうな勢いである。

 

「なに言ってるのよ。私達は魔術師なのよ。魔術師がこの程度の闇に恐怖を抱いてどうするのよ。

行くわよ。士郎。セイバー。ランサー。」

 

そんな風な事を言いながら、学校の屋上へと到達する凛達。

そして、昼会議したように、彼女はしゃがんで結界に手をやって呪文を唱え始める。

 

  消去。 摘出手術   第二節

 「Abzug Bedienung Mittelstand」

 

と、凛は自らの左腕にある魔術刻印に刻まれた呪文を発動させようとした。

 

「――――っ!!」

 

遠坂が魔術を使おうとした瞬間、屋上の傍に置かれていた、誰も気を止めないほどの小石。

それがパキンという音を立てて粉みじんに砕け散る。

 

「リン!これは……!」

 

セイバーがその残骸を指で摘みながら呟く。

その残骸の表面には何らかの魔術文字が刻み込まれているのが解る。

 

「今のは……魔力の働きを感知する魔術式が刻まれた魔術具……!!

まずい、私達が魔術を使ったのを何者かに探知されたわ……!」

 

この小石は、いわば魔術レーダーとも呼べる存在だ。

範囲こそ狭い物の、その範囲内で異常な魔力の働きがあった場合、それを探知して所持者に知らせる物だ。

本来、こんな物に大した価値はない。

よほど強力な魔力殺しでもない限り、魔術師はどうしても魔力を垂れ流してしまう。

その魔力の流れは他の魔術師にも感じられる。つまりは、魔術師と魔術師は嫌でもお互いを感知してしまうのである。

この魔術具はあまり精度は高くなく、ただ人間が垂れ流す程度の魔力では反応しない。 何らかの魔術が働かない限り、この魔術具は発動しない。

こんな小道具が役に立つとすれば、せいぜい屋敷の結界の補助程度に使われる程度である。

だが、このような要撃用、しかも対象がいつ来るか解らず、魔術を使用するという前提があるとするならば、使い道がある。

士郎とランサー、凛とセイバーはそれぞれ背中合わせになりながら、周囲を油断なく警戒する。

そんな沈黙の中、ブブブブ、と鈍い羽音だけが夜空を切り裂く。

 

「……お嬢ちゃん」

 

ランサーは凛に向かって呟くと、自分の相棒である真紅の魔槍をブン、と真横に振るう。

 

「解ってるわ。ランサー。士郎をお願い。」

 

彼らが見上げた夜空。そこには暗闇の中、数十の真紅の輝きが浮かび上がる。

 

『キイキイキイキイ―――!!』

 

真上から異様な鳴き声を上げながら、異様な蟲達の大群が凛達の下へとずしゃり、ずしゃりと鈍い音を立てながら次々と舞い降りてくる。

カブトムシに似たモノ、神話上の生物、ミュルメコレオに似せたアリとライオンのようなモノが融合したモノ、アリとカマキリが融合したようなモノ。

その種類は無数といっていい。

だが、それらが通常の生態系に属する生き物でも幻想種でもない事は明らかだ。

全長一メートル半もあるそれらは明らかに通常の蟲とは異なる。

例えば、カブトムシに似た外骨格に覆われた四本足の蟲の表面には無数の鋭い棘が生えており、

カマキリとアリを組み合わせたような目の前の蟲が鋭い鎌を振り回しながら威嚇する。

そして、彼らは目の前の新鮮な肉―――士郎達を貪り食いたいと爛々と光り輝く瞳を一斉に向ける。

 

「なるほど、この結界は巨大な釣り餌という訳ね……!

釣っていたつもりが釣られていたなんて、我ながら読みの甘さに吐き気がするわね……!」

 

そういって、彼女はぎろり、と目の前の蟲の大群を睨みつける。

そこに存在するのは明らかに生態系から外れた異質な存在だ。

例え幻想種であろうとも、こんな作り物の匂いをプンプンとさせた存在がいる訳がない。

となれば答えは一つ―――。

 

「ふん、戦闘用の使い魔ってわけね。誰だか知らないけれど、

随分と姑息なマネしてくれるじゃない。」

 

彼女は知らない。これが間桐臓硯の仕業である事を。

元々蟲使いである彼にとっては、このような戦闘用の蟲を作成する事も可能なのである。

彼は自らの孫、間桐慎二がライダーの宝具、他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)を学校に張った事を知り、

それをさらに利用できないか、と考えた。

その結果は、「結界を探知したマスターが何らかのリアクションを起こした際に、それを殲滅する」事である。

つまりは、この結界自体がマスターを吊り上げるための釣り餌という訳である。

その釣り餌に、まんまと凛達は引っかかったという訳である。 

瞬間、凛が左腕の裾を捲り上げる。

女性らしい白く細い左腕が刺青のような光を放つ。

魔術刻印。

それはその家系に伝えられる神秘(呪い)。代々の魔術師が自分の人生をかけて研鑽した魔術を形にして残していく。

魔術師の家系における後継者の証であり、遺産である。

魔術刻印とは、魔術師本人の回路とは違う、付属したエンジンである。

 

その家が伝えてきた魔術を凝縮した刺青のような物であり、刻印自体が術者を補助するよう独自に詠唱を行ったりする事も可能である。

遠坂の魔術刻印は凛の左腕にびっしりと刻まれている。

その魔術刻印が発動し、無詠唱で凛の魔術が構築される。

彼女は蟲の群れに対して、自らの人差し指を突きつける。

その指先に濃密な魔力が収束され、漆黒の魔力弾が無数に蟲どもに襲い掛かる。

 

   狙え、一斉射撃 

「Fixierung,EileSalve――――!」

 

―――ガンド撃ち。

元は北欧の魔術であるソレは指を指す事により、対象に呪いをかけ、病状を悪化させる呪詛である。

効果はあくまで体調を悪化させるだけだが、その中でも特に強力な一撃をフィンの一撃と呼ばれる。

凛の場合、呪いが濃すぎて最早、呪いが弾丸状になって射出させるのだ。

それは外見だけでなく、威力も効果も弾丸と同様である。

その連射能力、威力たるやサブマシンガンにも匹敵する。

これだけの弾幕な上にこれだけの密集状態ならば、回避などできようはずもない。

呪いの弾丸は、雨霰と蟲の大群へと降り注ぐ。

だが、その魔力で出来た弾丸は、蟲の奇妙な文様が刻まれた外骨格を貫く事無く悉く弾かれてしまう。

 

「―――!ガンド撃ちが通用しないなんて……。

そうか。あの外骨格に魔力防御の刻印が刻み込まれてるってわけか……。

誰だか知らないけれど、随分とやってくれるじゃない。」

 

そう、彼らの外骨格に刻み込まれているのは魔よけの刻印だ。

恐らく、あの刻印の力によってある程度の魔力は打ち消されてしまうのだろう。

サーヴァントの対魔力には及ばないが、それでも並みの魔術師に対しては十分すぎる。

 

そんな凛達へ、爪を、角を、棘に覆われた脚を振り上げながら無数の蟲が四方八方から押し包むように一気に襲い掛かってくる。

それに対して、剣を、槍を振るって迎撃するセイバーとランサー。

 

彼女達……凛とセイバー。士郎とランサーは確かに単体では強い。

得にセイバーと一対一で勝てるような相手はそうそう存在しないだろう。

たが、相手が群れを成し、連携して襲い掛かってくる群れならば、話はまた変わってくる。

 

と、一匹の蟲の爪が、凛の腰に釣り下がっているポシェットの紐を切り裂く。

重い音がして、宝石の詰まったポシェットが屋上の床に落ちる。

彼女の本来の魔術は、宝石に魔力を込める宝石魔術だ、今の状態ではそれを封じられたに等しい。

そして、ガンド撃ちも通用しないとなると、今の彼女に打つ手は無いに等しい。

 

「と、遠さ……!!」

 

士郎が焦った口調で凛を護ろうと走る。

だが、微かに間に合わない。蟲の爪の切っ先が彼女の白い柔肌を貫こうとした瞬間。

 

「っつ。はあ―――っ!!」

 

その瞬間、助けに入ろうとした士郎は絶句した。

凄まじい運足と共に繰り出されるのは腰からまっすぐ突き出す、空手の基本的な突き技、

空手の基本の技「正拳突き」だ。

恐らく彼女は拳自体を強化してあるのだろう。

魔術によって作られた鋼鉄にも匹敵する魔蟲の外骨格を拳のみでブチ抜く。

凛が言峰から教わったのは心霊魔術だけでない。言峰は中国拳法の使い手でもある。

彼から護身用としての武術を習ったのである。

 

「ああもう。このっ……!!」

 

凛は吐き捨てながらも、外骨格を突き破った拳を引き抜く。

異臭と、異常な感覚。

拳には粘りつく蟲の内臓の感覚が伝わり、異臭を放つ体液が粘りつく。

次の蟲を肘を使った攻撃『猿臂』によって外骨格を打ち砕く。

だが、その凛に大して、あの全身から棘を生やしたカブトムシのような蟲が装甲車のように突進してくる。

 

「ち―――!」

 

いかに空手もどきを使おうとも、魔術で拳を強化しようとも、所詮生身の肉体でしかない。

あんな鋭い鋼鉄並みの堅さを持った棘を殴りつけようものなら、こちらの拳が穴だらけになってしまうだろう。

そんな凛の一瞬の躊躇を突き、迫り来る魔蟲。セイバーもランサーも無数の蟲を切り裂くので手が一杯だ。

凛の一瞬の躊躇は命取りになる―――。

 

『キ、キキ―――!!』

 

だが、彼女を串刺しにしようと突進してきたその蟲は、誰かの横薙ぎの一閃により、外骨格が深々と切り裂かれる。

その程度で痛みを感じない蟲が停止するはずもない。

だが、思わぬ攻撃に、蟲の注意がそちらの方へと向いてしまう。

その蟲の赤く輝く片目に、グラディウスの切っ先が叩き込まれる。

凛をかばうようにして、グラディウスを構えながら蟲達の前に立ち塞がるその姿は――。

 

「し、士郎……!下がりなさい!アンタみたいな素人の魔術師が前に出て戦うなんて無謀よ!」

 

そう、凛をかばうように立っていたのは衛宮士郎だった。

身を護るためにランサーから多少の手ほどきを受けているとはいえ、その腕はまだまだ未熟だ。

だが、女性とサーヴァントのみを戦わせて、自分は後ろで震えているなどできるはずがない。

思わず叫び声を上げる凛に対して、士郎はグラディウスを振るいながらも叫び返す。

 

「ふざけるなっ!女の子達や自分のサーヴァントを戦わせて、自分だけ後ろでのうのうと出来るかっ!」

 

そう凛に向かって叫んだ士郎の後頭部に蜂もどきの鋭い毒針が迫る。

その毒液を垂らしながら迫り来る鋭い針を打ち砕くは真紅の魔槍。士郎のサーヴァント、ランサーだ。

彼は呆れながらも楽しそうな笑みを浮かべながら彼はまるで紙切れを切り裂くように、

次々と蟲どもの堅い外皮を打ち砕き、切り裂いていく。

 

「まったく、テメエってヤツはとことんバカなマスターだな。」

 

そんな士郎を横目で見ながら呆れたように、だが、何処となく楽しそうに叫びながら槍を振るいながらランサーは呟く。

 

「だが、男としては悪くない。ああ、それくらいじゃなきゃ、このオレのマスターは勤まらねえ。」

 

「ランサー!何を呑気に呟いているのですか!

シロウ……!下がってください!貴方の力量では前に出るのは無謀だ!」

 

必死の表情で風王結界に包まれた剣を振るうセイバー。

そんなセイバーに対して、神速の穂先で鋼の外骨格を持った数体の蟲を突き刺し、葬りながら、ランサーは笑い声を上げる。

 

「は、いいじゃねえか。この程度潜り抜けない程度じゃこれから先も生き延びられねえよ。

だが、あの小僧には見所がある。やっぱり、手っ取り早く鍛えるには実戦だろうがよ。」

 

ランサーとセイバーはお互いの武器を振るいながら、蟲を次々と打ち砕いていく。

さすがのサーヴァントと言えども、物量で攻めてくる相手では目の前の敵を打ち砕くだけで精一杯だ。

自分のマスターを護るのも手薄になってしまう。それ故苦戦は免れない。

牙が、爪が、角が、無数に襲い掛かってくる状態では無傷ではいられない。

少しづつ凛も士郎も傷を負ってしまう。

 

「く―――!!」

 

いかに多少武術を齧ったとは言え、凛には実戦経験が十分とはいえない。

自分の正面と左右に集中してしまう。

空気の流れや殺気のみで周囲の敵の動きが解る達人ならともかく、凛はそこまで修行は積んではいない。

故に、背後から迫る魔蟲の存在には気づく事なく、その一撃が―――。

 

「っは、あ………!!」

 

その角の一撃を、士郎は思わず自分の身を盾にして凛を庇ってしまう。

走る激痛。その蟲の角は士郎の左肩に深々と突き刺さっていた。

ぐらり、と士郎の体が揺らいで、屋上の床へと手をつく。

 

「し、士郎!アンタ何してるのよ……!は、早く血止めを……」

 

しかし、士郎は凛のその言葉にも構わず、床に手をついた際に握り締めた何かを握り締め、それを凛へと放り投げる。

 

「遠坂―――!コイツを受け取れ―――!!」

 

それは翠色の宝石。

宝石の名は、トリマリン。電気石とも呼ばれる宝石だ。

これは雷の属性を秘めており、魔力を込める事により、強力な雷撃を発生させる。

床に散らばったそれを手にしたのは偶然だ。恐らくは士郎もとっさにとった行動に違いない。

だが、その行動は的確だ。

放り投げられたソレを凛は手で受け止めると、そのまま間髪入れずに呪文を唱える体勢に入る。

 

「ランサー!士郎のカバーを!」

 

彼女はそのまま呪文を唱えながら宝石を蟲どもの中心へと放り投げる。

それは凄まじい電荷と放電現象を放ちながら蟲どもを肉体を焼き尽くし、一瞬にして灰へと変えていく。

セイバーには対魔力Aがあるため、いかに強力な雷撃とはいえども通用はしない。

ランサーは床に防護のルーン文字、アルジズを刻み込み結界を張る事で士郎をガードする。

生身の人間である士郎はこんな雷撃など喰らったら血が沸騰するどころか、蟲たちと同様に灰になってしまう。

そのため、凛はランサーに士郎のガードを頼んだのだ。

ぼろぼろと、灰になった蟲の残骸は風に撒き散っていく。

 

「ふう……何とかなったわね……って士郎、その怪我何とかしなくちゃ……!」

 

凛はそう言いながら、士郎に駆け寄り、手にしたハンカチで傷を覆うと、何かの呪文を唱える。

それは恐らく痛み止めと血止めなんだろう。

少しだけだが、血が流れるのが止まり、傷の痛みも楽になる。

必死になって傷の手当てをする凛の姿を見て、思わず心臓の鼓動が高鳴ってしまう。

こんなに近くに綺麗な彼女がいるというだけでもう心臓が爆発しそうだ。

黒髪のキレイさが目に映えて、心拍数が上がってしまう。

そんな風にドキドキしている士郎に対して、凛はすまなそうな顔で、ぽつりと小さく呟く。

 

「……その、ありがとう。私を庇ってくれて。

私、衛宮くんにひどい事言った。」

 

ぽつり、と目を伏せながら凛はそう呟いた。

多分凛が言っているのは「素人の魔術師が前に出るな」という発言の事だろう。

だが、彼女の言った事は事実だ。

それを自覚しているが故に腹も立たない。

 

「え?ああ、気にするな。遠坂の言う事はいちいちもっともだ。

悪いのは俺なんだから、気にする必要はない。」

 

「そんな訳にはいかないわよ。

士郎に傷を負わせてしまったのは私の力不足よ。

……正直、少し調子に乗っていたみたい。

ほら。私って下手に器用に物事をこなせるけれど、ここ一番の時で失敗ばかりなのよね。」

 

「ばか。こんな時まで強がるな。

苦しいんなら弱音を吐いたっていいんだ。

いつでも強くあろうとする必要なんてない。」

 

「……っ!こんな時に、そんな事いうのは卑怯よ。士郎。」

 

微かに顔を赤くしながらぽつりと呟く凛。

彼女の心臓は、何故か先ほどからドキドキ、と鼓動が止まらない。

二人の間に何となく良い雰囲気が漂うが、その雰囲気は笑みを含んだランサーの声で打ち砕かれる。

 

「……あー。お前ら、いい雰囲気の時に悪いんだが、俺達の存在を忘れてないか?」

 

はっ、と二人が振り向くと、そこには何故か顔を赤らめているセイバーと、

物凄くにやにやと笑っているランサーの姿だった。

 

「なっ、何よランサー!そのにやにや顔禁止よっ!!」

 

激高している凛に大してにやにや笑いながらそれを受け流すランサー。

その二人の言い合いを見ながら、士郎はほっと溜息をついた。

だが、それで終わりではなかった。

 

「さて、シロウ。あのような無謀な行動を取った理由を聞かせてもらいましょうか。」

 

じろり、とセイバーは殺気さえこもった視線を士郎へと向ける。

少しだけ脚が後ろに下がりそうになるが、それでも引くわけにはいかない。

 

「う、そんな顔されても引かないぞセイバー。

俺はあれが最善の行動だと思ったんだ。」

 

そんな風に必死になって反論する士郎。

だが、意外な助け船はランサーから出てきた。

 

「ハッ、随分とお人よしな事だな。わざわざ敵のマスターまで気にかけるとはな。」

 

「よ、余計なお世話ですランサー……!!

今のシロウと私達は同盟関係なのです。同盟関係の相手に傷つけてしまっては、私達の誇りにも傷がつく。

それだけの話です。」

 

「ほーう。本当にそれだけかあ?」

 

「何ですかランサー。その表情は。」

 

じろりとランサーを睨みつけるセイバー。

このままでは彼らの斬り合いになってしまうかもしれない。

そんな緊張感漂う二人に大して、凛はパンパン、と手を叩いて二人をたしなめに入る。

 

「はいはい、ランサーもセイバーもそこまで。

とりあえず今日は出来る事はないし、いったん帰るわよ。」

 

それに周りをよく見渡すと雷撃やらなにやらでかなり屋上は凄まじい惨状になっている。

こんな場を見られたら何も言い訳ができなくなってしまう。

彼女達は、誰にも見つからないように慎重にその場から立ち去った。

 

 

「……ふう。」

 

士郎は自らの家に帰ってきた後、縁側に腰をかけながら溜息をする。

肩はもう手当てが終わって包帯も巻き終えてある。

何だか遠坂の怪しげな薬も塗ってもらったが、その薬を塗ってもらったら痛みは大分感じなくなった。

本当は早く休むべきなのだが、戦いで気が高ぶっているのか、なかなか眠れない。

 

「何だ、士郎。まだ休んでないの?」

 

そんな士郎にいきなり背中から声をかけてくるのは凛だ。

彼女は、それだけを言いながら、士郎の傍へと腰をかける。

普段なら、こんな近くに彼女がいるなんて緊張してしまうが、今は何故か自然と受け入れられた。

 

「ねえ士郎。せっかくだから少し話でもしましょうか。

士郎は、どんな風に魔術を習ったの?」

 

「ああ、魔術を教わり始めたのは八年ほど前だよ。

オヤジ……切嗣にムリを言ってようやく教わったんだ。

俺が使えるの”強化”の魔術だけだ。他の魔術は使えない。」

 

「ち、ちょっと。自分の得意な魔術まで教えてくれなんて頼んでないわよ……!

……はあ、でもまあ、士郎だし仕方ないか。

そちらだけ教えてもらうのはアンフェアだし、こちらも一応教えておくわ。

私の所は”転換”よ。力……魔力の蓄積、流動、変化って所ね。

要するに、自分でも他人でも力を移したりするのが得意なの。

で、その魔力の保存場所に一番相性がいいのが宝石なの。

地中に長年眠っていた宝石は魔力を込めるだけで様々な能力を秘めた簡易的な魔術刻印になるのよ。

もっとも、宝石の属性によって魔力増幅、魔力消去、魔弾など様々に効果が変化するけれどね。

……まあ、一度使ったら壊れてしまうのが悩みの種なんだけれど。」

 

「でも足掛け八年なんて、随分と中途半端なのね。

どうせ教えるなら生まれた時から手を加えておけばよかったのに。」

 

魔術師の子供とは生まれた時から手が加えられる。

その家の歴史が古くなればなるほど、魔術刻印は大きくなる。

魔術刻印はそれ自体が魔術回路なため、少し人体に刻んだだけでも拒否反応を起こしてしまう。

それを防ぐために、生まれた時から様々な薬を飲んだりして耐えられるようにし、

少しづつ魔術刻印を刻んでいくのである。

 

「ああ、切嗣は俺に魔術を教えるつもりはなかったんだ。

だから、遠坂みたいにちゃんとした手順は踏まなかったんだよ。

……けど、遠坂は大丈夫なのか?聞いてるだけでも痛々しいんだが。」

 

「あら、心配してくれるの?優しいのね。衛宮くんってば。

安心して。私は好きでやっているの。そこに後悔なんてないわ。」

 

それを聞いて安心した。古い家系の歴史を背負った彼女の人生はもっと重く、縛られているものだと思っていたから。

そんなほっとした表情をした士郎に対して、凛はさらに言葉を続ける。

 

「それに、大変なのはそっちもそうでしょ?

九年間まっとうに育てておいてその後で魔術を習うなんて正気じゃないわ。

失敗したら命がないっていうぐらいのギリギリのラインね。

その点で言えば、貴方は私よりも厳しい。

だって、私はそんな鍛錬なんてした事ないもの。

失敗する事もないしね。」

 

「……悪かったな。」

 

それはつまり、優等生には赤点なんて取った人間の気持ちは解らないという事と同様だ。

さすがにむっとする士郎に対して、凛は軽く背中を一度パン、と叩いて笑顔を向ける。

 

「ほらほら拗ねないの。

正直ね、私は衛宮くんの事結構買ってるんだから。

貴方はたった一人で独学で厳しい修行をこなしてきた。

それは誰にも真似できない事なんだから。」

 

「うん、けれど、正直、俺はおまえが眩しい。

俺も自分がやってきた事は間違ってないと信じている。

けれど、それはツギハギだらけだ。

遠坂はさ、何をしても凛としていて綺麗で鮮やかなんだよ。

遠坂は、昔から俺の憧れていた女の子だったんだからな。」

 

その士郎の言葉を聞いた瞬間、凛の顔に赤みが差す。

照れているのか自分自身でも解らないまま、凛はしどろもどろになりながら言葉を続ける。

 

「……う、あ、アンタね。そういう歯に衣着せない言い方は誤解されるわよ。」

 

「誤解って何だよ。俺は本当の事を言ったまでだ。」

 

「あ、うん……ありがと。」

 

顔を赤くして俯きなから凛は呟く。

真正面から士郎の顔が見れない。それが照れなのか、それとも別の感情のためなのかは彼女自身ですら解らない。

 

「そ、それじゃ、早く寝なさいよね。言っておくけれど、それ以上ムリしたら本気で怒るんだからね。」

 

そういいながら、凛は顔を赤くしながらその場を立ち去って行った。

 

 

そんな彼女達を庭から眺めている一人の人影があった。

サーヴァント、ランサー。

彼は他のサーヴァントからの襲撃がないかこうして屋敷を警戒しているのだ。

ランサーにはアーチャーのように飛び抜けた視力はない。

しかし、彼にはたった一人でコノール軍を食い止めたゲリラ戦の経験がある。

その経験を逆用すれば、この屋敷の防御の弱い所を的確に読み取り、敵が何処から攻め込んでくるか予測は出来る。

それを利用して屋敷を護っているのだ。

……まあ、バーサーカーならば、防御の強い弱い関係なく突っ込んでくるし、キャスターならば空間転移を使われる可能性、

そして、アーチャーならば超距離からの狙撃も考えられるが、やらないよりはマシである。

そんな彼は偶然士郎と凛との会話している姿を見たのだが、思わずその姿を見て肩を竦めてしまう。

 

「やれやれ、まったく照れ臭えこった。見てるこっちがムズ痒くなってきそうだぜ。

なあ、セイバー。テメエもそう思うだろ?」

 

「それはリンとシロウ同士の問題です。別段私には関係はありません。

それよりランサー。私は貴方に聞きたい事があります。

個人的な質問なので答えていただかなくても結構なのですが……。」

 

きっ、とセイバーはランサーを真正面から見据えて真剣な表情で問いかける。

 

「ランサー。貴方は聖杯に何を望むのですか?

私にも聖杯に望む事はある。だが、それが本当に正しいのか解らない。

……私は、ただやり直したいだけなのかもしれません。」

 

ランサーに対しての問い掛けは、やがてはセイバーの己自身への問い掛けへと変わっていく。

そんなセイバーの何処となく苦しそうな表情を見ながら、ランサーは詰まらなそうにふん、と軽く鼻を鳴らす。

 

「別に。やり直しや聖杯なんぞに興味はねえよ。

やってきた事に無念はあるが未練はねえ。過ぎ去った事をうだうだ言っても仕方ねえだろうがよ。」

 

「な……!」

 

セイバーの望みは過去のやり直しだ。 あの時、岩につきたてられた選定の聖剣を抜かなければ。

国を滅ぼしてしまった自分よりもよりよい王は本当はいたのではないのか?

その疑問はずっとアルトリアの中に存在していた。

そして、彼女は死の間際、その願いを叶えるために世界と契約を交わした。

激高しそうになって、悲しそうに顔を歪めて、やがては諦めたように溜息をつきながら小さく微笑む。

 

「まいりました。どこまでも清清しいのですね。貴方は。

……ええ、私は正直その清清しさが羨ましい。

貴方ほどの割り切りがあれば、こんなに悩まずにすむのでしょうが。」

 

「貴方とシロウはそうやって戦い抜いていくのでしょうね。

後ろを振り向く事無く、ただひたすらに駆け抜けていく。

その姿は、とても眩しい。」

 

「ふん、買いかぶりすぎだ。そんな小難しい話はどうでもいい。俺たちはただ戦っていくだけの話さ。それじゃあな。」

 

そういいながら、ランサーはセイバーに背中を見せながら立ち去っていく。

その背中を見つめながらも、セイバーは何処となく羨望の眼差しをする。

 

「ええ、それでも―――私は、貴方達は羨ましいのです。」

 

 

ライダーとの戦いの後、凛は花束を抱えながら病室の前に訪れていた。

病室の表札に書かれた名前はただ一つ。

美綴綾子。

凛の親友であり、ライダーに襲われた少女である。

公式には「不審者に襲われかけた所を士郎と凛に助けられて病院に運ばれた」という事になっている。

凛の記憶操作により、ライダーに襲われた記憶は消されたが、深層心理に刻み込まれた恐怖心まで消えはしない。

それでも、一時期よりも大分心の傷も癒えているらしく、遠坂を見ると、ベッドに横たわったまま、軽く片手を上げて挨拶する。

 

「ん?あー、遠坂じゃんか。久しぶり。」

 

彼女の記憶を消したのは凛自身だ。だから、綾子と顔を合わせるたびに、胸がちくりと痛む。

と、美綴は凛の顔を見るといぶかしげに声を上げる。

 

「……ん?アンタ……?」

 

「……?何、綾子。」

 

先ほどの感情が顔に出ていたのだろうか。そんなふうにギクリ、とする凛だったが、表面上は華やかな笑みを浮かべてごまかす。

その凛に対して、美綴は顔に手を当ててニヤニヤと笑いながら言葉を続ける。

 

「ふーん……。少し見ないうちに大分変わったね遠坂。

アンタ、その顔は恋する乙女の顔だね。誰か好きな人でも出来た?」

 

その全く予想外の綾子の言葉に、凛はボンッと擬音が出そうなほどに顔を真っ赤にしながら、手を振って必死になっていう。

 

「なっ、ななな何言ってるのよ!わ、私は別にそんな……!

ていうか何でそんな事が解るのよ!」

 

「ふふん、少女漫画好きを舐めてもらっては困るわよ。

アンタの顔、何となく以前と違うもの。

前は「男なんて興味ありませんー」なんて顔してたけれど、

今は「あの人が気になって仕方ありませんー」って顔してるわよ。」

 

「うっ、うう………。」

 

凛は顔を真っ赤にしながらも黙り込んで下を向く。

綾子の言葉は全て事実だ。反論すら今の凛にはできない。

 

「……遠坂、私との勝負の事覚えてる?」

 

「え、ええ。覚えてるわよ。先に好きな人を見つけた方が勝ちってあれ。」

 

当然、忘れられるはずもない。

ライバルであり親友でもある彼女達は一つの賭けをしていた。

それは、素敵な恋人をどちらが早く捕まえられるか。

勝者は敗者に言う事を何でも聞かせられる。

他愛のない賭けだったが、お互いに負けるわけにはいかない。

だが、凛も美綴も男性に興味がもてないのか、求めるモノが高すぎるのか、お互いに見つけられず、勝負は均衡状態だったが……。

 

「……あーあ。参ったなあ。勝負は私の負けかあ。

まあ、仕方ないか。私も遠坂に負けないほどの恋人を見つけてみようかなあ。」

 

そんな風に頭に手を当ててぼやく綾子を見ながら、凛は顔を赤くしながら俯く。

 

「……ええ、そうね。どうも、私、アイツの事好きみたい。」

 

顔を赤くし、照れ笑いをしながらも、彼女はぽつり、とそう呟いた。

そのはにかんだ笑顔は、今までの彼女の笑顔で最高の笑顔だった。

 






こんにちは。Fate/ifの外伝をお送りします。
凛と士郎の絆が薄いという感想を頂いたので、それを補完するために書いてみました。
恋愛物というよりは、お互いの絆を深めるための物語でしょうか。
本当はバトルなしの完全恋愛モノの予定だったのですが、気がついたらバトルが入っていました。あれ?おかしいな。
あと、完全な恋愛作品も自分にはムリだと悟りました。orz
何処かに矛盾点がないかドキドキものです。

よろしければ感想など送ってくださるととても嬉しいです。
それでは、またお気軽にお立ち寄りください。


なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。

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